Ωの愛なんて幻だ

相音仔

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本編

他の誰かじゃ駄目なんだ

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 移動車で揺られ、途中で何度か乗り物を変えた。
 俺は、指示された通り、特に抵抗もせずに従った。
 そうすれば、男たちは俺に危害は加えないとはっきり言った。
 一度渋ってみせたときも、ナイフのようなものをチラつかせただけで、本当に切りつけようとはしない。
「Ωを傷物にしたら勿体ないからな。でもその辺のβの女を巻き込んでもいいんだぜ。この国の女ってだけで、βでも価値はあるんだ」
 東区の農村近くでそう言われて、俺は完全に抵抗する気が失せた。自分のために誰かが巻き込まれるのは嫌だった。それに俺以外に4人は確認できた。他にももっと仲間がいるかもしれない。逃げ切れるとはとても思えなかった。
「どうして、この国の女性なの?」
「世間知らずのΩは知らねぇか。まず容姿が人気だ。それに、この民族は身体も丈夫で健康な奴が多くて、子どもを望みやすい。俺らの商売相手の国には人気なんだ」
 世界全体で出生率の低下に悩んでいると聞いていたけれど、この国は他国に比べたらマシなそうだ。
 身体が大きくて、パワフルな人が多いと思っていたのは、俺の間違いではなかったらしい。

 男たちは自分たちの武勇伝を話すように、これまでの誘拐について、あっさりと話した。
 人身売買が取り締まられていない外国で、この国のΩと女性、要は子供を産める性は特に相場がいいらしい。
 ただ、近年は入出国への警備と管理が厳しく、商売があがったりだとも言っていた。
「今となっちゃ、Ωを積極的にかっさらうのは難しい。特に最近は中央区から出るΩの警備が凄まじくてな」
 中央区内での誘拐は、ほぼ不可能らしい。昔は多くの同業者がいたが、ここ数年でほとんど一掃されたとぼやいていた。
「警備に使われる移動車に似せた車を手に入れ、制服に似た服を作り、ひっかかるΩを待ってたんだ」
 彼らの組織は、良さそうなβを主に標的にしつつ、時折中央区の外に出るΩを狙っていたそうだ。
 それにまんまとひっかかった間抜けなΩが俺というわけか。

 そもそもの警戒心が薄すぎた。
 この国に生きるΩは、皆、言い聞かされて育っている。
 誘拐は怖いもので、いつ自分の身に降りかかってもおかしくはないと。幼い頃から、意識に刷り込まれたそれは、俺とは土台が違う。

 一方の俺が育ったモーヴェと言えば、ちょっと裏路地にあるような後ろ暗い店にいけばΩが勤めているし、当たり前に街を歩いているのだ。
 この国のように、誘拐もあったけれど、それで狙われるのは上流階級の子どものΩだ。俺が狙われることなどない。そんな気持ちが心のどこかであったのだろう。
 自分が巻き込まれるっていう当事者意識が低かった。

「俺、これからどうなるの?」
 不安な声が思わずこぼれた。
「アルロマルテって国は知ってるか?」
 知らない国だった。俺はパディーラについて知るので精一杯で、他の国の事はまだ分からない。
 首を振ると、男は答えた。
「知らないか。まぁ隣国ってわけでもないしな。陸路で行っても2つ3つは国を超える。あの国はここより貧富の差が激しい。権力者のαが絶対の国だ」
 国をまわしているのはαで、政府の役員等大事な役目は基本的にαが担っているそうだ。なんか俺がいた国と似てるな……。
「あの国のαはΩの妻がいるのがステータスなんだ。だから、どんな手を使ってもΩが欲しい。他の国と一緒でその数は減少してるけどな」
 どんな手を使っても……犯罪組織から売られたΩを買ったとしても……という事か。
「実際はいくつか国を通るし、組織いくつかわたる。最終的にお前がいくのは、犯罪に巻き込まれて身寄りがなくなったΩの保護機関だ。そこからアルロマルテに繫げる」
 犯罪に巻き込まれた……。確かに巻き込まれたけど、違うくないか?
 あのままで俺は充分幸せだったのに、無理やり引き離すのはこいつらじゃないか。
「納得いかないって顔だなぁ。まぁ諦めろ」
 俺の不満げな顔を見ても、男はどこふく風だった。
「心配するなって、買い取り先のαは富豪だし、Ωを心待ちにしてるんだ。おまえは大事にされるよ」

 大事にされる……それなら、いいか。なんて、一瞬も思わなかった。
 
 そりゃ、最初は成り行きだったよ。
 なんでこの世界に来たのかも分からない、どうしてリュミエールだったかも分からない。
 でも、彼と一緒に過ごした数ヶ月は、楽しかった。
 そうだ。俺はあの生活が好きだった。

 連れていかれた先で求められるのは、ただのΩとしての俺だ。
 それは、誰でも良いんだろ?
 俺が良いと、俺だから良いって言ってくれた彼とは違う。

 そこでは、当然子どもを求められるだろう。
 うまく出来るかどうかは分からない。俺の身体のことだって知らない。
 いっそここで中途半端なΩだって言うか?
 言ったところで素直に帰してくれるわけないか。
 まぁ別に、今まで、多くのαを相手にしてきたから大丈夫……。

 ……いやだ。嫌だなぁ。もう俺は、リュミエール以外に触られたくなんてなかった。
 俺は、彼のΩでいたかった。

 そうかぁ……。そうだったんだなぁ。
 誰でもいいわけじゃなかった。大事にされるなら、何処でも良いわけじゃなかったんだ。
 俺は、リュミエールの傍だから、あんなに自由でいられたんだ。

 あーあ。馬鹿だから、無くしてから気づくんだよな。
 でもさぁ。一度も貰ったことなかったんだから、仕方なくない? 
 あんなに真っすぐな愛情も、想いも全部、知らなかったんだ。
 誰かの都合で取り上げられるくらいなら、知らないままでいたかった。
 前の自分だったら、この状況もぼんやり流されるままだっただろうに。



「ついた、ここからは川を下る」
 陸路で隣国には渡らないらしい。川を下り、港があるところまで行くそうだ。
 そこから海を渡る。陸路の方が安全だし速いらしいが、あえて航路を選ぶことで、逆手にとっているのだと自慢気に話していた。
「服はこちらで用意したものに着替えてもらう。全部脱げ」
 手渡された服に着替えようとした時、監視していた男は俺の手首にハマった腕輪をみた。
「ん? おい!お前それ、良く見せろ」
 男は腕輪をみると、慌てて力ずくで外すと、川へ投げ捨てた。
「最悪だっ!!こいつ政府の紐付きのΩだ」
 男の声に周りにいた男たちにも動揺が走る。
「は?なんで中央区の外にそんな奴がいるんだよ」
「知るかよ! クソが。おいお前、連れ込むときに気づかなかったのか?」
 護衛の人の服を真似て来ていた男が詰め寄られる。
「服で隠れてたから、分かるわけないだろ。それに、誰も調べようなんて言わなかった」
「どちらにしろ、こっちの行動は筒抜けだ。一分一秒が惜しい。さっさと港にいくぞ」
 いつも付けていたから忘れていたけれど、そういえばあの腕輪は色々と高機能だった気がする。
 ひょっとして助けが期待出来るだろうか。

 それまでの何処か緩い空気は一変した。
 男たちは走り回り、俺も引っ張られて、振り回された。
 随分と焦っているようだった。

 川を下るための船は小さかった。ほんとにこんな船で大丈夫なのだろうか。
 男たちの操舵は荒かった。振り落とされそうで、怖かったし、酔いで吐きそうだった。
 俺は小さく丸まって、ずっと蹲っていた。
 周りはすっかり日が落ちて、暗くなっていた。船ごと、大きな闇に飲み込まれそうな、そんな雰囲気だ。

「もうすぐだ。もうすぐ港のある街につく。隣国へ出航しちまえば、後はこっちのもんだ」
「おい、誰かこいつ抱えて走れ。足が遅くてかなわん」
「手足縛って袋に入れろ。この暗さだ。荷物だと思わせろ」
 男たちはそう言って俺の手を縛った。縄はその辺にあった奴で、ガサガサしていて少し痛い。
 そして、次に足を縛られそうになった時だ。

「そこの小舟止まれ! 傍に寄せて、船上を確認させろ」
 川下の船着き場には、沢山の人が集まっているようだった。
「くっそ。手が回るのが早すぎる」
「船着き場に付けたら終わりだ。全員飛び込め! 各々港に集合。時間に遅れた奴は置いていくからな。こいつは俺が連れていく」
 おそらくリーダー格の男がそう叫ぶと、俺の事を掴んだ。

「エクレ!!そこにいるのか?いたら、返事をしてくれ!!」
 船着き場の方から、今一番聞きたかったリュミエールの声がした。
 来てくれたんだ。彼は俺を迎えに来てくれた!
「いるよ! 俺、ここにいる!!」
 人生で一番くらいに声を張り上げた。
 今まで大変大人しく何もしなかった俺の行動に、男たちは虚をつかれたようだった。
「バカ、静かにしろ!」
 口元を、嚙ますように布で覆われてしまった。
 男はそのまま俺と自分の腕を縄で縛ると、川に飛び込んだ。

 ……俺の国には、川や海が近くになかった。わざわざ行かない俺は当然、縁が無く。泳ぎの講義は一応あったけれど、適当に流しておけば合格はもらえた。
 そう、俺はほとんど泳いだ経験がない。
 川は傍目には穏やかに見えたが、入ってみると流れが急だった。
 手が縛られていて、足は動くが自由は利かない。
 引っ張られるままに泳いだが、とても息が続かなかった。
 半分溺れたみたいな状態で引かれ続けていたけれど、突然その力がプツンと途切れた。
 男と俺を繋いでいた縄がほどけてしまったようだった。

 流される! 息だけでも確保しようと必死に顔をあげた。
「たすけて、だれ、か……」
 声はほとんど出なかった。真っ暗な濁流に押し流される。
「りゅみ、えーる」
 届くわけないのに、その名前を呼んでいた。

「エクレ!エクレ!!」
 その声は、ずっと近くで聞こえた。ザブンッと大きなものが水に入った音がする。
 もう頭は、ほとんど水に飲み込まれようとしていた。
 途切れそうな意識の中、川の中に見慣れた金色を見たような気がする。
 俺はそれに必死に手を伸ばした。
 幻でもなんでも良かった。
 届くわけないと思ったその手は、しっかりと掴まれた。
「エクレ!息をして、しっかり吸って!」
 思い切り引き上げられて、軽く顔を叩かれる。
「はぁっ!はぁ、はぁ」
 まだ頭はぼんやりしていたけれど、その声に引き戻された。
「分かるかい? もう少しだけ頑張って、すぐ岸だから」
 リュミエールだ。リュミエールの声だった。
 しっかりと俺を抱えるように抱いて、彼は岸まで泳いだ。
「なんで……」
「君の声がした。ちゃんと聞こえたよ」
 彼は半分泣いているみたいな声で、鼻をすすった。
「もう、あえないのかと、おもった」
 そうだ。あのまま船に乗せられて、どこかに連れて行かれたら、二度と会えなかった。
「絶対に、そんな事にはさせないよ。でも良かった。二度と離さないから」
 リュミエールは力強くそう言った。

 あの男はちゃんと岸に向って泳いでいたようで、俺がそいつから離れたのはだいぶ岸の傍だったみたいだ。
 溺れそうになる俺をいち早く見つけたリュミエールが川に飛び込んで、俺を捕まえてくれたらしい。

 岸に上がると、沢山の人に囲まれた。
「はやく毛布を、体温が下がっている」
「水を飲んだようです。大きな怪我は無さそうかな」
 リュミエールは毛布で俺を包みつつ、医療者ぽい人に俺の様子をみせていた。
「水を?他に痛いところは?」
「ない、です。手が擦れたくらい」
 括られていた手元を見せると、縄はすぐに切られた。
 水の中で引っ張られたせいもあり、擦れて跡がくっきり残っていた。
「擦過傷多数っと。搬送車へ急げ、近隣の病院には連絡しています」
 リュミエールと一緒に車に乗せられて、病院へ行く事になった。
 安心したのと、疲れてしまって、うとうと眠りそうになる。
「寝てて良いよ。もう大丈夫だから」
 彼はずっと俺に声をかけてくれた。

 まともな返事は返せなかったが、俺はずっとリュミエールの手を掴んで離さなかった。



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