幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

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降って湧いた夏合宿

12.無料につられました

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 ◆◆◆

「すっごい広さ……。フューチャーランドって本当に山を丸ごと使ってるんだな」
「県内一の大規模テーマパークだからね。付属施設も色々あるし」
「年々来場者が増えて、レジャーを兼ねた宿泊施設を増やしてるみたいです。あ! 今日から三日間、天気予報は晴れなのでバーベキューも問題ありません!」
「それはいいけど、天気は曇りにしてくんねぇかな」

 夏休みが始まって三日目。
 
 俺たちは、フューチャーランドの隣接施設、ギャラクシービレッジのフロントにいた。ここは小高い丘の上にあるので、フューチャーランドの一部がよく見える。
 ギャラクシービレッジは宿泊施設全体の総称だ。俺たちの泊まるログキャビン以外にも、キャビンにバーベキュー設備やドッグランが付いたコテージ、少し離れた場所にはオートキャンプ場がある。りんりんが他の施設の説明もしてくれたけれど、俺にはよくわからなかった。元々アウトドア派じゃないし。
 
 りんりんが受付を済ませる間、俺は外の景色を眺めていた。
 まるで夏はこれからだというように、周りの山並みにはもくもくと入道雲が湧いている。同じ入道雲でも、街中で見るものより空に向かってぐんと伸びていて、全然迫力が違う。

(ってか、俺、何でここにいるんだ。確かにキャンプもいいなと思ったよ。でもそれは、合宿とは違わないか?)

 ――ログキャビンは4人用なんです。折角なら、月宮先輩もと思って!

 りんりんの俺を合宿に誘う熱意は、断ろうとする気力を何倍も上回った。「何で俺が」とか「部外者なんで!」とか言う反論は華麗に交わされた。とどめに参加費用は往復の交通費のみだと言ったのだ。
  
『ログキャビン宿泊とフューチャーランドのフリーパス。今ならバーベキュー券も一回ついてます!』

 そんなうまい話あるのかよ、と言ったら、にこっと笑う。

『伯父が先輩と行くならって予約してくれたので』

 フューチャーランドでの週末限定着ぐるみショー見学も予定に入ってます、と言われて返す言葉がなかった。昔から無料ただより高いものはないと言われているのに、俺はついついOKしてしまったのだ。

「あおちゃん、受付済んだって。田野倉が今、食事の確認してる」
「おー」

 清良が四つに畳まれた細長いパンフレットとオレンジ色のリストバンドを渡してくれる。早速バンドを付けようとしたが、うまく付けられない。バンドの端に付いている突起を穴に埋め込むだけだが、俺はこのタイプのバンドが苦手だ。なかなかうまくはまらないし、何とか付けられても、手首との隙間が空きすぎてぶらぶらしていたりする。
 もたもたしていると、自分の分をつけ終えた清良に気付かれた。
 
「昔から、あおちゃんこれ苦手だよね」

 俺の手からさっとバンドを取ると、あっという間に手首に付けてくれる。繊細で女性的な顔立ちとは逆に、清良の手はデカい。骨ばった長い指が器用に動く様子を見るのが好きだ。

「ありがと。清良の指ってかっこいいよな」
「え?」
「何か、大人って感じする。俺よりずっとデカいし」
 
 「手、出して」と言いながら右手を上げると、清良は左手を上げる。清良の手にぱちんと自分の手を当てたら、指の長さが関節一つ分も違った。

「えー! これじゃ大人と子どもじゃん。背の高さだってずっと抜かれてるのに!」
 
 何だか悔しくなってきて、バンバンと思いきり手を打ち付けてやった。

「いったぁ! あおちゃん痛いって!」

 清良が抑え込むようにぎゅっと俺の手を握る。こいつ、本気出してきたなと俺も握り返す。二人でぎゅーぎゅー力を込めて握り合っていると、呆れたような加瀬の声がした。

「何やってんの、お前ら」
「だって、清良が勝手にデカくなるから」
「それ、清良のせいじゃねーし」 
 
 俺たちが手を離したところで、りんりんが走ってきた。
 
「お待たせしました~!」
「お疲れ、りんりん」
「じゃあ、行きましょう! ここから5分ぐらいだそうです」

 りんりんが指差した先には、終業式の日に見た三角屋根のログキャビンが並んでいた。 
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