どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき

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「ああ」
「そ、その、何が狙いなのですか?」

 つい口に出してしまうとウルフイット第三王子はすぐ答えてくれる。

「半分はこちらの問題、残り半分は先ほど言ったように少しだけ見る目がないお前の目を覚ましてやろうと思っただけだ。あるもの……いや、ある光景を見せてな」
「ある光景ですか?」

 私が首を傾げるとウルフイット第三王子は懐中時計を取り出し、時間を確認する。

「ちょうど頃合いだ。ついて来い」

 それから二階のテラス席に私とユリを連れいき、ある方向を指差しも。

「もうすぐ来る。あそこを見ていろ」

 私のイメージする怖い姿になりながら——と、ウルフイット第三王子が眉間に皺をよせて睨みつける方向に顔を向ける。
 しばらくして彼がなぜ、その表情になったのかを嫌というほど理解しながら。
 何しろ、アルバンとダーマル男爵令嬢が恋人の様に腕を組み、いわゆる休憩所という所に入っていくのが見えたので。
 こちらに見られているのにも気づかず。その中には一応、婚約者である私も含まれているのに。

「あいつ……」

 だからこそ優しいユリは、私のために怒ってくれていたけれど。小さな肩を震わせながら、両の拳をぎゅっと握りしめて。
 ただし、低く唸るような声を響かせ、「あの二人には、何度も注意したんだ。それこそ何百回もな。それなのに、俺の逆鱗に触れるようなことをまたしやがって……」と、ユリよりも拳を固く握り、怒りに震えているウルフイット第三王子の姿を見るなりポカンとしていたが。
 それは私も。
 何しろ、彼がここまで怒るとは思っていなかったので。普通は不貞行為を目撃したからって他人ならここまでは怒らないだろうし。

 それは、王家だろうと……

 そう思っているとウルフイット第三王子はハッと我に返り咳払いする。

「まあ、とにかくあの二人がどういう状況かはわかったな?」
「ええ、不貞行為中とだけは。ちなみにウルフイット第三王子はいつからあの二人に気づいていたのですか?」
「そうだな。それも説明したかった」

 ウルフイット第三王子は頷くなり先ほどいた席に私達を誘導してくれる。今度はユリの分の紅茶も出してくれて。
 まあ、これは優しさだけでなく話が長くなるということなのだろうけれど。そう考えていると彼が早速、口を開いてくる。

「アルバンとダーマル男爵令嬢は幼馴染で昔から常にあんな感じだったらしい。しかも残念なことに悪い方向に依存しあってな」
「依存ですか……」
「ああ、二人は学ぶことが苦手ですぐに放りだしては、お互いに慰め合って終わらせてしまうから全く成長しなかったそうだ。それが学院に入るまでな」
「要は問題児だったと……」
「ああ、将来ウルフイット王国の一部、ダナトフ子爵領を継ぐ者としては致命的にな。だから、当時、生徒会長だった第二王子、つまり兄貴とその婚約者の二人で勉強を教えていたんだ。まあ、もちろん全く効果はなかったが」
「すぐに二人は逃げ出し、慰めあっていたと……」
「皆優しく接していたからな」

 ウルフイット第三王子は肩をすくめる。
 少しだけ呆れた表情で——と、私はなんで彼が続けてアルバンを見ていたのかやっと理解する。手を打ちながら。

「ああ、だから、治らない状態のまま今度は生徒会長になられたウルフイット第三王子が対応されたと」
「そういうことだ。まあ、対応というかこのままだと廃嫡されて平民か修道院行きになって終わるぞって言ってやっただけなんだがな」
「ああ、アルバン様には弟がいますからね」
「ダーマル男爵令には妹もな」
「じゃあ、効果はあったのではないでしょうか?」
「ああ、二人は焦って勉強しだしたよ。もちろん定期的に逃げだしたけどな」
「でも、それでも段々勉強はできるようになったと」
「少しな。だが、これであいつらが結婚してもたまに目を光らせておけば領地経営は大丈夫だと思っていたんだ」
「一年後に私と婚約するまでは……まあ、結局はお金目当てでしたけれどね」
「ダナトフ子爵の入れ知恵だ」
「経営難なのですよね」
「知っていたんだな」
「はい。でも、いったいなぜ次男でなく長男であるアルバン様をホイット子爵家の婿養子に……あっ」

 私が思わずウルフイット第三王子を見ると、彼は口角を上げ頷いてくる。

「そうだ。ダナトフ子爵はあの女を家に入れたくなかったのだろうな」
「……大変そうですからね。でも、そうなるとお金だけじゃなく問題ある人達までうちに押し付けてきていたのですね……」
「ああ、そこは申し訳ないと思っている。俺がしっかり見張っていたらホイット子爵家に迷惑をかけることはなかったからな」

 ウルフイット第三王子は心底悔しそうな表情を浮かべる。
 その姿に私はある考えが思い浮かんでしまったが。

「もしかして、生徒会室の話はわざと私に聞かせたのですか?」
「ああ、扉を開けて王家の影を使い、お前が来るタイミングを測っていた。アルバンの本心を伝えるのはあれしか方法が思いつかなかったからな」

 なるほど、確かに、口で言われても当時の私はきっと信じなかっただろう。アルバンのあの言葉を聞かない限りは——と、納得しているとウルフイット第三王子が続けて言ってくる。

「だが、今回の件、完全に失態だった。だから、俺を罵ってくれても構わない」
「へっ? い、いや、そんなこと私がする理由は……」
「あるさ。お前を沢山傷つけてしまっただろう」
「あっ……」

 私はウルフイット第三王子はの言葉を聞き思わず口元を押さえた。確かに傷ついたからだ。
 そして誰にも相談することも——と、頬に一粒の涙が伝っていくと彼が頭を深々と下げてくる。

「さっきの態度でわかったが王族である俺が関わってるからホイット子爵にも相談できなかったのだろう。そこまで頭が回らなかった。すまない」
「い、いいえ、私を傷つけたのはアルバン様とダナトフ子爵ですから」
「だがな……」

 ウルフイット第三王子は納得していない表情を向けてくる。
 するとユリが突然、彼の側に行き睨んだのだ。
 
「そうですよ。王家に逆らったら子爵家なんてあっという間に潰されてしまいますからね。お嬢様は誰にも相談できずにとても苦しんだ挙句に寝込んだのですよ」
「そうだったのか……。本当にすまなかった」
「い、いいえ、もういいのですよ。それに謝るなら私もですから」
「……どういうことだ?」
「私もウルフイット第三王子の噂を鵜呑みにして勝手に怖がっていたのです」
「噂? ああ、そういうことだったのか……。いや、あれはあながち間違いではないぞ」
「えっ?」

 私が驚いているとウルフイット第三王子は頬を掻きながら説明してくる。

「どう注意しても直さない素行不良な生徒達を何人か退学にしていたんだ。それに尾ひれが付いたって感じだな」
「そうだったのですか……。あの、じゃあ爵位を取り上げたという噂は?」
「俺個人でそんな事は流石にできない。ただ、退学させた生徒の素行調査を提出した際、その親が犯罪関係で捕まって爵位を取り上げられてな……」
「ああ、要は生徒の素行調査をしたついでに親の犯罪までわかったので王家が動いたという事なのですね」
「まあ、そういうことだ」
「なるほど。つまりウルフイット第三王子は言葉使いは悪いけれども真面目な生徒会長であり国民が望む理想的な王族だったと」

 ユリがそう呟くとウルフイット第三王子は肩をすくめて苦笑する。

「俺はそんな立派じゃない。まあ、だが……今はその真面目な生徒会長と理想的な王族になってみるか」

 そして私に向き直ると貴賓あふれる表情で言ってきたのだ。

「質問だ。お前はアルバンとどうなりたい?」

 もちろん私の答えは決まっていた。だから、はっきりと答える。

「婚約解消一択です」

 まあ、内心では破棄にまで持っていきたかったけれど。

 そう思っているとウルフイット第三王子が満足気な表情で頷く。

「わかった。では俺も手を貸そう。必ずあいつにしっかり罪を償わせる方法でな」

 つまりは——と、私は勢いよく頭を下げる。

「ありがとうございます」

 それから「では、早速このまま乗り込みますか?」と、ユリの言葉に思わず休憩所の方に顔を向けてしまいも。内心ではあの状況でも嘘を吐くのではと不安になりながら。
 ただし、すぐに「いや、俺達だけで行くと下手な嘘を作らせてしまう。それに証拠は沢山ある。沢山な」そう言って笑みを向けてくるウルフイット第三王子の言葉に安堵することができたが。
 それは彼が笑みの裏側に怒りのようなものが見え隠れさせていても。
 だって、私はもうウルフイット第三王子のことは怖くないのだから。
 それどころか、尊敬できる人だとも。だから私は心からの笑顔を彼に返すのだった。
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