森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

魔女との出会い

第30話 魔女と共同開発

　ある日の午後、薬屋の裏にある薬草園で、アルトはいつものようにハーブの手入れをしていた。太陽の光を浴びて、様々な種類のハーブが生き生きと茂っている。アーティチョーク、アイブライト、アニスシード……数えきれないほどのハーブが、それぞれの香りを放っていた。

　そこに、ふらりと魔女が現れた。「アルト、新しいハーブティーを作らないか？」

　魔女の突然の提案に、アルトは少し驚いた。「新しいハーブティーですか？いいですね。どんなものを作りましょうか？」

「うむ、特別なハーブティーだ。飲むと心が安らぎ、体の奥から力が湧いてくるような、そんなハーブティーを作りたい」

　アルトは、魔女の言葉に興味を惹かれた。「面白そうですね。ぜひ、協力させてください」

　二人は、薬草園に生えているハーブを吟味し始めた。アルトは、それぞれのハーブの効能を説明し、魔女は、ハーブ同士の組み合わせによる相乗効果を語る。

「カモミールは心を落ち着かせ、リラックス効果がある。ラベンダーは安眠を促し、ローズマリーは記憶力を高める。これらを組み合わせれば、心身ともにリフレッシュできるハーブティーになるだろう」

「なるほど。では、それにジンジャーを加えてはどうだ？ジンジャーは体を温め、血行を促進する効果がある。冷え性の人には最適だろう」

　二人は、様々なハーブを組み合わせ、試行錯誤を繰り返した。時には、全く新しい組み合わせを試してみたり、時には、昔から伝わる伝統的なレシピを参考にしてみたり。

　そして、ついに、最高の組み合わせを見つけた。「これだ！」アルトは、興奮した声で言った。「レモンバーム、レモンピール、そしてマロウブルー。この三つを組み合わせれば、爽やかで、美しい青色のハーブティーになるはずだ」

　魔女も、アルトの提案に賛成した。「いいだろう。それに、ヒースを加えてはどうだ？ヒースは、心を癒し、幸福感をもたらす効果がある。このハーブティーに、ぴったりのハーブだ」

　二人は、早速、ハーブティーを淹れてみた。レモンバームとレモンピールの爽やかな香りが、部屋中に広がる。そして、マロウブルーの美しい青色が、心を奪う。

「これは……素晴らしい！」魔女は、ハーブティーを一口飲むと、目を輝かせた。「心が安らぎ、体の奥から力が湧いてくるようだ」

　アルトも、ハーブティーを飲んでみた。「本当に、素晴らしいですね。こんなに美味しいハーブティーは、初めてです」

　二人は、完成したハーブティーを、森の住人たちに振る舞った。妖精たちは、その美しい青色に目を奪われ、獣人たちは、その爽やかな香りに酔いしれた。

「このハーブティー、すごく美味しい！」「なんだか、体が軽くなった気がする！」「明日から、また頑張れそうだ！」

　森の住人たちは、ハーブティーに大満足だった。アルトと魔女は、そんな光景を見て、嬉しそうに微笑んだ。

　その日の夕食後、アルトは魔女に話しかけた。「そういえば、あなたの名前はまだ聞いていませんでしたね。もしよければ、教えていただけませんか？」

　魔女は少し考えてから、答えた。「名前か……そうだな。私はずっと名前を持たずに生きてきたからな。でも、せっかくアルトがそう言ってくれるなら、名乗ってもいいかもしれない。そうだな……今日作ったハーブティーの色からとって『ラピス』とでも呼んでくれ」

「ラピス、ですか。素敵な名前ですね。ラピス、これからよろしくお願いします」

　アルトはそう言うと、薬草園に目を向けた。今日も一日、様々な出来事があった。この森での生活は、穏やかで、変わり映えのない日々だ。しかし、その中には、いつも新しい発見と、温かい交流がある。

「さて、明日からは何をしようか……」

　アルトは、これからの森での生活に想いを馳せながら、静かに目を閉じた。

（第3章完）