44 / 51
腐男子坂本くんの○○な日
2
しおりを挟む七海君と同室になってから何か月か経ちますが、未だに彼のペースを掴めません。僕のドチャシコタイムを眺めたところで、それが何億絵画に替わるわけがないんです。客観的には何もないところでニヤつく気味の悪い腐男子が佇むだけです。七海君曰く可愛い僕ですが、友人の平凡君からは毎度のごとくキモいと言われいます。そうです。それが普通なんです。いや、平凡君は普通という安寧から外されてしまった美味し……不憫な存在なんですがね。
僕があの日、ロリータファッションの男の娘スタイルでこの人と出会ってしまったからでしょうか? 七海君の目にはどんな僕でも愛らしく映るそうです。そんなんじゃないのに……。
「カフェモカ、冷めちゃったね。おかわりする?」
僕は首を横に振りました。殆ど口を付けていないそれですが、ドラマCDにハマって冷ましてしまうのはいつものことです。マグを取って残ったカフェモカをゴクゴクと一気に飲み干しました。
そんなに慌てなくていいのに、七海君はそう言って僕に紙ナプキンを差し出します。そろそろご自分の立場をわかってくれると助かるんですが。
僕は紙ナプキンを受け取ると、それで唇を軽く拭います。今日はティントなのでこの程度では唇の色は落ちません。僕はドーナツを両手で持ってそれを食べながら本題を切り出しました。
そう。僕が同人誌を買うでも、BL本を買うでもないのに、このロリータファッション……男の娘スタイルでわざわざ七海君と密会する理由です。
「今日はどちらへ出向かれる予定ですか?」
「なんだっけ、貴腐人ロード? BL同人誌がわんさかあるところなんだけど、タカちゃんは御用達だっけ? 僕は初めてだから場所しか知らないんだ。そこへ案内してくれる?」
爽やかスマイルでさらっと出たワードに僕は持っていたドーナツを落としてしまいました。貴腐人ロードとは、乙女の更に上を行くお姉様方御用達の萌えが集結するエリアのこと! マイナーもマイナーなエリアなのに、どうしてこの人は知っているんですか!?
口を金魚みたいにパクパクさせていると、七海君が心底不思議そうなお顔でその説明をしてくれました。
「恋人の好きなことを知りたくなるのは男の性じゃない? 調べるでしょ、このくらい」
「いいい、いいんです! そんなところにまで七海君に付き合ってもらいたいわけじゃありませんし!」
「え~、それは少し傷つくなぁ……彼氏としては」
さっきからサラサラと出ていますけれど……そうです。そうなんです。
七海君は僕の恋人さんで、僕は七海君の恋人。僕たちは密かにお付き合いをしているんです。
同性同士だけれど、僕の通う学校では珍しいことではなく。しかし超がつくほど人気な生徒会メンバー、その副会長を務める七海君と単なる腐男子の僕が恋人同士であることが世間もとい親衛隊にバレるととっっっても!! 厄介なことになるんです。そのいい例が僕の友人・平凡君です。彼、もう少し器用に生きられないものでしょうかと憐れむくらいに棘な高校生活を送ってますから。
とはいえ、僕はもともと同性が好きという性癖ではありませんし、七海君に恋心すら抱いてませんでした。どころか、生徒会長に愛でられる平凡君を陰で脅す腹黒副会長攻めとして妄想していたくらいですし。
実際はそんな腹黒な性分ではなく、有名進学校で生徒会という激務を日々こなされる中、時折羽を伸ばしに街中を美味しいコーヒー片手に散歩するという至って穏やかな趣味を持つ彼。その一方では、好きだと思った相手にとことん尽くすという健気な面をお持ちのイケメンさんなのです。
その一途さに僕は根負けしてしまい、まだ惚れるという感情は芽生える最中ではありますが、清いお付き合いをさせて頂くことにしたんです。お付き合いの中で許せたのはハグと、軽いキスだけ……でも、七海君は僕の気持ちを大切にしてくれます。
同性ですが、イケメンさんなのは間違いないです。毎日、目の保養をさせてもらってます。
そんなパンピーな彼から貴腐人ロードですと!? どんな顔して腐なお姉様方の巡回ロードをチェックしたんですか!?
「来週のお休みに一人でこっそり行く予定だったんです……わざわざ七海君と一緒にいる時じゃなくても……」
「でも行きたいんでしょ? ブーメランビキニより褌派先生の新刊チェックしてたじゃない。触手人外攻め×異世界転生賢者受けなんでしょ? 発売日、今日じゃなかった?」
「どうして僕の新刊チェックに詳しいんですか!! あと、ブーメランビキニより褌派先生は通称ブードシ先生です!」
「あ、省略しちゃうんだ」
全くもう……七海君のこの一途さは時に異常とも思えてしまいます。普通は、腐男子でもなければここまで調べたりしません。いくら僕が七海君のお気に入りだといってもです。それにブードシ先生の作風はBLというよりはゲイ漫画寄りですし、表紙だけでも無理な人には無理なんです。
なのに……好きだという相手の為に、恋人がここまで寛容になれるのは、普通のことなのでしょうか?
「今日は七海君の行きたい場所に付き合うって決めてるんです。僕の漫画は明日以降でも買えますから」
「僕はタカちゃんがBL本を買って悦に浸っている姿を見るのが好きなんだけどなぁ」
七海君みたいな人があんなお店に入ったらそれだけで目立ちますし、何より腐のつくお姉様方の餌食になってしまいます。ネタにされるということがわからないのでしょうか……いや、わからないか。
僕が渋っていると、七海君が優しい眼差しで僕を見つめます。僕は七海君のこの優しい目に弱い。飲み込もうとした言葉や、許されないと思う考えを、七海君は全部許しちゃうから……
僕は俯いたまま、危惧することを話しました。
「あそこにいれば、七海君はすぐにターゲットにされます。妄想のネタにされるのは必至ですし、腐男子だなんてレッテルも貼られてしまいます。SNSに上げられないなんて保障も、ありません……」
それはかつて僕がされたこと。それで失ったものや、裏切られたこともありました。それでも、好きなものを止められなかったのは、きっと今も僕と一緒にいてくれる平凡な友人がいるからなのでしょう。
これで諦めてくれる。本当にそう思ったんです。なのに、この人ときたら……
「SNSに上げられるなら寧ろ、望むところだよ。こんなに可愛いタカちゃんの彼氏なんだって世の中に広められるんならさ」
そう言って僕のウィッグの髪に優しく触れるんです。目の前にいるのは偽りの姿で、本当はこっちの僕だけを望んでいるんじゃないかって、何度も疑いました。でも、それは違ったんです。
偽りの姿の僕も受け入れてくれてる。それだけなんです。なにこのイケメン。格好よすぎです……!
過去に一時だけでも、会長×副会長にしてしまったなんて、それだけは口が裂けても言えません。
僕はほだされる形で、七海君と一緒に貴腐人ロードへ赴くこととなったのです。
15
あなたにおすすめの小説
色欲も時代には勝てないらしい
もにゃじろう
BL
前世で恋人だった運命の人に、今世では捨てられてしまった祐樹。前世で愛してくれた人は彼以外誰もいないのだから、今後僕を愛してくれる人は現れないだろう。その事を裏付けるように、その後付き合う人はみんな酷い人ばかりで…………。
攻めがクズでノンケです。
攻め・受け共に、以外とのキスや行為を仄めかす表現があります。
元クズ後溺愛×前世の記憶持ち
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
幼馴染は僕を選ばない。
佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。
僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。
僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。
好きだった。
好きだった。
好きだった。
離れることで断ち切った縁。
気付いた時に断ち切られていた縁。
辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる