給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき

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なんで!

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 迎えた朝、というか昼。

「すみません。自分でも止められなくて……」
「君が責任持って世話してくれるんだろう?」
「もちろんです」

 ベッドから動けなくなったマテウスと、甲斐甲斐しく世話をするアイザックの姿があった。
 体やシーツは魔術ひとつで綺麗にされ、喉が乾けば口移しで水を与えられる。
 流石にお腹が空いたので一階のテラスにあるソファに抱き上げられて移動し、アイザックが作った食事を彼の手ずから食べさせてもらう。

「気になっているんだけど、なぜ君は昨日想いを伝えてくれたんだい? 何か特別な日だったっけ?」
「本当はあなたからの好意が明確になってからと考えていました。だから、自分でもなぜあんな早急に告白してしまったかわからないんです。酒に強いはずで、酔ったわけでもないとと思うんですけどね……」
「昨日、いつもと違ったのは僕が持ってきたワインくらいだよね。あれ、そんなにアルコール強かったかな?」
「ちょっと見てみますね」

 保冷庫にしまっていたワインを取りに行き、冷えたボトルを持ってアイザックは戻ってきた。
 二人でそのラベルを見ると、そこにはこんなことが書いてあった。

『恋人たちの祝杯
 ~温暖な気候のカーテル地方で栽培されるブドウは地の精霊のお気に入り。和を好む彼らはブドウにとあるまじないをかけた。すれ違う両者が素直になれますように、と~』

   *

 夕方帰宅すると、ジェイコブが夜勤でこれから出勤するところだった。
 騎士になって数年、筋肉もつきマテウスよりひと回りは大きくなった彼を見ると感慨深くなる。

「おかえり……って、ああ、やっとか。アイザック兄さんもようやく報われたな」
「ただいま。ジェイコブ、どういうこと?」
「どうもこうも、その様子からアイザック兄さんと結ばれてきたんだろう? 父さんのことだから理解してなかったんだろうけど、七年も求愛されておいて振るとかありえないしさ」
「は⁉︎ 求愛?」

 アイザックと相思相愛になったことを見抜かれたこと、そしてそれを知って動揺しないジェイコブにも驚いたが、アイクから七年も求愛されていたと聞いて驚愕した。
 一体いつ、どうやって?
 しかもそれをなんでジェイコブが知っている?
 
「アイザック兄さんのお母さまがメイシュク族の出身なのは知ってるだろ」
「北方の遊牧民族だっけ? 知ってるけど、それがなに?」

 アストラウス国の外、北方にある草原を羊とともに生活して季節の移ろいに合わせて移動する彼らは、今は数少ない遊牧民族のひとつだ。
 世界が発展していく中、部族の若い者たちは世界を知るために一度はいずれかの国で生活をし、何年か経つと家族の元へ帰るという。
 もちろん、一部にはアイザックの母のように外の世界で暮らすこともいて、それも許されている。
 でもそれがなんだというのか。
 
「彼らのプロポーズは男女ともに言葉じゃなくて給餌行為だよ。アイザック兄さんが学院に戻ってきてすぐ受け始めただろう?」
「え、いや……ええ?」

 待て、給餌行為が求愛?
 そんなの聞いたことないぞ?
 
「それが珍しいから世界史の授業で習うし、父さんが学生のときから教わってたはずだけど。ちなみにもしかして酒屋の兄さんからワイン勧められた?」
「あっああ、カーテル地方の……」

 突然、件のワインの話を持ち出されてどきりと心臓が跳ねた。
 僕がアイザックと付き合うことになったのはあのワインのおかげだけど、なぜそれを匂わすことをジェイコブが言ってくる?
 
「あれ、俺がおすすめしてって言っておいたやつ。だから俺が二人のキューピットってわけ。アイザック兄さんに言っておいてよ、お礼は美味しいお酒がいいですって。あ、もう行かなきゃ。帰りはいつも通り明日の昼になると思うよ。いってきます」
「いってらっしゃい……」

 ジェイコブは言いたいことだけ全部言うと、マテウスが呆然としている間に慌ただしく徐々に暗くなる街へと出掛けていった。
 彼には色々聞きたいことも言いたいこともあるが、それはさておき。

 給餌行為が求愛だとすれば、マテウスは七年前から不特定多数が出入りする学院の食堂で毎日公開プロポーズされていたことになる。
 そして、彼の家で二人っきりで食事をしていたときにも求愛されていたと……。
 だとしたら、マテウスはとんでもない無神経で鈍感野郎じゃないか!
 なのに、なんで、なんで……!

「給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ⁉︎」
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