【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

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その命あるかぎり…誓えますか?

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 いつかは結婚をするんだろう。

 僕の知らない、素敵な誰かと。

 もしその時が来たら、僕は笑顔で賛辞の言葉を捧げよう。

 少しは涙も出るかもしれない。

 でもそれはきっと、とても嬉しい意味でだから。

 だから、きっと。きっと、幸せになってね。

 おにいさん。




 ――――…





 ー三年前ー




「ただいま~!」

「遅い」

「あいたあっ!?」

 いきなり拳骨が旋毛めがけて落ちてきた。何事!? と涙目になりながら頭を両手で抑えて見上げると、咥え煙草をした鬼の形相が僕をこれでもかってほど睨んで自分の拳を握りしめていた。

 僕が口を開こうとしても、その前に怒りの声が降ってくる。

「てめえは時計が読めねえのか? とっくに七時過ぎてんだろうが。遅くなる時はあのちんけな茶店から電話しろって、何回言えばわかるんだ、ああ?」

 ああ? の、声がどこぞの不良さんですか? ってくらいに酷く怖い。でも僕にとっては聞きなれたものだ。

 僕はマシンガンもとい言い訳を開始した。

「だって! 怪我した子がフラフラ歩いてたんだから気になっちゃったんだもん! ほっといたらどこぞの不良さんに連れていかれちゃうかもしれないから大通りまで一緒にって……僕の行動はきっと間違ってないよっ」

 僕は平和主義者なの! と、にこりともしない男の人……蒼さんに向かってきっぱりと言い切った。僕、間違ってない。

 でも蒼さんは、

「どうせそいつもヤンキーだろ。いい加減あのなんちゃってヤンキーどもから追われんの何とかしてこい。近所迷惑だ」

 と、僕の言い分を聞かずにピシャリと切った。何とか出来るものならとっくに何とかしているよ。でも仕方ないじゃないか。

「だって! 何か勘違いされてるんだもん! 僕は不良さんじゃありませんって言ってるのに、ブレ……えと、なんとかって言って追いかけてくるんだもん! それも怖い顔をして!」

 あれで顔が怖くなければ僕も大人しく捕まるよ。ついでにココアも一緒ならゆっくり語らっちゃうよ。

 なのに、蒼さんは僕の頭と服を交互に指差しながら。

「女みてえな成りしてっからだろ。そのヘアピンと服装、どうにかしろ。お洒落だか流行りだか知らんが目立つんだよ。髪色はともかく、その鬱陶しい長さはなんとかしてこい」

 ケチをつけてくる。そんなに僕の髪の長さが気になるなら、肩につくくらいになった時に言えば良かったのに。このやり取り、いったい何度目なんだろう……。

「ヘアピンは友達の廻ちゃんに貰ったものだし、服は蒼さんの元奥さまである璃々子さんから貰ったんだからどうにかできません! 髪はボランティア先のおばーちゃん達が三つ編みしてくれるからこのままでいいの!」

 柳ちゃんは可愛いねぇ、こうやって手先が動かせるからいい頭の運動だわぁって。老人ホームのおばーちゃん達が喜んで編んでくれる。髪は僕の武器なのだ。昔は施設が染髪に厳しかったけれど、今じゃ金色で目立つからすぐわかるって言ってくれるしオーケー!

 えへん! と、腰に手を当ててみせると、蒼さんが冷めた目で僕を見下ろし乱暴な手つきで鼻を摘まんだ。

「着せ替え人形か、お前は」

「ふがっ、ふがあっ!?」

 もともと身体が病弱で細いのに、僕よりも頭三つ分は背の高い蒼さん。とっくにおじさんという年齢なのに、デリバリー好きで煙草もお酒も全く控えない、ほぼ一日中ぐーたらしているダメダメな大人。

 お仕事は何をやっているのか謎だけど、在宅なのは間違いない。地毛もほんとは赤いのに、それを隠したいのか茶色だったりピンクだったりに染めて伸ばし放題。自分だって髪が長いじゃないかっ! って、言おうものならすぐに拳骨が落ちてくる。

 端から見れば、これは児童虐待と言われてもおかしくないんだろう。

 でもね。

「も~……今日は卵が期限間近だし、天津飯でいい? 天津飯にするよー?」

「玉ねぎ入れるなよ」

「玉ねぎも入れますー」

「チッ」

 僕は使い古された自前の白いエプロンを身体に着けると、手を洗った後に卵をパックから出しながら蒼さんに言った。

 蒼さんがこんなんだから、お掃除やお洗濯、お料理なんかは一通り出来るようになっていた。何かを作ることが好きだからか、お料理は苦じゃなかったし、お掃除やお洗濯も綺麗になっていくのを見るのが気持ちいいからかやらされてると思ったことはない。むしろ、早い段階で一人でも生きていけるように育ててくれたなーって感謝してるくらい。

 お勉強の方も好きなようにさせてくれるから……

「そうだ。この前の期末試験の結果、僕の鞄の中に入ってるから勝手に見てねー」

 そう言うと、蒼さんが遠慮なしに僕の鞄を漁ってグシャグシャと答案用紙を取り出した。

 新しい煙草を咥えてその先端に火を付けながら、ジーッと全教科の答案用紙を眺め始める。

「……また英語のスペルミスがあるな」

「ぎくっ」

 バレた。すぐにバレた。英語が苦手なのを知ってるから、特に英語への目が厳しい……。

 で、でもね。他の教科も頑張ったんだよ。特に数学は自信ある。なんてったって計算ミスをすることなく満点なんだから! り、理科だって。社会だって。国語だって九十点以上だし!

「あれほど気を付けろって言ってんのにお前は……」

「うぐぅ……」

 しかし心の中の言い訳も蒼さんには効かず……僕に近寄って再び拳を僕の頭に向けた。ビクッと、僕は思わず目を瞑る。

「受験までには何とかしろよ」

 でも、僕の頭に落ちたのは拳じゃなかった。

「う……あれ? 撫でた? いま、頭撫でてくれた!? えへへへー!」

「早く飯作れ、阿呆」

「あうちぃ!?」

 不器用だけど、頭を叩くだけじゃなくて、ちゃんと撫でてくれる。

 口も悪いけど、それだって本当に貶すようなことは絶対に言わない。蒼さんなりの筋はちゃんと通っていた。

 僕にとって、蒼さんは優しい優しい大好きなおじさんだった。
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