ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり

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SBO実況生配信(2)

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「~~~♪」
 
 淳と鏡音が歌バフで、他の四人で戦い対象のモンスターを狩っていく。
 淳、普通にサイリウムを取り出して四人の応援もやっているのだが、その姿がかなりコメント欄で『ドルオタ丸出しで草』『音無くんってこんなキャラだったの?』『意外な一面』『ドルオタなのは知ってたけどガチすぎる』『草』『このゲームこんなふうに遊ぶもんなん?』お困惑の声が多数。
 それはその通り過ぎる。
 多分バトル中にサイリウムで歌いながら仲間の応援しているプレイヤーなんて、淳だけであろう。
 しかもにっこにっこの満面の笑みで。

「あ」
「オレやります」

 そして無防備に歌ってバフかけしている淳に、魔物が襲いかかってくると歌いながら鏡音が一撃で始末してしまう。
 その光景がだいたいかっこいいので、コメ欄、大盛り上がり。
『鏡音くんかっこいい!』『強すぎる』『上手すぎぃ!?』『もうこの二人だけでよくね?』『さすがプロ』『鏡音くんがイケメンすぎる』等、絶賛の嵐。
 やはりゲーム実況はゲームが上手い人のを見る方が楽しいのだろう。
 ゴールドサワガニは珍しい魔物ではないのだが、今日に限ってなかなか見つからないため想定よりも時間がかかり、ぐだってきそうなタイミングで淳の奇行と鏡音の戦いが見れるので閲覧者数は減っていない。
 今日は様子見のつもりだったので、程よいところで切り上げたいのだが……。

「はいはーい! こちらがダンジョン『川流れ』の中ボス、『荒鯉』でーす! それでは倒していきたいと思いまーす」
「ん?」
「おん?」
「なに?」
 
 人の声。
 まあ、別にダンジョンを貸切にしているわけではないので、他のプレイヤーがいるのはなにも不思議ではないのだが、言ってることが普通と少し違う。
 振り返った結果、お相手も人がいることに気がついたらしい。
 黒い髪に黄色いメッシュが入った男が、カメラの前で剣を掲げている。

逢魔おうま先輩……?」
「あれー! 円じゃ――」

 わあ、と嬉しそうな顔をして手を上げた男の真後ろから、その数倍の大きさの鯉が宙を泳いできた。
 目を丸くする宇月と魁星と周と柳。
 このダンジョン『川流れ』は巨大な川の中のようなダンジョン。
 川の中という設定なのか、場所によっては少し足を取られそうで、魔物もこのように水の中を泳ぐように現れる。
 フィールド自体がプレイヤーへのデバフになっており、歌バフがないと推奨レベルより高かったとしても苦戦するほどだ。
 もちろん、二回り以上推奨レベルより上の淳と鏡音にはあまり関係がない。
 鏡音の方はレベルにプラス持ち前のプレイヤースキルがあるので、本当にダンジョンごと破壊してしまう。
 振り返った途端に鯉の姿の魔物が、大口を開けて配信プレイヤーを丸呑みにしようと飛びかかる。
 鏡音が銃を取り出すと同時に、配信プレイヤーが回転しながら鯉の魔物を口の端からエラの部分までを複数の斬撃で引き裂いた。

「ひゃっほーい! 硬ってえー!」

 きゃっきゃ笑いながら鯉の上に着地して、嫌がって身悶えた鯉の背鰭から尾鰭までをこれまた複数回切り裂いてHPを削る。
 フィールド環境のデバフをものともせず、剣一本で頭を叩き落とす。
 初期装備にも関わらず、推奨レベル15~30の魔物を倒すなんて――

「ドカてん、知り合い?」
「うちのチームの人です」
「そんな気はしてたよぉ……」

 初期装備でここまでの動きをして、中ボス級の魔物をあっさり倒す時点で素人ではない。
 宇月が指差すと、鏡音が淡々と答える。

逢魔おうまあげは先輩です。格ゲー中心にゲーム配信している配信者で、プロゲーマーとしても活動しています」
「めっちゃドカてんと被ってるじゃん」
「はい。まあ。でも、自分はFPS系なので……」
「ああ、そっか。へー……」

 まったく興味のない宇月。
 しかし、高らかにカメラの前で討伐を喜ぶ男を見て「どうする? 狩場変える?」とアイコンタクトで訴えてきた。
 確かに、狩場が被ったら変えるのが一般的だが、淳たちも配信を行っている。
 しかも鏡音の知り合い。
 それなら配信者同士で絡んだ方が視聴者は喜びますよ、と鏡音が宇月に耳打ちする。
 宇月が若干嫌そうな顔を、カメラに映らない角度でしたのを見て、淳が「鏡音くん、紹介して」と頼む。
 多分、シンプルに人見知りが発動している。
 宇月、人見知りなので初対面には攻撃的な態度を取りがち。
 なので、淳が間に挟まることにした。

「逢魔先輩」
「あ! そうだそうだ! みんなー! 紹介するぜー! いや、知ってるやつも多いか? うちのチームの一番若いやつ! 鏡音円くんでーす! よっす! 円ちゃん!」
「どうも、鏡音円です」

 まったくの無表情で逢魔のカメラに向かって手を振る鏡音。
 その様子に逢魔が「え……? 円ちゃんがちゃんと挨拶した……」と口を指先で覆って一拍の沈黙。
 思わず全員鏡音に視線を集中してしまう。

「え? ドカてん、挨拶ができない子だったの?」
「……? そんなことはないです。配信者なので」
「嘘だー! えー! 円、どうしたん!? お前、手を振るとか視聴者にサービスするような子じゃなかったやん!」
(((((ああ……そういう……)))))

 全員察した。
 鏡音、確かに入学当初はお辞儀して「鏡音です」と挨拶している程度だった。
 だがさすがに入学して四ヶ月も経つと『手を振る』というファンサービスをするようになったらしい。


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