Ωの愛なんて幻だ

相音仔

文字の大きさ
20 / 23
本編

育まれ、繋がる

しおりを挟む

「エクレ、フレーズが会わせたい人がいるって、今度の休日連れてくるそうだ」
 夕方に庭の手入れをしていると、リュミエールがそわそわと教えてくれた。
「フレーズが?じゃあお部屋綺麗にしておかないとね。あの子が好きなビーフシチューも作らないと」
「事前に連絡までして、連れてくるなんて……やっぱりそういう事だよね?どんな子なんだろう」
「お友達かもしれないし、紹介を受けるまでは、こちらからは何も言わないでおこうよ。……でも、急だね。最近相性面談を受けたなんて話は聞いてないしなぁ」

 フレーズは、俺とリュミエールの最初の子どもだ。
 
 結婚してから5年俺たちは子宝には恵まれなかった。
 子どもが出来やすいと言われる、αとΩのカップルの中では、かなり時間がかかった方だと思う。
 主に俺の身体の問題だった。
 若気の至りだったとはいえ、後になって随分と後悔したものだ。良く分からない薬なんて使うもんじゃない。
 リュミエールは、命の事は人がどうにか出来ることじゃないと、ゆったりと構えていた。
 彼は、俺よりずっと、子どもが欲しかっただろうに、その余裕に随分と救われたものだ。
 後から聞いたところによると、俺と二人の時間が続くのも悪くないと思っていたらしい。
 
 そんなわけで俺たちには、結構二人の時間があった。
 約束していたように、旅行にも沢山行ったし、海外にも連れて行ってもらった。
 世界は広くて、美しい景色が沢山あった。
 行く先々で、珍しい植物も沢山みた。俺は相変わらず、家の庭を整えるのが好きだ。我が家の庭の管理はずっと任せてもらっている。
 最初は芝生だけだったのに、この何十年で庭園と言っていいほど、見た目が変わった。
 季節ごとに花が咲くように、計算して整えた大切な庭だ。
 仕事にするほどでは無いけれど、知り合いに頼まれれば自慢の庭の花で、お祝いの日にブーケを作ることもあった。


 
 子どもの事は半分くらい諦めかけて、二人でずっと暮らすのも悪くないと思ったころに、フレーズを授かった。
 そこからは、また大変だった。
 俺はなんとなくリュミエールの子なら良いかなぁという漠然とした気持ちしかなかった。なんなら本当に授かれるとも思っていなかったから、もう一人の命が自分の身体にいるという事が、とても重く感じられた。

 悪阻もなかなかに深刻な方で、2カ月くらい日常生活もままならないほどだった。
 リュミエールはそんな俺を献身的に支えてくれた。

 もう一つ大きな不安だったのが、俺がまともな親になれるのかという事だった。
 顔も知らない母親、俺を売った父親、そんな二人の子どもの俺が、親になれるだろうか。
 年の近い先輩Ωのルナールさんにそう相談すると彼は、あっさりと笑い飛ばした。
「大丈夫だって、この世に生まれた瞬間から、世界で一番大事な存在になるから。もし仮に、エクレがどうしよう思ったより全然何も感じない……なんてことになってもさ、その分リュミエールが沢山愛してくれるよ。甘やかしてばかりになるかもしれないから、そこはエクレがきっちり締めないとね」
 ナイーブな気持ちになっていた俺は、そんなものなのかと懐疑的だった。
 それでも日に日に大きくなってくる存在に、不思議と心が温かくなるような気がした。
 その後も、気持ちと体調に振り回されつつ、時間が経ち、フレーズは無事に生まれた。

 生まれたその日、心の底からほっとしたのだ。
 自分の事を出来損ないのΩだと思っていた、ちゃんと生まれてくるかずっと不安だった。
 この子を愛せるかどうかは、分からないけれど、出来る限りで守り育てたいと思った。
 フレーズの髪の色はリュミエールにそっくりだった。瞳の色は俺に似ている。
 性格はどちらにも似なかった。知り合いで誰に一番近いかと言われると、ルナールさんに似ている気がする。まぁでも、やっぱりこの子はこの子だ。

 その三年後、もう一人子どもを授かった。フレーズの時でさえ、奇跡だと言われたので、もう一人授かれたことに、俺は驚いて、リュミエールは本当に喜んでいた。フレーズも俺の前では言わないけれど、兄弟を欲しがっていた事は分かっていた。
 シャルルと名付けたその子は、本当に良く寝る、マイペースな子だった。フレーズの時との夜泣きの差に、こんなに違うのかと驚いた。

 二人ともすくすくと良い子に育ってくれた。
 第二次性が分かる頃になると、二人ともαだという事が分かった。
 背も随分と早くに、俺よりも大きくなってしまって、子どもの成長はこうも早いのかと、少し寂しくなったものだ。
 上級学校を出て就職する頃になると、大抵の子は家を出て、一人暮らしをする。その方が自立できるし、恋も自由に出来るから。
 フレーズは、政府の機関に就職して、リュミエールの背中を追っている。

 驚かされたのはシャルルだった。
 おっとりした大人しい性格だと思っていたのだけれど、意外に肝が据わっていた。上級学校時代に交換留学を申し込み、隣国のタルペットに行った。
 そこでの生活が肌に合ったらしい。外交官になりたいと真剣に相談された。
 親戚のほとんどが中央区におり、何か用事があれば会える環境だったから、少しだけ心配だった。けれど、俺は応援したかった。シャルルは愛される性格だし、決めるとこはしっかり決める子だ。
 リュミエールを説得するのが中々に大変だった。応援したい気持ちと、すぐに手を差し伸べれる範囲に子どもに居て欲しい気持ちとがせめぎ合っているようだった。最後は一緒に、送り出したけれど。
 シャルルは卒業と同時にタルペットに渡り、そっちで生活をしている。そして、半年もしないうちに、番を見つけたと報告をしてきた。
 リュミエールと俺は驚いたけれど、納得もした。運命の番は、不思議と惹かれ合う。シャルルが隣国に興味を持ったのも、また運命という事。
 相手のΩの出身国でもあるし、シャルルは結婚を機に正式にタルペットへと移住した。
 それから俺たちは、一年に一度は隣国へ行くようになる。孫が生まれると二人がこちらに来るのは大変だ。可愛い孫の顔を見に、旅行ついでに行くのは苦にならなかった。
 




「ただいま!連れて来たよ」
 何年たっても変わらない元気の良い息子の声がした。
「はじめまして、お会いできて嬉しいです」
 一目で分かった、隣の男の子はΩだ。おっとりとした雰囲気の子だ。フレーズと隣り合わせだと不思議としっくりくる。
 なるほど、リュミエールの予想は当たったらしい、一体どこで出会ったのだろうか。
「はじめまして、エクレです。ようこそわが家へ」
 今日は沢山、話を聞かせて貰わなければ。

 俺とリュミエールの愛の証、小さく可愛かったフレーズもついに、自分の運命を見つけてきたのだ。

 感慨深いものがあった。俺やリュミエールが、遠いいつの日にか、天に召され女神の下へ行く日が来ても、この子たちがいる。
 こうやって脈々と繋がっていくのだろう。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

世界が僕に優しくなったなら、

熾ジット
BL
「僕に番なんていない。僕を愛してくれる人なんて――いないんだよ」 一方的な番解消により、体をおかしくしてしまったオメガである主人公・湖川遥(こがわはる)。 フェロモンが安定しない体なため、一人で引きこもる日々を送っていたが、ある日、見たことのない場所――どこかの森で目を覚ます。 森の中で男に捕まってしまった遥は、男の欲のはけ口になるものの、男に拾われ、衣食住を与えられる。目を覚ました場所が異世界であると知り、行き場がない遥は男と共に生活することになった。 出会いは最悪だったにも関わらず、一緒に暮らしていると、次第に彼への見方が変わっていき……。 クズ男×愛されたがりの異世界BLストーリー。 【この小説は小説家になろうにも投稿しています】

溺愛アルファは運命の恋を離さない

リミル
BL
運命を受け入れたスパダリα(30)×運命の恋に拾われたΩ(27) ──愛してる。俺だけの運命。 婚約者に捨てられたオメガの千歳は、オメガ嫌いであるアルファのレグルシュの元で、一時期居候の身となる。そこでレグルシュの甥である、ユキのシッターとして働いていた。 ユキとの別れ、そして、レグルシュと運命の恋で結ばれ、千歳は子供を身籠った。 新しい家族の誕生。初めての育児に、甘い新婚生活。さらには、二人の仲にヤキモチを焼いたユキに──!? ※こちらは「愛人オメガは運命の恋に拾われる」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/590151775/674683785)の続編になります。

運命には抗えない〜第二幕〜

みこと
BL
レオナルドと無事結婚したルーファスは久しぶりにリトに会いに行く。しかし訪れたグリーンレイクは普段と様子が違っていて…。 ルーファスたちがまたもや不思議な事件に巻き込まれます。あの変態二人組もさらにパワーアップして戻ってきました♪ 運命には抗えない〜第一幕〜から読んで下さい。

涯(はて)の楽園

栗木 妙
BL
平民の自分が、この身一つで栄達を望むのであれば、軍に入るのが最も手っ取り早い方法だった。ようやく軍の最高峰である近衛騎士団への入団が叶った矢先に左遷させられてしまった俺の、飛ばされた先は、『軍人の墓場』と名高いカンザリア要塞島。そして、そこを治める総督は、男嫌いと有名な、とんでもない色男で―――。  [架空の世界を舞台にした物語。あくまで恋愛が主軸ですが、シリアス&ダークな要素も有。苦手な方はご注意ください。全体を通して一人称で語られますが、章ごとに視点が変わります。]   ※同一世界を舞台にした他関連作品もございます。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/index?tag_id=17966   ※当作品は別サイトでも公開しております。 (以後、更新ある場合は↓こちら↓にてさせていただきます)   https://novel18.syosetu.com/n5766bg/

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

春風のように君を包もう ~氷のアルファと健気なオメガ 二人の間に春風が吹いた~

大波小波
BL
 竜造寺 貴士(りゅうぞうじ たかし)は、名家の嫡男であるアルファ男性だ。  優秀な彼は、竜造寺グループのブライダルジュエリーを扱う企業を任されている。  申し分のないルックスと、品の良い立ち居振る舞いは彼を紳士に見せている。  しかし、冷静を過ぎた観察眼と、感情を表に出さない冷めた心に、社交界では『氷の貴公子』と呼ばれていた。  そんな貴士は、ある日父に見合いの席に座らされる。  相手は、九曜貴金属の子息・九曜 悠希(くよう ゆうき)だ。  しかしこの悠希、聞けば兄の代わりにここに来たと言う。  元々の見合い相手である兄は、貴士を恐れて恋人と駆け落ちしたのだ。  プライドを傷つけられた貴士だったが、その弟・悠希はこの縁談に乗り気だ。  傾きかけた御家を救うために、貴士との見合いを決意したためだった。  無邪気で無鉄砲な悠希を試す気もあり、貴士は彼を屋敷へ連れ帰る……。

処理中です...