婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。

平井敦史

文字の大きさ
21 / 50
第二章 馬鹿王子、巻き込まれる

第21話 馬鹿王子、巻き込まれる その十五

しおりを挟む
 水浴びを終えて、僕らは川から上がった。上着もそろそろゆすいで乾かそうか。
 絞って水気を切ってから、風魔法で乾燥させる。
 そうしていると、フィリップが話しかけてきた。

「そう言えば、くだん飛竜ワイバーンはどうなさったのですか? 何やら治療なさっているようだったと、偵察の者が申しておりましたが」

「ああ、あいつなら、斬り落とした翼を繋げてやって、レニーが使い魔にしたよ」

 僕の言葉にフィリップは一瞬絶句した後、絞り出すように言った。

「……つくづくとんでもない女ですね。やはり、あれを敵に回そうとした私たちが愚かだったということでしょうか」

「そう思うのなら、もう手を引くんだな」

「はい、つくづくりました。父にしてみても、単に気に食わないというだけで実害があるわけでもない小娘一人のために、赤鼠の精鋭をごそっと失ったのは大誤算だったでしょうし」

 だといいのだけどな。
 さすがに赤鼠の戦力を全て投入したわけではないだろうし、フィリップも赤鼠の全容は知らされていないようだが、それでも今回のメンバーが選りすぐりだったのは間違いなさそうだ。
 レニー一人を狩るには過剰すぎるほどの戦力を投じておいて、それが全滅させられたのでは、ロレイン公も頭を抱えたくなるだろう。
 ただ、貴族というやつはメンツが命みたいなところがあるからなぁ。
 意地になって手を出してくる可能性も否定しきれない。

「あー、さっぱりした」

 レニーがセイとマドラをつれて戻ってきた。
 タンベリーの宿では体を拭うだけだったからな。本人も言うとおり、さっぱりした表情だ。

「……だいたい、有翼獅子グリフォンを使い魔にしているって時点でおかしいんだよなぁ」

 フィリップが呟いた。
 彼も幻獣召喚の授業は受けていたからな。その時の一部始終はその目で見ていたのだ。

「そういうあんただって成功させてたじゃん、幻獣召喚。例年、ほとんどの生徒が失敗するって話だったでしょ」

「ほとんど役に立たないけどな。山羊魚カプリコーンなんて」

 フィリップが召喚したのは、体の前半分が山羊で後ろ半分が魚の姿をした幻獣だった。
 まあたしかに、陸上では魚の尻尾を引きずりながらのたのた走り、さりとて水中での泳ぎが速いともがたい、残念な幻獣だ。

 本当にこのフィリップという男は、決して魔法の才に恵まれていないわけではなく、努力だってしているのだけれど、せいぜい秀才止まりなんだよな。
 ついでに言うと、彼の四人の兄たちも、あまり突出した才の持ち主はいない。
 ただし、フィリップは魔道具の扱いや開発に関しては才に恵まれており、それを活かすことができれば、とは思うのだが。

 レニーも上着を乾かす。
 香水のにおいはさほど気にならないくらいにまで落ちてくれた。
 元々、香水入りの水をまともにかぶったわけではなく、その場にいたためにおいが染みついただけだからな。
 マドラも調子が戻ってきたようだ。よしよし。

 そのまま河原で焚き火をおこし、交代で睡眠を取りながら夜明けまで過ごした。
 そして東の空がしらみかけるころ、ウィンザーの城門へと向かう。
 夜中には空全体を覆っていた雲は、夜明けを迎える頃にはかなりまばらになっていた。
 黒妖犬マドラはともかく有翼獅子セイは目立ちすぎるので、一旦お役御免だ。
 レニーが魔法陣布を広げ、幽明の狭間に封印する。

 城門の前にたどり着くと、野営して開門を待っていたのは僕たちだけではなかったようで、数人の行列が出来ていた。
 朝日が昇り始めると同時に、かねが打ち鳴らされ、城門が開く。
 口頭での簡単な手続きを終え、城門をくぐると、いきなり声を掛けられた。

「マグ、レニー!」

 ジェスたちだ。
 エレナ嬢たちを連れて無事ウィンザーに着き、夜は城門の中で過ごしたものの、僕たちのことを心配してくれていたのだろう。

飛竜ワイバーンはどうしたんだ。撃退したのか? まさか倒してしまったとか……」

 ブリッツが駆け寄って来て尋ねる。
 使い魔にしました、とはさすがに言えないよなぁ。

「ヒースリー山地にあの飛竜ワイバーンが姿を見せることはもうありませんよ」

 うん、嘘は言ってないぞ。

「マジかよ。すげえな……。っておい、かすかにいい匂いがするぞ。花売りキャラバンでも回ってたのか?」

 花売りのキャラバン?
 何だそりゃ。王都の広場では花を売ってる屋台も見かけるけど、城壁の外にはいないだろうに、などと考えていると、

「馬鹿たれ! レニーも一緒なんだよ。そんなの買うわけないだろ!」

 ジェスが思いっ切りブリッツをどついた。
 何が何だかわからないな。
 レニーに聞いてみようかと思ってそちらを窺うと、なんだか気まずそうな表情を浮かべている。

「あー、殿でん、いや、マグ。“花売りキャラバン”ていうのはな、若い――とは限らないが――女たちを馬車に乗せて、各地を回る連中のことだ。何を売っているかは言わなくてもわかるな?」

 フィリップが教えてくれた。
 あー、そういうやつか。戦場などにも慰問に回ったりするっていう、あれだな。
 ちょっと頬が熱くなる。

「ん? 誰だい、あんた」

 ブリッツがフィリップに目を向ける。
 あー、さて、何と説明したものか。

「あの、もしかしてフィリップ様ですか? ロレイン公爵家の」

 おずおずと声を掛けたのは、エレナ嬢だった。彼女も来ていたのか。
 彼女の実家スピアード商会は魔道具取り扱いに関しては大手。ロレイン公爵家に出入りしていてもおかしくはないが、娘のエレナ嬢が公爵家の息子、それも五男坊を知っているのか?

「君は……、スピアード商会のエレナ嬢か」

「はい! 覚えていていただいて光栄です!」

 ものすごく嬉しそうな表情を浮かべるエレナ嬢に、ジェスが尋ねる。

「えーっと、お知り合いですか?」

「はい! こちらはロレイン公爵家の御子息で、私の婚約者のフィリップ様です!」

 え、フィリップとエレナ嬢が婚約者同士!? 何だその偶然!?
 あ、いや、偶然ではないのか?
 まさか、最初から仕組まれていた?
 じゃあ、フィリップの婚約者と知っていて、飛竜ワイバーンをけし掛けたのか?

 ふと見ると、エレナ嬢に付き添っていた女性――たしかサラといったか――の顔が青ざめている。
 彼女も一件に関わっていて、フィリップとレニーが一緒にいることに困惑しているのか?
 彼女の役割がどの程度のものなのかはわからないが、そりゃあ、主家しゅけ――なのだろう、おそらく――のお坊ちゃまと標的が一緒にいたら混乱するわな。

 一方、フィリップの顔を窺うと、エレナ嬢と出会でくわしたことに本気で驚いているようだ。
 どうやら本当に、彼は知らなかったようだな。
 やはり悪いのはヴィクターという男か。

 取りあえずブリッツたちには、フィリップと僕たちは魔法学校の同級生で、フィリップが飛竜ワイバーンに襲われて連れとはぐれたところに偶然出会でくわした、ということにしておいた。
 いささか苦しい言い訳だが仕方ない。

 さて、サラから詳しい話を聞きたいところだが、どうしたものか、と思案していると、フィリップがエレナ嬢に向かって言った。

「エレナ嬢、すまないがちょっとサラと話がしたい。いいかな?」

 おっと、僕の気持ちを察してくれたのか? 気が利くな。
 彼自身も気になっているのかもしれないが。

「サラ、ちょっとこちらへ来てくれ。君の実家に関わることだ」

 ん? サラは元々ロレイン公爵家とかかわりがあったのか?
 僕の疑問に、フィリップが答えてくれた。
 彼女はフィリップとエレナ嬢の婚約が決まった時に、公爵家から教育係として送り込まれたのだそうだ。なるほど。

「マグ、君も一緒に来てくれ」

 フィリップはそう言って、サラと僕を連れて皆から十メートルばかり離れた路地裏に入った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...