若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝

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月に叢雲、花嵐④

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 おかしいと思ったのはユフィだけではない。何せエヴァンス姉弟にとっては日々の勤務場所でもあるのだ。特に騎士は要人の警護に当たることも多いため、普段と少しでも違う点があったならいち早く気づかねばならない。
 現に、すぐさま女性二人を庇える位置に移動したクライヴは、空いた方の手で腰の剣に触れていた。一挙動で抜けるように、鍔元を鞘から少し浮かせているのがわかる。
 「……静かすぎる。普段なら朝議が終わって、王族や臣下の方々が戻ってこられる頃だが」
 「そうね、あの人たちは気配も声も華やかでいらっしゃるから。……そこに散らばっているの、本当に花びらなのかしら?」
 『おっ、いいカンしてますねぇ姐さん。ありゃあ触んない方がいいっスよ。どうも嫌な魔力っつーか、妖気とか瘴気みたいなもんを感じるっス』
 『めえめ。……ぅめ?』
 「うーちゃんも同じ意見みたいです。あとですね」
 すかさず補足するマイコニドに続いて、もふもふ訴えてきたバロメッツの言葉を意訳しようとしたときだ。思いがけないほど近くでおーい、と呼びかける声がした。一斉に発生源と思しき方に注目すると、
 「――おーい、もう誰もいないか? 声が出せないなら壁か柱か、床でもいいから叩いて知らせてくれ!」
 よく通る声で呼びかけながら、廊下の突き当りをこちらに曲がってきた人影がある。年の頃はクライヴくらいで、明るい金の髪に翠緑の瞳をした青年だ。背丈や体格も大体同程度だが、紺青の騎士装束ではなく白の略礼装姿で、床に触れそうなほど長い緋色の外套を羽織っている。顔立ちが端正に整っていることもあるが、そこにいるだけで自然と目を惹かれるような存在感があった。
 急ぎ足でやって来る最中にこちらを認めて、その表情が遠目でもわかるほどぱあっと明るくなる。おお、笑顔が眩しい。
 「クライヴ! セシリア嬢も、今ちょうど連絡しようと思っていたんだ! 来てくれて助かった!」
 「で、殿下? これは一体どういう状況なんですか」
 (やっぱり王子様だったー!! そういう身分の人の雰囲気だもんね、このお兄さん!!)
 駆け寄ってきた相手に対するクライヴの呼びかけに、その隣でひえっとなったユフィである。王冠こそ身に着けていないが、品格ある服装とか身にまとう空気とかが明らかに高位の人のそれだ。らしくもなく緊張して固まったのにもちゃんと気付いて、安心させるように柔らかく笑いかけてから話を続けてくれる。
 「ここで立ち話するのも何だから、ついて来てくれるか? 今ちょっと手が足りてなくて……そちらのお嬢さんにも、落ち着ける場所で話を聞いてもらった方がいいし」






 連れて来られた『奥』は、なかなか大変な状況だった。
 なにせ、広々とした空間いっぱいに簡易ベッドが並べられており、そのすべてに人が横たわっている。今にも死にそう、という者はいないようだが、全員が眉間にしわを寄せてしんどそうにしているから、そこそこ以上に具合が悪いのだろう。多分。
 問題だと思われるのは、その辛そうにしている面々が大体、豪華な服装の中年から壮年男性――つまり、かなりのお偉方にしか見えないという点だった。
 「……まあ! ここにいる全員、宰相方ばかりではないですか!!」
 「うん、そうなんだ。みんな朝議から戻る途中で気分が悪いって言い始めて……とにかく騒ぎになる前に、近衛隊の皆で医務室に運んでもらったんだけど」
 「賢明なご判断です。この事態が外に漏れるのは非常にまずいですから」
 ですね、うん。お互いにため息交じりな主従のやり取りに、密かに深く頷くユーフェミアとお供たちである。
 国の中枢が全員ダウンとか、もし反乱を起こそうとしている奴がいたら絶好のチャンスでしかない。殿下の素早い判断と行動に全力で拍手を送りたいところだ。
 
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