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試験開始です。
光と闇の密かな攻防
しおりを挟む「あ、あの、リモナイト殿下…っ、リィ様!」
「ふふっ、やっと呼んでくれた」
救護室とは全く正反対の廊下を歩き続けるリモナイト殿下に、私は何度も声を掛けるけど返事はかえって来なくて、仕方無しにリモナイト殿下の愛称で呼びかけると、嬉しそうに天使の微笑みを浮かべて振り返ってくれた。
本人にしてみれば、悪戯が成功したって思っているのでしょうが、私のHPはゼロになりそうです。今日はダンスの試験なのに、こんなに色々あるなんて聞いてませんよ。
「救護室はきっと一杯だと思うんだよねー、足を挫いたとか多そうじゃない?」
「それはそうですけど…」
「パートナーを見つけられなかった見栄だけの下級貴族って、逃げ場に救護室を選ぶって聞いてるんだけど、本当なのかなぁ?」
「……あの、リィ様。そんな具体的な話を、どなたからお聞きになりましたの?」
「ジャスパー!」
(弾ける様な笑顔が眩しい!!…じゃなくて!ジャスパー様なんて事を!)
リモナイト殿下に引っ張られてやってきたのは、他の貴族専用に作られた休憩室ではなく、学園の生徒の代表が集まって会議をする部屋だった。現代でいう『生徒会』のようなものなんですが、ラズーラ殿下が会長の役割を担っています。補佐はアイクお兄様とマウシット様が勤めています。
「ここなら、邪魔されないでゆっくりと…」
「リモナイト様!」
声を掛けられて振り返ると、其処には可愛らしいピンクのふわっとしたドレスを身に纏った御令嬢がたって居ました。ルチルレイの方が可愛いですが、此方の御令嬢も目がぱっちりと大きくて可愛らしいです。試験にしてはやたらとドレスがヒラヒラしていますが、大丈夫かしら…。
「そろそろ試験の順番です、お探ししておりました」
「あれ?僕の相手ってカリーノ男爵令嬢だったと思うんだけど、どうしてフェズリ伯爵令嬢が?」
「カリーノ様は不運にも先程足を挫かれたそうですの、ですから私が代わりにと」
(決まったって聞いてたから安心してたのに、未だに足の引っ張り合いしてる!?あー…でもアイクお兄様も相手がコロコロ変わるから、去年は私で安心できたって笑ってましたね)
侯爵令嬢に怪我をさせようとする猛者なんて、そうそういませんからね。たとえ私がよく一人で居るからとはいえ、聖獣のハウライトとオブシディアンが守ってくれています。そういえば、ルチルレイの相手のマウシット様も人気は凄いはず。ルチルレイは大丈夫なのかしら?その辺はヒロイン補正でも掛かるの?
「相手が勝手に怪我をしたなら、選択権は僕にある。どうして勝手に決めたりした?」
「も、申し訳ありません!ですが、皆パートナーも決まってまして」
「皆?おかしいな、相手の決まっていない連中なら、救護室に集まっているんだろう?」
この切り替えの早さ、ツンだけしか持って居ないリモナイト殿下は容赦無しです。青い顔をしているフェズリ伯爵令嬢がかわいそうなくらい。
(此処で、リモナイト殿下ではなくて伯爵令嬢を気にしている私は、やっぱり前世に恋愛をするトキメキを置いてきてしまったのかもしれない。この人だけをと真っ直ぐに見つめるあの気持ちには、まだなれない)
「リモナイト殿下、私もそろそろ試験ですから参りますわ。パートナーが待っていますから。フェズリ様も此れからお相手を探すのは大変かと思いますの、怪我をされたカリーノ様の折角のお申し出ですし、ご一緒に参りませんか?」
「アリア…」
「また後日、王宮で練習される機会がありましたら、お呼びいただけますと光栄ですわ」
にっこりと微笑みを浮かべリモナイト殿下を促すのは、長年一緒に遊んでいた従兄妹の役目でしょう。一瞬だけ瞳に浮かんだ泣き出しそうな顔に、胸がズキリと痛んで息が苦しくなった。
「アリア、順番だそうだ」
「ギベオン」
背後から大きな腕が私を抱き込んで、落ち着く甘やかな香りに包み込まれる。オブシディアンもそうだけど、闇の守護聖獣は落ち着く香りをしている。ゆっくり瞳を閉じて、心のざわめきを沈めて、私はリモナイト殿下に一礼をすると試験会場へと歩き出した。
「いいのか?あの王子と踊らなくて」
「ギベオンが私のパートナーです。そんなに相手を変えるものではないの、はしたないでしょう?」
「人はよく分からんな」
「…そうね、自分でもそう思うわ」
早くオブシディアンとハウライトを抱き締めたいと心の中で呟いて、ギベオンにエスコートされて入った試験場は、大きな舞踏会用のホール。丁度入れ違いのタイミングを狙ったとおり、試験が終わってマウシット様と出てくるルチルレイと目が合った。
驚きで目を丸くし、その空色の瞳に黒い影が宿る。魔力を持たないマウシット様では、直ぐにその気配には気がつかないけど、何か違和感を感じるのか辺りを訝しげに見回している。
(足元からゾクゾク来てるわ…)
「ハウライト」
「にゃあ」
私の声にハウライトの体が淡く光りだす。
ハウライトが放っている光は、光の属性の防御魔法。気付かれないくらい極微量の薄い膜が私を守ってくれる。じわじわと纏わり付いていたあの気持ち悪さは感じないけれど、私の邪魔をしようと黒い影が絡み付いてくるのが分かる。
「アリア、いけるか」
「勿論ですわ、こんな邪魔程度で、侯爵令嬢が試験を落とすわけないでしょ」
「強気だな、お前は」
ステップを踏む足と、ギベオンに差し出した手に少し力を籠め、真っ直ぐにギベオンを見つめ優雅に微笑みを浮かべる。魔の気配をしっかりと感じとっているギベオンは、それはもう蕩けそうな微笑みを浮かべて愛しげに私を見つめ返してきた。雰囲気はバッチリ過ぎて困るくらいだよ!
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