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試験開始です。
狼さんやりすぎです
貴族なら慣れているが一応試験と言う緊張感漂うダンスホール、多少だけど空気は何処と無くピリピリしているそんな中、試験に関係の無いギベオンは時折顔を寄せてきて、犬が甘えるように頬に擦り寄って来ます。流石にそれはやりすぎですわ。
「ギベオン、態としています?」
「何がだ?」
「その顔ですわ、甘過ぎて砂糖どころか砂でも吐かせたいのかしら」
「そうか?」
恋人か!って言いたくなりそうなその微笑は本気でやめて頂きたいです。今回はルチルレイから魔が離せるかどうかの試しなんですから、そんなでろっでろに甘い顔は必要有りません!後尻尾!パタパタさせない!可愛いでしょうが!
こっそりとギベオンの肩越しに覗き見たルチルレイの顔は、恐ろしい般若が透けて見えて居ました。ガクブルですよ、咄嗟に視線を逸らしましたよ。可愛いから余計に怖い。糸よりは太い、毛糸くらいかな?って太さの黒い線がルチルレイから私へと延びていて、先程から足元や腰に絡んでいます。
(ハウライトのお陰で気持ち悪いのは無いけど、寒いわこれ。悪寒がはんぱない)
「アリアはどうしていつもの様に笑わない?屋敷とは違う」
「は?そんな事出来ませんわよ、控えめに微笑みを浮かべているのが、令嬢としてのマナーですの」
「令嬢とやらは本当に面倒だな」
「聖獣様でも、そう思うのね」
こそこそと話をしつつも、しっかりと微笑みはキープしています。楽しそうに会話をしつつ、ルチルレイを伺うと、いい具合に嫉妬満載で睨まれていますよ。怖いわ。ハウライトにもう少し防御を強めて貰ったほうがいいかも?とそんな事を考えていたら、足や腰に絡んでいた黒いものが大きくなり、不意に足を引っ張られてバランスが崩れた。
(転ぶ!?)
「アリア」
「…っ、大丈夫です、ありがとうギベオン」
「ルチルからの妨害は、我では防げないようだな」
「ルチルレイの守護聖獣ですものね、闇の属性は魔に関与できないのでしょうか?」
「魔と闇は違うものだ、一緒にするな」
ギベオンの逞しい腕がしっかりと支えてくれて、転ぶ事は回避できました。近くで見ていたリモナイト殿下が目を丸くして私を見て居ましたが、苦い微笑みを向けて返すとホッとした顔で微笑み返してくれます。様子を見に来ていたラズーラ殿下とアイクお兄様にも、心配をかけてしまったかもしれませんね。
「これは、早々に祓わないと駄目ではなくて?」
「しかし、あの寮に居る限り、ルチルはまた憑かれるな」
「……もしかしなくても、お友達とか」
「闇の属性を持つ、聖獣持ちの令嬢にか?」
「愚問でしたわね」
(ルチルレイが逃げようとも、私は絶対捕まえて友達になります!私だって可愛い女の子とキャッキャしたい!)
小さく溜息を零し、試験の曲が終わりギベオンと礼をして顔を上げた。瞳の前にはマウシット様とその横にいるルチルレイ。一気に背筋が汗と寒気でとんでもない事になりました。バランスを崩しにしかちょっかいをかけられなかったので、完全に油断してました。ルチルレイさんの般若の形相変わってなかったよ!?
「ギベオン!どういう事なの!?」
「落ち着けルチルレイ」
「貴方が踊れるなら、わざわざマウシット様でなくても最初からギベオンと踊るわ!」
「…っ、」
「ルチルレイ、話をきけ」
「私は散々ギベオンがいいとあれだけ言っていたのに、酷いわ!どうして私がマウシット様で、アトランティ様とギベオンが踊るのよ?貴方は私のものよ!」
(ルチルレイの言葉に、マウシット様にダメージ入りましたー。顔に出さないようにしていますが、長年の幼馴染を甘く見てはいけませんわ。お菓子を差し上げた時のふわふわ笑顔から見知っていますのよ。何気にマウシット様から断られた令嬢達の怒りも買いましたね。ルチル落ち着け)
私も顔に出さないようにしてますが、ちらりと此方を見たマウシット様が視線で会話を強要してきます。なんてこった。他者から見れば凍るような視線ですけど、アイクお兄様の凍る微笑みに比べればまだまだですよ。しかも、恥ずかしがって焦ってる視線って知ってますからね。ここはあえてにっこりと微笑みを向けてやるのです。え?性格悪いですか?まぁいいじゃないですか。
「ごきげんよう、マウシット様。無事に試験も終わりましたし、ギベオンをルチルレイ様にお返ししたほうが良さそうですわね」
「久し振りですね、今年はアイドクレーズに頼まなかったのですか?」
「まぁ、アイクお兄様にだって選択権はありますわ」
アイクお兄様争奪戦の中に私を入れないで欲しいわ、と視線で告げてやる。ダンスの試験のパートナーの事をすっかりと忘れていた事は棚上げです。知らない知らない、私のパートナーはギベオンですが何か?
軽くマウシット様と話をしていると、不意にホールの空気が変わりました。人が多いので多少の息苦しさはあるのですが、そうではなく、胸を突かれたような息が止まりそうな息苦しさ。思わず眉を顰めてしまったけど、それは向かい合っていたマウシット様も同じだった。
(マウシット様にまで感じるなんて、余程の事だという事ねー)
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