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第三十五章「白薔薇の庇護(王妃 × シャーロット)」
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王城〈白薔薇の間〉――
薄いレース越しの光が床に淡く広がり、
静かな香りが空間を満たしていた。
侍女に案内されて、
シャーロットはそっと部屋の縁に立つ。
(ここに……招かれるなんて……)
白薔薇の間は、
王妃が“特別に庇護を与える者”だけを通す私室。
貴族でも滅多に足を踏み入れられない。
胸が、緊張で小さく上下する。
そのとき――
白いカーテンが揺れ、
王妃マリアーヌが現れた。
長いヴェールに包まれ、
その歩みは風のように静か。
「……ヴァレンタイン嬢。
こちらへいらっしゃい」
優しい声だった。
けれど、その奥には鋭い“真実を見抜く眼”がある。
シャーロットは深く頭を下げる。
「お、お招きいただき……光栄です……」
「顔を上げて。
泣いた痕が、まだ残っているわ」
その一言で、
シャーロットの胸がきゅっと締め付けられた。
「……見苦しくて、申し訳ございません」
「泣くことは見苦しくありません。
泣くほどのことを、誰かがあなたにしただけです」
王妃はそっと席を示した。
「座って、話しましょう」
向かい合うと、
シャーロットの指は落ち着かず膝の上で揺れる。
王妃はその指先に気づき、
静かに紅茶を注いだ。
「まず……あなたに伝えたいことがあります」
シャーロットは小さく息を呑む。
「――あなたは悪くない。
悪いのは“あなたを利用した者”です」
その言葉に、
シャーロットの視界が揺れた。
「っ……あ……」
(どうして……どうして、そんなふうに……
わたしを……)
王妃は続ける。
「侍医アーロンから報告を受けました。
ドレスの裂け目、粉香、弱糸……
あなたが意図的に狙われた証拠が、
すでにいくつも揃っているわ」
「……い、意図的……」
「ええ。
あなたは、誰かに“落とされようとしている”」
シャーロットは胸を押さえた。
痛みが波のように押し寄せる。
「そんな……
わたし……誰かの恨みを買うようなこと……」
「あなたは優しい。
だから恨まれたのです」
「……え……?」
「優しい者の隙は、
利用する者にとっては“最も扱いやすい札”になる。
あなたは――
“奪いたい者にとっての障害”なのです」
その言葉が、深く刺さる。
(……奪いたい者……
まさか……マリナ様……?)
口にはできない。
証拠もない。
でも――胸が苦しいほどに、思い当たる。
王妃はそっとシャーロットの手に触れた。
「ヴァレンタイン嬢。
これから王家は、あなたを“庇護対象”とします」
「……王家の……」
「ええ。
あなたはもう、
誰にも傷つけさせない。
噂にも、偽造にも、影にも晒さない」
その宣言は、
王妃としての“公的な力”を伴うものだった。
「しばらくの間、あなたの生活は王家が守ります。
侍女を一人、こちらからつけましょう。
行動記録も王家が扱う。
夜会に参加するときも同行させます」
シャーロットは目を丸くした。
「そ、そこまで……
わたしのために、なぜ……?」
王妃は微笑んだ。
「理由は二つあります」
一本、指を立てる。
「ひとつ。
あなたは“無実”だから」
もう一本立てる。
「ふたつ。
あなたが――
“公爵カルロスの心に触れてしまった”から」
シャーロットの心臓が跳ねた。
「っ……!」
「知らないふりはできません。
あの方は、あなたが泣いた時……
“公爵として”ではなく
“ひとりの男として”怒っていました」
胸の奥が熱くなる。
(カルロス様が……
わたしのことで……?)
「だからこそ、あなたを守ることは
公爵家を守ることにもなるのです」
「ヴァレンタイン嬢」
王妃は優しく、しかし強く言った。
「どうか、“壊れないで”。
あなたはまだ、守られるべき場所にいるわ」
「……王妃様……」
「もう一度言います。
あなたは悪くない。
あなたは、奪われようとしているだけ。
――でも、奪わせません」
その微笑は、
冬を越えた白薔薇のように静かで強かった。
「あなたは、この王宮に必要な人です。
そして――
カルロスにも」
シャーロットの頬を、涙が伝った。
(わたし……守られている……?
そんな……
そんなこと……)
王妃は彼女の涙を拭き、
そっと抱き寄せた。
「大丈夫。
真実は必ず戻ります」
白薔薇の間の扉が閉じる。
その瞬間、
王妃は侍女長に静かに命じた。
「――ロズモンド伯爵家の動きを、すべて記録しなさい」
「畏まりました」
「このままでは終わらせない。
“すり替えられた婚約”の真相を……
必ず暴きます」
白薔薇の香りが揺れた。
守るべき少女の名誉は、
王家によって動き始めたのだった。
薄いレース越しの光が床に淡く広がり、
静かな香りが空間を満たしていた。
侍女に案内されて、
シャーロットはそっと部屋の縁に立つ。
(ここに……招かれるなんて……)
白薔薇の間は、
王妃が“特別に庇護を与える者”だけを通す私室。
貴族でも滅多に足を踏み入れられない。
胸が、緊張で小さく上下する。
そのとき――
白いカーテンが揺れ、
王妃マリアーヌが現れた。
長いヴェールに包まれ、
その歩みは風のように静か。
「……ヴァレンタイン嬢。
こちらへいらっしゃい」
優しい声だった。
けれど、その奥には鋭い“真実を見抜く眼”がある。
シャーロットは深く頭を下げる。
「お、お招きいただき……光栄です……」
「顔を上げて。
泣いた痕が、まだ残っているわ」
その一言で、
シャーロットの胸がきゅっと締め付けられた。
「……見苦しくて、申し訳ございません」
「泣くことは見苦しくありません。
泣くほどのことを、誰かがあなたにしただけです」
王妃はそっと席を示した。
「座って、話しましょう」
向かい合うと、
シャーロットの指は落ち着かず膝の上で揺れる。
王妃はその指先に気づき、
静かに紅茶を注いだ。
「まず……あなたに伝えたいことがあります」
シャーロットは小さく息を呑む。
「――あなたは悪くない。
悪いのは“あなたを利用した者”です」
その言葉に、
シャーロットの視界が揺れた。
「っ……あ……」
(どうして……どうして、そんなふうに……
わたしを……)
王妃は続ける。
「侍医アーロンから報告を受けました。
ドレスの裂け目、粉香、弱糸……
あなたが意図的に狙われた証拠が、
すでにいくつも揃っているわ」
「……い、意図的……」
「ええ。
あなたは、誰かに“落とされようとしている”」
シャーロットは胸を押さえた。
痛みが波のように押し寄せる。
「そんな……
わたし……誰かの恨みを買うようなこと……」
「あなたは優しい。
だから恨まれたのです」
「……え……?」
「優しい者の隙は、
利用する者にとっては“最も扱いやすい札”になる。
あなたは――
“奪いたい者にとっての障害”なのです」
その言葉が、深く刺さる。
(……奪いたい者……
まさか……マリナ様……?)
口にはできない。
証拠もない。
でも――胸が苦しいほどに、思い当たる。
王妃はそっとシャーロットの手に触れた。
「ヴァレンタイン嬢。
これから王家は、あなたを“庇護対象”とします」
「……王家の……」
「ええ。
あなたはもう、
誰にも傷つけさせない。
噂にも、偽造にも、影にも晒さない」
その宣言は、
王妃としての“公的な力”を伴うものだった。
「しばらくの間、あなたの生活は王家が守ります。
侍女を一人、こちらからつけましょう。
行動記録も王家が扱う。
夜会に参加するときも同行させます」
シャーロットは目を丸くした。
「そ、そこまで……
わたしのために、なぜ……?」
王妃は微笑んだ。
「理由は二つあります」
一本、指を立てる。
「ひとつ。
あなたは“無実”だから」
もう一本立てる。
「ふたつ。
あなたが――
“公爵カルロスの心に触れてしまった”から」
シャーロットの心臓が跳ねた。
「っ……!」
「知らないふりはできません。
あの方は、あなたが泣いた時……
“公爵として”ではなく
“ひとりの男として”怒っていました」
胸の奥が熱くなる。
(カルロス様が……
わたしのことで……?)
「だからこそ、あなたを守ることは
公爵家を守ることにもなるのです」
「ヴァレンタイン嬢」
王妃は優しく、しかし強く言った。
「どうか、“壊れないで”。
あなたはまだ、守られるべき場所にいるわ」
「……王妃様……」
「もう一度言います。
あなたは悪くない。
あなたは、奪われようとしているだけ。
――でも、奪わせません」
その微笑は、
冬を越えた白薔薇のように静かで強かった。
「あなたは、この王宮に必要な人です。
そして――
カルロスにも」
シャーロットの頬を、涙が伝った。
(わたし……守られている……?
そんな……
そんなこと……)
王妃は彼女の涙を拭き、
そっと抱き寄せた。
「大丈夫。
真実は必ず戻ります」
白薔薇の間の扉が閉じる。
その瞬間、
王妃は侍女長に静かに命じた。
「――ロズモンド伯爵家の動きを、すべて記録しなさい」
「畏まりました」
「このままでは終わらせない。
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