32 / 51
王道と非王道の違いが未だにわかりません
3
しおりを挟む心の中での突っ込みは疲れます。そろそろお引き取り頂きたいので、僕はげんなりしたまま二人に声を掛けました。
「それよりお二人とも……ダブルスならそろそろお時間なんじゃ?」
「そうなんだよね~。会長不在時に君と絡めるならラッキーって思ってたんだけど、そういう時に限ってタイミング合わないんだよねぇ」
わざとらしく肩を竦めてみせる左側の橘君。右側の橘君も残念そうにため息を吐くも、ようやっと僕を解放してくれました。誰だ。さながら僕が捕らわれの宇宙人みたいだとか思った奴は。
「それより、こっちの子は? 見慣れない顔だけど」
右側の橘君が紫瞠君に視線を向けて尋ねました。ああ、そうだった。紫瞠君、置いてけぼりになっちゃいましたね。橘君たちのことを知らないでしょうからね。ぽか~んとしています。可愛い。
「こちらは転校生の紫瞠君ですよ。特進クラスに編入された二人の内の一人です。紫瞠君、こちらは橘会計と書記さんです。生徒会の人達なんですよ」
軽く他者紹介。どっちが会計でどっちが書記なのかはわかりませんが。
すると、電球に明かりがついたとばかりに「ああ」と声を出して頷く橘兄弟。
「噂の二人の内の一人ね~。ごめんねぇ、紫瞠君。俺ら、もう一人の方の片岡君とばかり仲良くなっちゃってさ~」
そう言えば……橘兄弟にお気に入りが出来たって最近噂になってたな。そうか。片岡君だったのか。なら安心。うんうん。
「ただいま平凡君から紹介頂きました~。橘真と~こっち実です~。生徒会会計&書記をやってま~す。よろしくねっ」
橘兄弟が二人揃って紫瞠君に手を差し出しました。決して何かをくれと言っているわけではありません。挨拶の時に差し出される手といえば、アレしかありません。ええ。そのはずなのに……?
「紫瞠君?」
紫瞠君、自分より背の高い橘兄弟を見上げたまま、ぽか~んとしています。ぽか~んとしたままです。ええ。可愛いけれど、ぽか~んとしています。口が半開きになって橘兄弟を見つめています。ど、どうしたの?
僕の視線に気づいたのか、紫瞠君は我に返ったとばかりにハッとしました。
「へ? ああ、うん。よろしく……」
シェイクハンズ。ようやく差し出された手はその意味を成しました。橘兄弟は片方ずつですが、紫瞠君は両手を差し出してそれぞれの手を握りました。
ぶんぶんぶん。
何やら、シェイクハンズに力が込められている様にも見えましたが、僕の気のせいでしょうか?
「お前達、何をしているのですか?」
そこへやって来たのは、うへぇ……貴方でしたか。僕があからさまに口角を下げるのと同時に、同じ顔のお二人も同じように肩を竦めました。
「うげっ……会長じゃん~」
「ほんと、タイミング最悪~」
皇君。上下ともに学校指定のジャージ姿ではありますが、どうしてこうも眩しく見えるのでしょう? 特に恰好良く着こなしているわけでもないのに……何なんだ、一体。後ろの方で目をハートにさせているチワワ達がきゃあきゃあ騒いでいます。とはいえ、この双子から解放されるのなら今は良しといったところでしょうか?
しかしほっと一息吐いたのも束の間。橘兄弟は再び僕の腕に抱きつき……
「「そんな睨まなくてもいいじゃない。会長だってわかってんでしょ~? 俺らの平凡君に対する気持ちをさ」」
「ひっ!?」
僕の頬にそれぞれ自分の頬を擦りつけてきやがったのです! ひいいっ!? す、すべすべしてるううっ!?
髭とか皆無なんでしょうか。もっちりと、それでいてさらりとした触感……本当に男か!?
あまりにも自分と異なる肌質に驚きを隠せませんが、やはり野郎は野郎です。ゾワリと下から上に、鳥肌が立ちました。ひいいいっ!
「じゃ、バイバ~イ」
「今度は会長がいない時にね~。坂本君と紫瞠君もまったね~」
固まる僕をよそに、二人は息ぴったりに動きを合わせて僕から離れると、皇君とは反対の方向に向かって手を振りながら去って行きました。皇君もそうですが、生徒会に関わると碌な目に遭いませんね……気持ち悪っ。
「今度の新刊は双子モノで決定ですね……ふへへ」
こっちはこっちで何かほざいてやがるし。
ブツブツと粟立つ腕を摩りながら、ぐったりと項垂れる僕。長い長い溜め息を吐くと、頭上がふっと暗くなりました。僕より背の高い人間は今この場に一人しかいません。
「な、何です?」
「いや、衣服から出ているお前の肌が、羽を毟られ皮を剥がされた鳥のようになっているものですからつい……気持ち悪いな、と」
こんの野郎~!! 冷やかに見下ろしながらなんつーこと言いやがるっ! バ会長め!!
奥歯をギリギリと噛みしめながらコヤツを睨み上げます。するとそこへ……
「皇君、皇君」
紫瞠君が皇君の腕の裾をクイクイしながら声を掛けました。だ、駄目ですよっ。紫瞠君っ。こんなヤリチン男に声なんか掛けちゃっ。純粋な紫瞠君が穢れてしまいますっ。それにチワワが紫瞠君に目をつけちゃいますよっ。
あわあわと僕は一人で慌てていると、紫瞠君は皇君に柔らかい笑みを浮かべました。
「皇君もお昼のお弁当、僕達と一緒に食べない? ヘーボン君達とね、食べようと思っててお弁当を多めに作って来たの。おにぎりの数は足りると思うし、おかずもたくさん作ったから」
魔王を昼食に誘ったあ!? 駄目だって! こんな野郎にそんな微笑み向けながら自分の手料理を誘っちゃ駄目だってば!
何度か紫瞠君お手製のお弁当を味見させてもらったことがありましたが、絶品です。結婚するなら奥さんにしたいナンバー1! と言っても過言でないくらいのメシウマ少年なのです。しかもお洒落な洋風料理だけじゃなくて、煮物とか煮付けとか、実家のお母さんを彷彿とさせる様な茶色い系のおかずがとってもとっても美味しいのです。何で女の子じゃないんだろ……おーあーるぜっと。
そんなオカン紫瞠君からの嬉しいお誘いを、この男はあろうことか。あろうことかああ!
「いいえ、結構です。大会の運営もありますし、ゆっくりと昼食を摂る時間がありませんので……失礼」
紫瞠君に掴まれていた裾を引くように解くと、自身がやって来た方向へ踵を返し去っていったのです。あんにゃろ~! 紫瞠君の誘いをあっさりと断りやがって~!
僕はすぐさま、紫瞠君のフォローに回りました。
「気にしないで下さいね、紫瞠君。あの野郎は普段から猫を何百匹と被っているんです。その分、僕が紫瞠君の結んでくれたおむすびを頂きますよ!」
絶対に美味しいに違いないおむすび! 早くもお腹が鳴りそうです。
しかし紫瞠君は、皇君に断られたことを気にしていないのか、僕を見つめて……
「ヘーボン君って……」
「ん?」
「愛されてるんだね~」
「へ?」
にこっと笑いました。可愛いっ……けど、へ? 誰に?
15
あなたにおすすめの小説
色欲も時代には勝てないらしい
もにゃじろう
BL
前世で恋人だった運命の人に、今世では捨てられてしまった祐樹。前世で愛してくれた人は彼以外誰もいないのだから、今後僕を愛してくれる人は現れないだろう。その事を裏付けるように、その後付き合う人はみんな酷い人ばかりで…………。
攻めがクズでノンケです。
攻め・受け共に、以外とのキスや行為を仄めかす表現があります。
元クズ後溺愛×前世の記憶持ち
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる