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本番開演
しおりを挟む「クリス!」
「まあ、フィリー! ご機嫌よう! ドレス可愛らしいですわ!」
「ふふふ、クリスもとてもよくお似合いよ!」
声をかけてきたのはフィリーのご家族。
ああ、本当に仲が良くなりましたのね。
「ジェーン様から伝言ですわ。例の件、一時間後には整うそうですわよ」
「ありがとうございますっ」
さすがフィリーですわね。ジェーン様も頼りになりますわ。
「……クリス、大丈夫? ご家族に会ったのでしょう? まだ少し手が震えてますわよ」
「大丈夫ですわ。ミリアムが手を握っていてくれましたから」
「そう? 無理はしてはいけませんわよ。ついでにもう少し弱いところを見せてミリアム様とアーク様に甘えておいでなさい。女は隙を見せて甘えた方が殿方は喜ぶものですわよ」
「え、ええっ」
そんなぁ、甘えるだなんて!
両手を頬に当ててもだもだ。
そんな事を言われて、想像してしまえば当然むず痒くなってしまうじゃないですか?
でも、確かにまだ少し恐怖が残っている。
お二人に甘えたら……甘やかして頂けたら……この恐ろしい気持ちも、きっと……。
「じゃあ少し休みますか?」
「いいぞ、別に。母上たちも来たから、少し休む分は構わないだろう。ずっと立っている必要はないしな」
「ミ、ミリアム、アーク……ですが……」
突然後ろから両肩に大きな手が置かれる。
聞かれてしまっていたようですわ。あわわ~。
「そうね、少し休んで飲み物でも飲んでいらっしゃいな」
「パーティーはまだ始まっていないし、構わなくてよ」
「……あ、ありがとうございます、では……」
フィリーの提案を王妃様たちも笑顔で許してくださる。
王子殿下二人に左右をガッチリ固められて、逃げ場がないのもありますが……。
「ちょうどお腹も限界でしたの!」
王族に用意された休憩室に入るなり、わたくしったらはしたなくも叫んでしまいました。
するとお二人は一瞬「え?」という顔をしたあとパァァアァッ! と満面の笑顔に……。
「それでこそクリスだ。うんうん、それでこそだよ」
「はい、すぐにおやつを用意しますね」
「! 嬉しいです!」
そうして持ってきてもらったスコーンに、ジャムやクリームをつけて頂きます!
けれどあまり食べては余興に響きますから……このくらいで……。
「あれ、もういいのか?」
「はい、少しだけ……本当に少しだけ食べた方が……逆にお腹が空きますの……。余興用にもっとお腹を空かせておかねばなりません……」
「なんという大食いへの意識の高さ……さすがクリスです。僕は若干あなたの大食いへのこだわりを侮っていたのかもしれませんね」
「いいえ、そんな……。せっかくなので陛下やお客様に喜んで頂きたいのですわ」
「そうか、クリスは偉いな」
「素晴らしいです。偉いですね」
「えへへへへ」
左右から頭を撫で撫でして頂けました~。
お二人に撫でられたので改めて頑張りましょう!
そろそろ陛下もいらっしゃる……パーティー開始の時間です。
会場に戻れば……あらあら、うふふ……お父様と敵対関係にある貴族たちで、空気は最高に楽しそうな事になっておりますわ。
「ああ、とても楽しそうな事になっているなぁ」
「思った以上の効果ですね。会場の隅から隅まで先程の話題で持ちきりのようで」
「は、はい」
この国の貴族たちは血筋重視ですからね。
平民から赤ん坊を買い取って育てて王子たちの婚約者に仕立て上げた、ともなれば話題にもなりますわ。
その上、ようやく王子妃の両親として確固たる地位を得ようというタイミングで綺麗にジーン様に横から掻っ攫われたのですから。
お父様の敵はもちろん、味方の方々にもよい笑い者でしょう。
まあ、もっと恐ろしいのはお母様の『ご友人たち』ですわね。
扇で口許は隠しておられますが、目が大変楽しそうに笑っておられます……こわい……。
「!」
あ……あれはお姉様夫婦……。
今は他の方とお話し中ですが、お姉様夫婦も到着されたのですね。
話に聞いていたよりも仲良しに見えるのがなんとも恐ろしいですわ。
そして今話しておられた方になにか聞いたのでしょう、一瞬顔をしかめたあと、真っ直ぐにお父様とお母様とお兄様の方へと歩み寄っていきます。
ああ……先程の件を告げ口されたのでしょうね。
お父様たちに確認を取って、そしてきっと頼まれるはずです。
「接触したな。よし、では父上を迎えよう」
「ふふふ、まだパーティーは始まってもいないのに……! 今夜は楽しいイベントが多すぎますね」
「た、楽しいでしょうか?」
「「とっても」」
「さ、さようですか」
すっごいイイ笑顔ー!
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