溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪

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溺愛アルファの完璧なる巣作り

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 発情期ヒートが明けたその日は、朝から忙しかった。

 正式につがいとなったからには、国王陛下に報告に行かなければならない。
 ユリウスからそう言われて、リヒトは朝食の後、ユリウスと一緒にお風呂に入って体を清めてから、ユリウスの見立てた服に着替えた。

 国王への謁見とは言っても、マリウスはユリウスの兄。

「今日は内輪だけの挨拶だから、そんなにかしこまらなくてもいいよ」

 ユリウスは気軽な口調で、鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌にリヒトの服を選んでくれたが、リヒトの方はといえばそうはいかなかった。

 以前にマリウスと会ったとき、リヒトはまだ五感が弱かった。
 だからマリウスの顔も声もまったく覚えていない。
 王様、という偉いひとに会うというだけで緊張してしまう。

 早くも全身を強張らせているリヒトへと、ユリウスが慣れた手つきで服を着せてくれた。

 ふわりとしたフリルの襟が頬をくすぐってくる。
 レースのリボンタイできれい蝶結びを作ったユリウスの指が、ベストのボタンを流れるように留めていった。

「うん、可愛い」

 完全なる正装というわけではないが、いつもよりきちんとした服装のリヒトを、頭から足の先まで眺めて、ユリウスが満足したように頷く。

「じゃあリヒト、僕はひと足先に王城へ行ってるから、テオに連れてきてもらうんだよ」
「ふぁい……」
「緊張しなくて大丈夫だってば」

 カチコチになって不明瞭な返事をしたリヒトに、ユリウスが明るく笑ってキスをした。

 先に出発したユリウスを見送って、リヒトは落ち着かない気持ちを抱えたまま、ユリウスの『巣』で過ごした。ドアの開け方はユリウスが教えてくれたから、もうリヒトひとりでもここに入ることができる。

 リヒトの服や食器などがずらりと陳列されたその部屋は、ユリウス曰く「リヒトの匂いが強いものを集めたんだ」であったが、リヒトからしてみれば部屋中にユリウスの匂いが沁みついていて、もはや寝室の次に居心地がいい部屋となっている。

 ふと見れみれば、昨日までリヒトが使っていた哺乳瓶が棚に新たに収まっていて、思わず笑ってしまった。
 その横には、首輪もある。
 リヒトのうなじをまもってきた、黒い首輪が。

 発情期のときにあった火照りはもうすっかり引いていたけれど、ユリウスが好きだという気持ちはすこしも小さくなることはなく、リヒトは無意識に、うなじの噛み痕を触っていた。

 ユリウスとつがいになれたことは、奇跡だと思う。

 ユリウスが山の中で、死にかけていた自分を見つけてくれたことも。
 五感を治してくれたことも。
 うなじを噛んで、ひとつに繋がってくれたことも。 
 すべてが奇跡で、ぜんぶがユリウスの魔法だ。

 ユリウスの匂いと思い出に浸りながら、新しくなったカウチソファ(前の物は繊細なレースのカバーを掛けられて、部屋の隅に飾られている)で膝を抱えてうっとりとしていたら、外からドアがノックされた。

「リヒト様、時間ですよ!」

 テオバルドに呼ばれ、リヒトは立ち上がった。
 忘れていた緊張がぶり返して、馬車の中でテオバルドが色々話しかけてくれたのに、リヒトはひと言も返すことができなかった。

 王城の居塔の前では、エミールがリヒトを待っていてくれた。
 見知った顔にホッとして、リヒトはエミールへと飛びついた。

「エミール様!」
「リヒト! おめでとうございます!」

 真っ先にお祝いの言葉を向けられて、リヒトはきょとんとする。
 エミールが飴色の瞳をやわらかく撓めて、リヒトの首筋をトンと指先で叩いた。

「ユーリ様とつがいになったんですね。すてきな噛み痕です。でも襟をもう少し立てましょうか」
「え?」
「情熱的なキスマークが見えてます」
「きすまーく」

 リヒトがことんと首を傾げると、エミールが嘘でしょうと目を剥いた。

「テオ、テオバルド、リヒトはユーリ様とその……なるようになったんですよね?」
「ええ、間違いなく」
「それであの無垢さですか。すごいな……」
「さすがっすよね」
「ええ。さすが天使」
「さすが不思議ちゃん」
「…………」
「…………」

 ひそひそと囁き合った二人が、互いを見て沈黙した。
 ひとりわけのわからないリヒトが、
「きすまーくってなんですか」
 とエミールに尋ねてくる。
 エミールは「う~ん」と唸ってから、キスマークの説明をした。

「ユーリ様にここを吸われたでしょう」
「……? はい、たぶん」
「たぶん?」
「えっと、僕、発情ヒート中のこと、あんまり記憶になくて……ずっとユーリ様が居てくださったことは覚えてるんですけど……」

 ユリウスが傍に居てくれて終始しあわせだったと笑ったら、エミールが胸元を押さえて悶えた。

「ああっ、可愛い! 天使!」
「エミール様、リヒト様に抱きつかないでくださいよ」
「わかってるから我慢してるんじゃないですか」

 小うるさい従者をひと睨みして、エミールがリヒトの髪を撫でた。

「皮膚を強く吸われたら、赤い痕ができるんです。それをキスマークと言うんですよ」
「……あ!」

 なにかを思い出したように、リヒトが金色の瞳を大きくした。

「僕、知ってます!」
「はい」
「エミール様のうなじを見せていただいたとき、ありました! キスマーク!」

 ごほっ、とエミールがむせた。

 そうだった。忘れていた。以前にリヒトからうなじを見せてほしいと乞われたとき、前日にクラウスと睦み合ったことを失念してうっかり見せてしまったのだ。この無垢な天使に。

 エミールは二度空咳をして、にっこりと微笑んで話題を変えた。

「リヒト、陛下がお待ちかねですので、行きましょう」

 あからさまな誤魔化しに、テオバルドが明後日の方を向いてぶふぅと吹き出すのが聞こえた。

 後で絶対にクラウスに告げ口をしてやろうと、エミールはテオバルドの無礼を頭の中の手帳に書き込んだ。
 

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