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月に叢雲、花嵐③
しおりを挟む訪問用のドレスというのは、八重咲のオールドローズみたいに裾がふわりと広がっている。確かに豪華だし、人が着ているのを見る分には無邪気にきれいだなぁ、とはしゃいでいただろう。だがしかし、ほぼ生まれて初めて纏ったユフィには動きにくくてしょうがなかった。
「すいません、支えていただいてしまって……」
「何もすまなくないよ。というか、作法としてはこれが普通だから、出来るだけ早いうちに慣れてほしいかな。照れくさいだろうとは思うけど」
「……ううう、はい。ちょっとだけ」
馬車を降りる時からごく自然に差し出してもらっている腕に、ほとんどしがみつくようにして歩いているというのに、クライヴは全くもって平気そうだった。現役の騎士らしくびくともしない体幹は見事としか言いようがないが、片側に重心が寄っている上に歩調を合わせているから絶対動きづらいはずだ。なのに、そんなことはおくびにも出していないどころか、むしろ頼ってもらえるのが嬉しいような気配すらあるんですが。
(わたしだって嬉しくないわけじゃないけど! でもこういうのを日常的にやってもらってたら、そのうち他のことでも当たり前に頼りに行っちゃいそうだなぁ……!?)
いかん、せっかく邸を出れるんだからと打ち立てたはずの自助自立という目標、どんどん計画倒れになっていく気がする。重ねて言うが嫌なわけではない、慣れていないからちょっと、いやかなり困ってしまうだけで……!
『……は~~~~、なんつーか、まだ初夏だってのに熱いっスねえ。ひゅーひゅー』
『んめ~~~』
「あっこら、まーくんにうーちゃん! 人聞きの悪いこと言わないで!? 何だか狙ってやってるみたいでしょっ」
『少なし旦那の方は狙ってるっスよねー。オレらが糖蜜吐く前に、目的地に着くことを祈っとくっス~~』
「そこはせめて砂とかにしようね!?!」
巾着モドキの中から心ないことを言ってくるお供二匹に、囁き声でツッコミを入れるという器用なことをしているうち、一行は階段に差し掛かっていた。普段なら景気よくたくし上げないと踏んづけそうだが、手を貸してもらっているので軽くスカートの裾を持ち上げるくらいで済む。難なくクリアして上の階にたどり着いた。すると、
「……あれ? 花びら?」
思ったことがそのまま口に出た。ふかふかした分厚い絨毯を敷き詰めた廊下に、たくさんの花弁が散らばっている。
バラだろうか。ハートに近い可愛らしい形で、色は濃い赤からほんのりとしたピンク、明るい黄色まで様々だ。不思議なことに近くには花瓶が見当たらず、壁や柱に直接下げる形の花器もなかった。ということは、急な来賓があって急いで運んだ名残だろうか。それにしたって掃除と同時進行しそうなものだが……
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