森の中の憩いの場〜薬屋食堂へようこそ〜

魔女との出会い

第29話 魔女と精霊

　魔女の体調がすっかり良くなった数日後。薬屋は再び、いつもの賑わいを取り戻していた。妖精たちは相変わらずおしゃべりに花を咲かせ、獣人たちは肉料理に舌鼓を打っている。アルトは、カウンターの中でハーブティーを淹れながら、そんな光景を穏やかな微笑みで見守っていた。

「アルトさん、今日のハーブティーも最高だね！」
「ありがとう。気に入ってくれて嬉しいよ」

　常連の妖精が、嬉しそうにハーブティーを飲み干した。アルトは、空になったカップに再びハーブティーを注ぎ足した。その時、店の入り口の鈴がチリンと音を立てた。

「いらっしゃいませ」

　アルトが顔を上げると、そこに立っていたのは、見慣れない小さな影だった。それは、手のひらサイズの可愛らしい精霊だった。淡い光を放つその姿は、まるで小さな妖精のようだった。

「こんにちは。ここは、アルトさんの薬屋ですか？」

　精霊は、可愛らしい声でアルトに話しかけた。

「ええ、そうですよ。何かご用ですか？」
「私たちは、魔女様の知り合いなんです。魔女様から、アルトさんの薬屋はとても居心地が良いと聞いて、ぜひ来てみたかったんです」

　精霊の言葉に、アルトは少し驚いた。魔女の知り合いの精霊たちが、自分の薬屋に興味を持つとは、思ってもみなかったからだ。

「そうだったんですね。よくいらっしゃいました。どうぞ、ゆっくりしていってください」

　アルトは、精霊たちを温かく迎え入れた。精霊たちは、嬉しそうに店内を見回し始めた。

「わあ、素敵な薬草がたくさん！それに、美味しそうな匂いがする！」
「ハーブティーの香りも、すごくいい匂い！」

　精霊たちは、アルトの薬屋にすっかり魅了されたようだ。アルトは、そんな精霊たちに、ハーブティーを勧めた。

「よかったら、ハーブティーをどうぞ。色々な種類がありますよ」
「ありがとうございます！いただきます！」

　精霊たちは、アルトが淹れたハーブティーを、美味しそうに飲み始めた。

「このハーブティー、すごく美味しい！こんなに美味しいハーブティーは、初めて飲みました！」
「私も！なんだか、体がポカポカしてきた！」

　精霊たちは、ハーブティーの味に感動しているようだった。アルトは、そんな精霊たちの様子を見て、満足そうに微笑んだ。

「気に入ってくれて嬉しいです。実は、このハーブティーには、特別な魔法がかけられているんです」
「魔法？どんな魔法ですか？」

　精霊たちは、興味津々といった様子で、アルトに質問した。

「このハーブティーを飲むと、心と体が癒されるんです。それに、少しだけ、未来が見えるようになるかもしれません」
「未来が見える？それって、すごい！」
「試してみたい！」

　精霊たちは、目を輝かせた。アルトは、そんな精霊たちに、微笑みかけた。

「もちろん、試してみてください。でも、未来が見えるかどうかは、その人の心の状態によって変わるので、必ず見えるとは限りませんよ」
「それでも、試してみたい！」

　精霊たちは、ハーブティーを飲み干すと、目を閉じて、集中し始めた。しばらくすると、一人の精霊が、ゆっくりと目を開けた。

「私、見えた！森の奥にある、古い泉が見えた！」
「泉？どんな泉なの？」

　他の精霊たちが、興味津々といった様子で、質問した。

「それは、とても美しい泉で、水面がキラキラと輝いているの。そして、その泉の周りには、たくさんの花が咲いているの」
「素敵な泉ね！私も見てみたい！」

　他の精霊たちも、次々と目を開け、それぞれが見た未来について語り始めた。

「私は、森の動物たちが、仲良く遊んでいる姿が見えた！」
「私は、大きな虹が、空にかかっているのが見えた！」

　精霊たちは、それぞれが見た未来の光景を、楽しそうに語り合った。アルトは、そんな精霊たちの様子を、微笑ましく見守っていた。精霊たちは、未来を見た後も、しばらくの間、アルトの薬屋で過ごした。アルトは、精霊たちに、森の不思議な話を聞かせてもらった。精霊たちは、森の植物や動物たちのこと、そして、森に住む様々な精霊たちのことを、詳しく教えてくれた。アルトは、精霊たちの話を聞きながら、ますます森が好きになった。

「アルトさん、今日は本当にありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました」
「こちらこそ、ありがとうございました。また、いつでも遊びに来てください」

　精霊たちは、アルトに別れを告げると、森の中へと帰っていった。アルトは、精霊たちが去った後も、しばらくの間、店の入り口に立っていた。そして、森の奥へと向かって、静かに微笑んだ。

　その日から、精霊たちは、頻繁にアルトの薬屋を訪れるようになった。精霊たちは、アルトの薬を買いに来たり、ハーブティーを飲みに来たり、あるいはただ単に、おしゃべりをしに来たりした。アルトは、精霊たちとの交流を通して、ますます森の生活を楽しんでいた。