すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ

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第十七章 波留の孤立 そして訪れる光

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麗華を拒絶し、愛菜を失った波留の心は、深い闇の中に沈んでいた。彼の周囲からは人が遠ざかり、執務室はまるで彼の心の状態を映し出すかのように、冷たく静まり返っていた。

しかし、そんな波留を見かねた人物がいた。ある日の午後、波留の執務室のドアがノックされた。

波留は、返事をせず、顔を伏せたままだった。しかしノックはふたたび、そして強く響いた。波留は、苛立ちを覚えながら顔を上げた。

「入っていいと言ったはずですが」

ドアが開き、そこに立っていたのは蓮だった。彼の顔には、心配と、そして、波留への諦めのような感情が入り混じっていた。

「おい、波留。いつまでそうやって引きこもってんだ?」蓮は、波留のデスクのまえにたつと、腕を組んで言った。

波留は、蓮の言葉を無視し、再び顔を伏せた。「君には関係ないことです」

「関係なくないね。愛菜がどれだけお前のことで心配していたか、知ってるか?」蓮の声には、怒りがこもっていた。

「お前が勝手に麗華さんに当たり散らして、愛菜まで傷つけて、それで満足か?」

蓮の言葉に、波留は、顔を上げた。その目には、蓮への怒りと、そして、自己嫌悪の色が浮かんでいた。

「私のことをどうこう言う資格は、君にはありません」

「資格があるかどうかは知らねえが、俺は愛菜の味方だ。そして、お前がほんに愛菜を愛してたなら、こんなことになってねえはずだ」蓮は、波留の冷たい視線にもひるまず、続けた。

「麗華さんのせいだと思ってんのか?違うだろ。お前が愛菜を信じきれなかったからだ。昔の傷に縛られて、愛菜の気持ちを理解しようとしなかったからだ」

蓮の言葉は、波留の心臓に深く突き刺さった。波留は、反論することができなかった。

「麗華さんは、お前のために身を引いたんだぞ。そこまでしてくれた人を、お前は邪険にした。それで愛菜が戻ってくると思ってんのか?」蓮は、吐き捨てるように言った。

「目を覚ませ、波留。このままじゃ、お前は本当にひとりになるぞ」

蓮は、そう言い残すと、執務室を後にした。波留は、その場に立ち尽くし、蓮の言葉が、脳裏をぐるぐると巡る。

彼の言葉は波留の心を容赦なく抉ったが、同時に、彼の心の奥底に、かすかな光を灯した。その日の夜、波留は一人、自宅の書斎で酒を飲んでいた。

蓮の言葉が、頭の中を駆け巡る。

「私のせいだ‥‥私が愛菜を信じなかったからだ‥‥‥」

波留は、自身の過ちを痛いほどに理解していた。麗華にせきにんを負わせ、愛菜の心を傷つけたことへの後悔が、彼を蝕んだ。

彼は、再び、愛菜の幸せを願うようになった。愛菜が、自分ではない誰かと幸せになることを。

その時、波留のスマホが鳴った。画面を見ると、見慣れない番号だった。波留は、迷いながらも電話に出た。

「もしもし」

「神宮寺社長‥‥でしょうか」

電話の向こうから聞こえてきたのは、微かに震える、女性の声だった。その声に、波留はハッとした。

「鈴木‥‥か?」

「はい‥‥」麗華も声は、以前のような毅然としたものではなく、どこか弱々しかった。「お忙しいところ申し訳ございません。ご報告したいことがありまして‥‥」

波留は、沈黙した。彼の中で、麗華への拒絶と、そして、彼女への罪悪感が入り混じっていた。

「私は、今、海外におります。新しい仕事で‥‥‥」麗華の声は、微かに震えていた。

「そして、先日、病院で検査を受けました。私の‥‥体に、病気が見つかりました」

麗華の言葉に、波留は息を飲んだ。

「は‥‥‥?病気?一体、どう言うことですか?」波留の声には、動揺が隠せない。

「進行性の病気で、余命‥‥数ヶ月と宣告されました」

麗華の声は、涙でかすれていた。

「社長に、ご迷惑をおかけするわけにはいきません。だから‥‥‥」

麗華は、そこで言葉を詰まらせた。波留は、電話の向こうの麗華の言葉に、衝撃を受けていた。彼が拒絶し、遠ざけた麗華が、死の淵に立たされている。

「‥‥‥何を言ってるんだ。そんな、まさか‥‥‥」波留の声は震えた。

「嘘ではございません。だから、社長には、もう、私のことなど忘れて‥‥幸せになっていただきたくて」麗華は、そい言い残すと、電話を切った。

波留は、スマホを握りしめ、その場に立ち尽くした。麗華の突然の告白は、波留の心を揺さぶった。

彼は、愛菜への後悔だけでなく、麗華への深い罪悪感に苛まれることになった。彼の心は、再び、複雑な感情の渦に巻き込まれていった。

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