若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝

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瑠璃も真実も照らせば光る④

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 全力で拍手したいのを堪えて、ユフィはエリオットの方に身を屈めた。本当に熱が上がってきているらしく、そばかすの散った鼻の頭や頬、耳の辺りが真っ赤になっていて、目も虚ろだ。ちゃんと届くように声を張り上げる。
 「エリオット様、大丈夫ですか? ユーフェミアですよー、ほらほら」
 「……な、なんだよぅ、嫁にいったんじゃないのかぁ……」
 「行きましたけど、ちょっと聞きたいことがありまして。――あなた、?」
 「へ……?」
 「あれから何度もうちの子たちを観察したけど、どこにも虫さんなんていないんですよ。念のためにうーちゃんとまーくんにも見てもらったし」
 『はい、間違いないっス。どの御仁も元気なもんでした、食われた跡もゼロっス』
 『めっ』
 巾着モドキから顔を出した、お供二匹が太鼓判を押してくれる。そもそもエリオットが『虫に刺された』と騒いだとき、ヴァネッサは現場を見ていないし、あとで木の状態を確認しに来たわけでもない。まさしく子供の言を鵜吞みにしたわけだ。
 そして何故かはわからないが、ユフィの育てた草木は珍しいものばかりだ。中には先ほどのアムリタのように、聖樹や霊木と呼ばれるほどの力を持つ種類も存在する。ついでにさっき賢者が言っていた、昨日のフィンズベリー親子の移動ルートが気にかかる。もしも万が一、エリオットのケガが虫刺されなどではなく、もっとに対して過剰反応を起こしたのだとしたら?
 「うー……わかんない、実をもごうとしたら、急に手が痛くなって……」
 「……じゃあ、エリオット様も虫を見たわけじゃないんですね?」
 この子が悪態も付かずに素直に答えるなんて、相当具合が悪いんだな、と心配になりつつ確認する。残念ながら、返事はなかった。
 エリオットの言葉では。
 『――喧しいわ。小雀が』

 ――どんッ!!!!

 まだあどけない口元に不似合いな、恐ろしくしわがれた低い声が響いた瞬間、目と鼻の先で爆音が木霊した。
 吹き荒れた風と共に真っ黒なものが広がって、あわや呑まれかけたところを後ろから引き寄せてくれた腕に救われる。誰のものかは言うまでもない。
 「クライヴ様!」
 「ユーフェミア、無事か!? 賢者殿、そちらは大事ありませんか!!」
 《ええ、問題ありません。殿下も姉君もご無事ですよ。……ただねえ、女伯がちょっと》
 「……う、うわあ」
 さすがは本職というべきか、とっさに危険地帯から引き離してくれたクライヴに抱えられて視線を移した先では、見事に白目をむいたヴァネッサが床に伸びていた。さっきの爆風を避け損ねてどこかに激突したようだ。こちらは何とかかわしたと思われるセシリアが、律儀にも脈を取ってぶつけた個所を診てくれる。
 「……こぶが出来ていますが、呼吸は安定していますね。打ち身くらいは出来るでしょうが、命に別状はなさそうです」
 《そう、なら良かった。まだまだ言ってやらなきゃいけないことが山ほどあるから》
 「まだ終わってなかったんですか!?」
 《終わるわけないでしょうが。こっちはのためとはいえ、足掛け十年間ひたすら我慢してたんですよ? 後でひざ詰めで説教漬けにしてやらなきゃ――って、それどころじゃありませんね!
 殿下、この人を担いでセシリア殿と先に行かれてて下さい、神官部隊が施療院の正面で待機してますので》
 「じゃあ、もう手は打ってあるんだな? 勝算もあると」
 《勿論ですとも、勝つ気しかありませんよ! さあ早く!!》
 「わかった。セシリア嬢」
 「はい殿下、賢者様、仰せのままに。――クライヴ、ユーフェミアさんを頼みましたよ!」
 潔く頷いた殿下が、目を回しているヴァネッサを難なく抱え上げて、来た道を戻っていく。その後に続きながら、しっかり弟に釘を刺していくセシリアが頼もしすぎて、こんな状況だが思わず見とれてしまうユフィだ。無事に出れるといいのだが……
 「ということは、我々は戦闘班で確定ですか。ユーフェミアの安全だけは確保したいところだが」
 《それはちゃんと考えてあるから大丈夫。移動しながら説明します、とにかくあれが動き出す前に移動しましょう。こっちです!!》
 「は、はいっ!!」
 全く状況が分からない中、こちらもテキパキと場を仕切ってくれる賢者がありがたい。流れで共闘を張ることになりそうな相手に、とにかく元気だけはよくうなずいて、ユーフェミアはドレスの裾と巾着モドキを抱えて走り出した。

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