【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白

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その命あるかぎり…誓えますか?

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 そんな蒼さんが、珍しく家を留守にするって言った時があった。どのくらい? って尋ねたら、たったの数時間。なーんだ、お泊まりかと思ったって言ったら、面倒くせえとあまり気乗りしない様子だった。

 でも、本当に面倒なら行かない人だから、行かざるを得ない用件なんだなって、僕はのんびり考えていて……

 「ロワゾ」で次のボランティア先について仲間と話しているときに、その知らせは届いた。

「あの馬鹿が倒れた」って。璃々子さんから。

 僕は璃々子さんから指示を仰いで運び込まれた病院まで駆けつけた。そうしたら、意外にも病室で普段通りの仏頂面な蒼さんがベッドの上で、若い男の人から何かを話されていて黙って聞いているところだった。

 白衣も着ていないし、僕はこの人が救急車を呼んでくれた人だ、蒼さんを助けてくれたんだって思ってお礼を言った。でも当の蒼さんが礼はいらないって相変わらずで、ちょっぴり頭にきた。

 なのに、その助けた男の人まで同じことを言ってさらには……

「僕の、おにい……さん? えと、蒼さんがお兄さんのお父さんで、お兄さんが僕のお義兄さん……ど、どういうことー!?」

「うるっせえな、お前は! 耳元で叫ぶんじゃねえよ」

「いったあ!?」

 まさかのカミングアウトに、僕は驚きを隠せなくて、ついつい大声を上げてしまった。そしてやっぱり蒼さんに殴られた。倒れた人とは思えないくらい拳骨の力は強かった。

 海、と名乗ったお兄さんはといえば、その光景を目にして不快そうに眉を顰めてみせた。そして蒼さんに、

「貴方、いつもそうやってこの子に暴行を与えているのですか?」

 と、何やら児童虐待の線が濃厚になりそうな質問をしていた。蒼さんはしれっとして、「だから?」と聞き返していたけど。

 僕は頭を擦りながら、お兄さんに「大丈夫です」と答えた。

「お兄さんが心配するようなことは、たぶん無いです。確かに蒼さんはすぐに手が出る人だけど、不器用なだけだし……たまに優しいおじさんです。えーっと、なんだったっけこういうの……そう!  ツンデレってやつです!」

「おい、やめろ。そういう変な単語で括るのやめろ」

「蒼さんのお話ししたら、ボランティア先のおばーちゃんたちがそう言ってたよ?」

「今時のババアどもはどこからそう言った知識を仕入れてくるんだ……」

 蒼さんが頭を手で抱えるのを見ながら、僕はお兄さんに向かってもう一度頭を下げた。

「ありがとう、お兄さん。僕、お兄さんみたいなお義兄さんがいるだなんて知らなかったから、うん……嬉しいね」

 しかも蒼さんの息子さんだったなんてね。璃々子さんが再婚していることは知っていたけど。でも考えてみれば……あー、そっかあ。そっかあ。

 僕がにこっと笑うと、お兄さんは……

「笑わないで貰えますか? 不愉快です」

 と、ピシャリと切った。

 え、何で?

 きょとん、と目が丸くなった僕。蒼さんはお兄さんを見上げて、「ガキに当たるな」と冷たく言った。すると、お兄さんは蒼さんと同じ目付きになって、淡々と反撃し始めた。

「そのガキに最初に当たったのは貴方でしょう。しかも言葉でなく手まで出すとは……つくづく貴方の下から離れて良かったと思いますよ。母共々ね」

「俺だって清々してるわ。一人気ままな生活を送ってたってのに、厄介なモンを押し付けてきやがってあのクソ女……」

 ちょっとちょっと。二人とも言い過ぎ。蒼さんに至っては璃々子さんに失礼だよ。

「母の侮辱は止めて頂きたい。勝手に孕ませて捨て置いたクズにそのような汚い言葉を宛がわれたくはない」

「会わねえうちに一丁前にマザコンになりやがって……さっさと出てけ。このガキも連れてな」

 おおーい。二人とも。頭に血が登ってるのはよくわかったから、落ち着こう、ね? 喧嘩は良くないよ、喧嘩は。

 僕がおろおろと二人を交互に見るけれど、構いやしないのかお互いにとんでも発言を口にした。

「言われなくとも出ていきます。これ以上、時間を無駄にしたくはないのでね。全く……何もせずにそのまま放っておけば良かったな」

「はっ! そりゃこっちの台詞だ。死に損ねた……がっ!?」

「!?」

 蒼さんが言い終える前に、呻き声を上げた。いや、上げさせた。

 おろおろしていただけの僕が、蒼さんの胸倉を掴んでその頭に思い切り頭突きをしたからだ。

 それを見てお兄さんは、目を見開いて驚いていたみたいだけど、そんなもん知るかー!!

「てんめえ……!」

「てめえじゃない! さっきから黙って聞いていればムカムカすることばっかり言って! いい大人がふざけてもそんなこと言うんじゃない!」

 痛みでいつも以上に怖い顔を浮かべる蒼さんに、僕は胸倉を掴んだまま唾を飛ばして怒鳴り付けた。

 それも知るかー! 僕は怒ってんだー!!

「不器用だろうが何だろうが、言って良いことと悪いことくらいわかるだろ! これ以上、思ってもないことを言うんならもういっぺん頭突きすんぞ、こらぁ!!」

 ふーっ、ふーっ、と。息を荒げて蒼さんを睨む。蒼さんは何かを言いたそうだったけど、結局は舌打ちをして何も言わなかった。

 お兄さんも、それ以上は何も言わなかった。

 ……が。

「煩いわね! 何をわいわいやってるのよ、あんたたち! ご近所迷惑でしょ! 放り出すわよ、ごるぁ!!」

「ごめんなさいっ!!」

 でも後から病室に入ってきた璃々子さんに三人揃って怒られるっていうね……。

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