すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ

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第六章 張り裂けそうな心

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パーティーの喧騒が遠のき、愛菜は一人、会場の外のテラスに出ていた。冷たい夜風が火照った頬を冷ます。

波留のあの言葉が、頭の中で何度も反響していた。彼の冷たい視線、そして疑念に満ちた声。

「愛菜」

背後から声がして振り返ると、そこに蓮が立っていた。彼の顔には、心配そうな色が浮かんでいる。

「蓮‥ごめんね、まさか波留があんなこと言うなんて」愛菜は、情けないほど震える声で言った。

「愛菜が謝ることないよ。それより大丈夫?波留のやつ、ひどすぎるだろ」

蓮は愛菜の隣りにそっと歩み寄り、心配そうにその顔を覗き込んだ。

「大丈夫なわけ、ないよ‥」愛菜は、今にも泣き出しそうな声を押し殺した。

「どうしてあんなに私を疑うんだろう?私、仕事もちゃんとしてるし、蓮とは、ただの幼馴染なのに」

蓮は、愛菜の肩にそっと手を置いた。

「愛菜、波留はさ、たぶん‥」蓮は言葉を選びながら言った。「たぶん、愛菜のことが好きなんだよ」

愛菜は、驚いて蓮の顔を見上げた。

「そんなわけない。私を嫌ってるんだよ、あんなに冷たくて、疑ってばかりで」

「いや、違うと思うな。もし嫌いなら、あんなに気にしないだろ。わざわざパーティーで俺にあんなこと言う必要もないし」

蓮は、波留の行動を冷静に分析するように言った。

「あれは、焦りとか、独占欲の裏返しなんだよ、きっと」

愛菜は、蓮の言葉に戸惑いを覚えた。波留が、自分を好きだなんて、想像もできなかったからだ。

「でも、だったらどうしてあんなに冷たいの?優しくしてくれたら、ちゃんと話してくれたら、もっと分かり合えるのに‥」愛菜の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

「不器用なんだよ、きっと」蓮は、優しく愛菜の頭を撫でた。

「神宮寺グループの御曹司なんて立場だし、甘え方も、気持ちの伝え方も知らないのかもしれない」

その時、テラスのドアが開き、波留が姿を見せた。彼の視線は、テラスにいる愛菜と蓮に釘付けになった。

特に愛菜の肩に置かれた蓮の手に、波留の目は鋭く反応した。

「おい、櫻井」波留の声は、怒りを含んでいた。

「私の婚約者に、これ以上馴れ馴れしくするなと言ったはずだが」

蓮は、波留の剣幕に一瞬ひるんだが、すぐに愛菜から手を離し、波留に向き直った。

「神宮寺さん、愛菜が落ち込んでいたから、慰めていたんです。それの何が悪いんですか?」

「慰めるだと?ふざけるな!」波留は、愛菜の腕を掴み、強く引き寄せた。

「私の婚約者は、私以外の男に慰められる必要はない」

愛菜は、突然のことにバランスを崩し、波留の胸にぶつかった。波留の硬い胸板に触れ、愛菜は微かに彼の心臓の鼓動を感じた。

しかし、その顔は怒りに歪んでいた。

「波留さん、やめて!痛い!」愛菜は、波留の手を振り払おうとした。

波留は愛菜の腕を掴んだまま、蓮を睨みつけた。

「二度と、愛菜に近づくな。もしもこれ以上、愛菜に不穏な影を落とすようなことがあれば、貴様の会社にも影響が出ると思え」

波留の言葉に、蓮の顔から血の気が引いた。蓮は、波留の脅しが本気であると悟ったようだった。

「波留さん、そんなこと言わないで!」愛菜は、波留の冷酷な言葉にゾッとした。

波留は、愛菜の言葉には耳を傾けず、蓮に背を向けた。

「行くぞ、愛菜」波留は、愛菜の腕を強く引き、テラスから去ろうとした。

愛菜は、波留の強引な態度に反発を感じたが、彼の腕力には敵わない。テラスに残された蓮は、悔しそうに拳を握りしめていた。

波留は、愛菜をパーティー会場の一角に連れて行くと、腕を離した。

「何を勝手に男と二人でテラスなんかにいるんですか。私の顔に泥を塗るきですか」波留の声は、氷のように冷たかった。

「泥を塗ってるのは、波留の方だよ!私が何をしてるか、ちゃんと話も聞かずに、一方的に決めつけて!」愛菜は、抑えきれない怒りをぶつけた。

波留は、愛菜の言葉に一瞬たじろいだが、すぐに顔を背けた。

「君には、私の気持ちなど分かるまい」

そう言い放つ波留の横顔には、これまで見たことのないような、苦しそうな表情が浮かんでいた。

しかし、愛菜には、その真意が全く理解できなかった。

「分からないよ!波留が何も話してくれないから!ずっと冷たくて、私を疑ってばかりで‥」

愛菜の声は、震えながらも続いた。

「私、もう、疲れたよ‥」

愛菜の言葉が、波留の胸に突き刺さった。波留は愛菜の方を振り返ろうとしたが、そのまま言葉を失ってしまった。

不器用な彼は、この状況をどう打開すれば良いのか、全く分からずにいた。

この関係は、一体どこへ向かうのだろうか。愛菜の心は、張り裂けそうだった。

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