『すり替えられた婚約、薔薇園の告白

柴田はつみ

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第五十章 「白薔薇の誓い(カルロス × シャーロット)」

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 白薔薇の間に、
 朝の光が満ちていく。

 昨日の緊張と涙を洗い流すように、
 柔らかな陽が白い床を撫でた。

 シャーロットは、
 侍女に整えられた淡い桃色のドレスの裾をそっと押さえ、
 深く息を吸った。

(今日で……終わる。
 噂も、影も、すり替えられた婚約も。
 わたくし自身が選んだ未来へ、歩くのだわ)

 ゆっくり目を開けると、
 そこに立っていたのは──

 カルロス。

 朝光を受けた彼は、
 いつもより大人びて、凛として見えた。

「シャーロット」

 その声を聞いただけで、胸が温かくなる。

「お待たせして、すまなかった」

「いいえ……わたくしも、覚悟ができました」

 シャーロットは微笑み、カルロスを見つめ返した。



 王妃レイナが静かに口を開く。

「公爵カルロス。
 貴方がここに来た理由を、私たちはすでに知っています。
 あとは──“言葉”として形にするだけです」

 その意味を理解し、
 カルロスはゆっくりシャーロットの前に歩み寄った。

(……いよいよだ)

 シャーロットの心臓は高鳴り、
 この瞬間をずっと待っていたのだと痛いほど感じた。

 カルロスは膝をつき、
 シャーロットの手をそっと取った。

「シャーロット・ヴァレンタイン」

 名を呼ぶ声は、震えているのに澄んでいる。

「俺は……
 君のことを、幼い頃からずっと想ってきた」

 シャーロットの胸がきゅっと締めつけられる。

「けれど、不器用で、怖くて……
 想いを言葉にできなかった」

 カルロスは、昨日と違う表情をしていた。

 後悔ではなく、未来を見つめる人の顔。

「影に惑わされ、噂に振り回され、
 君が泣いたとき……
 俺は初めて、自分がどれほど愚かだったかわかった」

 シャーロットの瞳に、熱い涙が浮かぶ。

「君を傷つけたくなかったのに……
 俺が一番、傷つけていた」

「ちが……います。
 カルロス様は……」

「いいんだ、シャーロット」
カルロスは、優しい声で遮った。

「もう逃げない。
 もう黙らない。
 もう君をひとりにはしない」

 小さく、しかし力強く手を握る。

 そして──

「どうか、
 俺の婚約者になってほしい」

 白薔薇の間が静まり返った。
 シャーロットの胸の奥で、
 幼い日の想いが花開く音がした。



「……はい」

 その言葉は、
 涙と笑みが混ざった、小さな宝石のようだった。

「はい。
 喜んで……カルロス様の婚約者になります」

 カルロスの瞳が揺れ、
 次の瞬間、彼はシャーロットをそっと抱きしめた。

「ありがとう……
 本当に、ありがとう……」

 シャーロットは涙をこぼしながら、
 彼の胸に顔を埋めた。

 安心と幸福が、胸いっぱいに広がる。



 その後ろで、王妃レイナが静かに微笑む。

「ようやくね……
 ここまで来るのに随分と回り道をしたけれど、
 それもまた“恋”でしょう」

 侍女長はそっと涙を拭き、
 近衛クリスは、二人を祝福するように一礼した。

(……良かった。
 これで彼女はもう、影に怯えなくていい)

 彼の胸にもまた、静かな安堵が満ちていた。



 ただ一人、
 この光景を遠くから見つめる影があった。

 王宮の柱の陰。
 マリナ。

 扇の陰から、微笑んで言う。

「……ふふ。
 やっと終わりね、あなたたちの“初恋”は」

 しかしその瞳に宿る光は、
 悔しさでも憎しみでもない。

 むしろ――
 何かを“手放した”ように静かだった。

「でも、まあいいわ。
 花嫁になったのなら──
 後はその座を守るだけ。
 簡単ではなくてよ?」

 そう呟き、背を向ける。

 彼女の物語もまた、静かに幕を下ろしていく。



 白薔薇の間では、
 カルロスとシャーロットが手を取り合い、
 未来へ歩き出していた。

 影の噂に奪われた日々は、もう戻らない。

 けれど──
 これからは二人で選び取る時間がある。

 白薔薇が風に揺れ、
 二人の誓いをそっと祝福する。

 こうして、公爵令嬢シャーロットと
 公爵カルロスの“正式な婚約”は結ばれた。

 ――すれ違った幼い恋は、
 ようやく本物の愛へと変わる。

 

── END──
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