脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス

文字の大きさ
10 / 10

十話 余は、何かあれを怒らせるようなことをしただろうか

しおりを挟む

 オティウス・トゥルゲーネヴァ・アモール・ワムシカム・セテス・ケア・フェルマンは珍しく冒険者ギルドへと呼び出されていた。恐らく、居候の内の一人が何やらやらかしたのだろうと見当をつける。大正解である。何せもう一人の居候は、冒険者ではないのだ。
 面倒事でなければいいが。
 基本的にセテスは、外へ出ない。人と関わるのが面倒だからである。大抵、王族と言う色眼鏡をかけて見てくる。それが嫌だった。器物を破損させただろうか、それともとうとう人を殺したのだろうか。そんな事を思いながら冒険者ギルドの責任者と相対すれば、思いもよらぬ一言を聞かされたのだ。
 曰く、テオドア・エズモンドがドラゴンを屠った張本人であると。
 これには流石のセテスも驚いたし、想定すらしていなかった。確かに本人、牙と鱗を持ち帰りはしたが、参加賞みたいなものかと思っていたのだ。大概この男もズレていた。ギルドにそう言うサービスはない。そうして、己の傍にいる国の諜報員が、ヤバイ、と、評していたことを思い出したのだ。成程、確かにヤバいな。所詮、その程度だった。切った張ったには興味がなかったのだ。
 結局セテスに言いたい事は、ドラゴンの死骸をどうするか、と、言う事であった。単純に金になるのだ。これまた驚いたのだが、あの若造、きちんとセテスに聞いてくれと言ったらしい。好きにしろよ、と、吐き捨てそうなのに、そう言う頭があったのだな、と、半ば感心すらしてしまった。ある意味正解である。寸でのところで思い出しただけで、そう言いかけたのだ。
 別にセテスは金に困っていない。だから例え相手が冒険者ギルドと言えど、多少恩を売っておくのも良いかもしれない。そう考え、薬となるであろう必要な部位は貰い、後はギルドに譲る事にしたのだった。大いに感謝された事は言うまでもない。
「君たち、今日は御馳走だよ」
 帰るなり、居候二人にセテスは得意げに言った。手には大きな包みがあった。
「どうしたんですか師匠」
「いつも割といいもん食ってるけどな」
「今日はそんなレベルじゃないんだよ。これを見たまえ」
 言いながらテーブルに置いた包みを開ける。其処から現れたのは、立派な肉の塊であった。
「大きなお肉ですね!」
「そうだろう」
「ドラゴンだろ」
 あっさりとテオドアがネタ晴らしをしてしまったので、セテスが顔を顰めた。
「君、もう少しルカーシュ君を楽しませようと言う気はないのかね」
 不快気に言えば、テオドアは無視をしたのである。大体セテスにしても、テオドアが分かることは想定の範囲内であった。何せ、この男が止めを刺したのである。良い肉と聞けば、思い当たる節があるだろうと。
 兎に角、肉と言うからには焼くのが一番。
 特に料理に造詣が深くない三人である。他に思いつかなかったとも言う。はっきり言えばドラゴンの肉である。高級品である。きちんとした料理人を呼んで調理させるべきであったが、人見知りと不愛想しかいないために実現しなかったのだ。大体いい肉は、適当に焼いても美味いから良い肉なのだ。勝手にそう解釈して、取り敢えず切って焼いたのだった。
「美味しい!」
 ドラゴン肉のステーキを食べ、ルカーシュが目を輝かせて言った。こういう様を見ると、持ち帰った甲斐があると素直に思える。
「そうだろう。沢山あるから、好きなだけ食べなさい」
「ドラゴンだな」
「君、感動する心母親の腹の中に置いてきた?」
 無視して、テオドアは肉を大きく切って口の中へと運んでいる。何とも食べさせ甲斐がない男である。
「ルカーシュ君は、ドラゴンの肉は初めてかな?」
「いえ、前に食べた事あります」
「なんて?」
「えっ?」
 セテスは呆気にとられた。この美人が何やらおかしなことを口走ったからである。前にも食べた事あります? 何を? ドラゴンを? そんな馬鹿な。腐ってもドラゴンである。そう簡単にお目見えしない上に、例え討伐されたとしても、その肉が市井の人間に回る確率は低い。なのに食べた事があると言うのだ。俄かには信じられなかった。
「ドラゴンだよ?」
「ドラゴンですね」
「大きなトカゲとかでなく?」
「村にいる時、テオドアのお家から分けてもらったんです」
「なんて?」
 また分からない言葉が出て来て、セテスの表情はずっと険しいままだった。希少な肉を食べている時の顔ではなかった。仕方がないので全く遠慮することなく肉を食べ続けている、止めを刺した張本人に聞く。
「テオドア君。ドラゴンの肉が君の家にあったのかい?」
「あったっていうか、お袋が獲ってきた」
「なんて?」
「家、肉屋なんだよ」
「いやそれは前に聞いたが、ちょっと待って、ドラゴンだよ?」
「おう、裏山に出たんだよ。危ねえから、倒した」
「御母堂が?」
「お袋が。オレも其処にいたけど、邪魔! って、怒鳴られたな」
 果たして本当だろうか。少し大きなトカゲを、ドラゴンだと勘違いしているのではないだろうか。だが事実この男は、大勢の目の前で、ドラゴンを屠ってみせたのだ。もしかして、その母にしてこの子ありなのでは? セテスは思った。一生遭いたくないな、と。ルカーシュの両親は気になるが、テオドアの両親には是が非でも会いたくないなと思ったのだった。話が通じない凶悪な野蛮人が脳裏に誕生した瞬間だった。
「あの、殿下。一つお聞きしたいんですけど」
 セテスは決して吝嗇ではない。だから、勝手に住み着いている大きな鼠にも、ドラゴンの肉を振舞ったのだった。勿論、二人とは別のタイミングで、である。
「何かね? 味付けなら特に変わったことはしていないが」
「いえそうじゃなく、何か、気に入らない事でもあったんですか?」
「なんて?」
 心当たりが全くなかったので、呆けた顔で聞き返したのだった。
 勿論、鼠が切り出したのには訳がある。
 ギルドからドラゴンの死骸をどうするかと問われ、細々とした使える部位は貰ったが、それともう一つ、頭部を所望したのだ。目は潰れているものの、テオドアが首を切り落としたので割と奇麗な状態だったのだ。それをあろうことか、王城へと送ってくれと申しつけたのである。
 鼠はその事について、国の中枢に何やら文句があるのではないかと尋ねているのだ。
 何故か。突然届くドラゴンの頭部。単純に嫌がらせの類である。現に、オティウス・トゥルゲーネヴァ・アモール・ワムシカム・セテス・ケア・フェルマン様からです、と、言われドラゴンの頭部と相対した国王は、それもう困惑していたらしい。
「余は、何かあれを怒らせるようなことをしただろうか」
 傍にいた宰相に尋ねるも、当然心当たりなどない。年齢よりずっと若く見えると評判の王は、険しい顔で、考えていたと言う。そうとも知らずセテスは、喜んでくれたかな、と、逆の事を考えていたのだ。周囲が心配するようなことは何一つなく、ただ単に、お兄ちゃんこれ好きそう。くらいの、軽い気持ちだったのである。この兄弟、実際の距離も心の距離も遠すぎて、全く通じ合っていなかったのだった。仕方がないので剝製にし、オティウス・トゥルゲーネヴァ・アモール・ワムシカム・セテス・ケア・フェルマン殿よりと、プレートを置き、王城の庭の端に置いたのだった。処分するのも何となく気が引けたのだ。自分の住まいより遠く離れたところで、自分が持ち込んだものが原因で何やらおかしなことになっている等とは、終ぞセテスは知らぬままであった。



 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【創作BLオメガバース】優しくしないで

万里
BL
壮士(そうし)は男のΩ。幼馴染の雅人(まさと)にずっと恋をしていた。雅人は太陽のように眩しくて、壮士の世界を変えてくれた存在。彼の影を追うように、同じスポーツを始め、同じ高校に進学し、ずっと傍にいた。 しかし、壮士のヒートのせいで、雅人も充てられて発情してしまう。壮士は必死に項を守り、番になることを拒む。好きだからこそ、こんな形では結ばれたくなかった。壮士は彼の幸せを願って別の大学へ進学する。 新しい環境で出会ったのは、α・晴臣(はるおみ)。彼もまた、忘れられない人がいるという。 互いに“好きな人”を抱えたまま始まる関係。心の隙間を埋め合うふたり。けれど、偽りのはずだったその関係に、いつしか本物の感情が芽生えていく?

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...