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光あれ
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通された部屋で、ユリウスはエミールと向かい合って座り、ユリウスが不在の間のリヒトの様子、そして今晩エミールがリヒトを保護するに至った流れと、医師の診察の結果を詳しく聞いた。
エミールの背後にはクラウス家の侍従が、ユリウスの背後にはロンバードとテオバルドの親子が控えている。
ロンバードはその巨躯とは裏腹に気配を消すことに長けており、存在自体が気にならないが、テオバルドの方はひと通りの武術は修めてはいるが騎士団に所属したことはなく、本格的な訓練は受けていないため、エミールの話に一々頷いたりそわそわと肩を揺らしたりと、声こそ出していないもののなんだか視界にうるさかった。
無視する方が気が散るため、ユリウスは途中でテオバルドをおのれの横に座らせて、会話に加わらせた。
二人から詳細を聞き取っている途中、テオバルドが、
「それで、エミール様とリヒト様が二人でかざり」
と言いかけて、
「テオバルドっ!」
常にないエミールの厳しい声に妨げられていた。
テオバルドが「あっ」と叫んでエミールに頭を下げる。
ユリウスは首を傾げ、二人を交互に見た。
「かざ……なに? テオ、なんだって?」
「い、いいえ。俺はなにも言ってません。殿下の聞き違いです」
「……この僕が聞き間違いをすると思うか? テオ、吐け」
「ユーリ様!」
テオバルドを締め上げようとしたら、エミールが割って入ってきた。
「そういえばリヒトが、温室を案内してくれたんです! ユーリ様のお屋敷はどこもかしこもリヒト仕様になっていて素晴らしいですね。それに、肥料を撒いて回るリヒトの可愛いこと! 温室に妖精が舞い降りたのかと思ってしまいました」
あからさまな話題の転換だったが、おのれのオメガを手放しで褒められて黙っているようではサーリーク王国のアルファを名乗れない。
ユリウスは喜色満面になり、そうなんですと頷いた。
「そうなんですよエミール殿。リヒトはものすごく可愛いんです。いや、可愛いだけじゃなくて可憐でものすごく可愛いんですよ」
「……結局可愛いんじゃないですか」
ぼそり、と横でテオバルドが呟いた。いや、テオバルドだけじゃない。後ろからも低音の呟きが聞こえたので、ロンバードも同じことを口にしたのだろうと察せられる。
ユリウスは侍従親子には脇目もふらず、身を乗り出してエミールの手をがしっと握った。
「肥料のカゴがすこし大きいなぁと思ったでしょう。思いましたよね? そうでしょうとも。確かにあれはリヒトが担ぐには大きい。でもあのサイズが一番可愛いのです。両手でよいしょと担ぐ様がまたたまらないのです! ああでも大丈夫です。その分肩紐は幅広にして、体への負担を軽くしていますのでご心配なく! それよりもエミール殿。これまでのお話で気になったことが」
早口にリヒトの可愛さを力説して、言葉の最後でユリウスは真顔でエミールを見つめた。
声のトーンが変わったことを察したエミールが、表情を引き締めてまばたきをする。ユリウスの隣ではテオバルドが背筋を伸ばした。
ユリウスの出立後、食事を摂らなくなったリヒト。
ユリウスからの手紙と、エミールたちの説得でなんとか食べられるようになったリヒト。
しかし今回、手紙紛失事件の後に屋敷を抜け出し、ひとり山へ行こうとしたリヒト。
大きな怪我もなく保護することができたが、冬の夜に薄着で出歩いたため体調を崩し、いまは昏昏と眠っているリヒト。
どのシーンを切り取ってもユリウスに心痛を与える結果にしかならず、エミールとテオバルドは叱責を覚悟して固唾を呑んだ。
ユリウスが緑色の瞳をスッと細め、低く、囁いた。
「あなたがリヒトの世話を色々焼いてくださったことには感謝してます、エミール殿」
「は、はい」
「単刀直入に伺いますが」
「はい」
「お風呂には入りましたか?」
「……はい?」
思わぬ質問に、エミールがポカンと口を開けた。
なにを尋ねられたのかわからずに、返答に窮するエミールへと、ユリウスが質問を繰り返した。
「リヒトのお風呂の世話は、あなたがしたのでしょうか?」
冷ややかなその声にぶるりと背を震わせて、エミールは慌てて首を横に振った。
「いいえ! いいえオレは入ってません」
「オレは」
エミールの言葉を舌に乗せ、ユリウスは視線をスっと横へと流す。
ごくり、とテオバルドの喉が上下した。
「テオ、おまえは?」
「おおおおお俺がお手伝いさせていただきましたっ!」
「見たな?」
「いいえっ!」
「リヒトの裸を見たな?」
「いいえっ!」
壊れた玩具のようにひたすら左右に顔を動かす息子を見かねて、ロンバードが口を出してくる。
「あんた、殿下、そりゃあ横暴がすぎるってもんでしょうが。テオはあんたの命令通りにリヒト様の世話をしたってのに」
「それはわかってる」
ユリウスは冷たく鼻を鳴らし、長い睫毛を揺らした。
「テオ」
「ひゃいっ!」
「おまえにも感謝してる」
「はっ……え? あ、はいっ」
てっきり氷点下の美声でぐさりと刺されるものとばかり思っていたテオバルドは思わぬ感謝の言葉を聞いて目を白黒させ、次いで肩からホッと力を抜きかけたのだが、
「リヒトの裸の記憶は抹消しろ」
続けられたユリウスからの無茶な命令に撃沈し、うなだれるようにして頷いた。
「……了解しました」
「肌の手触りの記憶も消しておけ」
「殿下の意のままに」
侍従の力ない返事にユリウスはひとつ頷き、握っていたエミールの手をそっと解放した。
テオバルドとの会話の最中、指先に触れるエミールの脈がすこし早くなっていることにユリウスは当然気づいていた。
リヒトを風呂に入れることはしなかったようだが、他になにかユリウスに踏み込まれたくない、後ろめたいことがあるのだ。そう予想はついたが、それを指摘するのはやめておくことにした。
大方、リヒトと一緒のベッドで眠ったとか、その辺りだろう。
テオバルドはともかく、オメガでつがい持ちのエミールはリヒトに対し疚しい気持ちを抱くことがない。そのことは信用できたので、ユリウスは手紙の代読にも彼を指名したのだ。
「エミール殿」
「はい」
「あなたには今後もぜひ、リヒトのことを気にかけていただきたい」
「もちろんです」
エミールの即答に、ユリウスは唇をほころばせる。
「ありがとうございます。では、リヒトの今後について、明日にでも詳細を相談させてください。テオ。おまえも同席しろ。リヒトについて、耳にいれておきたいことがある」
「承知しました」
それでは解散だ、とユリウスはロンバードを振り返り、
「今日はここに泊まることにする」
と告げた。
リヒトが泊まるのだから自分も当然そうするべきだという決定事項だ。
ついでに護衛件側近のロンバードとリヒト付きの侍従のテオバルドが泊まる部屋も用意してもらうこととする。
エミールが侍従へ、ユリウスの言葉に従うよう声をかけ、侍従は部屋の準備のために一度下がった。
「ユーリ様」
エミールが改まったようにユリウスを呼んだ。
「なんでしょう」
「リヒトについてのお話を、いま伺うことはできますか?」
「……こんな時間ですよ?」
壁掛け時計の針は、深夜の二時を大きく回ったところをさしている。話をするにふさわしい時間ではない。
「もう休まれた方がいいと思いますが」
ユリウスがそう促すと、エミールの顔にじわりと苦笑いが浮かんだ。
「クラウス様が戻って来られるまで、眠れそうにありませんから。ご迷惑でなければ、お話を伺いたいです」
なるほど、とユリウスは頷いた。
膝の上で組まれたエミールの指が、トントンと落ち着かない様子で動いている。クラウスが帰国していると知り、もう我慢の限界なのだろう。
本当は王城へと飛んで行きたいに違いない。その気持ちはユリウスにも痛いほど理解できた。
クラウスが雑務を請け負ってくれなければ、ユリウス自身もいまはまだ王城で拘束されていたに違いない。
一刻も早くリヒトの元へと馬を走らせることができた自分と違い、エミールはここで待つことが仕事なのだ。
クラウスの帰宅が遅れている責任の一端は自分にもあるため、ユリウスはエミールの申し出を快諾した。
「わかりました。ではエミール殿には僕の話に付き合っていただきましょう」
「ユーリ様」
「おまえたちはどうする。下がって休んでも構わないが」
「俺はあんたの御守なんでね」
ロンバードがひょいと肩を竦め、小憎らしい口調で同席を願い出る。ユリウスの隣でテオバルドもしゃきっと立ち上がり、
「俺もリヒト様の侍従なんで!」
と意気込んで背筋を伸ばした。
テオはちょっと暑苦しいところがあるよなぁ、とユリウスはすこし失礼なことを思う。
「では、兄上が帰って来られるまで、お話をしましょうか……とその前に」
ユリウスはソファから腰を上げ、
「リヒトの寝顔だけ見てきてもいいですか」
とエミールに尋ねた。
エミールがハッと目を瞠り、慌てて頷く。
「お引き留めしてしまい申し訳ありません。廊下を出て左です。いま案内を、」
「ありがとうございます」
お礼の言葉を残して、ユリウスは来賓室を飛び出した。
エミールの背後にはクラウス家の侍従が、ユリウスの背後にはロンバードとテオバルドの親子が控えている。
ロンバードはその巨躯とは裏腹に気配を消すことに長けており、存在自体が気にならないが、テオバルドの方はひと通りの武術は修めてはいるが騎士団に所属したことはなく、本格的な訓練は受けていないため、エミールの話に一々頷いたりそわそわと肩を揺らしたりと、声こそ出していないもののなんだか視界にうるさかった。
無視する方が気が散るため、ユリウスは途中でテオバルドをおのれの横に座らせて、会話に加わらせた。
二人から詳細を聞き取っている途中、テオバルドが、
「それで、エミール様とリヒト様が二人でかざり」
と言いかけて、
「テオバルドっ!」
常にないエミールの厳しい声に妨げられていた。
テオバルドが「あっ」と叫んでエミールに頭を下げる。
ユリウスは首を傾げ、二人を交互に見た。
「かざ……なに? テオ、なんだって?」
「い、いいえ。俺はなにも言ってません。殿下の聞き違いです」
「……この僕が聞き間違いをすると思うか? テオ、吐け」
「ユーリ様!」
テオバルドを締め上げようとしたら、エミールが割って入ってきた。
「そういえばリヒトが、温室を案内してくれたんです! ユーリ様のお屋敷はどこもかしこもリヒト仕様になっていて素晴らしいですね。それに、肥料を撒いて回るリヒトの可愛いこと! 温室に妖精が舞い降りたのかと思ってしまいました」
あからさまな話題の転換だったが、おのれのオメガを手放しで褒められて黙っているようではサーリーク王国のアルファを名乗れない。
ユリウスは喜色満面になり、そうなんですと頷いた。
「そうなんですよエミール殿。リヒトはものすごく可愛いんです。いや、可愛いだけじゃなくて可憐でものすごく可愛いんですよ」
「……結局可愛いんじゃないですか」
ぼそり、と横でテオバルドが呟いた。いや、テオバルドだけじゃない。後ろからも低音の呟きが聞こえたので、ロンバードも同じことを口にしたのだろうと察せられる。
ユリウスは侍従親子には脇目もふらず、身を乗り出してエミールの手をがしっと握った。
「肥料のカゴがすこし大きいなぁと思ったでしょう。思いましたよね? そうでしょうとも。確かにあれはリヒトが担ぐには大きい。でもあのサイズが一番可愛いのです。両手でよいしょと担ぐ様がまたたまらないのです! ああでも大丈夫です。その分肩紐は幅広にして、体への負担を軽くしていますのでご心配なく! それよりもエミール殿。これまでのお話で気になったことが」
早口にリヒトの可愛さを力説して、言葉の最後でユリウスは真顔でエミールを見つめた。
声のトーンが変わったことを察したエミールが、表情を引き締めてまばたきをする。ユリウスの隣ではテオバルドが背筋を伸ばした。
ユリウスの出立後、食事を摂らなくなったリヒト。
ユリウスからの手紙と、エミールたちの説得でなんとか食べられるようになったリヒト。
しかし今回、手紙紛失事件の後に屋敷を抜け出し、ひとり山へ行こうとしたリヒト。
大きな怪我もなく保護することができたが、冬の夜に薄着で出歩いたため体調を崩し、いまは昏昏と眠っているリヒト。
どのシーンを切り取ってもユリウスに心痛を与える結果にしかならず、エミールとテオバルドは叱責を覚悟して固唾を呑んだ。
ユリウスが緑色の瞳をスッと細め、低く、囁いた。
「あなたがリヒトの世話を色々焼いてくださったことには感謝してます、エミール殿」
「は、はい」
「単刀直入に伺いますが」
「はい」
「お風呂には入りましたか?」
「……はい?」
思わぬ質問に、エミールがポカンと口を開けた。
なにを尋ねられたのかわからずに、返答に窮するエミールへと、ユリウスが質問を繰り返した。
「リヒトのお風呂の世話は、あなたがしたのでしょうか?」
冷ややかなその声にぶるりと背を震わせて、エミールは慌てて首を横に振った。
「いいえ! いいえオレは入ってません」
「オレは」
エミールの言葉を舌に乗せ、ユリウスは視線をスっと横へと流す。
ごくり、とテオバルドの喉が上下した。
「テオ、おまえは?」
「おおおおお俺がお手伝いさせていただきましたっ!」
「見たな?」
「いいえっ!」
「リヒトの裸を見たな?」
「いいえっ!」
壊れた玩具のようにひたすら左右に顔を動かす息子を見かねて、ロンバードが口を出してくる。
「あんた、殿下、そりゃあ横暴がすぎるってもんでしょうが。テオはあんたの命令通りにリヒト様の世話をしたってのに」
「それはわかってる」
ユリウスは冷たく鼻を鳴らし、長い睫毛を揺らした。
「テオ」
「ひゃいっ!」
「おまえにも感謝してる」
「はっ……え? あ、はいっ」
てっきり氷点下の美声でぐさりと刺されるものとばかり思っていたテオバルドは思わぬ感謝の言葉を聞いて目を白黒させ、次いで肩からホッと力を抜きかけたのだが、
「リヒトの裸の記憶は抹消しろ」
続けられたユリウスからの無茶な命令に撃沈し、うなだれるようにして頷いた。
「……了解しました」
「肌の手触りの記憶も消しておけ」
「殿下の意のままに」
侍従の力ない返事にユリウスはひとつ頷き、握っていたエミールの手をそっと解放した。
テオバルドとの会話の最中、指先に触れるエミールの脈がすこし早くなっていることにユリウスは当然気づいていた。
リヒトを風呂に入れることはしなかったようだが、他になにかユリウスに踏み込まれたくない、後ろめたいことがあるのだ。そう予想はついたが、それを指摘するのはやめておくことにした。
大方、リヒトと一緒のベッドで眠ったとか、その辺りだろう。
テオバルドはともかく、オメガでつがい持ちのエミールはリヒトに対し疚しい気持ちを抱くことがない。そのことは信用できたので、ユリウスは手紙の代読にも彼を指名したのだ。
「エミール殿」
「はい」
「あなたには今後もぜひ、リヒトのことを気にかけていただきたい」
「もちろんです」
エミールの即答に、ユリウスは唇をほころばせる。
「ありがとうございます。では、リヒトの今後について、明日にでも詳細を相談させてください。テオ。おまえも同席しろ。リヒトについて、耳にいれておきたいことがある」
「承知しました」
それでは解散だ、とユリウスはロンバードを振り返り、
「今日はここに泊まることにする」
と告げた。
リヒトが泊まるのだから自分も当然そうするべきだという決定事項だ。
ついでに護衛件側近のロンバードとリヒト付きの侍従のテオバルドが泊まる部屋も用意してもらうこととする。
エミールが侍従へ、ユリウスの言葉に従うよう声をかけ、侍従は部屋の準備のために一度下がった。
「ユーリ様」
エミールが改まったようにユリウスを呼んだ。
「なんでしょう」
「リヒトについてのお話を、いま伺うことはできますか?」
「……こんな時間ですよ?」
壁掛け時計の針は、深夜の二時を大きく回ったところをさしている。話をするにふさわしい時間ではない。
「もう休まれた方がいいと思いますが」
ユリウスがそう促すと、エミールの顔にじわりと苦笑いが浮かんだ。
「クラウス様が戻って来られるまで、眠れそうにありませんから。ご迷惑でなければ、お話を伺いたいです」
なるほど、とユリウスは頷いた。
膝の上で組まれたエミールの指が、トントンと落ち着かない様子で動いている。クラウスが帰国していると知り、もう我慢の限界なのだろう。
本当は王城へと飛んで行きたいに違いない。その気持ちはユリウスにも痛いほど理解できた。
クラウスが雑務を請け負ってくれなければ、ユリウス自身もいまはまだ王城で拘束されていたに違いない。
一刻も早くリヒトの元へと馬を走らせることができた自分と違い、エミールはここで待つことが仕事なのだ。
クラウスの帰宅が遅れている責任の一端は自分にもあるため、ユリウスはエミールの申し出を快諾した。
「わかりました。ではエミール殿には僕の話に付き合っていただきましょう」
「ユーリ様」
「おまえたちはどうする。下がって休んでも構わないが」
「俺はあんたの御守なんでね」
ロンバードがひょいと肩を竦め、小憎らしい口調で同席を願い出る。ユリウスの隣でテオバルドもしゃきっと立ち上がり、
「俺もリヒト様の侍従なんで!」
と意気込んで背筋を伸ばした。
テオはちょっと暑苦しいところがあるよなぁ、とユリウスはすこし失礼なことを思う。
「では、兄上が帰って来られるまで、お話をしましょうか……とその前に」
ユリウスはソファから腰を上げ、
「リヒトの寝顔だけ見てきてもいいですか」
とエミールに尋ねた。
エミールがハッと目を瞠り、慌てて頷く。
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