この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして

四馬㋟

文字の大きさ
18 / 64
本編

第十八話

しおりを挟む

 再び目を覚ました時、陛下は相変わらず私のそばにいて、私を見下ろしていた。

 眠っている私の手を、ずっと握ってくれていたらしい。



 夢の中で何度も陛下の声を聞いたと言うと、私が悪夢にうなされているのを見、心配になって力を使ってしまったという。神獣は、血を分けた者にのみ、感覚や意識を共有できる。今は落ち着いているものの、私が陛下に対して、強い衝動を覚えたのもそのせいらしい。



 陛下は、夢の内容については触れなかったけれど、できることならもう一度、時を戻したいと言っていた。私がこの世に生まれた時点で保護したいと。これまで、私は祖母のことを――祖母による、度を越した「しつけ」のことも、誰にも打ち明けたことがなかった。陛下も私の夢を覗き見るまで、知らなかったらしい。



「それだけは、絶対にしないで」



 二人きりの時だけ、私は翡翠に接するように陛下に接した。 

 彼が翡翠のことを受け入れるまで、そうしようと決めたのだ。



「私が朱雀に負けるとでも?」

「……そういう問題じゃなくて」



 他人に迷惑をかけたくないから、あなたの命を危険に晒したくないから、そもそも私個人の問題に、無関係の人を巻き込むわけにはいかないから――ただでさえ自分の気持ちや考えを言葉にするのは苦手なのに、それを理解してもらうのは、さらに骨が折れた。けれど途中でくじけることなく話し終えることができたのは、陛下が正面から、私と向き合おうとしてくれているのが分かったからだ。



「そなたの言い分はわかった」

「……本当に?」

「ああ」



 熱が引いて体調が戻ると、自分の部屋に戻ることを許された。

 出迎えてくれた連油は、私を見て、ひどく驚いた顔をした。



「ようやく戻ってきたと思ったら……あんた、珊瑚よね?」



 見ればわかるだろうと私は苦笑する。 



「髪が、すごく伸びたわ」



 確かに、腰辺りまであった髪は、気づけばひざ下に届くまで伸びている。



「それに、前より綺麗になった」

「気のせいよ」

「……ううん、気のせいじゃない。あんたの肌、毛穴一つ見えないし、産毛すら生えていないもの」



 言いながら、戸惑うような視線を私に向ける。



「整いすぎて、まるで人間じゃないみたい。特に目が……」

「目?」



 自分で見たほうが早いと言って、鏡を持ってきてくれる。



 私が見る限り、大した変化はないように思えた。少し、目の光彩に赤色が混じっているくらいか。ただし腕をまくると、皮膚にうっすら、桃色の鱗模様が浮かび上がっているのが見えた。その部分だけ、皮膚が硬い。



「暗いところで見てみて」



 窓を閉め切られ、光を遮られた途端、鏡に映る自分の両目が光って見えた。

 瞳孔が細長くなり、猫目のようになる。



 ――暗闇なのに、はっきりと連油の顔が見える。



 夜目が利くようになったのは、きっと陛下の血のおかげだろう。



「何があったの?」



 心配する連油に、私は全てを話した。

 炎帝陛下がお忍びで来られたこと。延命の儀式を受けたこと。  



「だから心配しないで」



 連油は引き攣るような笑みを浮かべながら、うなずく。



「でも、なんだか」



 言いづらそうにしているので先を促すと、



「あんたがあんたじゃないみたいで……」 

「怖い?」



 いいえと連油はかぶりを振る。



「ちょっと寂しいだけ」

「私は私よ。何も変わらないわ」



 微笑んで顔を覗き込むと、連油は顔を赤くしてそっぽを向く。



「喉が渇いたでしょう? 今お茶を淹れるわ。あと、お部屋で玉祥様がお待ちよ」



 その言葉で、一気に現実に引き戻される。



「しばらく勉強をお休みしてたから、遅れを取り戻すとおっしゃって……逃げちゃだめよ」



 わかっていると答えて、私は勇んで勉強部屋へ向かった。





しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。

くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。 だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。 そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。 これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。 「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」 (小説家になろう、カクヨミでも掲載中)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

処理中です...