幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

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降って湧いた夏合宿

13.合宿だから

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「僕たちのキャビンは4番です」

 ゆるやかに曲がった小道を上がっていくと、同じ形の建物が等間隔で並んでいる。名前の通り、家と言うより小屋だ。外階段を二段登れば柵の付いたテラスがあり、正面には窓ガラス付きのドア。何かを思い出すなとキャビンの前で首をひねると、清良がボソッと呟いた。

「……秘密基地」

 その言葉に、ふっと何かが浮かび上がる。

「清良、それ……」
「わ! 思ったよりずっと狭い!」
「お前、どこの坊ちゃんなんだよ! 奢ってもらってるこっちが言うことじゃねぇけど」

 ドアを開けた加瀬たちの言葉に気を取られ、清良との会話はそのまま途切れてしまった。

 ログキャビンの中に入るとすぐに上下二段のベッドが目に入った。正面には横向き、右側には縦向きのベッドがある。どちらも二方の壁に沿って作りつけになっていて、角の部分で繋がっている。
 ベッドの上段は天井の板が張ってなくて、まさに屋根裏って感じ。下段は上段との間にゆとりがあるが、上段は気を付けないとすぐに頭をぶつけてしまいそうだ。正面のベッドの右端に、上段に上るためのまっすぐな梯子はしごがあった。

「へー、ログキャビンってベッドまで全部木なんだ」

 加瀬が荷物を部屋の隅に置いて梯子を上る。

「ベッドさあ、俺、下でもいい? 上だと絶対、何度も頭ぶつける自信ある」

 加瀬はこの四人の中で一番背が高い。たしか、前に聞いた時に173センチだと言っていた。上段は確かに危ないだろう。

「僕は上でもいいですか? この屋根裏っぽい感じ、ちょっと憧れてたんです」

 りんりんの言葉に俺は思わず清良を見た。普通に考えたら、りんりんと身長が変わらない俺が上だろう。だが、ここのベッドには上下とも柵がないのだ。

「いいよ、あおちゃんは下で寝て。俺が上に行く」
「清良くん! 神!」

 りんりんが首を傾げた。清良がベッドの上段を見上げながら呟く。

「いきなり落ちるからな……」
「もう平気だと思う。高2になってからベッド買ってもらえたし」
「え……そんななんだ」

 正面上段がりんりん、その下が加瀬。右側上段が清良で下段が俺。それぞれの寝る場所が無事に決まった。
 初日である今日の夕食はバーベキューだが、夕食まではまだ時間がある。時間になるまで周辺の散歩にでも行くか。皆どうする? と聞こうとした時だ。
 ギャラクシービレッジのパンフレットを見ながら清良と話し込んでいたりんりんが、嬉しそうに顔を上げた。

「この後の予定ですが、夕食は6時から。このキャビンの前の道をまっすぐに上がったところにバーベキュー場があります。お風呂は10時までですが、ちょっと遠いんですよね。夕食の後で十分間に合うと思うんですけど……」
 
 ギャラクシービレッジを使う宿泊客は皆、ビレッジの正面ゲートをくぐってすぐの場所にある日帰り温泉を使う。温泉までは下りだが、たしかに遠い。

「大丈夫だろ。それに、遅い方が人も少ないんじゃね?」

 日帰り温泉は美肌効果で有名で、宿泊客だけでなくフューチャーランド帰りの人や温泉が好きな人も訪れる。加瀬の言葉に皆が頷くと、りんりんは持っていたパンフレットを俺たちに向けた。表はビレッジにある宿泊施設の説明だが、裏は全体地図になっている。その地図の中の一点を、ぴたりと指差す。

「じゃあ、早速はじめましょうか。ここが僕たちのキャビンです。ストレッチの後に、キャビン前の遊歩道を軽くジョギング5周」

(――――……は?)

 りんりんの指が、地図にある遊歩道の一部をくるりとなぞった。

「着ぐるみを着るには体力がいります。寝る、食べる、運動する。これ大事」
「……いや、そうだけど。その通りだと思うけど」

(まさか、これ……)

 俺は思わず清良と加瀬を見た。二人はそっと目を逸らす。

(本当に走るのか?)

「合宿だからさ、あおちゃん」
「運動の後の飯はうまいと思う」
「先輩、ジャージの半パン持参って連絡しましたけど持ってます? なかったら、僕の貸しますよ」
「……持ってる」

(寝る時に使うんじゃなかったのかよ!)
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