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リヒト⑦
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目を開けたら、金色のキラキラが飛び込んできて、僕は何度もまばたきをした。
すごい。
きれいに光ってる。
ユーリ様の髪の色と、おなじ種類の金色だ。
僕は横向きに寝転んだまま、肩口あたりで光っている金色に手を伸ばした。
触れて、離れる。
てのひらに届く感触はわからない。でも僕の指がすこし埋まるので、やわらかいのかなと思った。
金色を右手の指に絡めて、僕はしばらくそれで遊んでいた。
これはなんなんだろう。
誰かに聞いたらわかるかな。
あれ、そういえばここはどこだったろうか。
そうだ、エミール様のお屋敷だ。僕はあのままお泊りをして……。
そうしたらこの金色は、エミール様の持ち物のなにかなのかな。
考え事をしながら金色を引っ張ってみたら、それが急に動いたから僕はびっくりして手を離した。
「あっはは! 痛い痛い。僕がはげたらどうするの、リヒト」
むくり、と起き上がった金色は、僕の顔の前で頬杖をついて、新緑色の瞳を瞬かせた。
「…………え?」
金色が突然ユーリ様のような形になって、僕はポカンとしてしまう。
僕の寝ている寝台の横にユーリ様が座っていて、マットレスに肘をついてこちらを見ている、という体勢なのだろうか? とするとさっきまでの金色は、上体を伏せて寝ていたユーリ様の頭、だったのかな。
「リヒトが起きるまで待ってようと思ったら、うっかり寝てしまったよ。でも、リヒトが僕の頭をなでなでしてくれてるし、可愛かったから寝たふりを続けたら、あんまり強く髪を引っ張られて驚いちゃった」
クックッと肩を揺すって笑うそのひとが、僕の頬へと手を伸ばしてきて。
「具合はどう? 夜中にもどしたんだって?」
きれいな緑の瞳を近づけて、そう訊ねてくる。
僕は暈けた視界の中で必死に目を凝らして、
「ゆぅりさまですか?」
と問いかけた。
僕の手がすくいあげられて、
「そう。きみのユーリだよ。帰ってきたよ、僕のオメガ」
そう言ったユーリ様が、手の甲に、唇を、ちゅ、と押し付けた。
ユーリ様。
ユーリ様!
ユーリ様が帰ってきてくれた!
僕のところへ。
ユーリ様が!
喜びのあまり飛び起きようとしたけれど、体が思うように動かない。手足に上手く力が行きわたらないのだ。
その段で僕は、ああなんだ、これは夢なのか、と理解した。
それはそうだろう。
僕は知ったはずだ。ユーリ様はもう、戻っては来られないのだと。ちゃんと、理解したはずだ。
それでも嬉しい。
たとえ夢でも、ユーリ様に会えて嬉しかった。
「ゆぅりさま、ぼくのゆめに、きてくれて、ありがとうございます」
夢はすぐに醒めてしまう。
だからその前に僕は、ユーリ様にお礼を言った。
ありがとうございます、と声に出したら泣けてきて、ぐす、と鼻を啜る。
「夢? 夢じゃないよ、リヒト。ちゃんと現実だ」
ユーリ様は僕の手をくるりと動かして、てのひらにご自分の頬を当ててきた。
せっかくの夢なのだから、もっとハッキリ、ユーリ様の感触を伝えてくれればいいのに。
僕の五感は残念ながら眠りの世界でも役には立ってくれない。
僕は枕に顔の半分をこすりつけるようにして、首を横に振った。
「ゆめで、いいんです。ぼく、うれしいです」
「夢でいいなんて、さびしいこと言うなぁ」
「だって、げんじつのゆぅりさまは、もうかえってはこられないから」
「ええ? なんでそんなこと言うの?」
心底驚いた、というようにユーリ様がさらに顔を寄せてきた。
横向きの僕に合わせて、身を乗り出したユーリ様も枕にトンと顔の半分を載せる。
真正面で、視線が合わさった。
「……おわかれを」
「リヒト?」
「おわかれを、されたので」
「なんのこと?」
「きしの、さいけいれいが……」
「リヒト、意味がわからない。最敬礼がなんだって?」
夢のユーリ様は察しが悪い。いつもは僕がなにかを言う前に、僕がしたいことを先回りで叶えてくださるのに。さすが、僕の夢だ。僕のポンコツ具合がユーリ様にまで伝染している。
「リヒト? あ~、これは熱があるね」
「ベンさんが」
「なんで急にベン? ベルンハルトがどうしたの?」
「ベンさんが、さいけいれいで、おくられたから」
「それは確かに、そうしたけど」
「……おわかれのときに、するんでしょう?」
声が出なくなって、僕は大きく息をした。
ひくっ、ひくっ、と肩が震えた。
「リヒト~。泣かないで。ほら、リヒト」
ユーリ様が両腕で僕を抱きしめてくる。
僕は夢の中のユーリ様にしがみついた。このままずっと抱きついていたら、目覚めることなく、僕も夢の世界に居続けることができるだろうか。
離れたくない。
離れたくない。
おわかれしてもいいなんて嘘だ。もう充分だなんて、しあわせをたくさんもらったから、もう充分だなんて、嘘だ。
ユーリ様が居なくても大丈夫なんて、大嘘だ。
でも困らせたくない。
ユーリ様は、とても大事なひとだから。
絶対に困らせたくない。
「ぼ、ぼく、ちゃんと、ゆぅりさまと、さよならしますから」
だからいまだけ。
この夢の中だけでもこうして、抱きしめていてほしい。
みっともなくそう懇願したら、ユーリ様が大きなため息をついた。
ああ、呆れられてしまった。
「リヒト、ちょっと奥に詰めれる? ああ、いいよ僕が動かす」
ユーリ様の腕が、肩の下に潜り込んできて、僕の上半身が後方にひょいと移動させられた。下半身もユーリ様がひょいと動かして、僕の隣にスペースができる。そこにユーリ様が入ってきて、ごろりと横たわった。
「あいたたた。さっきは体勢が悪かったから、腰に変に力が入っちゃった。リヒト、毛布に僕も入れてくれる?」
ユーリ様に乞われて、僕は慌ててかぶっていた毛布を持ち上げて、隣のユーリ様へと着せかける。
「あ~暖かい。ほら、リヒト」
ユーリ様が両手で僕を抱きしめ直して、ひとつの布団にしっかりとくるまった。
僕の全身が、ユーリ様に触れている。
触覚は相変わらず頼りない僕だけど、服越しにピタリと体が合わさっているのはわかった。
「熱があるから、ポカポカだね。リヒト、吐き気は?」
「……たぶん、だいじょうぶです」
でもエミール様の服を汚してしまったときのように、急に嘔吐してユーリ様をご迷惑をかけてはいけない。
だから向かい合わせのこの姿勢は、ダメなのじゃないかな。
残念だけど、反対側を向いた方がいいのかもしれない。
そう考えて寝返りを打とうとしたけれど、重い体はやはりうまくは動いてくれなかった。
ユーリ様の腕が僕の背にしっかりと回されている、という理由もあるのかもしれない。
どうしよう、と身じろぎをしたら、
「ん? なんかこのへん、カサカサ音がしてるけど」
と、ユーリ様が密着していた胸をすこし離して、僕の胸元を探った。
僕は咄嗟にそれを押さえた。
「だ、だめです」
「リヒト?」
「ぼくのたからもの、とらないでください」
「宝物? なに?」
やさしく問われて、僕は両手でそれをガードしたまま、うふふと笑った。
「ゆぅりさまからの、おてがみです」
すごい。
きれいに光ってる。
ユーリ様の髪の色と、おなじ種類の金色だ。
僕は横向きに寝転んだまま、肩口あたりで光っている金色に手を伸ばした。
触れて、離れる。
てのひらに届く感触はわからない。でも僕の指がすこし埋まるので、やわらかいのかなと思った。
金色を右手の指に絡めて、僕はしばらくそれで遊んでいた。
これはなんなんだろう。
誰かに聞いたらわかるかな。
あれ、そういえばここはどこだったろうか。
そうだ、エミール様のお屋敷だ。僕はあのままお泊りをして……。
そうしたらこの金色は、エミール様の持ち物のなにかなのかな。
考え事をしながら金色を引っ張ってみたら、それが急に動いたから僕はびっくりして手を離した。
「あっはは! 痛い痛い。僕がはげたらどうするの、リヒト」
むくり、と起き上がった金色は、僕の顔の前で頬杖をついて、新緑色の瞳を瞬かせた。
「…………え?」
金色が突然ユーリ様のような形になって、僕はポカンとしてしまう。
僕の寝ている寝台の横にユーリ様が座っていて、マットレスに肘をついてこちらを見ている、という体勢なのだろうか? とするとさっきまでの金色は、上体を伏せて寝ていたユーリ様の頭、だったのかな。
「リヒトが起きるまで待ってようと思ったら、うっかり寝てしまったよ。でも、リヒトが僕の頭をなでなでしてくれてるし、可愛かったから寝たふりを続けたら、あんまり強く髪を引っ張られて驚いちゃった」
クックッと肩を揺すって笑うそのひとが、僕の頬へと手を伸ばしてきて。
「具合はどう? 夜中にもどしたんだって?」
きれいな緑の瞳を近づけて、そう訊ねてくる。
僕は暈けた視界の中で必死に目を凝らして、
「ゆぅりさまですか?」
と問いかけた。
僕の手がすくいあげられて、
「そう。きみのユーリだよ。帰ってきたよ、僕のオメガ」
そう言ったユーリ様が、手の甲に、唇を、ちゅ、と押し付けた。
ユーリ様。
ユーリ様!
ユーリ様が帰ってきてくれた!
僕のところへ。
ユーリ様が!
喜びのあまり飛び起きようとしたけれど、体が思うように動かない。手足に上手く力が行きわたらないのだ。
その段で僕は、ああなんだ、これは夢なのか、と理解した。
それはそうだろう。
僕は知ったはずだ。ユーリ様はもう、戻っては来られないのだと。ちゃんと、理解したはずだ。
それでも嬉しい。
たとえ夢でも、ユーリ様に会えて嬉しかった。
「ゆぅりさま、ぼくのゆめに、きてくれて、ありがとうございます」
夢はすぐに醒めてしまう。
だからその前に僕は、ユーリ様にお礼を言った。
ありがとうございます、と声に出したら泣けてきて、ぐす、と鼻を啜る。
「夢? 夢じゃないよ、リヒト。ちゃんと現実だ」
ユーリ様は僕の手をくるりと動かして、てのひらにご自分の頬を当ててきた。
せっかくの夢なのだから、もっとハッキリ、ユーリ様の感触を伝えてくれればいいのに。
僕の五感は残念ながら眠りの世界でも役には立ってくれない。
僕は枕に顔の半分をこすりつけるようにして、首を横に振った。
「ゆめで、いいんです。ぼく、うれしいです」
「夢でいいなんて、さびしいこと言うなぁ」
「だって、げんじつのゆぅりさまは、もうかえってはこられないから」
「ええ? なんでそんなこと言うの?」
心底驚いた、というようにユーリ様がさらに顔を寄せてきた。
横向きの僕に合わせて、身を乗り出したユーリ様も枕にトンと顔の半分を載せる。
真正面で、視線が合わさった。
「……おわかれを」
「リヒト?」
「おわかれを、されたので」
「なんのこと?」
「きしの、さいけいれいが……」
「リヒト、意味がわからない。最敬礼がなんだって?」
夢のユーリ様は察しが悪い。いつもは僕がなにかを言う前に、僕がしたいことを先回りで叶えてくださるのに。さすが、僕の夢だ。僕のポンコツ具合がユーリ様にまで伝染している。
「リヒト? あ~、これは熱があるね」
「ベンさんが」
「なんで急にベン? ベルンハルトがどうしたの?」
「ベンさんが、さいけいれいで、おくられたから」
「それは確かに、そうしたけど」
「……おわかれのときに、するんでしょう?」
声が出なくなって、僕は大きく息をした。
ひくっ、ひくっ、と肩が震えた。
「リヒト~。泣かないで。ほら、リヒト」
ユーリ様が両腕で僕を抱きしめてくる。
僕は夢の中のユーリ様にしがみついた。このままずっと抱きついていたら、目覚めることなく、僕も夢の世界に居続けることができるだろうか。
離れたくない。
離れたくない。
おわかれしてもいいなんて嘘だ。もう充分だなんて、しあわせをたくさんもらったから、もう充分だなんて、嘘だ。
ユーリ様が居なくても大丈夫なんて、大嘘だ。
でも困らせたくない。
ユーリ様は、とても大事なひとだから。
絶対に困らせたくない。
「ぼ、ぼく、ちゃんと、ゆぅりさまと、さよならしますから」
だからいまだけ。
この夢の中だけでもこうして、抱きしめていてほしい。
みっともなくそう懇願したら、ユーリ様が大きなため息をついた。
ああ、呆れられてしまった。
「リヒト、ちょっと奥に詰めれる? ああ、いいよ僕が動かす」
ユーリ様の腕が、肩の下に潜り込んできて、僕の上半身が後方にひょいと移動させられた。下半身もユーリ様がひょいと動かして、僕の隣にスペースができる。そこにユーリ様が入ってきて、ごろりと横たわった。
「あいたたた。さっきは体勢が悪かったから、腰に変に力が入っちゃった。リヒト、毛布に僕も入れてくれる?」
ユーリ様に乞われて、僕は慌ててかぶっていた毛布を持ち上げて、隣のユーリ様へと着せかける。
「あ~暖かい。ほら、リヒト」
ユーリ様が両手で僕を抱きしめ直して、ひとつの布団にしっかりとくるまった。
僕の全身が、ユーリ様に触れている。
触覚は相変わらず頼りない僕だけど、服越しにピタリと体が合わさっているのはわかった。
「熱があるから、ポカポカだね。リヒト、吐き気は?」
「……たぶん、だいじょうぶです」
でもエミール様の服を汚してしまったときのように、急に嘔吐してユーリ様をご迷惑をかけてはいけない。
だから向かい合わせのこの姿勢は、ダメなのじゃないかな。
残念だけど、反対側を向いた方がいいのかもしれない。
そう考えて寝返りを打とうとしたけれど、重い体はやはりうまくは動いてくれなかった。
ユーリ様の腕が僕の背にしっかりと回されている、という理由もあるのかもしれない。
どうしよう、と身じろぎをしたら、
「ん? なんかこのへん、カサカサ音がしてるけど」
と、ユーリ様が密着していた胸をすこし離して、僕の胸元を探った。
僕は咄嗟にそれを押さえた。
「だ、だめです」
「リヒト?」
「ぼくのたからもの、とらないでください」
「宝物? なに?」
やさしく問われて、僕は両手でそれをガードしたまま、うふふと笑った。
「ゆぅりさまからの、おてがみです」
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