溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪

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(番外編)こびとの靴

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 遡ること一週間前。

 休日のユリウスは、その時間のすべてをリヒトと過ごすことに注いでいる。
 この日も彼はリヒトの勉強部屋で読書をしながら、傍らのつがいが一生懸命絵本を読んでいるのを微笑ましく見つめていた。

 絵本、と言っても文字をだいぶ覚えてきたリヒトの手元にあるのは、比較的文章量の多いもので、もうすこしすれば小説だって読めるようになるかもしれない。
 すごいなぁ、とユリウスは感嘆混じりにそう思った。

 目で文字を追う、というユリウスにすれば当たり前の動作も、目がきちんと見えるようになったばかりの頃のリヒトは、とても苦戦していた。

 それも当然で、視覚が治癒する前のリヒトの目は、つねにぼんやりとしか働かず、焦点を結ぶということもできなかったのだ。
 だからその満月のような金色の瞳は、いつもすこし霞がかったかのように見えて、神秘的な印象があったのだけれど。

 いま熱心に文字を読んでいるリヒトの双眸は、キラキラと輝いており、活き活きとしてとてもきれいだった。

 無意識にすこし唇を尖らせているその可愛い横顔を見ていたら、無性にキスがしたくなってきて、リヒトの勉強を邪魔してはいけないと叫ぶ理性とユリウスがひとり格闘していたところで、突然リヒトが叫んだ。

「あっ‼」

 不意打ちの大声に、ユリウスは咄嗟にリヒトの全身に視線を走らせた。
 怪我をしたのか。体調が悪いのか。どこかに不具合が起きたのか……俄かに緊迫したユリウスの服の裾を、リヒトがぎゅっと握ってくる。

「ゆ、ユーリ様!」
「どうしたの、僕のオメガ」
「これ! これ見てください!」

 リヒトが広げた絵本のページを、興奮したように指さした。
 そこには、湖のある公園の絵が描かれていた。
 特になんということのないページだ。いったいこれがどうしたのか。

「これ! この湖! 前に僕がユーリ様に連れて行ってもらったところとおんなじです!」

 リヒトがいつもよりも早口に言い募ってくる。
 その様が可愛くて、ユリウスはつい我慢できずにリヒトの頬にキスをしてしまった。

 ちゅ、と唇で触れてから改めて絵を確認する。それは確かに以前リヒトを連れて行った場所に似ていた。

 豊かな自然に囲まれた、湖のある公園。描かれている白いガゼボは、手すりや柱のレリーフに特徴がある。
 なるほど、とユリウスは頷いた。

 この公園は、王族の私有地として扱われている場所であり、基本的に王族以外は許可を得た者しか立ち入ることができない。
 しかし風光明媚な場所であるため、年に数回は一般開放されることもあった。

 この絵本の画家は、湖のほとりのガゼボをモデルに、この絵を描いたのだろう。

 自身の絵姿も良く絵本に登場するユリウスである。いまさらあの公園が模写されたところでなんら驚くものではないが、リヒトにしてみれば知っている場所が絵本に出てくるなんて初体験だ。さぞびっくりしたことだろう。
 目を真ん丸にしているおのれのオメガへと、よくあることなんだよと教えてあげようとしたユリウスだったが、それよりも早くリヒトがユリウスを呼んだ。

「ユーリ様、ユーリ様! 僕、行きたいです!」
「え? 湖に?」
「はい!」
「どうして?」

 連れて行ってあげることは簡単だが、なぜそんなに行きたがるのか、とユリウスは不思議に思ったが、リヒトが読んでいた絵本のタイトルにはたと気づいた。

 『こびとの冒険』。

 そう書かれた表紙の本を、胸元に抱き締めて、リヒトが両目を輝かせている。

「ユーリ様、ここに、こびとが居るかもしれません!」

 意気揚々と、リヒトがこぶしを握った。

「前にエミール様が、こびとは姿隠しの魔法を使うから見つけられないと言ってました。でも、この湖の葉っぱの下に、こびとが隠れてるんです!」

 ここです、ここ、とリヒトがこびとが草の陰からとんがり帽子の先を覗かせている絵を見せてくれた。
 その曇りのない眼差しに、ユリウスは射貫かれた。

 可愛い。可愛すぎる。
 なんという純真さ。まさかのこびと探しを所望とは!
 あ~僕のオメガが今日も可愛すぎる!

 ユリウスは小さな唇をちゅっと啄んで、それからおのれのオメガへと微笑みかけた。

「いいね。来週にでも行こうか」
「いいんですか?」
「もちろんだよ、僕のオメガ。でも僕と約束してくれる? きみは前に湖へ行ったときも、へとへとに疲れてしまったから、こびと探しに夢中になっても、ちゃんとこまめに休憩をとること」
「はい!」
「それから、エミール殿も言ったように、こびとは姿隠しの魔法を使うからね。見つからないことの方が多いよ。だから無理をして見つけようと思わないこと」
「はい」

 ユリウスの注意に、リヒトが神妙な顔でこくりと頷いた。
 そして絵本を机に置いてから、ユリウスへと両腕で抱きついてきて。

「ありがとうございます、ユーリ様、大好きです」

 ものすごく可愛い顔で、うふふと笑みをこぼしたのだった。 




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