転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️

転生令嬢と溺愛王子の物語1

公爵令嬢リリーベル・ド・ヴァロアは、薄れゆく意識の中で、白いドレスをまとった聖女マリナに寄り添われるクラフト王子の冷たい瞳を見た。
「リリー、君は公国の裏切り者だ」
その声と共に、胸に鋭い痛みが走る。非難と憎悪に満ちた王子の顔が、彼女の最期の記憶だった。1度目の人生、リリーは愛するクラフト王子に殺されたのだ。理由などない。ただ、聖女マリナがそう告げたから。彼女の罪は、マリナの言葉ひとつで決められた。

次に目覚めた時、リリーは幼い自分に戻っていた。五年前に時間が巻き戻っている。これは夢ではない、現実だ。2度目の人生。リリーは決めた。今度こそ、クラフト王子とは関わらない。
静かに、穏やかに生きるのだ。

その日以来、リリーは社交界から距離を置き、学問と領地の発展に尽力した。優秀な家庭教師を雇い、あらゆる知識を貧欲に吸収する。公爵家は代々、王族に忠実な家柄だが、リリーは、王城への出入りを最小限に控え、公式な場でも王子とは視線を合わせないよう徹底した。

「リリー様は本当に真面目な方ですね」

侍女の言葉に、リリーは苦笑いする。真面目なのではない。ただ、死にたくないだけだ。

しかし、運命とは皮肉なものだ。社交界の片隅で静かに過ごしていたリリーに、思いがけない出会いが訪れる。

ある日、王立図書館で珍しい文献を探していたリリーは、偶然、その人物と鉢合わせた。振り返るまでもなくわかる、凍りつくような威圧感。そして、低く響く声。

「そこの君、この書物を使いたいのか？」

恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは、紛れもないクラフト王子だった。あの時の冷たい瞳とは違う、しかし、それでもリリーの心臓は警笛を鳴らす。

「は、はい。恐れながら、私が先に‥」

慌てて返事をすると、王子はふっと口元を緩めた。

「構わない。貸し切りではないのだからな。だが、もしよければ、この書物の内容について、少しばかり意見を交わしたいのだが？」

その日を境に、リリーの穏やかな日常は、少しずつ、しかし確実に崩れていった。王子はなぜか、頻繁にリリーの前に姿を現すようになったのだ。図書館、庭園、そして時には公爵邸まで。

最初は戸惑い、警戒していたリリーだが、王子が以前とは比べ者にならない程穏やかで、学識豊かであることに気づく。1度目の人生では、聖女マリナの言葉に盲目的に従い、リリーを断罪した王子だったが、今の彼は、理知的で思慮深い。

ある日の夕べ、公爵邸の庭園で、偶然出会った王子が言った。

「リリー、君はなぜ、そこまで私を避けるのだ？」

その問いに、リリーは言葉に詰まった。まさか「1度目の人生であなたに殺されましたから」とは言えない。

「‥滅相もございません。恐れ多くも、殿下のようなお方に私が近づくなど‥」

「戯言を。私は、君の聡明さとその控え目な態度に惹かれている。いや、正直に言おう。初めて君を見た時から、私の心は君に囚われている」

王子の真剣な眼差しに、リリーは息を呑んだ。あの冷酷な王子が、なぜ、こんなにも熱烈な言葉を。