スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第70話 ドワーフ少女が就職するお話です #2

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「おお、久々じゃのお。なあんも変わっちょらんわい」
「ええ。私も随分久し振りです。鉄を叩くこの音と匂い、そして煙突から立ち上る煙……昔見た時のままです。きっとこの里はこれから先もこの景色を守り続けていくんでしょうね」
「へええ、ここがドワーフの里かあ。うんうん、何と言うかイメージ通りって感じだねえ。実に心躍る光景だよ。中に入れないのがほんっとうに残念だ」

里を見た3人はそれぞれに感想を洩らし、それから――
「入れないのにここにいたら辛くなるばっかりだから僕はもう帰るよ。ミッチェル君、ラーバル君、後はよろしくね。あとミッチェル君は近いうちに必ず僕を連れてもう一度ここに来てよ。いいかい、約束だからねーーー……」

一人寂しく【転移】で消えて行くモリスを見送り、ミッチェルとラーバルは里へと足を踏み入れる。
ミッチェルは当然門で見咎められる事など無く、また里で顔を知られるラーバルも無事顔パスで入る事が出来た。

「さて、それじゃあわしらは家に行くか」
「そうですね。あれだけ楽しみにしているモリスさんを差し置いて私だけ観光というのも心苦しいですし、今日のところは用件だけ済ませて終わりにしましょう」

そのまま肩を並べて中心部に向けて歩いていくとそこはまさに職人街といった光景が広がり、通りを歩くドワーフ達は、ミッチェルの顔を見ると一様に笑顔で軽く頭を下げてくる。

「ふふふ、相変わらず慕われているようですね」
「ふん、この狭い里の中で多少顔を知られとっても別に大した事なぞ無いわい。じゃがまあ、嫌われるよりは大分ましじゃがの」
「まあそれは確かに。『新生ホワイトミッチェル』でしたっけ?」
「おおよ。今じゃあ弟子達とも楽しくやっちょる……筈じゃ」
「ふふ、あなたが自分の良くない点を自覚して直そうとしているのであれば、周囲の人達もきっと居心地良く感じていると思いますよ」
「……じゃったらええんじゃがなぁ」

そんな事を話しながら二人は通りを進み、やがて一軒の大きな建物の前で足を止めた。
そこに建つのは、工房と呼ぶにはあまりに大きく、だが屋敷と呼ぶにはあまりに無骨過ぎる――そんな建物。
その門をくぐり入り口の大きな扉に向かって歩くミッチェルは何の気負いも見られない。そしてそれは横を歩くラーバルもまた。
何故ならその建物こそが――

「帰ったぞぉー」
扉を開くなりそう声を上げるミッチェル。すると奥からドダダダダっと激しい足音が鳴り響いた。
「おー! ミッチェル兄貴だったの! 久しぶりだの!」
ミッチェル達のもとに駆け寄り元気よく声を上げたのは、ショートカットが可愛らしい小柄な少女だ。

「おおミカ、久しぶりじゃの。前に見た時より随分大きくなったのお」
そのミカの頭をゴツい手で撫で回すミッチェル。
あまりの激しいその『なでなで』に、少女が首を痛めるんじゃないかとヒヤヒヤするラーバルであったが、その心配を余所に当のミカは首をブンブンと振り回されながら非常に嬉しそうだ。
どうやらドワーフ的にはこれが普通らしい。

「そうだの! その時から1センチも伸びたんだの! 身長爆上がりだの!」
「ほーかほーか。1年で1センチならあと70年すれば2メートル越えるのう」
「余裕で越えるの!」
「がははははは」
「のははははは」

ドワーフの鉄板ジョークも済み、これにて挨拶終了――という事で、ミカはミッチェルに尋ねた。
「それでミッチェル兄貴、今日はどうしたのだ?」
「おお、お前の事でちょっと話があっての。ラーバルに連れてきてもらったんじゃ」

その言葉にハッと気付いたミカは、澄ました顔でパっとラーバルに向き直り、口調を改め挨拶を述べる――
「こんにちはラーバルさん。兄を連れてきてくれてありがとうございます。お久しぶりだの」
――惜しい! 最後に「だの」が出てしまった。

だがそんな事は意に介さずニッコリと笑ったラーバルは、こちらは普段通りの口調でミカに挨拶を返す。
「ええ。お久し振りですミカさん。こうしてまたお会い出来て嬉しいですよ」
それを聞いた瞬間、ミカの瞳が輝きを増した。
「おー! やっぱりエルフ語はカッコイイんだの! もっと上手に真似できるようになりたいんだの!」
「……いや、以前も言いましたけど、これエルフ語じゃないですからね。王都では全員こんな感じですから」
――いわゆる標準語である。

「ほんでミカ、今日はミゲル兄貴はおるか?」
ラーバルの小さな反論は、ちょうどそこにかぶったミッチェルの質問により、残念ながらミカの耳には届かずに何処かへと流れ去っていった。
「奥の部屋にいるの。さっきまで鉄を打ってて、今は書類に打たれてるの!」
「よし、じゃあ行くか」
「おー! だの」
「はは、相変わらず手強い。でもまあ王都に行けばすぐに気付くか……」



廊下を進み、とある扉の前でミッチェル達は立ち止まった。
「ミゲル兄貴おるか? わしじゃ、ミッチェルじゃ」
ゴンゴンという大きなノックと共に、扉の中にそう声を掛けるミッチェル。
「ああ、いるぞミッチェル。今手が離せないから、そのまま中に入ってくれ」
その返事を受け中に入ると、部屋には大きな机の上に山積みされた書類を黙々と処理していく一人のドワーフの姿があった。
「すまんがちょっと座って待っててくれ。これだけ片付ける」

この部屋にソファではなくテーブルが用意されているのは、作業テーブルとしても使用するためだろうか。そのテーブルを囲み、3人は部屋の主が来るのを静かに待っている。
そんな3人の耳に届くのは紙をめくる音と文字を書くペンの音。やがてその音が止まると、部屋の主がテーブルへやってきた。

「すまない、来客に無礼をした。ラーバルさん、お久し振りです」
「いえ、こちらこそ突然の来訪で申し訳ありませんミゲルさん。お仕事の方は大丈夫ですか?」
「ああ、これだったら午前中のうちにはすべて片付くはずだ。午後は鍛冶と錬成にどっぷり浸かれるだろう」
ミゲルから返ってきたのはドワーフ基準の回答であったが、かつて頻繁にここに訪れていたラーバルに驚きはない。
「それは何よりです。それで今日ですが、実は私はミッチェルさんに同行してきただけで、用件はミッチェルさんからとなります」
「そうなんじゃよミゲル兄貴。実はな――」

そう言ってミッチェルは話し始めた。その内容は勿論、モリスから相談を受けた魔石クリームの錬成について――

腕を組んでミッチェルの話をじっと聞いていたミゲルだったが、話が終わるとその腕を解き、ドワーフとしては柔らかな笑顔を浮かべた。
「ううむ、いいんじゃないか? 面白そうな仕事だし、話の出処もしっかりしてる。それに王都だったらマイケルやミヒャエルもいるしな。ミカはどうだ? 王都で働いてみたいか? かなり責任の大きな仕事になりそうだが」

そのミゲルの問いに、同じくじっと話を聞いていたミカは声高らかに答えた。
「ミゲル兄貴! 私は王都で働きたいんだの! こんな面白そうな仕事を誰かに譲る気は無いんだの!」
――そのまま椅子の上に立ち上がりそうな勢いで。

そんなミカの様子にミゲルは表情を改め、そして頷いた。
「そうか、だったらやってみるといい。ミッチェル、ミカを頼んだぞ」
「おお! みんな信用できる奴らばっかりじゃからな。兄貴もミカも何の心配もせんでええぞ」
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