給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき

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甘い夜

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 肉厚な舌がマテウスの口内を余すところなく舐めて暴れ回る。
 勢いで歯と歯がぶつかってかちりと音を立てたが構わなかった。
 マテウスも舌を伸ばしてアイザックの上顎を撫でる。
 するときつく舌を吸われ、猛った陽物をゴリっと押し付けられた。

 アイザックが自分に欲情している。
 その事実がマテウスの頭を馬鹿にした。
 体を覆う服が鬱陶しい。
 脱がせると言うよりは剥ぎ取ると表現した方がいいくらい余裕なくアイザックの服を脱がせ始める。
 アイザックもマテウスの服に手をかけ、マテウスが先に脱がせ始めたはずなのに、マテウスよりも早くすべての服を脱がせ終わった。
 
 一糸纏わぬ姿になった二人はお互いの体を撫で、体を擦り合わせてシーツを乱していく。
 部屋には淫靡な空気が満ち、キスの水音がチュッチュッと響く。

「んんっ!」
「ふっ……」

 アイザックが二つの昂りをまとめて握り上下に扱く。
 他人に触らせるどころか、最近は滅多に自慰をすることもなかったマテウスにとっては、軽く触れられるだけでも相当な快感だった。
 ビリビリと稲妻が走る快感に、堪らず手の動きに合わせて腰を揺らしてしまう。
 このままキスしながらイけたら最高と思っていたら、頂の寸前でその手が離れていく。

「あっ、なんで……?」
「男同士はここを使うんですよ。ここは初めて、でいいんですよね?」
「当たり前だ!」

 アイザックが触ったのはマテウスの後孔だ。
 そんなところ誰にも触らせたことはないし、あとにも先にもアイザックだけでいい。
 この国では同性婚も認められていて、将来の伴侶がどちらでもいいように性教育される。
 男同士でそこを使うのは知っていて、ついでに中を洗浄してくれる洗浄玉という便利なものもある。
 
「よかった。でなければ嫉妬に狂うところでした」

 昏く笑うアイザックの瞳に、今まで感じていた快感が吹き飛ぶ。
 嫉妬に狂うって、誰に?
 
「まっ待って! それじゃあ、ジェイコブのことは?」

 マテウスが身体を許したのは今までにただ一人、ナディアだけだ。
 そして、彼女と結婚して生まれたのがジェイコブ。
 ナディアは既に鬼籍に入っているが、彼女との行為で生まれたジェイコブは?
 
「ナディアさんやジェイコブも含めて、今のあなたです。彼らがいたからこそ今のあなたがいて、そしてあなたの家族に学院に入学したての僕は救われたんです。親愛を感じこそすれ、憎むなんて絶対にあり得ませんよ。ただ、あなたを抱くのは俺だけじゃないと嫌です」
「僕だって、抱かれるのはアイクじゃないと嫌だ」

 アイザックの言葉に安堵すると同時に、マテウスはアイザック以外の誰かに抱かれるのを想像して気持ち悪くなった。
 彼以外の誰かとなんて無理だ。
 絶対に嫌。
 
「相思相愛ですね」

 アイザックは満足したように笑うと再びマテウスの後孔を撫でた。
 すると、ぶわりと魔力の気配が膨れて弾けた。
 どことなく体がスッキリして、そして後ろからとろりとした粘液が溢れ出た。
 
「なっ何を? 浄化玉は?」
「無機物といえど僕以外がここに入るのは我慢なりません。だから、浄化玉の元になった魔術を使いました」

 浄化玉は魔術の応用品だ。
 浄化の陣が描かれた水の膜の中に潤滑油を入れたもので、魔力を流すと膜が弾けるというもの。
 元は魔術だったが、万人向けに陣が開発されて今の形になったという。
 浄化玉が普及してからは魔術を扱える者の中でもこの魔術は廃れていったし、マテウスも必要性を感じなかったからどうやって発動するかは知らない。
 
「そこまで……」
「しますよ。愛しいあなたのためなら。指、入れますね」
「う、あ……っ!」

 ぬぷりとマテウスの中に入ってきた指は一本でも太くてきつかったけれど痛みは感じない。
 ただ、初めての感覚に体が強張る。
 その様子を見たアイザックは、また深いキスをマテウスに贈った。
 息継ぎの合間に体から力が抜け、その隙を狙って指がマテウスの中で動き回る。
 
 浅いところから奥へ、そして指が一本から二本へ増えていき、アイザックによってとろとろのふわふわに解されたそこは、いつの間にか快感を拾うようになっていた。
 中を擦られると腹の奥がきゅんと切なくなる。
 焦ったい感覚に悶えていると、腹側の浅いところを触られて勝手にびくりと体が跳ねた。

「ああっ……⁉︎ なっ何、そこ……!」
「前立腺ですよ。ここ、気持ちいいですか?」
「わ、からない」
「じゃあ、わかるようにもっと触りますね」
「ま、待っ……んあああっ……!」

 マテウスの静止を聞かず、アイザックは前立腺を執拗に触り始めた。
 そっと撫でたかと思えば爪で引っ掻くように擦り、または押し潰すように触ってくる。
 マテウスは突き抜ける稲妻に翻弄されて悲鳴を上げながら体をくねらせた。
 口の端から垂れた唾液が……とか、年相応にだらしなくついた腹の肉が……とか、陰毛だらけのなにに、、、とか、そんなこと考えている余裕はなかった。
 なにしろ、前立腺を攻められながらもアイザックのもう片方の手はマテウスの全身を撫で回し、唇はそこかしこを吸って紅い痕を残していくからだ。

 息も絶え絶えになったころ、アイザックはようやくマテウスの中から指を抜いた。
 けれど、休む間もなく彼の硬く脈打つ陽物が当てがわれた。

「挿れます」
「ん……、早く来て」
「だから煽らないでって言ってるじゃないですか!」

 イきたいのにイけないギリギリのところで焦らさせた体は、より大きな刺激を求めている。
 十分に解されたそこはアイザックのものを求めてヒクヒクと痙攣している。
 そんな状態でねだるななんて無茶言わないでほしい。
 アイザックの昂りに自分の腰を押し付けると、彼はマテウスの腰を掴み、一気に奥へ自身を埋めていった。

「ぐ、ああああっ……!」
「っう……、はぁっ……!」

 指よりも強い圧迫感なのに、苦しいのに、それがとても気持ちいい。
 奥までたどり着いたアイザックがぎゅっとマテウスを抱きしめてくると、欠けていたものが埋められていくような充足感と多幸感に包まれる。

「マテウス、愛しています。大切にします。ずっと俺といてください」
「ああ、アイク。僕も君が愛しい。大丈夫。ずっと一緒にいるよ」

 触れるだけの口付けを交わし互いに誓う。
 例えなにが起こったとしても、もうこの子を離すことなんてできない。
 外野が何と言おうと知ったことか。

(この子はもう僕のものだ)

 舌を伸ばして触れるだけのキスから深いものに仕掛けていく。
 けれど、口角を上げたアイザックから舌を吸い上げられ、ペースは彼のものとなる。

 大人しく待っていたアイザックの昂りはマテウスの中でピクピクと主張し、それを宥めるように腰を揺すればアイザックは堪らず腰を動かし始めた。
 先端で前立腺を押しつぶし、括れの引っ掛かりで擦られると視界に火花が散った。
 ようやく待ち焦がれていた刺激が体を突き抜ける。

「あっあっあっ……、や、アイク、ぅああっんんんん……!」
「マテウス、マテウス……!」

 マテウスを愛していると如実に伝える瞳は灼熱を帯びている。
 その瞳に映るマテウスのそれも同じだ。
 求め合って、満たして、それでも足りなくて劣情をぶつけて貪り合う。
 今この瞬間だけは、この世界にたった二人だけだ。

「ひッ……あ、アイクぅ……!」
「イき、ましょうっ……一緒にっ」
 
 不意にアイザックが僕の昂りを掴んだ。
 腰の動きに合わせて動かされると、張り詰めていた欲は簡単に弾ける。

「い、イクッ……あっあっんあああっ!」
「っマテウス……っ!」

 マテウスが白濁を飛ばして体をびくつかせると、アイザックも身震いをしてマテウスの中に吐精した。
 じんわりと広がる熱が愛おしくて、自分の白濁で滑った腹を撫でる。
 この奥にアイザックがいると思うと、だらしなく顔が溶けてしまう。

「そんな顔したらまたしたくなっちゃいます」
「ダメかい?」
「無理はさせたくないです」
「僕が大丈夫って言ってるのに?」
「っもう、あなたは……!」

 だって、マテウスの中のアイクは射精したというのにまだ熱く主張している。
 そんな状態でそのままにしておくのは可哀想だし、一人で処理をさせるなんて彼の手に嫉妬してしまう。
 久々の性交、そして初めての受け入れる側で体は疲弊しているけれど、気持ちはまだまだ鎮まらない。
 マテウスだってそんな状態でさあ寝ましょうなんて言われても無理だ。

 後ろに力を入れてきゅっと中を締めると、アイザックは低く呻いてぎっとマテウスを睨め付けた。
 どうなっても知りませんよ、と凄んで彼はまたマテウスを快楽の渦の底へと叩き落とした。
 その激しさはきっと彼が十数年我慢してきた欲と比例していて、正直煽ってしまったことをほんの少し後悔した。
 でも、それだけ想われているのであれば悪くはないと思えた。
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