溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪

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リヒト

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 朝食の後、ユーリ様は仕事へとお出かけになる。

 ご自分ではあまり話されないけど、ユーリ様はこの国の王弟という立場で、すごくすごく身分の高い方だ。
 でも、「僕なんか気楽なもんだよ」とユーリ様は笑う。

 僕はお会いしたことがないのだけれど、ユーリ様にはお兄さんが二人居て、その二人とは歳が離れているらしい。
 僕とリヒト以上に離れてるよ、と話すユーリ様は、いまは二十九歳。僕がそこから十を引いて、十九歳。

 十二年前にリヒト様が山で僕を見つけたとき、僕のことを「三歳ぐらいの幼児だと思った」らしい。
 僕は栄養状態がものすごく悪くて、身長も体重もすごく少なかったんだって。

 でもいろいろ検査をして、おそらくは七歳に達していたのではないか、という結論になったみたい。
 僕がオメガだったことも、年齢を裏付ける理由のひとつに挙げられている。

 オメガ、というのは男女以外にもうひとつある性別で、とっても珍しい種類なのだという。

 ユーリ様はアルファで、アルファの数も少ないけれど、オメガの方がもっと少ないんだと言われた。

 一番多いのはベータという性別。
 このお屋敷で働いているのは半分以上がベータで、でもアルファも少し混ざっているらしい。

 アルファはとにかく色んなことがひと並み以上にできるのだと、教えてもらった。
 ベータよりも、オメガよりも、アルファは様々なことに長けている者が多い。

「ここは国の中枢だからね。サーリークこの国のアルファの大半は王城勤めだ」

 ユーリ様は僕に、そう教えてくれた。
 
 それから、僕の首に巻かれている革の首輪の意味も、教えてもらった。
 
 これは二年間眠りっぱなしだった僕がようやく目覚めて、この国の言葉もようやく少し覚えだした頃にユーリ様からプレゼントされたものだ。

 僕の成長に合わせて毎年少しずつ作り替えられているから、当時の物とまったく同じではないけれど、喉元にはまっている黄金の宝石はそのときに貰ったものをそのまま使っていた。

 この宝石の色は、ユーリ様の髪の色だ。
 そして、ユーリ様が言うには、僕の目の色とも似ているみたい。
 
「この首輪は決して外してはいけないよ」
 
 首輪を貰ったときに僕は、ユーリ様からそう厳命された。

「これはきみをまもる物であり、僕をまもる物だからね」

 ゆっくり、はっきりと、僕が聞き取りやすいように話してくれるユーリ様の言葉に、当時の僕は意味もわからずに頷いた。

 寝たきり状態から回復して日常生活を送れるようになった頃に、ユーリ様が家庭教師をつけてくれたので、僕はこの国の言葉や一般的な知識を学ぶことができた。
 だからいまは、首輪の意味もわかっている。

 オメガという生き物は、アルファにうなじを噛まれると、強制的にそのアルファのものにならないといけないらしい。それを『つがい』と言うのだと教わった。

 つがいは、うなじを噛めばいつでも成立するわけではないらしい。
 つがいになれるタイミング、というのがあって、その時期を外すとたとえ噛まれたとしても、つがいは成立しないとユーリ様や家庭教師の先生は言っていた。

 その『時期』というのは、ヒートと呼ばれる発情期のことで、体が成熟したオメガは二月ふたつきに一度このヒートが訪れる。

 ふつうのオメガは十五歳~十七歳ぐらいで初めてのヒートを迎えるらしいけど、僕は十九歳にもなるのに一度も来たことがない。
 五感が弱いことが原因か、それとも幼い頃の栄養失調の影響で体が成熟するのに時間を要しているからか、理由ははっきりとはしていないけれど、僕にヒートはない。

 なので、本当はこの首輪も不要なのだろうけど、いざというときに僕が自分で自分の身をまもることは難しいから、用心のためにと僕は毎日ユーリ様の髪色の宝石つきの首輪を巻いているのだった。

 戯れに首元の宝石をいじりながら、僕は窓の外を見た。
 外は明るい。たぶん晴れているのだろう。

 仕事へ出かけるユーリ様を見送ってから、夕方まで、僕には簡単な仕事が待っていた。

 以前は日中は家庭教師について勉強をしていたけれど、ひと通りの基礎勉強が終了すると途端にすることがなくなってしまい、僕は部屋でぼんやりと過ごすことしかできなかった。
 屋敷内の他のひとたちは皆忙しそうに動き回っていて、自分だけが暇を持て余すことがなんだか居たたまれなくて、僕は、僕にもなにかできる仕事はないか、とユーリ様に尋ねてみた。
 そしたら、
「リヒトはそこに居るだけでいいんだよ。充分僕の力になってる」
 と、答えにならない答えが返ってきた。

 僕にできる仕事なんてない、と遠回し言われた気分で僕はしょぼんと肩を落としたけれど、まさかユーリ様に文句を言うわけにもいかない。
 
 でも僕があんまり気落ちしていたからだろうか、ひと月後にユーリ様が、温室の花の世話をしてほしい、と言いだした。

 聞けばこのお屋敷に、最近になって温室を作ったけれど管理をするひとが居ない、花が咲いているか、水が流れているか、土が湿っているか、ひとつずつ確認してほしい、とのことだった。

 管理をするひとが居ない、なんてことは、たぶん、ユーリ様の嘘だ。

 僕に与える仕事を色々探してくれた結果、温室なら、と許可を出してくれたのだろう。

「ユーリ様、ありがとうございますっ! 大好きっ!」

 僕はユーリ様に力いっぱい抱き着いて、お礼を言った。

 それ以降、ユーリ様がお休みの日以外は毎日、温室で仕事をしている。

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