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W王子の圧が……
しおりを挟む「国王陛下のおなりです!」
その時、陛下入場が高らかに宣言された。
周りは拍手で陛下を出迎え、入ってきた陛下はいつも以上にご立派な姿をしておられましたわ。
陛下のご挨拶を聞いている間に少しずつ、メアリお姉様がわたくしたちのいるところへと距離を詰めておられるのが見えて気が重くなります。
いえ、まあ、エリザ様たちの計画通りすぎて……なんとも言えない気持ちになるのですが。
一応他国からも王侯貴族の方々がいらっしゃっておられるので、そのなんとも轟々煮え滾るような怒りの眼差しでわたくしを睨みつけるのはおやめになられた方がよろしいのでは……と思ってしまいますわ、メアリお姉様……。
お隣の旦那様も表情が引きつっておられますわよ。
「…………」
しかしながらお姉様も敵が多いご様子。
メアリお姉様と同年代のご婦人たちもお姉様の方を眺めて、目を細めている。
お姉様が少しずつわたくしに距離を詰めているのは、あの笑っているご婦人たちが原因です。
陛下の挨拶が終わったら、誰が一番にお姉様へ『ご挨拶』へ行くのかを窺っているのですわ。
……いえ、いえ……本当に女の世界とはげに恐ろしきものでございます……。
というわけで、お姉様はその『ご挨拶』を交わすべく、他の誰よりも先にわたくしに話しかけてくるはずなのですわ。
「では、どうか皆々様、存分に楽しんでくれ!」
わあ、と陛下の挨拶が終わった瞬間拍手が起こる。
そしてそれは、同時に試合のゴングが鳴った瞬間でもございます。
メアリお姉様が、ずんずんと真っ向からわたくしに近づいてきて立ち止まる。
五年ぶりですが、お変わりないご様子……とは申し上げられそうにない険しいお顔。
もちろん、表面上はお美しいですわよ?
……眼が……。
「ミリアム殿下、アーク殿下、陛下のお誕生日心よりお祝い申し上げますわ」
「ありがとう」
「ええと、あなたは?」
まあ、アーク様ったらわざとらしい!
……しかし、お二人がお姉様の顔をご存じないのは仕方ないのかもしれません。
年代的に接点がない、というかあまり関わる機会がないのです。
しかしこの一言は近くにいた方々からすると、先程の件に追随する『ネタ』ですわね~……。
だってこの一言で『婚約者の姉の顔を王子殿下お二人が知らない』と断言したようなものですから。
それはもう「両王子妃になる娘の姉はまだ挨拶もしていなかったのか」と言われて致し方のない状況ですわ……!
「っ、クリスティアの姉のメアリでございます。お久しぶりですわ。なかなかお目にかかる機会がなく、本日はミリアム様とアーク様にお会い出来るのを楽しみにしておりましたの」
「そうでしたか。最後にお会いしたのがいつだったのか思い出せませんが……あなたがそうなのですね」
「…………」
さすがお姉様ですわ!
さりげなく「お久しぶり」「なかなかお目にかかる機会が」等々を混ぜる事で「初めましてではないですよー」とアピールされましたわね!
ここでうっかり「何月何日にお会いしてます」なんて言おうものなら、アークたちにイチャモンをつけたと捉えられかねませんからね! 見事です!
だと言うのにアークったら「最後にお会いしたのがいつだったか」だなんて追撃!
お姉様、笑顔を浮かべてやり過ごしましたわ! 賢明ですわ! さすがです!
笑顔の下で恐ろしい戦いですわね……!
「ところで、わたくし先程到着したばかりですの。ご挨拶まわりをしていたら実家の両親にあなたが家を出ると聞いたのだけれど……本当なのかしら?」
ああ、やはり斬り込んでこられましたわね。
思ったほど回りくどくせず、比較的ストレートに殴り込んでこられましたわ。
「はい。ジーン様からご提案頂きましたの。本日この日まで後ろ盾になって頂いた事には感謝しておりますわ」
とは言え、わたくしの戸籍が登録されていなかったのは意図的なものだろう。
お父様もお母様も、そしてこの様子だとお姉様も知っていて放置して忘れていたに違いない。
血筋を重視するあまり、忌々しい平民の赤ん坊を自分たちの家族として法的に迎え入れる事に嫌悪を持っていたからだ。
だから手続きを躊躇い、放置している間に忘れた。ちょっと笑えないドジっぷりですわ。
わたくしが赤子の頃に終わらせておけば良かったのに……。
まあ、それはさておきあまりお世話になった記憶も、育てて頂いた記憶も曖昧なのであえて『後ろ盾に』という言葉を使ったのですが、どうかしら?
「……まあ、育ててもらった恩を返そうとは思わないのかしら?」
副音声に「平民風情が」と聞こえた気がしますが、わたくしも笑顔で小首を傾げるくらい出来ますのよ。
……そうなんですよね……そうだったんですよね……。
お父様もお母様もお姉様も……ずっとわたくしをそう思っておられたのですよね。
お兄様だけはどう思っておられたのか分かりませんけれど……わたくしはロンディウヘッド家で一人だけ、血の繋がりがなかった。
平民の子どもだった。
だから……ずっと——……。
「……そこまで言うのなら父のための余興に付き合うつもりはないか?」
あらまあ、ミリアムが斬り込みましたわね。
ちらりと見上げると、アークよりイイ笑顔~!
さすがご兄弟、たまにものすごくそっくりになりますわ~!?
「余興でございますか?」
「ああ。決闘制度を利用して……と言えば分かるか?」
「っ……」
さすがのお姉様も最初は『余興』だけでは分からなかったはず。
でもミリアムが情報をつけ加えれば察したのだろう、表情があからさまに強張りましたわね。
さて、そろそろわたくしも苦手な『煽り』をやりますわ。
お姉様とは、戦わなければいけませんもの。
「ミリアム、お姉様は無理ですわ。だってお姉様はわたくしに負けるのが一番怖いはずですもの」
「ああ、なるほど、それでですか。だからいつも表立って、クリスに直接お伝え頂けないのですね?」
「——!」
これは暗に学園の事を申し上げている。
お姉様の息のかかった者が、どんな伝手でわたくしに学園で色々な嫌がらせをしておられるのか……わたくしどもは知っておりますよ、という意味でお伝えしたのだけれど……。
ああ、顔色が悪くなられたのでお察し頂けたようですわ。良かった良かった。
さあ、お姉様……これでお姉様は逃げ道がなくなりましたわよ。
当然ですわよね。だってアークが知っているという事は、それを調べたのは王家、という意味ですもの。
お姉様はわたくし憎さに暴走し過ぎたのです……それこそ王家が直接調べて把握しているほどに。
「…………ど、どこまで……」
「夫人の心当たりがある事はすべて、とお考え頂いて構わない」
ミリアムの一言で全身が震え始めるお姉様。
ちらりとお姉様の旦那様を見ると、まあ……あちらも顔色が悪うございますわね。
お姉様の所業をもしかしてご存じだったのでしょうか?
なのに自分の浮気の事などを見逃してもらっているから……好きにさせていた?
……頭が痛いですわ……いくら政略結婚とはいえ、仮にも伯爵家の当主でしょうに……。
「これは名誉挽回の最後の機会ですよ、マダム。なんでしたら以前ジェーン嬢が用いた『代理制度』をご利用頂いても構わない。パーティーは始まったばかりで、まだ時間もありますしね」
まあ、アークったら意地悪ですわ。
パーティーの最中に集められる『代理人』なんてロンディウヘッド家……お姉様の実家の関係者のみでしょう。
だって他の貴族たちは協力する理由がありませんもの。
わたくしという『次期王子妃』を失うロンディウヘッド家に肩入れしても、得はありません。
むしろ足の引っ張り合いを得意とする皆様は、ここぞとばかりに笑い者にしております。
日頃の行いですわよねぇ、お父様、お母様、お姉様……。
あとはお姉様の旦那様でしょうか……お父様とお兄様は強制参加と思われますが、お姉様の旦那様が加わると殿方が三人になるので厳しいんですわよね。
まあ、それでも相手にとって不足なしですが。
「…………け、決闘は、申し込んだ側が申し込まれた側の有利な方法で戦うのがルール……」
「ええ、ですがあなた方に準備している時間があるとでも?」
「っ……!」
「こちらはどちらでも構わない。余興用に『準備』があるだけだからな。あなた方につき合ってもらわなくとも、予定通りに余興が行われるだけだ。アークの言う通り、これはあなた方への『最後の機会』だ。その機会を棒に振るのも利用するのもあなた方の自由」
「僕たちのクリスに色々『悪戯』してくださったのですから、この程度の意趣返しで済むのなら可愛いものだと思いませんか?」
あ、アーク、ミリアムそのあたりでやめませんか?
完全に脅しですわよ……こわいこわいこわい!
血は争えないと申しますか、王妃様方にそっくりな顔になってます!
「…………っ……」
「さあ」
「どうされますか?」
…………こわい。ミリアムとアークが、こわい……。
お姉様が可哀想になってきました。
お姉様、負けないで。
いえ、なんかもうお姉様たちには選択肢がないのですけれども……。
「…………や、り、ます……」
「そうか、では伝えておこう」
「父上や他国からの来客方々もおられますから、やはり派手な方がいいですよね~。ご参加頂けてありがたい限りです」
ああ、なんてイイ笑顔~~~!
二人の笑顔に悪意しかないですわ~!
「では時間になったら呼ぶ。せいぜい人数を集めておくんだな」
「楽しみにしておきますね。行きましょう、クリス。父上のお客様にまだ挨拶が残っておりますから」
「は、はい。それではお姉様、後ほど」
「…………」
お姉様……あんなに怯えたお顔でプルプル震えて……。
「っ!」
「!」
睨まれてしまいましたわ。
あ、あれ怒りの震えでしたのね。さ、さすがですわー……。
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