9 / 11
なんで!
しおりを挟む
迎えた朝、というか昼。
「すみません。自分でも止められなくて……」
「君が責任持って世話してくれるんだろう?」
「もちろんです」
ベッドから動けなくなったマテウスと、甲斐甲斐しく世話をするアイザックの姿があった。
体やシーツは魔術ひとつで綺麗にされ、喉が乾けば口移しで水を与えられる。
流石にお腹が空いたので一階のテラスにあるソファに抱き上げられて移動し、アイザックが作った食事を彼の手ずから食べさせてもらう。
「気になっているんだけど、なぜ君は昨日想いを伝えてくれたんだい? 何か特別な日だったっけ?」
「本当はあなたからの好意が明確になってからと考えていました。だから、自分でもなぜあんな早急に告白してしまったかわからないんです。酒に強いはずで、酔ったわけでもないとと思うんですけどね……」
「昨日、いつもと違ったのは僕が持ってきたワインくらいだよね。あれ、そんなにアルコール強かったかな?」
「ちょっと見てみますね」
保冷庫にしまっていたワインを取りに行き、冷えたボトルを持ってアイザックは戻ってきた。
二人でそのラベルを見ると、そこにはこんなことが書いてあった。
『恋人たちの祝杯
~温暖な気候のカーテル地方で栽培されるブドウは地の精霊のお気に入り。和を好む彼らはブドウにとあるまじないをかけた。すれ違う両者が素直になれますように、と~』
*
夕方帰宅すると、ジェイコブが夜勤でこれから出勤するところだった。
騎士になって数年、筋肉もつきマテウスよりひと回りは大きくなった彼を見ると感慨深くなる。
「おかえり……って、ああ、やっとか。アイザック兄さんもようやく報われたな」
「ただいま。ジェイコブ、どういうこと?」
「どうもこうも、その様子からアイザック兄さんと結ばれてきたんだろう? 父さんのことだから理解してなかったんだろうけど、七年も求愛されておいて振るとかありえないしさ」
「は⁉︎ 求愛?」
アイザックと相思相愛になったことを見抜かれたこと、そしてそれを知って動揺しないジェイコブにも驚いたが、アイクから七年も求愛されていたと聞いて驚愕した。
一体いつ、どうやって?
しかもそれをなんでジェイコブが知っている?
「アイザック兄さんのお母さまがメイシュク族の出身なのは知ってるだろ」
「北方の遊牧民族だっけ? 知ってるけど、それがなに?」
アストラウス国の外、北方にある草原を羊とともに生活して季節の移ろいに合わせて移動する彼らは、今は数少ない遊牧民族のひとつだ。
世界が発展していく中、部族の若い者たちは世界を知るために一度はいずれかの国で生活をし、何年か経つと家族の元へ帰るという。
もちろん、一部にはアイザックの母のように外の世界で暮らすこともいて、それも許されている。
でもそれがなんだというのか。
「彼らのプロポーズは男女ともに言葉じゃなくて給餌行為だよ。アイザック兄さんが学院に戻ってきてすぐ受け始めただろう?」
「え、いや……ええ?」
待て、給餌行為が求愛?
そんなの聞いたことないぞ?
「それが珍しいから世界史の授業で習うし、父さんが学生のときから教わってたはずだけど。ちなみにもしかして酒屋の兄さんからワイン勧められた?」
「あっああ、カーテル地方の……」
突然、件のワインの話を持ち出されてどきりと心臓が跳ねた。
僕がアイザックと付き合うことになったのはあのワインのおかげだけど、なぜそれを匂わすことをジェイコブが言ってくる?
「あれ、俺がおすすめしてって言っておいたやつ。だから俺が二人のキューピットってわけ。アイザック兄さんに言っておいてよ、お礼は美味しいお酒がいいですって。あ、もう行かなきゃ。帰りはいつも通り明日の昼になると思うよ。いってきます」
「いってらっしゃい……」
ジェイコブは言いたいことだけ全部言うと、マテウスが呆然としている間に慌ただしく徐々に暗くなる街へと出掛けていった。
彼には色々聞きたいことも言いたいこともあるが、それはさておき。
給餌行為が求愛だとすれば、マテウスは七年前から不特定多数が出入りする学院の食堂で毎日公開プロポーズされていたことになる。
そして、彼の家で二人っきりで食事をしていたときにも求愛されていたと……。
だとしたら、マテウスはとんでもない無神経で鈍感野郎じゃないか!
なのに、なんで、なんで……!
「給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ⁉︎」
「すみません。自分でも止められなくて……」
「君が責任持って世話してくれるんだろう?」
「もちろんです」
ベッドから動けなくなったマテウスと、甲斐甲斐しく世話をするアイザックの姿があった。
体やシーツは魔術ひとつで綺麗にされ、喉が乾けば口移しで水を与えられる。
流石にお腹が空いたので一階のテラスにあるソファに抱き上げられて移動し、アイザックが作った食事を彼の手ずから食べさせてもらう。
「気になっているんだけど、なぜ君は昨日想いを伝えてくれたんだい? 何か特別な日だったっけ?」
「本当はあなたからの好意が明確になってからと考えていました。だから、自分でもなぜあんな早急に告白してしまったかわからないんです。酒に強いはずで、酔ったわけでもないとと思うんですけどね……」
「昨日、いつもと違ったのは僕が持ってきたワインくらいだよね。あれ、そんなにアルコール強かったかな?」
「ちょっと見てみますね」
保冷庫にしまっていたワインを取りに行き、冷えたボトルを持ってアイザックは戻ってきた。
二人でそのラベルを見ると、そこにはこんなことが書いてあった。
『恋人たちの祝杯
~温暖な気候のカーテル地方で栽培されるブドウは地の精霊のお気に入り。和を好む彼らはブドウにとあるまじないをかけた。すれ違う両者が素直になれますように、と~』
*
夕方帰宅すると、ジェイコブが夜勤でこれから出勤するところだった。
騎士になって数年、筋肉もつきマテウスよりひと回りは大きくなった彼を見ると感慨深くなる。
「おかえり……って、ああ、やっとか。アイザック兄さんもようやく報われたな」
「ただいま。ジェイコブ、どういうこと?」
「どうもこうも、その様子からアイザック兄さんと結ばれてきたんだろう? 父さんのことだから理解してなかったんだろうけど、七年も求愛されておいて振るとかありえないしさ」
「は⁉︎ 求愛?」
アイザックと相思相愛になったことを見抜かれたこと、そしてそれを知って動揺しないジェイコブにも驚いたが、アイクから七年も求愛されていたと聞いて驚愕した。
一体いつ、どうやって?
しかもそれをなんでジェイコブが知っている?
「アイザック兄さんのお母さまがメイシュク族の出身なのは知ってるだろ」
「北方の遊牧民族だっけ? 知ってるけど、それがなに?」
アストラウス国の外、北方にある草原を羊とともに生活して季節の移ろいに合わせて移動する彼らは、今は数少ない遊牧民族のひとつだ。
世界が発展していく中、部族の若い者たちは世界を知るために一度はいずれかの国で生活をし、何年か経つと家族の元へ帰るという。
もちろん、一部にはアイザックの母のように外の世界で暮らすこともいて、それも許されている。
でもそれがなんだというのか。
「彼らのプロポーズは男女ともに言葉じゃなくて給餌行為だよ。アイザック兄さんが学院に戻ってきてすぐ受け始めただろう?」
「え、いや……ええ?」
待て、給餌行為が求愛?
そんなの聞いたことないぞ?
「それが珍しいから世界史の授業で習うし、父さんが学生のときから教わってたはずだけど。ちなみにもしかして酒屋の兄さんからワイン勧められた?」
「あっああ、カーテル地方の……」
突然、件のワインの話を持ち出されてどきりと心臓が跳ねた。
僕がアイザックと付き合うことになったのはあのワインのおかげだけど、なぜそれを匂わすことをジェイコブが言ってくる?
「あれ、俺がおすすめしてって言っておいたやつ。だから俺が二人のキューピットってわけ。アイザック兄さんに言っておいてよ、お礼は美味しいお酒がいいですって。あ、もう行かなきゃ。帰りはいつも通り明日の昼になると思うよ。いってきます」
「いってらっしゃい……」
ジェイコブは言いたいことだけ全部言うと、マテウスが呆然としている間に慌ただしく徐々に暗くなる街へと出掛けていった。
彼には色々聞きたいことも言いたいこともあるが、それはさておき。
給餌行為が求愛だとすれば、マテウスは七年前から不特定多数が出入りする学院の食堂で毎日公開プロポーズされていたことになる。
そして、彼の家で二人っきりで食事をしていたときにも求愛されていたと……。
だとしたら、マテウスはとんでもない無神経で鈍感野郎じゃないか!
なのに、なんで、なんで……!
「給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ⁉︎」
476
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!
惚れ薬をもらったけど使う相手がいない
おもちDX
BL
シュエは仕事帰り、自称魔女から惚れ薬を貰う。しかしシュエには恋人も、惚れさせたい相手もいなかった。魔女に脅されたので仕方なく惚れ薬を一夜の相手に使おうとしたが、誤って天敵のグラースに魔法がかかってしまった!
グラースはいつもシュエの行動に文句をつけてくる嫌味な男だ。そんな男に家まで連れて帰られ、シュエは枷で手足を拘束された。想像の斜め上の行くグラースの行動は、誰を想ったものなのか?なんとか魔法が解ける前に逃げようとするシュエだが……
いけすかない騎士 × 口の悪い遊び人の薬師
魔法のない世界で唯一の魔法(惚れ薬)を手に入れ、振り回された二人がすったもんだするお話。短編です。
拙作『惚れ薬の魔法が狼騎士にかかってしまったら』と同じ世界観ですが、読んでいなくても全く問題ありません。独立したお話です。
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算
てんつぶ
BL
「呪いは解くので、結婚しませんか?」
竜を愛する竜騎士・リウは、横暴な第二王子を庇って代わりに竜の呪いを受けてしまった。
痛みに身を裂かれる日々の中、偶然出会った天才魔法使い・ラーゴが痛みを魔法で解消してくれた上、解呪を手伝ってくれるという。
だがその条件は「ラーゴと結婚すること」――。
初対面から好意を抱かれる理由は分からないものの、竜騎士の死は竜の死だ。魔法使い・ラーゴの提案に飛びつき、偽りの婚約者となるリウだったが――。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる