161 / 241
その命あるかぎり…誓えますか?
1
しおりを挟むいつかは結婚をするんだろう。
僕の知らない、素敵な誰かと。
もしその時が来たら、僕は笑顔で賛辞の言葉を捧げよう。
少しは涙も出るかもしれない。
でもそれはきっと、とても嬉しい意味でだから。
だから、きっと。きっと、幸せになってね。
おにいさん。
――――…
ー三年前ー
「ただいま~!」
「遅い」
「あいたあっ!?」
いきなり拳骨が旋毛めがけて落ちてきた。何事!? と涙目になりながら頭を両手で抑えて見上げると、咥え煙草をした鬼の形相が僕をこれでもかってほど睨んで自分の拳を握りしめていた。
僕が口を開こうとしても、その前に怒りの声が降ってくる。
「てめえは時計が読めねえのか? とっくに七時過ぎてんだろうが。遅くなる時はあのちんけな茶店から電話しろって、何回言えばわかるんだ、ああ?」
ああ? の、声がどこぞの不良さんですか? ってくらいに酷く怖い。でも僕にとっては聞きなれたものだ。
僕はマシンガンもとい言い訳を開始した。
「だって! 怪我した子がフラフラ歩いてたんだから気になっちゃったんだもん! ほっといたらどこぞの不良さんに連れていかれちゃうかもしれないから大通りまで一緒にって……僕の行動はきっと間違ってないよっ」
僕は平和主義者なの! と、にこりともしない男の人……蒼さんに向かってきっぱりと言い切った。僕、間違ってない。
でも蒼さんは、
「どうせそいつもヤンキーだろ。いい加減あのなんちゃってヤンキーどもから追われんの何とかしてこい。近所迷惑だ」
と、僕の言い分を聞かずにピシャリと切った。何とか出来るものならとっくに何とかしているよ。でも仕方ないじゃないか。
「だって! 何か勘違いされてるんだもん! 僕は不良さんじゃありませんって言ってるのに、ブレ……えと、なんとかって言って追いかけてくるんだもん! それも怖い顔をして!」
あれで顔が怖くなければ僕も大人しく捕まるよ。ついでにココアも一緒ならゆっくり語らっちゃうよ。
なのに、蒼さんは僕の頭と服を交互に指差しながら。
「女みてえな成りしてっからだろ。そのヘアピンと服装、どうにかしろ。お洒落だか流行りだか知らんが目立つんだよ。髪色はともかく、その鬱陶しい長さはなんとかしてこい」
ケチをつけてくる。そんなに僕の髪の長さが気になるなら、肩につくくらいになった時に言えば良かったのに。このやり取り、いったい何度目なんだろう……。
「ヘアピンは友達の廻ちゃんに貰ったものだし、服は蒼さんの元奥さまである璃々子さんから貰ったんだからどうにかできません! 髪はボランティア先のおばーちゃん達が三つ編みしてくれるからこのままでいいの!」
柳ちゃんは可愛いねぇ、こうやって手先が動かせるからいい頭の運動だわぁって。老人ホームのおばーちゃん達が喜んで編んでくれる。髪は僕の武器なのだ。昔は施設が染髪に厳しかったけれど、今じゃ金色で目立つからすぐわかるって言ってくれるしオーケー!
えへん! と、腰に手を当ててみせると、蒼さんが冷めた目で僕を見下ろし乱暴な手つきで鼻を摘まんだ。
「着せ替え人形か、お前は」
「ふがっ、ふがあっ!?」
もともと身体が病弱で細いのに、僕よりも頭三つ分は背の高い蒼さん。とっくにおじさんという年齢なのに、デリバリー好きで煙草もお酒も全く控えない、ほぼ一日中ぐーたらしているダメダメな大人。
お仕事は何をやっているのか謎だけど、在宅なのは間違いない。地毛もほんとは赤いのに、それを隠したいのか茶色だったりピンクだったりに染めて伸ばし放題。自分だって髪が長いじゃないかっ! って、言おうものならすぐに拳骨が落ちてくる。
端から見れば、これは児童虐待と言われてもおかしくないんだろう。
でもね。
「も~……今日は卵が期限間近だし、天津飯でいい? 天津飯にするよー?」
「玉ねぎ入れるなよ」
「玉ねぎも入れますー」
「チッ」
僕は使い古された自前の白いエプロンを身体に着けると、手を洗った後に卵をパックから出しながら蒼さんに言った。
蒼さんがこんなんだから、お掃除やお洗濯、お料理なんかは一通り出来るようになっていた。何かを作ることが好きだからか、お料理は苦じゃなかったし、お掃除やお洗濯も綺麗になっていくのを見るのが気持ちいいからかやらされてると思ったことはない。むしろ、早い段階で一人でも生きていけるように育ててくれたなーって感謝してるくらい。
お勉強の方も好きなようにさせてくれるから……
「そうだ。この前の期末試験の結果、僕の鞄の中に入ってるから勝手に見てねー」
そう言うと、蒼さんが遠慮なしに僕の鞄を漁ってグシャグシャと答案用紙を取り出した。
新しい煙草を咥えてその先端に火を付けながら、ジーッと全教科の答案用紙を眺め始める。
「……また英語のスペルミスがあるな」
「ぎくっ」
バレた。すぐにバレた。英語が苦手なのを知ってるから、特に英語への目が厳しい……。
で、でもね。他の教科も頑張ったんだよ。特に数学は自信ある。なんてったって計算ミスをすることなく満点なんだから! り、理科だって。社会だって。国語だって九十点以上だし!
「あれほど気を付けろって言ってんのにお前は……」
「うぐぅ……」
しかし心の中の言い訳も蒼さんには効かず……僕に近寄って再び拳を僕の頭に向けた。ビクッと、僕は思わず目を瞑る。
「受験までには何とかしろよ」
でも、僕の頭に落ちたのは拳じゃなかった。
「う……あれ? 撫でた? いま、頭撫でてくれた!? えへへへー!」
「早く飯作れ、阿呆」
「あうちぃ!?」
不器用だけど、頭を叩くだけじゃなくて、ちゃんと撫でてくれる。
口も悪いけど、それだって本当に貶すようなことは絶対に言わない。蒼さんなりの筋はちゃんと通っていた。
僕にとって、蒼さんは優しい優しい大好きなおじさんだった。
6
あなたにおすすめの小説
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
うそつきΩのとりかえ話譚
沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。
舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。
救世の神子として異世界に召喚されたと思ったら呪い解除の回復アイテムだった上にイケメン竜騎士のツガイにされてしまいました。
篠崎笙
BL
剣崎勝利の家は古武道で名を馳せていた。ある日突然異世界に召喚される。勇者としてではなく、竜騎士たちの呪いを解く道具として。竜騎士ゲオルギオスは、勝利をツガイにして、その体液で呪いを解いた。勝利と竜騎士たちは悪神討伐の旅へ向かったが……。
生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける
てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」
庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。
そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――?
「カラヒ。おれの番いは嫌か」
助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。
どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。
どうして竜が言葉を話せるのか。
所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。
世話好きな不死鳥に拾われました!
のは(山端のは)
BL
不死鳥の巣で目覚めた俺には、秘密がある。
病に倒れた恩人を救うため、卵を盗みに来た――そのつもりだった。
けれど互いの正体を知らぬまま、“ひな”として世話を焼かれることに。
不死鳥は時に巨大な鳥の姿で、時に美しい男の姿で俺を包み込む。
そして、恩人との再会をきっかけに、彼のまなざしが変わっていく。
不死鳥攻めの執着愛。天然×天然のちょっとズレた溺愛をどうぞ。
表紙は攻めです。描きたかったんです。
※ムーンライトノベルズにも掲載しております。ムーンの方が最新版となっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる