11 / 48
降って湧いた夏合宿
11.合宿をします
しおりを挟む
「じゃあ皆、休み明けに元気で会おうな!」
終業式後のホームルーム。担任の声が大きく響いて教室が湧いた。
「やったー! 夏休みぃいい!!」
「ねえ、休みの間どっか行く?」
「おばあちゃんちかな。海が近いんだ」
今年の里見高校の夏季休業期間は33日間。
課題や塾の夏期講習があるとはいえ、長期の休みは嬉しいに決まっている。皆、それぞれ予定を口にしながら、足取りも軽く教室を出ていく。俺も後に続いて教室を出ようとした時だった。
「ちょい待ち、月宮」
呼ばれて振り向くと、加瀬が立っていた。俺と加瀬のクラスは同じ。元々クラスの中では話す方だったが、夏祭り以降はさらに気楽に話すことが増えた。
「少し時間ある?」
「うん、どうした?」
「ちょっと話があってさ。部室で話したいんだけど、いい?」
「いいよ。今日は特に予定ないし」
「あ~~助かる。そんなに時間はかかんねえから」
正直に言おう。この時、俺は浮かれていた。
封切られたばかりの映画に新作ゲーム、買ったはいいが読まずに積みっぱなしの本。夏休みならそれらにかける時間はたっぷりある。折角だからチャリで日帰り旅行に行くのもいい。そんなことを考えて気もそぞろだったのだ。だから、何も考えずに社会科準備室に向かってしまった。
「月宮連れてきたぞ~」
そう言いながら加瀬が先に社会科準備室に入った時、部屋の中には清良とりんりんがいた。
「月宮先輩!」
「お、りんりん? 元気そうだな」
清良が「りんりん?」と呟いて、はっとした。
「あっ、ごめん! いつもひづが呼んでるからうつっちゃって」
「あはは、りんりんでいいですよ。ひづにもそう呼ばれてるし」
「……悪い。じゃあ、俺も呼ばせてくれ」
「もちろんです。どんどん呼んでください!」
爽やかな笑みを浮かべたりんりんは、先週とは別人のようだ。言うならばこの間は狂犬で、今日はちゃんと躾けられた犬って感じ。
着ぐるみ同好会の(仮)部室スペースには、机が三つ並べられ、向かい合わせにもう三つ机が並べられている。りんりんと清良は並んで座り、二人の前にはプリントが置かれていた。そのプリントに気づいて、俺は清良にたずねた。
「これから話し合い?」
「……うん、まあ」
清良は俺と目を合わせずに、机の上を見ている。何だか歯切れが悪い。
「月宮先輩にもぜひ聞いてほしくて、加瀬先輩にお願いしたんです」
「俺?」
「はい! 先輩、これどうぞ」
りんりんは、机の上にあったプリントを俺の前に差し出した。そこには、キャンプ場にあるような木製の建物が写っていた。建物は三角屋根で、テラスの前には短い階段がある。
「えっと、これ、ログハウスじゃなくて……」
「ログキャビンです。デラックスタイプなので、部屋にはエアコンに冷蔵庫、ウォッシュレット付きトイレと洗面台もついてます」
「へー! 便利だな」
「そうなんです。すぐ近くに温泉が引かれてるお風呂とバーベキュー場もあるんですよ」
「すごい楽しそうじゃん。夏休みにぴったりって感じ」
「そ、そう思います?」
「うん」
りんりんはもう一枚プリントを渡してくれた。キャビンの間取りと設備に加えて、周辺情報が載っている。どうやら隣の市にあるフューチャーランドの関連施設らしい。フューチャーランドはすぐ側にホテルやオートキャンプ場があって、一大レジャースポットなのだ。
(そうか、キャンプもいいよな。アウトドアなタイプじゃないけど、たまには海や山に行くのも……)
「先輩!」
「ん?」
「ここ、行きませんか?」
りんりんは俺の目を真っ直ぐに見た。
「ここで着ぐるみ同好会の合宿をします! 月宮先輩も一緒に行きましょう!!」
終業式後のホームルーム。担任の声が大きく響いて教室が湧いた。
「やったー! 夏休みぃいい!!」
「ねえ、休みの間どっか行く?」
「おばあちゃんちかな。海が近いんだ」
今年の里見高校の夏季休業期間は33日間。
課題や塾の夏期講習があるとはいえ、長期の休みは嬉しいに決まっている。皆、それぞれ予定を口にしながら、足取りも軽く教室を出ていく。俺も後に続いて教室を出ようとした時だった。
「ちょい待ち、月宮」
呼ばれて振り向くと、加瀬が立っていた。俺と加瀬のクラスは同じ。元々クラスの中では話す方だったが、夏祭り以降はさらに気楽に話すことが増えた。
「少し時間ある?」
「うん、どうした?」
「ちょっと話があってさ。部室で話したいんだけど、いい?」
「いいよ。今日は特に予定ないし」
「あ~~助かる。そんなに時間はかかんねえから」
正直に言おう。この時、俺は浮かれていた。
封切られたばかりの映画に新作ゲーム、買ったはいいが読まずに積みっぱなしの本。夏休みならそれらにかける時間はたっぷりある。折角だからチャリで日帰り旅行に行くのもいい。そんなことを考えて気もそぞろだったのだ。だから、何も考えずに社会科準備室に向かってしまった。
「月宮連れてきたぞ~」
そう言いながら加瀬が先に社会科準備室に入った時、部屋の中には清良とりんりんがいた。
「月宮先輩!」
「お、りんりん? 元気そうだな」
清良が「りんりん?」と呟いて、はっとした。
「あっ、ごめん! いつもひづが呼んでるからうつっちゃって」
「あはは、りんりんでいいですよ。ひづにもそう呼ばれてるし」
「……悪い。じゃあ、俺も呼ばせてくれ」
「もちろんです。どんどん呼んでください!」
爽やかな笑みを浮かべたりんりんは、先週とは別人のようだ。言うならばこの間は狂犬で、今日はちゃんと躾けられた犬って感じ。
着ぐるみ同好会の(仮)部室スペースには、机が三つ並べられ、向かい合わせにもう三つ机が並べられている。りんりんと清良は並んで座り、二人の前にはプリントが置かれていた。そのプリントに気づいて、俺は清良にたずねた。
「これから話し合い?」
「……うん、まあ」
清良は俺と目を合わせずに、机の上を見ている。何だか歯切れが悪い。
「月宮先輩にもぜひ聞いてほしくて、加瀬先輩にお願いしたんです」
「俺?」
「はい! 先輩、これどうぞ」
りんりんは、机の上にあったプリントを俺の前に差し出した。そこには、キャンプ場にあるような木製の建物が写っていた。建物は三角屋根で、テラスの前には短い階段がある。
「えっと、これ、ログハウスじゃなくて……」
「ログキャビンです。デラックスタイプなので、部屋にはエアコンに冷蔵庫、ウォッシュレット付きトイレと洗面台もついてます」
「へー! 便利だな」
「そうなんです。すぐ近くに温泉が引かれてるお風呂とバーベキュー場もあるんですよ」
「すごい楽しそうじゃん。夏休みにぴったりって感じ」
「そ、そう思います?」
「うん」
りんりんはもう一枚プリントを渡してくれた。キャビンの間取りと設備に加えて、周辺情報が載っている。どうやら隣の市にあるフューチャーランドの関連施設らしい。フューチャーランドはすぐ側にホテルやオートキャンプ場があって、一大レジャースポットなのだ。
(そうか、キャンプもいいよな。アウトドアなタイプじゃないけど、たまには海や山に行くのも……)
「先輩!」
「ん?」
「ここ、行きませんか?」
りんりんは俺の目を真っ直ぐに見た。
「ここで着ぐるみ同好会の合宿をします! 月宮先輩も一緒に行きましょう!!」
61
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
殿堂入りした愛なのに
たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける)
今日からはれて高等部に進学する。
入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。
一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。
両片思いの一途すぎる話。BLです。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】後悔は再会の果てへ
関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。
その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。
数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。
小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。
そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。
末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前
推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです
一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお)
同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。
時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。
僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。
本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。
だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。
なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。
「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」
ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。
僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。
その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。
悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。
え?葛城くんが目の前に!?
どうしよう、人生最大のピンチだ!!
✤✤
「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。
全年齢向けの作品となっています。
一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。
✤✤
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる