スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木

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第70話 ドワーフ少女が就職するお話です #1

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『モリス、例の魔石クリーム、あれはいつ頃売り始めるんだい?』

通信具の向こうから聞こえてきたそのマリアベルの問いに、モリスは一瞬答えに詰まった。
「いやあ、実はあれから全く進んでなくって。単品ずつの製造だったら問題ないんだけど、あれって間違いなく人気が出るでしょう? 量産の目処が立たないんですよねえ」

そんなモリスの答えに、マリアベルは訝しげな声を上げる。
『量産の目処? 原料を調達したら後は付与と錬成して、そいつを容器に入れるだけじゃあないのかい?』
「まあそうなんですけどね。それを任せられる人材が見つからないっていうか」
肩を竦めるモリス。音声のみの通信機でその仕草は届かないが、気持ちと雰囲気は伝わったようだ。

『ああ成程……確かにそのあたりは難しそうだねえ。よっぽど信用できる相手じゃなきゃあ、製造方法を明かせないか。しかも安定供給もってなると……』
「そうなんですよ校長。その辺りさえ解消しちゃったら、あとは商工ギルドに販売を委託するつもりではいるんだけどねえ」

『ふーむ……。どうしたもんかねえ……』
通信具の向こうでかなり本気で悩んでいる雰囲気を察し、モリスはふと疑問に思った。
「あの校長? どうしてまた急にクリームの話を? もしかして参加されます?」
確かにあのクリームは非常に大きな利権となる。しかも貴族に対してすら優位な立場に立つことが可能だろう。当主と言っても奥方には頭が上がらないものなのだ。
だが、マリアベルからの答えはそうではなかった。

『ふん、今さらそんな面倒くさい事なんてやってられるかい。王族だの貴族だの、そんな連中にこれ以上擦り寄られるなんて真っ平御免だよ。そうじゃなくってさ、あんたこの間ララベル用にって3つほど用意しただろう? あのさ、顔だけじゃなくって全身に使ってるらしくってね、追加でまた欲しいって言ってきたんだよ』

そんな言葉と共に届く溜息、だがそれだけでは終わらなかった。

『それと昨日リアベルから手紙が届いてさ、『ご使用の化粧品等についてお訊きしたい事があります』とか書いてあったんだよ。この前会った時には黙って帰っていったから油断してたんだけど、どうやらしっかり気付かれていたみたいでねえ。あの娘の事だ、多分カルアがいないのを見計らって近々ここに来ちまいそうな気がするんだ。こんなつまらない事でカルアのリスクを上げたくないからね、出来るだけ早く流通させたいんだよ』

モリスが想像したよりも小さな理由で、そして深刻な事態だった。

「うーん、カルア君の身が危険だって言われちゃったら何を置いても急がなきゃだけど……どうしたらいいかなあ」
頭を抱えるモリスだったが、その時通信機の向こうから一筋の光明が差す。
『――ああそうだ、錬成だったらミッチェルに相談してみたらどうだい? あいつだったら信用できる職人に伝手があるかもしれないよ。付与は分からないが錬成だったらありそうじゃないかい?』



マリアベルとの通信を終えたモリスは、そのままミッチェルへの発信を始めた。
「――ミッチェル君ミッチェル君? こちらモリス、今ちょっと話せるかい?」
着信音代わりに名乗りを上げて暫く待つと、ミッチェルからの応答が届く。
『わしじゃ、ホワイトじゃ。今だったら大丈夫じゃよ』

――『ホワイト』の強調し過ぎは、とうとう自分の名前と言い間違えるレベルにまで達したようだ。

「りょーかーい。じゃあちょっとそっちに行――」
「ぬをおぅ、なんじゃい!? 」
「――くから、ちょっとそのまま待っててくれよ?」
「っ来るなら最後まで言い終えてから来んかい!」

通信具で話をするものと思っていたミッチェルは、突然目の前に出現したモリスに思わず仰け反った。まさか言葉の途中で突然【転移】して来るとは……

「あはははは、ごめんごめん。いやあ最近カルア君も【転移】に慣れちゃって――というか事前に察知するようになっちゃったからねえ。そういう新鮮な反応に飢えててさ」

ごめんと言いつつ一切悪びれる様子もなく、モリスは本題に入った。
「実はね、魔石を使った化粧品を製造販売する事になってるんだけどさ、製造工程には結構秘密が多くって、信用できる錬成師と付与術師を探してるんだよ。そうしたらさ、マリアベル校長からミッチェル君だったら良い人を紹介してくれるんじゃないかって提案があってね、それでちょっと相談に来たって訳なんだよ」

ガッチャガチャの登場シーンからは思いもよらない真面目な話に、ミッチェルの表情も真剣なものとなる。

「錬成師か、ほうじゃのお……確認なんじゃが、それはやはり一時いっときの依頼とかじゃあなくって、ずっとの仕事になるっちゅう事でええんじゃな?」
「うん、そうなるね。ほぼその仕事に掛かりっきりになると思って間違いないよ」

モリスのその返事にミッチェルは暫し考えを巡らせ、そして膝を叩いた。
「ほんなら一人丁度ええのがおるぞ。名前はミカっちゅってな、里におるわしの妹なんじゃが、錬成の素質はかなりのもんなんじゃよ。もうそろそろ独り立ちする頃じゃから、何じゃったらちょっくら行って連れてくるぞ?」

あっさりと見つかった候補に目を輝かせるモリスだったが、ただ一つ気になる点があった。
「でもドワーフの里って結構遠くなんじゃない? 君、そんな簡単に行って連れ帰ってきたりなんて出来るのかい?」

だがその質問にミッチェルは事も無げに返す。
「その点は心配無用じゃ。うちの里にはラーバルの奴がちょくちょく出入りしちょったからの。頼めば【転移】でちゃちゃっと連れてってくれるじゃろ」

ならばモリスとしても否はない。しかもその行き先が名高いドワーフの里と来れば、モリスの反応は当然――
「おおっ! だったらぜひ僕もドワーフの里に招待してくれよ。うんうん、いいねいいね。ドワーフの里、実に興味深い」
――となる。

だがそれに対するミッチェルは渋い表情を浮かべ、言いづらそうに口を開く。
「ううむ、すまんがそれはちと難しいのう。実はうちの里は一見さんお断りでの、里のもんの紹介制になっちょるんじゃよ。そんで審査に結構時間がかかるもんじゃから、里に入るっちゅうのはまた今度、時間がある時にした方がええじゃろうな」

早とちりによって自らを上げて落としたモリスは残念な表情を浮かべ、だがすぐ気持ちを切り替えると笑顔を浮かべた。

「そっかーー、残念だよ。じゃあさ、せめて入り口までは一緒に行って構わないかい? そうしたら次回は僕が【転移】で連れて行くからさ」
「ふむ、それじゃったら問題ないぞ」
「よし、じゃあ約束だよ。いやあ実に楽しみだ。じゃあ早速今から一緒にラーバル君のところに行こうか」

勢いに乗ったモリスはすかさずラーバルに通信を繋げ、そしてまた喋っている最中に【転移】してラーバルを驚かせ、そして――
3人連れ立ってドワーフの里の入り口へとやって来た。
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