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腐男子坂本くんの○○な日
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しおりを挟む漫画の購入代金を七海君に渡そうとしましたが、代わりに手を繋いで歩いてと言われたので自分の左手を差し出しました。スマートに恋人繋ぎをされてドギマギしたのはここだけの話です。
そして貴腐人ロードを抜けてからもずっと手を繋いで歩くこと一時間。こんなに長いこと七海君と密着するのは初めてです。密着といっても、手を繋いでるだけですけども。女の子とすらこんなに手を繋いだことなんてないのに、一時間もなんて……手汗とか半端ないです。
ですが、不思議と嫌じゃありませんでした。恋人、という括りだからでしょうか? 七海君とこうして他愛ない話をしたり、七海君が僕のホモトークを聞いてくれたり、七海君に僕が行きつけのロリータファッションを扱っているお店を教えたり、と……。
どうしよう。嫌じゃないどころか、言葉にならないくらいめちゃくちゃ楽しいっ!!
どうしよう! どうしよう! 僕、いますっごく幸せ!!
傍から見れば、普通の恋人同士でしょうか? そう見えるでしょうか? 世間ではこれは、普通じゃありません。でも、でも今だけは……いいえ、今だけでも。皆から認められたい。そんな二人に見られたい。
まだ好き、でもないし。好き、とも言ってないけれど。
七海君と一緒に過ごすことが、とても嬉しいです。
少しだけ、七海君の手を握る力が強くなりました。それに気付いた七海君も、応えるように返してくれました。
「えへへ……」
「……あれ? 七海君?」
ふと、聞き覚えのある声が僕たちを呼び止めました。
振り返ると、厚底ブーツを履いた僕と同じ背丈の、紫色の両眼を持った男の子……特進クラスの紫瞠君のお姿がありました。声を掛けた七海君が本人であるとわかるや否や、パッとお花が咲いたように笑ってこちらへ駆け寄ってこられます。ネギとお醤油のボトルがはみ出たエコバッグを持って。
「うわ~! 街中でお友達と会えるなんて。嬉しいなぁ」
そう言う紫瞠君はほんわか笑顔で可愛らしいです……が、最近急に成長期がやって来た紫瞠君。身長がぐんと伸びて、紫瞠君を弟のように可愛がっていたあの平凡君の背を抜かしちゃったんですよね。両目もそれまでは黒のカラコンを入れていたようで、数週間前より眼鏡も外して、本当のお色で登校されています。
今は可愛いよりも、美人さんという表現の方がしっくりくる紫瞠君。そのお姿に平凡君は複雑そうでしたが、僕の中ではすでに美人転校生×平凡君の図が出来上がっていました。
彼は寮生ではないので、私服姿がとても珍しいです。何処で購入されたんでしょう? ハイブランドの広告で目にするモデルさん張りのお洋服を纏っておられます。実はお洒落さんだったんですね……エコバッグの中身はとっても庶民的ですが。
男の娘スタイルなのでバレることはないと思いましたが、僕と七海君がお付き合いをしていることは皇会長以外には内緒なのです。偶然、出会ったのだとしても紫瞠君にバレるわけにはいきません。僕はぺこりと小さく頭を下げると、そのまま顔は伏せるように下に向けました。ごめんなさい、紫瞠君。僕は君のことが嫌いでこうするんじゃないんです。でも、今だけは。どうか気付かないでいてください。
七海君が紫瞠君に爽やかスマイルで応対しました。
「やあ、紫瞠君。どうしてここに? 買い出しか何か?」
「うん。今夜の夕食の買い出しに来てたの。あと調味料も切れそうだったから、ここの通りのスーパーのね、今日のお値打ち品なんだよ」
ほらっ、と見せてくれるお醤油とみりん。こんなにお洒落さんなのに、行動が主婦さんです。お母さんです。先日ご相伴に預かった里芋の煮物、とっても美味でしたよ。
「重そうだね。手伝おうか?」
「大丈夫だよ。僕、こう見えても重いもの平気だから! それより……」
と、紫瞠君は七海君の隣にいる僕へと顔を向けられました。ドキッと高鳴る鼓動。どう誤魔化すべきか、目を泳がせていると……
「可愛い恰好をしてるねぇ、坂本君。でも、すごく似合っているよ!」
「えっ!?」
いまっ、いま……なんて!?
驚いてバッと顔を上げると、その様子に困惑した紫瞠君があたふたと僕と七海君を交互に見ながら尋ねました。
「え? あれ? 坂本君……だよね? ち、違う?」
「ど……どうして……」
僕のメイク、そしてこのファッションで坂本貴雄だとバレたことは七海君を除いて一度もなかったのに……! どうして紫瞠君にバレたんだろう!?
僕の疑問に、紫瞠君も狼狽えます。
「あれ……も、もしかして変装、だった? ご、ごめんね。僕、なんにも見てないよっ」
重そうなエコバッグを抱えながらも、ご自分の両目を覆い隠す紫瞠君ですが、もうバレてしまったのなら意味がないです。僕が七海君から手を離そうとすると、七海君はぎゅっと強い力でそれを防ぎました。そして紫瞠君にやんわりと笑って……
「大丈夫だよ、紫瞠君。見破っても。実は僕たち、デート中なんだ」
「デート!?」
「七海君!?」
その爆弾発言に、二人して同時に七海君を見ました。僕はもちろん驚いてですが……紫瞠君、そんなにキラキラした目で僕たちを見ないでください。すっごく居たたまれないです。
「うわあっ、素敵だね! 七海君と坂本君、お付き合いしてたんだねぇ。そっか~」
まるで女の子のように両頬に手を当てて喜ぶ紫瞠君。受け入れてくれるのは嬉しいですが、そんなに喜ばれるとなんだかとても恥ずかしいです。
あの平凡君が天使だと気に入るくらいの純朴さんなので、言いふらしたりはないでしょうが……一応、念の為です。僕は口元に人差し指を立てて紫瞠君にお願いをしました。
「紫瞠君。このことは学校や、平凡君には内密にしてください。お願いします」
「はっ……内緒なんだね。わかった。約束するね」
紫瞠君は僕のお願いに、ご自身も自分の口元の前で、指でバツを作りました。紫瞠君の約束、という言葉が胸にじんわりと響きます。バレたのが紫瞠君で良かったと、心から安堵しました。
紫瞠君は事情を配慮してくれたのか、それ以上は何も聞かずに僕たちから離れると。
「ごめんね、引き留めちゃって。デート、楽しんでね」
そう言って、お饅頭を売っているお店の方へと行ってしまいました。でも中には入らず、そこで誰かを待つように、立ち止まってキョロキョロと首を動かしています。どうしたんでしょう?
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