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女の戦い?
しおりを挟む「クリスティアをわたくしの娘として、養子に迎え入れようと思っておりますの」
「はあ?」
にっこり笑ったジーン様が言い出した言葉に、お父様もお母様も怪訝な表情をなさる。
まあ、そうですわよね。
お兄様は……相変わらず全然興味がなさそう。
無表情で成り行きを見守っている感じです。
「あら、構わないでしょう? あなた方とクリスティアに、血の繋がりがないのだから」
「「!?」」
「……!」
ジーン様が扇で口元を隠しながら微笑む。
お父様もお母様も、そしてその時初めてお兄様も、驚いた顔をなさる。
わたくしはその表情で、理解しました。
以前ジーン様たちに聞いた話が本当だったんだ……。
……わたくしの戸籍がない。
わたくしがロンディウヘッド侯爵家に生まれたという記録がないのだと……。
最初聞いた時はとても驚きました。
ルイナでさえ……大声で「そんなばかな」と叫んだほどです。
王妃になるに至り、わたくしや家の事を調べた結果……わたくしはお父様とお母様の子どもではなかった。
ロンディウヘッド侯爵家の使用人たちに秘密裏に調査を行い、証言を集めた結果……わたくしはロンディウヘッド家の治める領地で生まれた平民の赤子だった事が判明したのです。
「…………」
父はわたくしを、王子殿下がお二人生まれてきた年に慌てて『そのために作った』と言いました。
そんな馬鹿な話はないのです。
子どもは生まれてくるのに十月はかかる。
でもわたくしの誕生日は、殿下たちと一ヶ月しか違わないのです。
つまり、わたくしはお父様とお母様の子どもではない。
この世界に遺伝子を調べる技術はありません。
けれど、領主に赤子を『口減らしも兼ねて侯爵家に売った』という証言をした平民もいたとの事。
その方々がわたくしの本当の両親なのでしょう。
当然その方々は今更わたくしが戻っても困るだけ。
わたくしは……いらない子だったんです。
「正式に戸籍を作るためにわたくしと陛下の『娘』にするのですわ。そうすれば『養子縁組』という形でミリアムともアークとも結婚して問題ないですもの。ほほほ。お二人には感謝しておりますわ、クリスティアをここまで育ててくれた事……」
「っ! わ、わたくしの子ですわ! 間違いなく! その子はわたくしが腹を痛めて産んだ子です!」
「あら、どこぞから養子を取るのは貴族ならよくいる事ではありませんか。なにをそんなに慌てて否定されますの?」
「!」
エリザ様が追撃を仕掛ける。
……ええ、そうです。養子を取るのは貴族なら普通の事。
血筋にこだわる貴族が、平民から取るのは珍しいですけどね……。
「この子を王妃にするために」
「必要な処置ですわ」
「「「…………」」」
…………こわい。
「あとで必要な書類をお送りするので記入して送り返してくださいませ。では、他の皆様へもご挨拶せねばなりませんので、このあたりで失礼致しますわ」
「そうですわね~」
「では、失礼致します」
「行こう、クリス」
「は、はい。…………では、お父様、お母様、お兄様……お世話になりました」
ほほほ、と笑いながら方向転換したエリザ様とジーン様。
それについて、わたくしたちも離れます。
最後に両親と兄へ頭を下げて、ミリアムが差し出した手に手を乗せて歩き始める。
……わたくしは、平民の娘。
貴族の血など一滴も流れていない。
最初はとても、とても、申し訳がなくて不安だった。
それを聞かされた時、ああ、終わったな、とも思いました。
けれど、エリザ様もジーン様もミリアムもアークも、陛下も気になさらなかったのです。
それもそのはずですわ、陛下は血筋になんのこだわりもない方。
貴族の歴史はその血にあり。
けれど、それ故に腐敗する。
そんな陛下の思想に、この方々は大変近い。
教育さえ行き届いていれば出自など関係ないのだと……。
身分など、能力とは関係ないのだと。
「ふふふ、見たぁ? あの顔! 最高でしたわね」
「あらあらジーンったらお顔が凶悪よ。まだ我慢しなさいな」
「分かっておりますわ。ざまぁ!」
「母上……」
「でもこれで一つ片付いたな」
「そうね。これでアーク様の『義妹』として、結婚もスムーズに出来るわ。ミリアム、良かったわね」
「はい、母上」
そう、まずはひとつ。
このパーティーで、これまでの問題をすべて片付ける。
最初の布石は打った。
次は相手の動きを見る番ですわ。
今の事を引き金に、必ず動く。
我が家のプライド高い……いやもうなんかプライド塊のようなお父様やお母様やお姉様は、絶対に今の話を快くなど思いませんからね。
なにしろわたくしを出汁にして、権威のあれやこれやをゲットしようとしていたのですから。
それをおめおめ取り逃がすはずがないのです。
なんとか今日中に撤回ささなければと、頭をフル回転させているはずですわ。
だって今日中になんとかしなければ、先程のやりとりを見ていた他の貴族によって秒速で広まるのです。
ええ、明日のお茶会や夜会メインディッシュや酒の肴になってよい笑い者となりますものね。
それをちやほやされるために毎日お茶会や夜会を開いているお母様や、ヨイショされるために権威を欲して止まないお父様、そして自分が一番愛されていないと気が済まないお姉様がよしとするはずもなく……。
まあ、お兄様は分かりませんけれど。
「ふふふ、まだ始まったばかりだもの……たっぷり楽しみましょう」
……エリザ様も、こわい。
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