378 / 553
SBO実況生配信(2)
しおりを挟む「~~~♪」
淳と鏡音が歌バフで、他の四人で戦い対象のモンスターを狩っていく。
淳、普通にサイリウムを取り出して四人の応援もやっているのだが、その姿がかなりコメント欄で『ドルオタ丸出しで草』『音無くんってこんなキャラだったの?』『意外な一面』『ドルオタなのは知ってたけどガチすぎる』『草』『このゲームこんなふうに遊ぶもんなん?』お困惑の声が多数。
それはその通り過ぎる。
多分バトル中にサイリウムで歌いながら仲間の応援しているプレイヤーなんて、淳だけであろう。
しかもにっこにっこの満面の笑みで。
「あ」
「オレやります」
そして無防備に歌ってバフかけしている淳に、魔物が襲いかかってくると歌いながら鏡音が一撃で始末してしまう。
その光景がだいたいかっこいいので、コメ欄、大盛り上がり。
『鏡音くんかっこいい!』『強すぎる』『上手すぎぃ!?』『もうこの二人だけでよくね?』『さすがプロ』『鏡音くんがイケメンすぎる』等、絶賛の嵐。
やはりゲーム実況はゲームが上手い人のを見る方が楽しいのだろう。
ゴールドサワガニは珍しい魔物ではないのだが、今日に限ってなかなか見つからないため想定よりも時間がかかり、ぐだってきそうなタイミングで淳の奇行と鏡音の戦いが見れるので閲覧者数は減っていない。
今日は様子見のつもりだったので、程よいところで切り上げたいのだが……。
「はいはーい! こちらがダンジョン『川流れ』の中ボス、『荒鯉』でーす! それでは倒していきたいと思いまーす」
「ん?」
「おん?」
「なに?」
人の声。
まあ、別にダンジョンを貸切にしているわけではないので、他のプレイヤーがいるのはなにも不思議ではないのだが、言ってることが普通と少し違う。
振り返った結果、お相手も人がいることに気がついたらしい。
黒い髪に黄色いメッシュが入った男が、カメラの前で剣を掲げている。
「逢魔先輩……?」
「あれー! 円じゃ――」
わあ、と嬉しそうな顔をして手を上げた男の真後ろから、その数倍の大きさの鯉が宙を泳いできた。
目を丸くする宇月と魁星と周と柳。
このダンジョン『川流れ』は巨大な川の中のようなダンジョン。
川の中という設定なのか、場所によっては少し足を取られそうで、魔物もこのように水の中を泳ぐように現れる。
フィールド自体がプレイヤーへのデバフになっており、歌バフがないと推奨レベルより高かったとしても苦戦するほどだ。
もちろん、二回り以上推奨レベルより上の淳と鏡音にはあまり関係がない。
鏡音の方はレベルにプラス持ち前のプレイヤースキルがあるので、本当にダンジョンごと破壊してしまう。
振り返った途端に鯉の姿の魔物が、大口を開けて配信プレイヤーを丸呑みにしようと飛びかかる。
鏡音が銃を取り出すと同時に、配信プレイヤーが回転しながら鯉の魔物を口の端からエラの部分までを複数の斬撃で引き裂いた。
「ひゃっほーい! 硬ってえー!」
きゃっきゃ笑いながら鯉の上に着地して、嫌がって身悶えた鯉の背鰭から尾鰭までをこれまた複数回切り裂いてHPを削る。
フィールド環境のデバフをものともせず、剣一本で頭を叩き落とす。
初期装備にも関わらず、推奨レベル15~30の魔物を倒すなんて――
「ドカてん、知り合い?」
「うちのチームの人です」
「そんな気はしてたよぉ……」
初期装備でここまでの動きをして、中ボス級の魔物をあっさり倒す時点で素人ではない。
宇月が指差すと、鏡音が淡々と答える。
「逢魔あげは先輩です。格ゲー中心にゲーム配信している配信者で、プロゲーマーとしても活動しています」
「めっちゃドカてんと被ってるじゃん」
「はい。まあ。でも、自分はFPS系なので……」
「ああ、そっか。へー……」
まったく興味のない宇月。
しかし、高らかにカメラの前で討伐を喜ぶ男を見て「どうする? 狩場変える?」とアイコンタクトで訴えてきた。
確かに、狩場が被ったら変えるのが一般的だが、淳たちも配信を行っている。
しかも鏡音の知り合い。
それなら配信者同士で絡んだ方が視聴者は喜びますよ、と鏡音が宇月に耳打ちする。
宇月が若干嫌そうな顔を、カメラに映らない角度でしたのを見て、淳が「鏡音くん、紹介して」と頼む。
多分、シンプルに人見知りが発動している。
宇月、人見知りなので初対面には攻撃的な態度を取りがち。
なので、淳が間に挟まることにした。
「逢魔先輩」
「あ! そうだそうだ! みんなー! 紹介するぜー! いや、知ってるやつも多いか? うちのチームの一番若いやつ! 鏡音円くんでーす! よっす! 円ちゃん!」
「どうも、鏡音円です」
まったくの無表情で逢魔のカメラに向かって手を振る鏡音。
その様子に逢魔が「え……? 円ちゃんがちゃんと挨拶した……」と口を指先で覆って一拍の沈黙。
思わず全員鏡音に視線を集中してしまう。
「え? ドカてん、挨拶ができない子だったの?」
「……? そんなことはないです。配信者なので」
「嘘だー! えー! 円、どうしたん!? お前、手を振るとか視聴者にサービスするような子じゃなかったやん!」
(((((ああ……そういう……)))))
全員察した。
鏡音、確かに入学当初はお辞儀して「鏡音です」と挨拶している程度だった。
だがさすがに入学して四ヶ月も経つと『手を振る』というファンサービスをするようになったらしい。
80
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
妹に婚約者を取られるなんてよくある話
龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。
そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。
結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。
さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。
家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。
いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。
*ご都合主義です
*更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる