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最後の戦いの後日譚

相談所と新たな選択肢

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 カナタはアロイスの興味津々といった様子に戸惑いを覚えた。
 詠唱の有無がそこまで重要なのか分からなかったためだ。

「仕組みも何もマンガの必殺技みたいに、声高に叫ぶ必要はないでしょう」

「……マンガとは?」

「ああっ、それはあんまり関係ないです。とにかく、俺は詠唱などなくても魔法を使えます。師匠に当たる人も詠唱はしないですよ」

「おおっ、そんな流派が存在するとは! ぜひ詳しく聞かせてください」

「うーん、そこまで大それたことはないですけど……」

 カナタは魔法の仕組みの前に自身が遠く離れた土地から、何らかの魔法の影響で転移させられたと説明した――魔女との戦いについてはアロイスを不安にさせないために伏せた。

 それから、距離が離れているぶんだけ、メルツとは異なる魔法体系なのではないかという個人的な見解も示した。
 それらを述べたところで、アロイスからの反応を待った。

「おそらくですが、魔法の基本原理が異なるという感じでしょう。共通していることがあるとすれば、魔力を基にして発動するところだと思われます」

「わりと大雑把なことしか分からないんですね。……魔法も謎が多いから、しょうがないか」

「時間をかけて調べれば、詳しいことは分かりますが」

 アロイスの言葉にカナタは首を傾けた。
 彼にとって原理は重要なものではなかった。

「どうしてもというわけじゃないので、調べなくても大丈夫です」

「それは残念ですが、あなたの能力なら、当相談所で役に立って頂くことができると判断しました。依頼主の困りごとを魔法使いが解決するというのが方針ですので、こちらで活動されるのであれば従って頂きます」

 カナタは説明を聞いて、ここが魔法使いを軸とした冒険者組合のようなものだと判断した。

「ちなみにどんな依頼があります?」
 
「モンスターの討伐、旅の護衛、落とし物の捜索まで、幅広く対応しています」

「だいたい理解できました」

 カナタは討伐依頼は経験があり、この相談所で役に立てそうだと思った。 

「見たところ、あなたはなかなかの腕前のようですので、こちらとしては入所して頂けると助かります。まずは拠点となる宿舎を用意しますので、いかがでしょうか」

「えっ、そんな厚遇なんですか? まあ、モンスター討伐は経験があるし、役に立てそうかなとは思いますね」

「では、ぜひよろしくお願いします!」

「それならまあ、分かりました。協力させてください」

 カナタはアロイスの申し出を受けて、魔法使い相談所に入ることを決めた。
 この世界では知り合いもおらず、流浪の身となりそうだった。
 そんな中で住居と働き口が手に入るのは幸運な出来事と言えるだろう。

 カナタの決断を耳にした後、アロイスが様々な書類を机の引き出しから持ってきた。

「もしかして、相談所との契約書みたいなものですか?」

「ええ、そうです」

「申し訳ないないんですけど、分からない単語があったりして、この国の文字は分からなくて……」

 カナタが率直に述べると、アロイスは書類を引っこめて口を開いた。

「いえ、それならば仕方がありません。あなたには魔法使いとして、稀有な可能性を感じますから、身元は私が引き受けましょう。手続きはもう少し文字を覚えてからで」

「えっ、それは悪いですよ」

「お気になさらず。我々を困らせるような方には見えませんが、何かあればきっちり補償してもらいますから」

 わははっとアロイスは愉快そうに声をあげた。
 話し始めた時はかしこまった様子だったが、徐々にカナタと打ち解けたようだ。

「ちなみに手持ちが心もとないので、すぐに受けられる仕事があれば、何か引き受けたいんですけど……」

 ニノの父親であるアントから旅費をもらったものの、食費などを計算すれば数日で底をつきそうだった。

「そうでしたか。宿舎は無料のため、だいぶ出費は抑えられると思いますが、やる気がおありならばご案内しましょう」

「ありがとうございます。周辺のことを知るためにも、何か手伝えればと思います」

 カナタの言葉にアロイスは人のよさそうな笑みを見せた。 

「ところで、昼食は取られましたか? 仕事の話はそれからでもよいでしょう」

「そうですね、その後にしましょうか」

 アロイスは椅子にかけてある上着を羽織り、先にドアを開くとカナタを案内した。
 二人は相談所の通路を歩いてロビーに出ると、そのまま玄関から外に出た。

「トリムトはのどかでいい町でしょう。昔は近隣諸国で大きな戦乱がありましたが、当事国同士で協定を結んでからは平和ものです」

「そうですね、平和が一番です」

 アロイスの説明を受けて、カナタは少し前の戦いの日々を思い返した。
 カルマンとの戦乱、モンスターの支配を終わらせる戦い。
 日本から転移してきた彼にとって、あの時のことは印象深い出来事だった。

「そうそう、身元を引き受けると言った以上、とりあえず今日の昼食はご馳走させてもらいます」

「あっ、今日の分ぐらいはありますよ」

「あなたには期待しているのです。先行投資のようなものだとお考えください」

「まあ、そこまで言ってもらえるなら」

 アロイスはビジネスライクな言い回しをしているが、カナタに気を遣わせないようにとしていることに、カナタ自身は気づいていた。

「さて、ここが行きつけの食堂です」

 カナタはアロイスに案内されて、庶民的な食堂に足を踏み入れた。
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