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腐男子坂本くんの○○な日
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しおりを挟む出てきたカフェから電車二駅、そこから歩くこと十五分のところに貴腐人ロードはあります。僕が行きたいお店はたくさんありますが、中でも比較的ライトなお店を選んでそこへ入りました。ブードシ先生の新刊も入荷されているはずですし、一割ほどは一般的な漫画、ラノベもありますから、パンピーの七海君が入っても退屈しないことでしょう。といっても、七海君は僕にぴったりで離れないんですけどね。
色付き眼鏡を少しだけ指でずり下ろし、腐だらけの店内を見渡しながら七海君が感想を漏らしました。
「へ~、ここが貴腐人ロードのお店かぁ。見事に女の人ばかり、ホモな絵ばかりだね」
「ここはBLをこよなく愛する人の為のエリアですからね。リアルBLはありませんが……」
「リアルBLならここにいるじゃない」
七海君が自分を指差しました。そんなさらりと言えるなんて、少しだけ悔しいじゃないですか。
しかし、さすがはお姉様方ですね。七海君を目にしてもきゃあきゃあ騒ぎません。一瞬だけ、七海君へと視線をやるも、皆さんすぐにご自分の買い物へと集中されます……きっと脳内で静かに感極まっていらっしゃるんでしょう。わかります。わかりますよ。だって同人誌を持つ手が震えてらっしゃいますもん。それから僕に向かって、親指を立てて向けるのも。イケメンを連れてきて労われたのは初めてです。
店内のマナーを守りつつ、僕は一目散に商業新刊コーナーへと向かいました。一般的な本屋なら、隅の方だったり、壁際だったりと追いやられてしまうBLコーナーですが、ここは別。辺り一面にホモ漫画を並べてくれています。
今月も豊作ですね。沙那ちゃんと語らいたい新刊たちですが、今日はブードシ先生一択です。『異世界転生した俺だけど、そんな奥まで挿れちゃらめえ…!』です。タイトルは毎度、酷くなっていってますがどこまでも追いかけますよ、ブードシ先生。
平積みコーナーの前で目を皿のようにして目当ての漫画を探し始めると、僕の隣で七海君が「お」と声を上げました。そしてスッと手を伸ばすと、裸のガチムチメンズが触手によって「あは~ん」なポーズを取らされている表紙のそれを五冊ほど纏めて手に取ります。その一瞬だけ、近くにいたお姉様が小さく悲鳴を上げました。
しかしそんな悲鳴も気にせず、七海君はそこから比較的綺麗な物を選ぶと、二冊だけ右手に、そして残った三冊を棚に戻して僕に表紙を向けて確認を取りました。
「これだよね? タカちゃんのお目当て」
「あ、はい。そうです……」
「ん。待ってて」
そう言って、七海君はスタスタと入り口付近まで行ってしまい、そこで会計を済ませると黒のビニール袋を掲げて僕のところまで戻ってきました。そしてブードシ先生の新刊が二冊入ったそれを僕へと差し出して……
「はい、新刊」
ニコリと微笑みました。
また一瞬、「きゃあっ!」と沸き上がる歓喜の悲鳴が。でも僕は、そんなの気にしませんでした。いえ、気になりませんでした。
差し出されるそれを両手で受け取り、僕は胸に抱きしめました。
「……ありがとう、ございますっ」
ブードシ先生のホモ漫画を目にしても臆することなく、またドン引くことなく手に取って、僕にプレゼントしてくれたことは、もちろん嬉しいです。ですがそれだけでなく、僕がお気に入りの漫画は必ず二冊購入していることを知っていて、そうしてくれたその気持ちがとても嬉しくて、嬉しくて……。
ホモ漫画を抱きしめながら、七海君にお礼を言いました。この時、僕がどんな顔をしていたかなんてわかりません。
だから七海君が何を思ったのでしょう? 公共の場だというのに、僕を抱き寄せて頬にキスをしたんです。
沸き上がる悲鳴。店員さんが抱えていた同人誌を盛大に床へと落としました。
僕もびっくりして小さな悲鳴を上げると、七海君がとても嬉しそうに笑っていました。
「こっちこそ、幸せをありがとう」
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