腹ペコ令嬢は満腹をご所望です【連載版】

古森きり

文字の大きさ
25 / 37

女の戦い?

しおりを挟む

「クリスティアをわたくしの娘として、養子に迎え入れようと思っておりますの」
「はあ?」

 にっこり笑ったジーン様が言い出した言葉に、お父様もお母様も怪訝な表情をなさる。
 まあ、そうですわよね。
 お兄様は……相変わらず全然興味がなさそう。
 無表情で成り行きを見守っている感じです。

「あら、構わないでしょう? あなた方とクリスティアに、のだから」
「「!?」」
「……!」

 ジーン様が扇で口元を隠しながら微笑む。
 お父様もお母様も、そしてその時初めてお兄様も、驚いた顔をなさる。
 わたくしはその表情で、理解しました。
 以前ジーン様たちに聞いた話が本当だったんだ……。
 ……わたくしの戸籍がない。
 わたくしがロンディウヘッド侯爵家に生まれたという記録がないのだと……。
 最初聞いた時はとても驚きました。
 ルイナでさえ……大声で「そんなばかな」と叫んだほどです。
 王妃になるに至り、わたくしや家の事を調べた結果……わたくしはお父様とお母様の子どもではなかった。
 ロンディウヘッド侯爵家の使用人たちに秘密裏に調査を行い、証言を集めた結果……わたくしはロンディウヘッド家の治める領地で生まれた平民の赤子だった事が判明したのです。

「…………」

 父はわたくしを、王子殿下がお二人生まれてきた年に慌てて『そのために作った』と言いました。
 そんな馬鹿な話はないのです。
 子どもは生まれてくるのに十月とおつきはかかる。
 でもわたくしの誕生日は、殿下たちと一ヶ月しか違わないのです。
 つまり、わたくしはお父様とお母様の子どもではない。
 この世界に遺伝子を調べる技術はありません。
 けれど、領主に赤子を『口減らしも兼ねて侯爵家に売った』という証言をした平民もいたとの事。
 その方々がわたくしの本当の両親なのでしょう。
 当然その方々は今更わたくしが戻っても困るだけ。
 わたくしは……いらない子だったんです。

「正式に戸籍を作るためにわたくしと陛下の『娘』にするのですわ。そうすれば『養子縁組』という形でミリアムともアークとも結婚して問題ないですもの。ほほほ。お二人には感謝しておりますわ、クリスティアをここまで育ててくれた事……」
「っ! わ、わたくしの子ですわ! 間違いなく! その子はわたくしが腹を痛めて産んだ子です!」
「あら、どこぞから養子を取るのは貴族ならよくいる事ではありませんか。なにをそんなに慌てて否定されますの?」
「!」

 エリザ様が追撃を仕掛ける。
 ……ええ、そうです。養子を取るのは貴族なら普通の事。
 血筋にこだわる貴族が、平民から取るのは珍しいですけどね……。

「この子を王妃にするために」
「必要な処置ですわ」
「「「…………」」」

 …………こわい。

「あとで必要な書類をお送りするので記入して送り返してくださいませ。では、他の皆様へもご挨拶せねばなりませんので、このあたりで失礼致しますわ」
「そうですわね~」
「では、失礼致します」
「行こう、クリス」
「は、はい。…………では、お父様、お母様、お兄様……お世話になりました」

 ほほほ、と笑いながら方向転換したエリザ様とジーン様。
 それについて、わたくしたちも離れます。
 最後に両親と兄へ頭を下げて、ミリアムが差し出した手に手を乗せて歩き始める。
 ……わたくしは、平民の娘。
 貴族の血など一滴も流れていない。
 最初はとても、とても、申し訳がなくて不安だった。
 それを聞かされた時、ああ、終わったな、とも思いました。
 けれど、エリザ様もジーン様もミリアムもアークも、陛下も気になさらなかったのです。
 それもそのはずですわ、陛下は血筋になんのこだわりもない方。
 貴族の歴史はその血にあり。
 けれど、それ故に腐敗する。
 そんな陛下の思想に、この方々は大変近い。
 教育さえ行き届いていれば出自など関係ないのだと……。
 身分など、能力とは関係ないのだと。

「ふふふ、見たぁ? あの顔! 最高でしたわね」
「あらあらジーンったらお顔が凶悪よ。まだ我慢しなさいな」
「分かっておりますわ。ざまぁ!」
「母上……」
「でもこれで一つ片付いたな」
「そうね。これでアーク様の『義妹』として、結婚もスムーズに出来るわ。ミリアム、良かったわね」
「はい、母上」

 そう、まずはひとつ。
 このパーティーで、これまでの問題をすべて片付ける。
 最初の布石は打った。
 次は相手の動きを見る番ですわ。
 今の事を引き金に、必ず動く。
 我が家のプライド高い……いやもうなんかプライド塊のようなお父様やお母様やお姉様は、絶対に今の話を快くなど思いませんからね。
 なにしろわたくしを出汁にして、権威のあれやこれやをゲットしようとしていたのですから。
 それをおめおめ取り逃がすはずがないのです。
 なんとか今日中に撤回ささなければと、頭をフル回転させているはずですわ。
 だって今日中になんとかしなければ、先程のやりとりを見ていた他の貴族によって秒速で広まるのです。
 ええ、明日のお茶会や夜会メインディッシュや酒の肴になってよい笑い者となりますものね。
 それをちやほやされるために毎日お茶会や夜会を開いているお母様や、ヨイショされるために権威を欲して止まないお父様、そして自分が一番愛されていないと気が済まないお姉様がよしとするはずもなく……。
 まあ、お兄様は分かりませんけれど。

「ふふふ、まだ始まったばかりだもの……たっぷり楽しみましょう」

 ……エリザ様も、こわい。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』

ふわふわ
恋愛
華やかなドレス。きらびやかな舞踏会。 公爵令嬢として転生した私は、ようやく優雅な人生を手に入れた―― ……はずでしたのに。 実態は、書類の山、曖昧な命令、責任の押し付け合い。 忠誠の名のもとに搾取される領地運営。 前世のブラック企業と、何も変わりませんでしたわ。 ならば。 忠誠ではなく契約を。 曖昧な命令ではなく明文化を。 感情論ではなく、再評価条項を。 「お父様、お手伝いするにあたり契約を結びましょう」 公爵家との契約から始まった小さな改革は、やがて王家を巻き込み、地方貴族を動かし、王国全体の制度を揺るがしていく――。 透明化。共有化。成果の可視化。 忠誠より確かな契約で、異世界働き方改革ですわ。 これは、玉座を奪う物語ではありません。 国家を“回る構造”に変える、公爵令嬢の改革譚。 そして最後に選ばれるのは――契約ではなく、覚悟。 ---

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

処理中です...