スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第16話 時空間魔法師ってすごい人でした

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「それでブラック殿、次はこれから先の調査についてですが」
っといけない、今はダンジョンの『特別サービス』を嘆いてる場合じゃない。
オートカさんの説明を聞かなきゃ。
「まずは先ほどの仮説を前提として調査を進めるてゆく事となります」

さっきの仮説……時空間魔法の適性に反応してから転移魔法を乗っ取るっていう?

「今のところトラップの発動を確認出来たのはカルア殿が同行した時のみです。仮説を証明するには、少なくともあと数名は時空間魔法の適性――それも高い適性を持つ者により確認を行う必要があります」
「成程……サンプルを増やす必要がある、という訳か」

「そしてここからが重要な点です。我々が行っているのはダンジョンに関する新しい発見の調査ですよね。つまりこれは、高位の時空間魔法師に対し高いプライオリティで召喚依頼する事が出来る絶好の機会なのです」
「そうか! くっくっくっ……そういう事か!!」
「ふっふっふっ……流石ですね、もうお分かりいただけましたか。そう、その調査には勿論カルア殿の同行が必要となるでしょう。そしてその空き時間にカルア殿と一緒になったりするかもしれません。その時カルア殿に時空間魔法の手解てほどきをしようと思うかもしれません……ふふっ、もしそんな事があったとしてもそれは全て偶然の賜物なのです。そして今カルア殿には……そんな偶然が必要だと思うのですよ」

凄い! 二人とも凄い!! 凄い悪い顔してる!!

『そうだな。お前さんは確かによくやってるよ。随分強くなったと思うぜ? それこそお前さんの夢だった騎士にだってなれるくらいにまでな。だがな、強い奴がみんな騎士になれる訳じゃあない。頑張れば必ず騎士になれる訳じゃあない。努力だけじゃあまだ足りないんだ。最後にあとひとつ、チャンスってやつが必要なんだ! いいか、目の前にチャンスが来たら迷わず掴め、しがみ付け! もし来なけりゃ自分の方から呼び寄せろ! 何しろチャンスってのは本当に気まぐれな奴だからな』

そうだ、これが騎士志望の少年に主人公ヒーローが言ってた『チャンス』なんだ。
チャンスは悪い顔して呼び寄せなきゃダメなんだ!!

「僕……時空間魔法師の人に色々教えて貰いたいです!」
「よかった、きっとカルア殿ならそう言ってくれると思っていましたよ。そして実は、私には口が堅い高位の時空間魔法師に心当たりがあるのです」
「ほう、それは素晴らしい。実は私も以前からギルドの時空間魔法師に声を掛けてはいるのだが、中々に難しくてな」

「ええ、だと思います。それで私の心当たりですが……冒険者ギルドのインフラ技術室長であるモリス氏なのです」
「何だと!? モリス氏と言えばギルドの時空間魔法師のトップではないか! オートカさん、あなたは彼を呼ぶ事が出来ると言うのか!?」

ギルマスがもの凄く興奮してるけど……モリスさんってそんなに凄い人なの?

「ええ。実は私モリスとは学生時代の同期でして、彼とは今でも親交があるのです。それでここの調査に来る前も彼と飲んでいたんですが、『もし何か面白い話があったらすぐに呼んでくれよ? 絶対だよ? そうでもなければ外に出られる機会なんて全然無いんだよ。デスクワークなんてもう嫌だよーーーっ!!』なんてボヤいてまして」

「う、うむ。そうか……本部勤務というのも中々大変なのだな」
「とまあそんな感じだったので、彼でしたら私から正規の手続きで呼べばすぐにやって来ると思いますよ」
「そうか、それは好都合……と言っていいのか? だが今の我々にとってありがたいのは間違いない。よし、では早速手続きを頼む」
「ええすぐに。こちらの進捗もそれ次第となりますし、今すぐ申請しますよ。ではブラック殿、少々『ギルド間通信』をお借りします」

そう言ったオートカさんはピノさんに先導されて奥の部屋へ。

「すまないな。興味があるだろうし見せてあげたいところなんだが、規則で通信室は関係者以外立入禁止となっているのだ」
「大丈夫です、すっごく興味はありますけど」
「うむ。それでは私も少々席を外すがカルア君はどうする? それ程時間は掛からんと思うがここで待つか? 何なら一度外に出ていてくれても構わんが?」

どうしようかな。でも外に出ても特にやる事も無いし……

「ここで待ちます。他の調査団の方々もここで待つみたいだし」
「そうか分かった。ではもし用があればこのベルを鳴らしてくれ。ピノ君かパルム君が来るはずだ」
「はい、ありがとうございます」

さてと……調査団の人たちはみんなで何か難しそうな話をしてるし、僕は何して時間潰そうかなあ。
ホントは魔力トレーニングとかしたいところだけど、今日はこの後ダンジョンに行くかもだから魔力は使わない方がいいだろうし。

そんな事を考えながらぼんやり椅子に座ってると、ピノさんとオートカさんが戻ってきた。
「おや、ブラック殿がいないようですね」
「さっき少し席を外すって部屋を出ましたよ。でもすぐ戻るそうです」
「そうですか、ありがとうございます。じゃあ我々も少し待ちますか」

「あ、でしたら私お茶のお代わりをお持ちします。今のカップは一度下げますね」
そう言ってピノさんはまた部屋を出て……そしてすぐにお茶を持って戻ってきた。
早っ!

みんなでピノさんが出してくれたお茶を飲んでるとギルマスも戻ってきた。
「お待たせした。仕事が色々と重なってな、隙間隙間に少しずつでも片付けていかないと追いつかないのだ」

ギルマスの仕事ってそんなに大変なのか。

「いえいえ、私もほんの少し前に戻ったところです。申請は無事受理されましたよ」
「おお、それは何より。それでモリス氏はいつ頃こちらへ来られると?」
「もうそろそろ来るかと思います」
「もうそろそろという事かな?」
「いいえ。もうそろそろ頃かと」
「うん?」

微妙に噛み合わない会話の中、ノックの音と共にパルムさんが登場した。
「ギルドマスター、インフラ技術室のモリス室長がお越しになりました」
「何だと……、すぐにお通し……いや私が向かう! モリス氏はどこに?」
「受付の所にいらっしゃいます。ここで待つとおっしゃって」
「では私も行きましょう。呼んだのは私ですからね」

申請したのがさっきで到着が今?
これもギルドの謎技術なのかな? でもそれにしてはギルマス驚いてたし……

って考えてるうちに受付の方から賑やかな声が近付いてきて、やがて扉が開き――
「こちらへどうぞ」
「いやー、すまないね。何しろ呼び出してくれたのが本当にうれしくってさ、大急ぎで支度してそのままの勢いで転移してきたんだよ。一応ここに来ることは技術室には伝わってるから、まあ行方不明扱いにはならないと思うけどね」
そして一気に部屋が賑やかになった。

「おや、もしかして君が噂の時空間魔法の少年かな? 何だかそれっぽい気配がするからそれでもう間違いないだろうとは思ってるけど、でもやっぱり念には念を入れて一応聞いておこうかな」
「はい、僕カルアと言います。よろしくお願いします」
「これはこれはご丁寧に。僕はモリスだよ、よろしくね。それで君、いきなり魔物部屋に転送されたんだって? いやー災難だったねえ。まあ無事に帰って来れて何よりだったね。まあそれはともかく君って時空間魔法の適性が高いそうじゃないか。後で僕にも見せてくれるかい?」
「はっ、はい。もちろんです」
「うんうん、楽しみにしてるよ。それでオートカ、ダンジョンへはいつ行くんだい? 僕はもう今すぐでも行きたいんだけどさ。何たって久々の外出が世紀の大発見の調査だっていうんだから、それはもう気が急くのも仕方ないよね。それでいつ?」

何だろうこの人、もの凄くよく喋る。
これなら絶好調の時のご近所の奥様達とだって互角に渡り合えるんじゃないかな。

「ダンジョンには今日これから向かいますよ。メンバーは私とモリス、カルア君、それにうちのメンバーのラキ、タチョ、ウサダンです」
「ふむふむ、そうすると馬車は2台必要だね。君達は調査団の馬車を使うんだろう? じゃあ僕とカルア君はこのギルドの馬車で行くとしよう。ブラック君、今日は馬車出せるよね?」
「え、ええ。勿論大丈夫です」

あれ? ギルマス、もしかしてさっきからちょっと緊張してる?

「よかったよかった。じゃあカルア君には道中色々と訊いちゃうだろうけど包み隠さず全部教えてくれよ? オートカってば君については何だか色々と秘密がありそうな口振りだったけど、僕だってちゃんと秘密は守るし絶対に悪いようになんてしないから安心してね。こう見えて僕はギルドの中じゃあちょっとした立場にいるし、何もかもぶち撒けるには絶好の相手って訳さ」

チラッとオートカさんとギルマスの顔を見ると――
オートカさんはにこやかに頷く。
ギルマスは少し硬い表情で頷く。
表情は対照的だけど、きっとモリスさんは信用しても大丈夫な人って事だよね。

「分かりました。これまでの事、全てモリスさんにお教えします」

「うん、それを聞いて安心したよ。さてそれじゃあオートカ、まずは君の所見から聞かせて貰いたいな。君の事だからこれまでの状況と情報からある程度の推測は出来てるんだろう? それを全て僕に教えて貰えるかい? 何たって情報の共有は基本だからね。君の方の準備は他のメンバーに任せられるんだろう? ブラック君ももちろん同席するよね? 僕は君からも是非話を聞きたいなあ」

モリスさん圧倒的。
ギルマスもちょっとやり辛そう……さっきから頷くだけしか出来ていない僕が言うのも何だけど。

「じゃあまずはカルア君の大冒険、それからそれに対する君の考えを教えてもらおうかな。準備はいいかいオートカ?」
「心の準備ならとっくに出来ていますよ。それでは私の聞いた範囲での話をお話ししましょう。より詳細な部分については当事者であるカルア殿からの話で補完出来るでしょう」
「オーケー分かった、それでいいよ。じゃあ早速オートカ節の開演だ」

そして、オートカさんからの説明が始まった。僕がダンジョンで転送トラップに引っかかった時の概略を軸に、調査と検証の結果とそこから導き出した仮定を添えた凄くすっきり分かり易い説明。

「ふーむ、成程なるほど。いやあしかし聞けば聞くほど綱渡りだったんだねえ、カルア君ってば! いやホントよく生きて帰って来れたと思うよ。努力と幸運が奇跡的な運命を呼び寄せたみたいな? 何というかこれは……そうあれだ、『自分が生かされてるって感じることがないか?』ってやつ。何だっけ、結構有名な物語でそんなセリフあったよね」

それはきっとアレだ。

『自分が生かされてるって感じることがないか? 俺はこれまでに何度かあったぜ。これ絶対死ぬだろうって局面で何故か生き残った時がそれだ。生き残れるはずなんて無いんだよ、あの時の状況だったらな。で、そんなことが何度かあるとつい考えちまうんだ。これは自分には何かやらなきゃならない事があって、それをやり遂げるまであの世が俺を拒絶してるんじゃあないか? ちゃんとやる事やってから出直してこい! って事なんじゃあないか、ってな』

何かいつもの自信満々な態度と違うちょっとヘコんだ主人公ヒーローの姿が印象的だったんだ。一緒に戦った親友が大怪我した時の話……



なんて話をしているうちに調査団の皆さんは出発の準備が整ったみたい。
僕も持ち物チェック――あっそうだ、今回もアレを……
「ギルマス、鞄の貸し出しをお願いします」
「承知した」

「ああ! そういえばここの発案だったよね、魔法の鞄の貸し出しって。かなりの大好評だって聞いたよ? これから需要がグンと伸びそうだし僕達もがんばって鞄を増産しなくちゃね」

「え? あの鞄ってモリスさんのとこで作ってるんですか?」

「うん、そうさ。だってほら、あれだって時空間魔法でしょ? 【収納】だから――ああでも【収納】って名前はあまり知られてないんだよね。何しろ【収納】の魔法は使えるようになって暫く経つとスキルに変化しちゃうからさ。【ボックス】スキルって言えば分かるかな? ほら、【ボックス】スキルって常時発動型でしょ? でも【収納】魔法はそうじゃないから、寝てる最中にうっかり解除なんてしようものなら、朝起きて魔物の死骸だらけの部屋を見る事になっちゃうよね」

おお、確かに。

「多分、そんな理由で魔法からスキルに変化するんだと僕は考えてるんだ。と言っても魔法がスキルに変化するその仕組みについてはまだ誰も解明できていないんだけどね。まあそれはそれとして、【収納】を魔法として使うのは魔法の鞄に付与する時くらいじゃないかな」
「……そうか、それだ!」
「うん? それってどれだい、ブラック君?」

「カルア君の身を守る為に彼の【スティール】は秘密にしておきたいのです。その為の隠蔽や偽装の方法をずっと考えていたのですが――」
「ああ成程、つまりカルア君が【ボックス】スキルを覚える事で解決って事か。カルア君の持つスキルは【ボックス】だけだって事にしちゃえ、と」

そうか成程、それなら不自然じゃない!

「モリス殿……あなたに是非お願いしたい事があります」
「この話の流れなら当然カルア君に【収納】魔法を教えて欲しいって事だよね? もちろんオーケーだよ。今の状態じゃカルア君が秘密を守り切るのは大変そうだし、ここは僕が時空間魔法師の先達せんだつとして一肌脱ごうじゃないか」
「引き受けてくれますか! これで一安心だ……よかったなカルア君」

「はい! ありがとうございますモリスさん。それにギルマスもありがとうございます」

時空間魔法、その道の超専門家から教えて貰える事になっちゃった!
僕チャンスを掴んだよ、主人公ヒーロー!!

「さあさあ、話も済んだしみんな早く馬車に乗って出発するよ! 何たってダンジョンが手招きして僕を呼んでるんだから。ふっふっふ、魔物部屋だって僕の事を廊下を長くして待ってるに違いないんだ。あ、廊下は無いんだっけ。ああそうだカルア君、今日の君の出番は2回目からだから最初は馬車で待機しててね」
「え? そうなんですか?」

調査なのに同行しなくていいの?

「それはそうだよ、今回は僕の時空間魔法の適性でも発動するかを確認するんだからさ。君がいたら僕がトラップを発動させたって断定出来なくなっちゃうだろ?」
「あ、そうか」
「まあ安心してくれよ。もし地下への階段が現れても下へ降りるのは君が合流した2回目にするからさ。最初はそのまま帰ってくるよ」

そして準備も終わりいよいよ出発。僕達は馬車2台に分乗してフィラストダンジョンに向かった。
その車内で行われたのはモリスさんによる時空間魔法講座。なんて楽しい道中!

「いいかいカルア君、まずは時空間魔法の基礎について説明するよ。時空間魔法で最初に覚えるべき初歩の初歩は【俯瞰ふかん】の魔法だ。まずここから始めて、それが出来たら次は【探知】に進む。この二つを覚える事で時空間魔法における空間認識が出来るようになるはずさ。そこまでが【収納】を覚える為の下準備だと思ってくれればいいよ」

ふむふむ成程。

「まずはレッスン1、ダンジョンに着くまでの間に魔法の概要と練習方法を説明するからね。到着した後は反復練習の時間だよ。僕が魔物部屋を堪能している間一人で練習しておく事。と言っても初めての事だし、『切っ掛けくらい掴めたら上出来』程度の気持ちでやっててくれればいいから」

「はい、頑張ります」

「じゃあ早速説明を始めるよ。【俯瞰】っていうのはその名の通り自分の周りを上から見下ろすように把握する魔法だ。鳥の目線とか高台から見下ろした景色を想像してくれればいい。【俯瞰】の映像は人によっては真上からだったり斜め後ろからクォータービューだったりするけど、まずは自分が見易いって感じる方で練習してみるといいよ。慣れたら状況に応じて使い分けるのもいいしね」

「上から自分を見下ろすっていう感じがちょっと想像出来ないって言うか……森の中だし」

「ああ、君が戸惑っているのは木立こだちの向こうとか自分の後ろとか、視界の外の部分はどうすれば分かるんだろう、ってところかな? ちょっと分かりにくいかもしれないけど、空間の把握は視界とは関係ないんだ。だから最初はみんな目を閉じた状態で自分の前を訓練から始めるんだよ。目に魔力を集めた状態にしてからその魔力だけで前を、ってのが習得の近道かな」 

ん? それ知ってる。

「あのモリスさん、僕それやったことあります。真っ暗な部屋で光魔法の適性を調べようとした時なんですけど、目では見えないのに頭の中に部屋の様子が浮かんで、どこに何があるか全部把握出来たんです」

「何だって!? それが事実だとすれば君はもう空間把握の初歩が出来掛かっているって事じゃないか。何度かやってみて大丈夫そうなら拡張と応用の練習に進めるかも。拡張は見える範囲を広げる事、応用は視点を上げたり動かしたりする事だよ」

「はい、やってみます」

「その次は【探知】。最初は把握した空間の中にいる動物や魔物を探してみるんだ。それが出来たら次は空間を把握せずに探す。【探知】っていうのは、自分の定めた方角や範囲の中から自分の指定したもの――魔物や動物、植物やアイテムなんかもだね――それらを見つけ出す魔法なんだ」

こうして他にも色々教えてもらっていたんだけど、ふと馬車がゆっくりと速度を落とした事に気付いた。
え、もうフィラストダンジョンに着いたの? だってまだ出発してそんなに時間が……

「さあいよいよ到着だ。カルア君はこれからひたすら反復練習、がんばってね」
「はい、がんばります」
「よし! おーいオートカ! オートカァー!!」
「はいはい、聞こえていますよ」
「さあ行こう、早く行こう、すぐ行こう。ダンジョンもきっと僕を大歓迎してくれるはずさ。久々の大冒険を前に僕だってもうワクワクを止められないよ!?」



モリスさん、色んな意味で凄い人だった……
さあ! 僕もいよいよ練習開始、やるぞぉ!!



▽▽▽▽▽▽
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