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光あれ
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故ベルンハルトの後を継いで医師団の長の座についているシモンは、師を彷彿とさせる片眼鏡の位置を整えながらマリウスの隣、ユリウスのほぼ真向いに腰を下ろした。
彼は書類の束を卓上へ広げ、
「さて、ではどこから話しましょうかねぇ」
と切り出した。
「リゼルの詳細を」
ユリウスが短く応じると、はいな、とシモンは頷いた。
「ユリウス殿下が持ち帰られた植物は、我が国にはないものですなぁ。まったくの新種です。詳しい研究は我々も今後行っていく予定ですが、一足先に殿下がメルドルフ国でひと通りの調査を終えられております。その詳細の結果が、ここに」
分厚い報告書をパラパラとめくりながら、シモンは一同を見渡し、最後に国王マリウスと目を合わせて、しずかに告げた。
「まず、このリゼルとやらは、精神に影響を与える植物だ、ということがわかりました」
「精神に影響?」
マリウスが片眉を上げ、胡乱げな表情になった。
「曖昧な言い方だな。具体的にはどういうことだ」
「はいな。実際に人体で確かめたわけではないので、これはあくまでメルドルフ国の医師団及び、この報告書を読んだ私の私見となります。その上で申し上げるならば、たとえば気鬱の病に侵された患者に与えると、気持ちが穏やかになる」
「ほう? 俺の弟はたしか先ほど、リゼルは毒だ、と言っていたが」
長兄の視線が流れてきて、ユリウスは首肯した。
「はい。毒であり、薬です」
「ユリウス殿下の仰る通りです、陛下。この植物は、毒であり薬にもなる。気鬱の患者で考えてみると、少量であれば治療となり得ますが、用法を間違えると精神が破壊されてしまいましょうなぁ」
医師の説明にマリウスが首を捻り、また問いを重ねた。
「精神が破壊されるとどうなる?」
「はいな。ひとの精神というのは、おのれをおのれたらしめる礎です。我々が修める医学というものの枠の中には、心理学という分野もございましてなぁ。まだまだ新しい分野ですので、我が国では研究もそれほどは進んでおりませんが、メルドルフ国は一歩も二歩も先んじております。そのメルドルフの訓えに基づいて考えますと、精神に影響を及ぼす植物はこれまでにもいくつかございまして……」
シモンは自国にもある植物をいくつか列挙しながら、説明を続けた。
植物を治療に使用する場合、その用法は多岐に渡る。
粉にして飲む、煎じて茶にする、葉巻にして煙を喫う、搾り汁を塗布する……。
正しく使えば薬となって、気鬱の病は改善し、幻聴に苦しむ者には静寂が訪れ、悪夢に苛まれていた者には安眠が約束される。
しかし一方で、使用方法を間違えたときには、気鬱や幻聴や不眠が進行し、日常生活をまともに送ることが難しくなり、やがてはおのれで指一本動かすことができぬ寝たきり状態になったり、自死の道を選んだり、非業な最期を遂げる者も出てくるのだという。
「体に害があるなら途中で服用をやめればいい、と思われるでしょうが、こういう植物には得てして、中毒性がございましてなぁ。やめようと思ってもおのれの意思では如何ともしがたい」
シモンの話では、気鬱がひどくなった患者から薬を取り上げた際、その患者は錯乱し、暴れ、家族を殴ってでも薬を取り戻したのだという。そしてそれを口にしてようやく落ち着きを取り戻したらしい。
薬が切れると精神的にも肉体的にもつらくなる。だからまた薬を求める。
それを繰り返すうちに量を過ごして、精神が壊れ、やがて死に至る。
「うわぁ、やべぇ。なんでそんな植物が薬として使われてるんですかね」
テオバルドがぶるりと身震いをして、ぼそりと呟いた。
シモンが書類から顔を上げ、テオバルドの方を見る。
「薬というものは総じて、益もあれば負もある。そういうものですなぁ。それにたとえば……風邪をひいたときに咳止めの水薬を飲んだことはございますかな?」
「え、ええ。そりゃまぁありますけど」
「あの水薬も、飲みすぎれば精神に影響がでますなぁ」
「ええっ!」
医師の発言に、テオバルドがぎょっとして仰け反った。
ユリウスもさすがに驚いて、シモンを凝視してしまう。
シモンは片眼鏡の奥の瞳をやわらかく細めて、おっとりした口調のままで続けた。
「ですから薬は、医師の言いつけをまもって正しく服用しなければなりません。熱が下がらないから、頭痛が治まらないからと言ってたくさん飲めばいいというものではない。薬も過ぎれば毒になる、というのは決して誇張したものではないのですなぁ」
心当たりがあるのか、テオバルドは神妙な顔つきになり、何度も頷いていた。
そういえば昔、まだほんの子どもだった頃、この侍従が咳止めの水薬を甘くて美味しいからと一気飲みしていたことがあったのを、ユリウスは思い出した。
すぐにロンバードに見つかり、げんこつを食らう羽目になっていたのだが。
しかしあのときはべつにテオバルドに異常は現れなかったように思う。
ユリウスがそれを問うと、子ども用の薬は成分を弱めているので事なきを得たのだろうという答えが返ってきた。
シモンは片眼鏡の位置をもう一度調整すると、
「メルドルフ国の調査によると、リゼルは薬草の中でも殊更、精神に強い影響を及ぼす類のものだ、と結論づけられておりますなぁ。つまり、即効性があり、中毒性が高く、効果が覿面である、と」
リゼルについての考察をそう締めくくった。
マリウスが背もたれに深くもたれ、腕を組む。
「そうか、中毒性か。ノルメル村の女たちはリゼルの花の茶を飲んでいたが、それにも同様の影響があるということか」
ひとりごちるように言った長兄へと、ユリウスは頷いた。
「はい。メルドルフの医師団の話では、その可能性が高いとのことでした。そして、花茶を口にした女たちはよく笑っていた。これは、リゼルの成分が女たちの精神に多幸感をもたらしたからではないか、と考えられています」
「ふむ。おまえが、女たちがノルメルから逃げない理由がリゼルにあると言っていた理由が、それか」
「そうです。女たちはもう、リゼルから離れられない。リゼルは一株ずつ、鉢に植えられていました。そして温室の中にあった。僕たちがメルドルフへ持ち込んだのは温室から出した二日後でしたが、そのときには危うく枯れそうになっていました。リゼルは環境の変化に弱い。女たちの祖先……月神デァモントがリゼルを得るために、月ほども遠い場所から訪れていたのだとしたら、自分の土地に持ち帰ることは不可能だったでしょうね」
リゼルの栽培方法は恐らく特殊なのだろう。
大地の神が治める部族の中でのみ伝わり、彼等はその秘技をまもりつづけた。そしてそれは現在、ノルメル村の女たちに受け継がれはしたが、彼女たちはもはやリゼルの中毒者だ。持ち出せば枯れてしまうかもしれない危険を冒してまで、ノルメルを離れることはできない。
大地の神の子孫……教皇を始めとしたデァモントの信者は、まんまと女神の一族をおのれの元に縛り付けることに成功したのだ。
「さて、では話をリヒト様に戻しましょう。ユリウス殿下が入手された教皇の手記とやらには、五感を奪うための儀式にまつわる詳細が記されておりました。その儀式では、とある液体を二歳の子どもに飲ませている」
シモンが口にした、二歳の子ども、という言葉に、エミールが口元を手で覆った。
二歳のリヒトを想像したのだろう。
「その液体に、リゼルが使われていたのですか! 子どもになんてことを……っ」
悲痛に声を掠れされたエミールに、ユリウスは同意を込めて目礼を返した。
「エミール殿の仰る通りです。その液体には、様々な植物が混ぜられていましたが、主となったものはリゼルです。僕はそれをメルドルフ医師団の協力を得て、実際に作ってみました」
使うのは、リゼルの種だった。
ノルメル村の女の屋敷から鉢植えを回収したとき、保管されていた種もロンバードがしっかりと入手していたため、材料は揃っていた。
鈴のような形の種の硬い殻を砕くと、中には白い実のようなものが入っている。
それをすり潰し、一度乾燥させて粉にしてから、他の材料と合わせて煎じてゆくのだ。
混ぜる順番やその量についても緻密に指定されており、配合は歴代の教皇たちが試行錯誤して編み出したのだろうか、それぞれの行程にこまかな注意書きもあって非常に手間のかかる作業だった。
「リゼルはどの部分をとっても、精神に影響のある成分が混ざっていますが、種の中にある白い実……胚部分がもっとも強く、もっとも不純物の少ないものになっていると、メルドルフの医師団は言っていました」
「はいな。そのようですなぁ」
ユリウスの説明に、報告書に視線を落としながらシモンが同意した。
「殿下のおつくりになられた液体は、平たく表現するならば、強烈な催眠状態を引き起こす薬です」
「催眠状態?」
マリウス、テオバルド、エミールの声が揃った。
彼らは聞き慣れない単語に首を傾げ、シモンの説明を待った。
シモンはすこし考え、
「陛下は催眠術というものをご存知ですかな?」
とマリウスに問いかけた。
国王は小さく鼻を鳴らし、眉間にしわを寄せた。
「ああ、あの胡散臭いやつだな。アマルが一時期騒いでいたぞ。なんでも、催眠術にかかると檸檬が甘く感じたり、一瞬で眠りに落ちたりするらしい、自分も体験してみたいから催眠術師を呼んでくれ、とな。そんな怪しげな者を招くなとその場で却下しておいた」
流行好きなアマーリエらしいエピソードを、マリウスが披露する。
面白いものに興味を惹かれるはずの長兄がアマーリエの言葉に頷かなかったことを意外に思ったユリウスだったが、
「そう言って止めたのは私ですよ、兄上。兄上は催眠術師のイカサマを暴いてやるからぜひ連れて来いと息巻いてましたからね」
クラウスが疲れたような声音でぼやいたことで得心した。
マリウスは「そうだったか?」と悪びれずに笑っている。
シモンが二人を見比べて穏やかに頷き、言葉を続けた。
「陛下の仰る通り、催眠術にかかった者は、檸檬を食べても甘いと言い、指を鳴らすと突然眠ったりもしますなぁ。中にはイカサマの術師も居りましょうが、催眠術自体を否定はできるものではありません。催眠術でひとは、目が見えなくなることも、耳が聞こえなくなることもございます」
彼がそう告げた瞬間、室内が水を打ったようにしずまり返った。
彼は書類の束を卓上へ広げ、
「さて、ではどこから話しましょうかねぇ」
と切り出した。
「リゼルの詳細を」
ユリウスが短く応じると、はいな、とシモンは頷いた。
「ユリウス殿下が持ち帰られた植物は、我が国にはないものですなぁ。まったくの新種です。詳しい研究は我々も今後行っていく予定ですが、一足先に殿下がメルドルフ国でひと通りの調査を終えられております。その詳細の結果が、ここに」
分厚い報告書をパラパラとめくりながら、シモンは一同を見渡し、最後に国王マリウスと目を合わせて、しずかに告げた。
「まず、このリゼルとやらは、精神に影響を与える植物だ、ということがわかりました」
「精神に影響?」
マリウスが片眉を上げ、胡乱げな表情になった。
「曖昧な言い方だな。具体的にはどういうことだ」
「はいな。実際に人体で確かめたわけではないので、これはあくまでメルドルフ国の医師団及び、この報告書を読んだ私の私見となります。その上で申し上げるならば、たとえば気鬱の病に侵された患者に与えると、気持ちが穏やかになる」
「ほう? 俺の弟はたしか先ほど、リゼルは毒だ、と言っていたが」
長兄の視線が流れてきて、ユリウスは首肯した。
「はい。毒であり、薬です」
「ユリウス殿下の仰る通りです、陛下。この植物は、毒であり薬にもなる。気鬱の患者で考えてみると、少量であれば治療となり得ますが、用法を間違えると精神が破壊されてしまいましょうなぁ」
医師の説明にマリウスが首を捻り、また問いを重ねた。
「精神が破壊されるとどうなる?」
「はいな。ひとの精神というのは、おのれをおのれたらしめる礎です。我々が修める医学というものの枠の中には、心理学という分野もございましてなぁ。まだまだ新しい分野ですので、我が国では研究もそれほどは進んでおりませんが、メルドルフ国は一歩も二歩も先んじております。そのメルドルフの訓えに基づいて考えますと、精神に影響を及ぼす植物はこれまでにもいくつかございまして……」
シモンは自国にもある植物をいくつか列挙しながら、説明を続けた。
植物を治療に使用する場合、その用法は多岐に渡る。
粉にして飲む、煎じて茶にする、葉巻にして煙を喫う、搾り汁を塗布する……。
正しく使えば薬となって、気鬱の病は改善し、幻聴に苦しむ者には静寂が訪れ、悪夢に苛まれていた者には安眠が約束される。
しかし一方で、使用方法を間違えたときには、気鬱や幻聴や不眠が進行し、日常生活をまともに送ることが難しくなり、やがてはおのれで指一本動かすことができぬ寝たきり状態になったり、自死の道を選んだり、非業な最期を遂げる者も出てくるのだという。
「体に害があるなら途中で服用をやめればいい、と思われるでしょうが、こういう植物には得てして、中毒性がございましてなぁ。やめようと思ってもおのれの意思では如何ともしがたい」
シモンの話では、気鬱がひどくなった患者から薬を取り上げた際、その患者は錯乱し、暴れ、家族を殴ってでも薬を取り戻したのだという。そしてそれを口にしてようやく落ち着きを取り戻したらしい。
薬が切れると精神的にも肉体的にもつらくなる。だからまた薬を求める。
それを繰り返すうちに量を過ごして、精神が壊れ、やがて死に至る。
「うわぁ、やべぇ。なんでそんな植物が薬として使われてるんですかね」
テオバルドがぶるりと身震いをして、ぼそりと呟いた。
シモンが書類から顔を上げ、テオバルドの方を見る。
「薬というものは総じて、益もあれば負もある。そういうものですなぁ。それにたとえば……風邪をひいたときに咳止めの水薬を飲んだことはございますかな?」
「え、ええ。そりゃまぁありますけど」
「あの水薬も、飲みすぎれば精神に影響がでますなぁ」
「ええっ!」
医師の発言に、テオバルドがぎょっとして仰け反った。
ユリウスもさすがに驚いて、シモンを凝視してしまう。
シモンは片眼鏡の奥の瞳をやわらかく細めて、おっとりした口調のままで続けた。
「ですから薬は、医師の言いつけをまもって正しく服用しなければなりません。熱が下がらないから、頭痛が治まらないからと言ってたくさん飲めばいいというものではない。薬も過ぎれば毒になる、というのは決して誇張したものではないのですなぁ」
心当たりがあるのか、テオバルドは神妙な顔つきになり、何度も頷いていた。
そういえば昔、まだほんの子どもだった頃、この侍従が咳止めの水薬を甘くて美味しいからと一気飲みしていたことがあったのを、ユリウスは思い出した。
すぐにロンバードに見つかり、げんこつを食らう羽目になっていたのだが。
しかしあのときはべつにテオバルドに異常は現れなかったように思う。
ユリウスがそれを問うと、子ども用の薬は成分を弱めているので事なきを得たのだろうという答えが返ってきた。
シモンは片眼鏡の位置をもう一度調整すると、
「メルドルフ国の調査によると、リゼルは薬草の中でも殊更、精神に強い影響を及ぼす類のものだ、と結論づけられておりますなぁ。つまり、即効性があり、中毒性が高く、効果が覿面である、と」
リゼルについての考察をそう締めくくった。
マリウスが背もたれに深くもたれ、腕を組む。
「そうか、中毒性か。ノルメル村の女たちはリゼルの花の茶を飲んでいたが、それにも同様の影響があるということか」
ひとりごちるように言った長兄へと、ユリウスは頷いた。
「はい。メルドルフの医師団の話では、その可能性が高いとのことでした。そして、花茶を口にした女たちはよく笑っていた。これは、リゼルの成分が女たちの精神に多幸感をもたらしたからではないか、と考えられています」
「ふむ。おまえが、女たちがノルメルから逃げない理由がリゼルにあると言っていた理由が、それか」
「そうです。女たちはもう、リゼルから離れられない。リゼルは一株ずつ、鉢に植えられていました。そして温室の中にあった。僕たちがメルドルフへ持ち込んだのは温室から出した二日後でしたが、そのときには危うく枯れそうになっていました。リゼルは環境の変化に弱い。女たちの祖先……月神デァモントがリゼルを得るために、月ほども遠い場所から訪れていたのだとしたら、自分の土地に持ち帰ることは不可能だったでしょうね」
リゼルの栽培方法は恐らく特殊なのだろう。
大地の神が治める部族の中でのみ伝わり、彼等はその秘技をまもりつづけた。そしてそれは現在、ノルメル村の女たちに受け継がれはしたが、彼女たちはもはやリゼルの中毒者だ。持ち出せば枯れてしまうかもしれない危険を冒してまで、ノルメルを離れることはできない。
大地の神の子孫……教皇を始めとしたデァモントの信者は、まんまと女神の一族をおのれの元に縛り付けることに成功したのだ。
「さて、では話をリヒト様に戻しましょう。ユリウス殿下が入手された教皇の手記とやらには、五感を奪うための儀式にまつわる詳細が記されておりました。その儀式では、とある液体を二歳の子どもに飲ませている」
シモンが口にした、二歳の子ども、という言葉に、エミールが口元を手で覆った。
二歳のリヒトを想像したのだろう。
「その液体に、リゼルが使われていたのですか! 子どもになんてことを……っ」
悲痛に声を掠れされたエミールに、ユリウスは同意を込めて目礼を返した。
「エミール殿の仰る通りです。その液体には、様々な植物が混ぜられていましたが、主となったものはリゼルです。僕はそれをメルドルフ医師団の協力を得て、実際に作ってみました」
使うのは、リゼルの種だった。
ノルメル村の女の屋敷から鉢植えを回収したとき、保管されていた種もロンバードがしっかりと入手していたため、材料は揃っていた。
鈴のような形の種の硬い殻を砕くと、中には白い実のようなものが入っている。
それをすり潰し、一度乾燥させて粉にしてから、他の材料と合わせて煎じてゆくのだ。
混ぜる順番やその量についても緻密に指定されており、配合は歴代の教皇たちが試行錯誤して編み出したのだろうか、それぞれの行程にこまかな注意書きもあって非常に手間のかかる作業だった。
「リゼルはどの部分をとっても、精神に影響のある成分が混ざっていますが、種の中にある白い実……胚部分がもっとも強く、もっとも不純物の少ないものになっていると、メルドルフの医師団は言っていました」
「はいな。そのようですなぁ」
ユリウスの説明に、報告書に視線を落としながらシモンが同意した。
「殿下のおつくりになられた液体は、平たく表現するならば、強烈な催眠状態を引き起こす薬です」
「催眠状態?」
マリウス、テオバルド、エミールの声が揃った。
彼らは聞き慣れない単語に首を傾げ、シモンの説明を待った。
シモンはすこし考え、
「陛下は催眠術というものをご存知ですかな?」
とマリウスに問いかけた。
国王は小さく鼻を鳴らし、眉間にしわを寄せた。
「ああ、あの胡散臭いやつだな。アマルが一時期騒いでいたぞ。なんでも、催眠術にかかると檸檬が甘く感じたり、一瞬で眠りに落ちたりするらしい、自分も体験してみたいから催眠術師を呼んでくれ、とな。そんな怪しげな者を招くなとその場で却下しておいた」
流行好きなアマーリエらしいエピソードを、マリウスが披露する。
面白いものに興味を惹かれるはずの長兄がアマーリエの言葉に頷かなかったことを意外に思ったユリウスだったが、
「そう言って止めたのは私ですよ、兄上。兄上は催眠術師のイカサマを暴いてやるからぜひ連れて来いと息巻いてましたからね」
クラウスが疲れたような声音でぼやいたことで得心した。
マリウスは「そうだったか?」と悪びれずに笑っている。
シモンが二人を見比べて穏やかに頷き、言葉を続けた。
「陛下の仰る通り、催眠術にかかった者は、檸檬を食べても甘いと言い、指を鳴らすと突然眠ったりもしますなぁ。中にはイカサマの術師も居りましょうが、催眠術自体を否定はできるものではありません。催眠術でひとは、目が見えなくなることも、耳が聞こえなくなることもございます」
彼がそう告げた瞬間、室内が水を打ったようにしずまり返った。
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