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リヒト⑨
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耳が聞こえるようになった僕は、けれど相変わらず移動や食事やお風呂などはユーリ様の手を借りて行っていた。
というよりもむしろ、音が遠かったときよりも介助量は増えてしまった気がする。
なぜかというと僕が、聞こえてくる音にすぐ気を取られてしまうからだ。
お屋敷の中では働くひとたちの話し声や足音、食器を運ぶワゴンのカチャカチャという音など、どこかしらでつねになにかの音がしていたし、温室に続く外廊下では鳥の声や風の音が聞こえるし、温室では水やりの時にパタパタと葉っぱで水が跳ねる音や、肥料を撒いたときの土の乾いた音がするのだ。
そのたびに僕は、あれはなんの音ですか、あれはなんですか、とつい尋ねてしまう。
初めのころはユーリ様もひとつずつ教えてくれたけれど、僕があんまりきょろきょろして、どこかで音が鳴ると振り返ったりそっちへ行こうとしたりするので、ついには、
「リヒト、すこし落ち着いて、動く前に三つ数えようか」
と子どもに言うように僕に注意を促してきた。
これは、落ち着きのない僕を叱ったというよりは、僕が音に気をとられては転んだり、バランスを崩したり、うかつに手を伸ばそうとしたりすることを心配しての、お言葉だった。
というのも僕は耳こそ聞こえるようになったものの、視覚や触覚など他の感覚はまだ悪いままだったからだ。
目が見えにくいことに加えて足裏の感覚もあまりわからないので、気を付けていないと僕はしょっちゅう転んでしまう。だからいつもは注意して動いているのだけれど、これまで拾えなかった音が聞こえるようになったことで、ついそっちに気が行ってしまい、注意を怠ってしまうのだった。
僕があんまり転びそうになるせいで、ユーリ様がお仕事に行かれているときは、テオバルドさんが常時僕の傍につくこととなってしまった。
これまでは温室の中や部屋の中で、僕はひとりで過ごしていたのだけれど、いまの僕をひとりにすると絶対に怪我をするからと言われ、僕が聞こえることに慣れるまではそうしなさいとユーリ様が仰ったのだ。
因みにエミール様も賛同されていた。
お二人にそう言われてしまうほど、いまの僕は危なっかしいみたい。
「まったくきみは、本当に目が離せないんだから」
ユーリ様はそう言って僕の頬にキスをする。
笑いの滲んだ甘いお声は、僕の体の中心に沁みて、お腹の底からなにかじっとしていられないような衝動が込み上げてくるような気持ちになる。
その感覚に慣れない僕は、ある日、温室でいつものように肥料を撒きながら、背後に居るであろうテオバルドさんを振り向いて声をかけてみた。
「あの……」
「うわっ、急に動かないでください」
僕がふらついたのだろうか、テオバルドさんの手が素早く僕の腕を掴んで、重心が傾かないように支えてくれる。
「ユーリ様にも言われたでしょう。三つ数えて、俺に心構えをする時間をください」
「は、はい」
僕は頷いたけれど、あれ? と思った。
三つ数えるのはテオバルドさんに心構えをしてもらうためじゃなくて、僕が落ち着くための時間じゃないのかな。
まぁでも急に動くとテオバルドさんもビックリしてしまうだろうから、これからはちゃんと三つ数えよう。
と思った傍から、チチチと鳥の声が聞こえて顔を巡らせてしまう。
上を向いた拍子に上体がぐらりと後ろに傾いだけれど、それはテオバルドさんがすぐにカバーしてくれた。
「リヒト様~」
「あ、ごめんなさい。でも、鳥が……」
「どこからか入ってきたんですね。そのうち出て行くでしょう。それで、なんです? いまなにか言いかけてましたよね?」
テオバルドさんに問われて、僕は彼を見上げた。
耳が聞こえるようになって、気づいたことがある。
それは、ユーリ様やエミール様が、とてもゆっくり話される、ということだ。
耳の聞こえにくかった僕に合わせて、ゆっくり、はっきりと発音してくださっている。
エミール様はともかく、ユーリ様はもうそれが癖になってしまっているのか、いまも僕とお話をするときのスピードは、他のひとと会話をするときよりも遅かった。
これまでユーリ様たちがさりげなくしてくれていた気遣いを知り、僕は、胸がいっぱいになった。他の感覚が弱いままの僕は、たぶん、まだ見落としていることがたくさんある。いつかちゃんとそれに気がついて、お礼を言うことができるだろうか。
いま僕の傍に居てくれるテオバルドさんも、僕に色々と気遣ってくれていた。
でも僕の耳が聞こえるようになってからは、会話の速度をゆるめることはしない。ふつうに話をして、ふつうに僕に接してくれる。
それもまた僕にとっては貴重な経験で、僕はテオバルドさんの飾らない接し方が好きだった。
「僕、最近は、お声でテオバルドさんのことがわかるんです。耳が悪かったときは、どのお声もあまり違いがわからなくて……テオバルドさんの声も、聞き分けることができなかったんです」
「はぁ……」
テオバルドさんが困惑したような声音で返事をした。
突然なにを言い出すのだ、と思われたのだろうか。
僕は慌てて続く言葉を口にした。
「あ、あの、僕、テオバルドさんのお声が、好きです。いつも」
いつも僕に親切にしてくれてありがとうございます、と言おうとしたけれど。
「んぎゃあ!」
テオバルドさんのおかしな悲鳴に僕の語尾がかき消された。
テオバルドさんがガバっと僕の両肩を掴んで(掴まれた、と僕がわかるぐらいすごい勢いだった)、
「あああああんたなんてこと言うんですか俺のこと殺したいんですか殺したいんですね!?」
と息継ぎもなくびっくりするほどの早口でまくしたてた。前の僕ならぜったいに聞き取れなかっただろう。
僕は唖然と口を開いて、ぼやけた視界の中でテオバルドさんの顔を見ようと頑張った。
怒らせてしまったのだろうか?
僕が無言になったからか、テオバルドさんがハッとしたように僕の肩から手をどけて、「んんっ」と咳ばらいをすると、さっきよりもややトーンダウンした声で言った。
「いまの話は聞かなかったことにします」
やっぱり、僕なんかに好きと言われても不快なだけなんだ。
でもこれまでの僕は……いまもそうだけれど……テオバルドさんに迷惑をかけるばかりだったから、嫌われていても仕方ないと思う。
テオバルドさんはやさしいひとだ。嫌いな僕のために、それでもこうして傍に居て僕の世話を焼いてくれるのだから。
僕はしょんぼりとうつむいて、ごめんなさいと謝った。
テオバルドさんが慌てたように、
「すみません言葉を間違えましたっ! えっと、あの、リヒト様に俺の声を褒めてもらってとっても嬉しいです!」
と、僕を慰める言葉をかけてくれた。やっぱりやさしいひとなのだ。
僕がそうっと顔を上げると、テオバルドさんがふぅと息を吐いた。
「えっとそれで、リヒト様はなにが仰りたいんでしょうか」
水を向けられて、僕はそうだったと頷いた。
「はい。あの、僕、お声が聞き分けられるようになって、それで、最近思うんですけど」
「はい」
「あの……ユーリ様の、お声……おかしくないですか?」
僕がそう問いかけた途端。
「ぅおおおい、不思議ちゃん!」
テオバルドさんが奇声を上げた。
僕はまたテオバルドさんにガシっと肩を掴まれ、今度はがくがくと揺さぶられた。
「おまっ、ちょっ……くそっ!」
上ずった声を切れ切れに発したテオバルドさんが、思い切り息を吸う音が聞こえてくる。
それから、今度は吐く音が。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
それを五回は繰り返したあと、僕から手を離したテオバルドさんが一歩下がり、素早く上体を動かした。
相変わらず彼のスピードは速いので、僕の目ではなにが起きたかわからない。でも、よくよく見てみるとテオバルドさんの茶色い頭が低い位置にあったので、僕に頭を下げている姿勢をとっているのだとわかった。
「申し訳ありません。取り乱しました」
声の音量をいつもの調子に戻して、テオバルドさんが謝罪をしてきた。
「……不思議ちゃんって、なんですか?」
僕が尋ねると、
「そんな言葉言いましたか? リヒト様の聞き間違いです」
とテオバルドさんが否定してきた。
聞き間違い……そうなのかなぁ。不思議ちゃんって聞こえた気がしたけど、僕の耳はまだテオバルドさんの話すスピードについていけてないのかもしれない。
ゴホン、とテオバルドさんが咳ばらいをした。
「それで、ユーリ様のお声がおかしいというのは、どういう意図で言ってるんですか?」
「いと?」
「なぜおかしいと思うのか、と聞いてるんです。俺が言うのもなんですが、ユリウス殿下のお声はめちゃくちゃいいと思いますが」
テオバルドさんの言う通りだ。
ユーリ様のお声は、甘くて、なんというか艶があって、すごくすごくいいお声なのだけれど。
「でも、僕……ユーリ様のお声を聞くと、なんだかこの辺りがもぞもぞするというか、いままで感じたことのない、おかしな感じがするのです」
僕はお腹の辺りをさすりながら、テオバルドさんに訴えた。
「僕、テオバルドさんのお声も好きなんですけど」
「うっ……ぐぅ……はい」
「エミール様のお声も好きなんですけど」
「はい」
「でも、こんな……おかしな感じになるのは、ユーリ様のお声だけなんです。ユーリ様のお声が、なにか、他のひとと違っていて、おかしく聞こえるんです。テオバルドさんもそうなりますか?」
ユーリ様のお声でみんなこんな感覚になるのか尋ねてみると、テオバルドさんがなぜかまた、
「うぅぉおおお!」
と叫びながら、ジタバタと足を踏み鳴らした。動きはよく見えないけれど、聞こえてくる足音は激しかった。
「そういうことは! 殿下に直接言ってくださいっ! ああ~っくっそ真面目な話かと思ったのに」
「……僕、ふざけてません」
「わかってますよ!」
やけくそのようにそう言ったテオバルドさんは、また「ふぅ」と深呼吸をして。
「いまの話はユーリ様にどうぞ。絶対に喜びますから」
僕にそう言って、それからは僕が「あの……」と話しかけても生返事しか返してくれなかった。
というよりもむしろ、音が遠かったときよりも介助量は増えてしまった気がする。
なぜかというと僕が、聞こえてくる音にすぐ気を取られてしまうからだ。
お屋敷の中では働くひとたちの話し声や足音、食器を運ぶワゴンのカチャカチャという音など、どこかしらでつねになにかの音がしていたし、温室に続く外廊下では鳥の声や風の音が聞こえるし、温室では水やりの時にパタパタと葉っぱで水が跳ねる音や、肥料を撒いたときの土の乾いた音がするのだ。
そのたびに僕は、あれはなんの音ですか、あれはなんですか、とつい尋ねてしまう。
初めのころはユーリ様もひとつずつ教えてくれたけれど、僕があんまりきょろきょろして、どこかで音が鳴ると振り返ったりそっちへ行こうとしたりするので、ついには、
「リヒト、すこし落ち着いて、動く前に三つ数えようか」
と子どもに言うように僕に注意を促してきた。
これは、落ち着きのない僕を叱ったというよりは、僕が音に気をとられては転んだり、バランスを崩したり、うかつに手を伸ばそうとしたりすることを心配しての、お言葉だった。
というのも僕は耳こそ聞こえるようになったものの、視覚や触覚など他の感覚はまだ悪いままだったからだ。
目が見えにくいことに加えて足裏の感覚もあまりわからないので、気を付けていないと僕はしょっちゅう転んでしまう。だからいつもは注意して動いているのだけれど、これまで拾えなかった音が聞こえるようになったことで、ついそっちに気が行ってしまい、注意を怠ってしまうのだった。
僕があんまり転びそうになるせいで、ユーリ様がお仕事に行かれているときは、テオバルドさんが常時僕の傍につくこととなってしまった。
これまでは温室の中や部屋の中で、僕はひとりで過ごしていたのだけれど、いまの僕をひとりにすると絶対に怪我をするからと言われ、僕が聞こえることに慣れるまではそうしなさいとユーリ様が仰ったのだ。
因みにエミール様も賛同されていた。
お二人にそう言われてしまうほど、いまの僕は危なっかしいみたい。
「まったくきみは、本当に目が離せないんだから」
ユーリ様はそう言って僕の頬にキスをする。
笑いの滲んだ甘いお声は、僕の体の中心に沁みて、お腹の底からなにかじっとしていられないような衝動が込み上げてくるような気持ちになる。
その感覚に慣れない僕は、ある日、温室でいつものように肥料を撒きながら、背後に居るであろうテオバルドさんを振り向いて声をかけてみた。
「あの……」
「うわっ、急に動かないでください」
僕がふらついたのだろうか、テオバルドさんの手が素早く僕の腕を掴んで、重心が傾かないように支えてくれる。
「ユーリ様にも言われたでしょう。三つ数えて、俺に心構えをする時間をください」
「は、はい」
僕は頷いたけれど、あれ? と思った。
三つ数えるのはテオバルドさんに心構えをしてもらうためじゃなくて、僕が落ち着くための時間じゃないのかな。
まぁでも急に動くとテオバルドさんもビックリしてしまうだろうから、これからはちゃんと三つ数えよう。
と思った傍から、チチチと鳥の声が聞こえて顔を巡らせてしまう。
上を向いた拍子に上体がぐらりと後ろに傾いだけれど、それはテオバルドさんがすぐにカバーしてくれた。
「リヒト様~」
「あ、ごめんなさい。でも、鳥が……」
「どこからか入ってきたんですね。そのうち出て行くでしょう。それで、なんです? いまなにか言いかけてましたよね?」
テオバルドさんに問われて、僕は彼を見上げた。
耳が聞こえるようになって、気づいたことがある。
それは、ユーリ様やエミール様が、とてもゆっくり話される、ということだ。
耳の聞こえにくかった僕に合わせて、ゆっくり、はっきりと発音してくださっている。
エミール様はともかく、ユーリ様はもうそれが癖になってしまっているのか、いまも僕とお話をするときのスピードは、他のひとと会話をするときよりも遅かった。
これまでユーリ様たちがさりげなくしてくれていた気遣いを知り、僕は、胸がいっぱいになった。他の感覚が弱いままの僕は、たぶん、まだ見落としていることがたくさんある。いつかちゃんとそれに気がついて、お礼を言うことができるだろうか。
いま僕の傍に居てくれるテオバルドさんも、僕に色々と気遣ってくれていた。
でも僕の耳が聞こえるようになってからは、会話の速度をゆるめることはしない。ふつうに話をして、ふつうに僕に接してくれる。
それもまた僕にとっては貴重な経験で、僕はテオバルドさんの飾らない接し方が好きだった。
「僕、最近は、お声でテオバルドさんのことがわかるんです。耳が悪かったときは、どのお声もあまり違いがわからなくて……テオバルドさんの声も、聞き分けることができなかったんです」
「はぁ……」
テオバルドさんが困惑したような声音で返事をした。
突然なにを言い出すのだ、と思われたのだろうか。
僕は慌てて続く言葉を口にした。
「あ、あの、僕、テオバルドさんのお声が、好きです。いつも」
いつも僕に親切にしてくれてありがとうございます、と言おうとしたけれど。
「んぎゃあ!」
テオバルドさんのおかしな悲鳴に僕の語尾がかき消された。
テオバルドさんがガバっと僕の両肩を掴んで(掴まれた、と僕がわかるぐらいすごい勢いだった)、
「あああああんたなんてこと言うんですか俺のこと殺したいんですか殺したいんですね!?」
と息継ぎもなくびっくりするほどの早口でまくしたてた。前の僕ならぜったいに聞き取れなかっただろう。
僕は唖然と口を開いて、ぼやけた視界の中でテオバルドさんの顔を見ようと頑張った。
怒らせてしまったのだろうか?
僕が無言になったからか、テオバルドさんがハッとしたように僕の肩から手をどけて、「んんっ」と咳ばらいをすると、さっきよりもややトーンダウンした声で言った。
「いまの話は聞かなかったことにします」
やっぱり、僕なんかに好きと言われても不快なだけなんだ。
でもこれまでの僕は……いまもそうだけれど……テオバルドさんに迷惑をかけるばかりだったから、嫌われていても仕方ないと思う。
テオバルドさんはやさしいひとだ。嫌いな僕のために、それでもこうして傍に居て僕の世話を焼いてくれるのだから。
僕はしょんぼりとうつむいて、ごめんなさいと謝った。
テオバルドさんが慌てたように、
「すみません言葉を間違えましたっ! えっと、あの、リヒト様に俺の声を褒めてもらってとっても嬉しいです!」
と、僕を慰める言葉をかけてくれた。やっぱりやさしいひとなのだ。
僕がそうっと顔を上げると、テオバルドさんがふぅと息を吐いた。
「えっとそれで、リヒト様はなにが仰りたいんでしょうか」
水を向けられて、僕はそうだったと頷いた。
「はい。あの、僕、お声が聞き分けられるようになって、それで、最近思うんですけど」
「はい」
「あの……ユーリ様の、お声……おかしくないですか?」
僕がそう問いかけた途端。
「ぅおおおい、不思議ちゃん!」
テオバルドさんが奇声を上げた。
僕はまたテオバルドさんにガシっと肩を掴まれ、今度はがくがくと揺さぶられた。
「おまっ、ちょっ……くそっ!」
上ずった声を切れ切れに発したテオバルドさんが、思い切り息を吸う音が聞こえてくる。
それから、今度は吐く音が。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
それを五回は繰り返したあと、僕から手を離したテオバルドさんが一歩下がり、素早く上体を動かした。
相変わらず彼のスピードは速いので、僕の目ではなにが起きたかわからない。でも、よくよく見てみるとテオバルドさんの茶色い頭が低い位置にあったので、僕に頭を下げている姿勢をとっているのだとわかった。
「申し訳ありません。取り乱しました」
声の音量をいつもの調子に戻して、テオバルドさんが謝罪をしてきた。
「……不思議ちゃんって、なんですか?」
僕が尋ねると、
「そんな言葉言いましたか? リヒト様の聞き間違いです」
とテオバルドさんが否定してきた。
聞き間違い……そうなのかなぁ。不思議ちゃんって聞こえた気がしたけど、僕の耳はまだテオバルドさんの話すスピードについていけてないのかもしれない。
ゴホン、とテオバルドさんが咳ばらいをした。
「それで、ユーリ様のお声がおかしいというのは、どういう意図で言ってるんですか?」
「いと?」
「なぜおかしいと思うのか、と聞いてるんです。俺が言うのもなんですが、ユリウス殿下のお声はめちゃくちゃいいと思いますが」
テオバルドさんの言う通りだ。
ユーリ様のお声は、甘くて、なんというか艶があって、すごくすごくいいお声なのだけれど。
「でも、僕……ユーリ様のお声を聞くと、なんだかこの辺りがもぞもぞするというか、いままで感じたことのない、おかしな感じがするのです」
僕はお腹の辺りをさすりながら、テオバルドさんに訴えた。
「僕、テオバルドさんのお声も好きなんですけど」
「うっ……ぐぅ……はい」
「エミール様のお声も好きなんですけど」
「はい」
「でも、こんな……おかしな感じになるのは、ユーリ様のお声だけなんです。ユーリ様のお声が、なにか、他のひとと違っていて、おかしく聞こえるんです。テオバルドさんもそうなりますか?」
ユーリ様のお声でみんなこんな感覚になるのか尋ねてみると、テオバルドさんがなぜかまた、
「うぅぉおおお!」
と叫びながら、ジタバタと足を踏み鳴らした。動きはよく見えないけれど、聞こえてくる足音は激しかった。
「そういうことは! 殿下に直接言ってくださいっ! ああ~っくっそ真面目な話かと思ったのに」
「……僕、ふざけてません」
「わかってますよ!」
やけくそのようにそう言ったテオバルドさんは、また「ふぅ」と深呼吸をして。
「いまの話はユーリ様にどうぞ。絶対に喜びますから」
僕にそう言って、それからは僕が「あの……」と話しかけても生返事しか返してくれなかった。
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