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降って湧いた夏合宿
14.バーベキューのヒーロー
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まさかジャージの半パンがまともに活躍するとは思わなかった。
Tシャツ半パン姿の男子が四人、揃ってログキャビンの前に立つ。まだ陽は高く、遊歩道を歩く人はまばらだ。
俺たちはストレッチの後、真面目にりんりん作成&清良監修のメニューをこなした。緩いアップダウンのある遊歩道を走り、縄跳びをし、遊歩道を下った先にあるアスレチックに向かう。
アスレチックは丸太や木でできており、簡単なものから始まって、どんどんレベルが高くなっていく。高低差のある切り株を渡り、張り巡らされた網を潜り抜け、連続して並ぶ丸太ブランコから丸太ブランコへと移る。加瀬と清良の後を追って、俺が12種類のアスレチックを制覇した時。
途中でリタイアしたりんりんが叫んだ。
「せんぱーい! もうじき夕食の時間~~」
「おう!」
休んでいたりんりんは元気に、体力お化けな加瀬は何の問題もなさそうに前を歩いていく。
「バーベキュー場って、一番上じゃなかったっけ?」
「うん」
上り坂でへとへとな俺に歩調を合わせてくれる清良。その優しい幼馴染に、俺は尖った口を向けた。
「お前、わざと言わなかっただろ」
「えー?」
「知らないふりすんな。社会科準備室で何か様子がおかしいなって思ったんだよ。全然目も合わせないし。ちゃんと運動メニュー組んでるなんて思わなかったわ!」
「だって、ほら……一人しかいない後輩がやりたいって言うから」
叶えてあげたいでしょ、と柔らかく笑う。こんな時の清良の笑顔は危ない。見惚れているうちにごまかされてしまうから。
「この調子で明日も明後日も運動するのかよ!」
「いや、そんなことないよ。明日はフューチャーランドで遊ぶ予定」
「ふーん」
「ほんとほんと」
清良を睨んでいるうちにバーべキュー場に着いた。りんりんが受付にいるが、加瀬の姿がない。
「あれ、加瀬は?」
「キャビンに寄って軍手を取ってくるそうです」
「軍手?」
「火起こしにいるって言ってました」
バーベキューで一番大変なのは火起こしだ。家でやる時は、いつも父さんが頑張ってくれた。加瀬は火起こしができるのかと驚いていると、りんりんはきょとんとした顔をしている。
聞けば、料金を加算して係に頼めばいいと思っていたらしい。
(りんりん、本当に金持ちの子なんじゃ……)
小高い丘の上にあるバーベキュー場は広大だ。ウッドデッキの上にテーブルと椅子がずらりと並び、すぐ隣にバーベキューグリルが用意されている。受付でキャビンの番号を言うと、すぐに四人掛けのテーブルに案内された。
係の人が材料の入った皿を運び、火起こしのセットを渡してくれる。俺たちを見て少し心配そうに「火起こしは大丈夫ですか」と聞く。すると、タイミングよく加瀬が走ってきた。
「さあ、始めるか!」
加瀬がビニール袋から軍手と団扇を取り出した。バーベキューグリルに炭を組んで高く積み上げ、一番下に置いた着火剤に火を付ける。それから今度は団扇でひたすら扇ぐ。しばらくすると、炭が燃えて赤く色づいた。
「うおお……」
「すごい!」
加瀬は十分に炭が焼けた後、グリルに焼き網を乗せた。
「もう肉焼いていいぞ!」
「やった~~!!!」
俺たちは焼いた。どんどん焼いた。次から次へと網の上に食材を置いていく。
カルビ、豚ロース、豚バラ串。鶏もも肉にブロッコリー、ジャガイモにトウモロコシ。食べては焼き、焼いては食べた。焼きおにぎりに醤油を垂らすと、幾らでも入る。追加の焼きおにぎりまで頼んで、四人ともすっかり満足した。
「あ~すっごく美味しかった。僕、バーベキューでこんなに食べたの初めてです」
「りんりん、あんまり食べなさそうだもんな」
「加瀬先輩、すごいですね。火起こしって専門の人がするものだと思ってました」
「今日は着火剤があったから楽だった。俺、子どもの頃からずっと野外活動が中心のクラブに入っててさ。米を鍋で炊くのも得意」
りんりんの目がきらきらと光る。
(あれ、これって加瀬がヒーローになる流れじゃ)
俺たちがバーベキュー場を出る頃には、夜空に零れそうなほどの星が光っていた。
四人でキャビンまでの道をゆっくり帰る。
「すっごい星だな。雀山も田舎だから星がよく見えるじゃん。でも、こんなに綺麗には見えないよな」
「このビレッジの名前、銀河からとったそうです」
「なるほどな。たしかにこれ、銀河の中にいる感じするわ」
清良がくすりと笑う。
「あおちゃん、昔、宇宙飛行士になりたいって言ってたことあったよね」
「ああ……」
「僕も言ってました! 子どもの頃に一度は夢見ますよね!」
「あれ、めっちゃ優秀じゃねぇとなれねえからなぁ……」
しみじみ言う加瀬の言葉に、心の銀河が遠くなる。何となく切ない気持ちで星を見る。
「じゃあ、この後はお風呂ですね。ちょっと距離ありますけど、食後の運動ってことで」
「……運動」
ぼそりと呟く俺に、清良が聖人のような微笑みを向ける。
「下り坂だしすぐ着くよ。それに、あおちゃんの好きなコーヒー牛乳があるかもしれないし」
下ったら、その後また上るだろうが! と言いかけたがやめた。風呂上がりのコーヒー牛乳はうまい。
「あったらおごれ、清良」
「いいよ、あおちゃんの好きなだけ」
「じゃあ、百本!」
「えぇーー」
満天の星の中、幼馴染が笑った。
Tシャツ半パン姿の男子が四人、揃ってログキャビンの前に立つ。まだ陽は高く、遊歩道を歩く人はまばらだ。
俺たちはストレッチの後、真面目にりんりん作成&清良監修のメニューをこなした。緩いアップダウンのある遊歩道を走り、縄跳びをし、遊歩道を下った先にあるアスレチックに向かう。
アスレチックは丸太や木でできており、簡単なものから始まって、どんどんレベルが高くなっていく。高低差のある切り株を渡り、張り巡らされた網を潜り抜け、連続して並ぶ丸太ブランコから丸太ブランコへと移る。加瀬と清良の後を追って、俺が12種類のアスレチックを制覇した時。
途中でリタイアしたりんりんが叫んだ。
「せんぱーい! もうじき夕食の時間~~」
「おう!」
休んでいたりんりんは元気に、体力お化けな加瀬は何の問題もなさそうに前を歩いていく。
「バーベキュー場って、一番上じゃなかったっけ?」
「うん」
上り坂でへとへとな俺に歩調を合わせてくれる清良。その優しい幼馴染に、俺は尖った口を向けた。
「お前、わざと言わなかっただろ」
「えー?」
「知らないふりすんな。社会科準備室で何か様子がおかしいなって思ったんだよ。全然目も合わせないし。ちゃんと運動メニュー組んでるなんて思わなかったわ!」
「だって、ほら……一人しかいない後輩がやりたいって言うから」
叶えてあげたいでしょ、と柔らかく笑う。こんな時の清良の笑顔は危ない。見惚れているうちにごまかされてしまうから。
「この調子で明日も明後日も運動するのかよ!」
「いや、そんなことないよ。明日はフューチャーランドで遊ぶ予定」
「ふーん」
「ほんとほんと」
清良を睨んでいるうちにバーべキュー場に着いた。りんりんが受付にいるが、加瀬の姿がない。
「あれ、加瀬は?」
「キャビンに寄って軍手を取ってくるそうです」
「軍手?」
「火起こしにいるって言ってました」
バーベキューで一番大変なのは火起こしだ。家でやる時は、いつも父さんが頑張ってくれた。加瀬は火起こしができるのかと驚いていると、りんりんはきょとんとした顔をしている。
聞けば、料金を加算して係に頼めばいいと思っていたらしい。
(りんりん、本当に金持ちの子なんじゃ……)
小高い丘の上にあるバーベキュー場は広大だ。ウッドデッキの上にテーブルと椅子がずらりと並び、すぐ隣にバーベキューグリルが用意されている。受付でキャビンの番号を言うと、すぐに四人掛けのテーブルに案内された。
係の人が材料の入った皿を運び、火起こしのセットを渡してくれる。俺たちを見て少し心配そうに「火起こしは大丈夫ですか」と聞く。すると、タイミングよく加瀬が走ってきた。
「さあ、始めるか!」
加瀬がビニール袋から軍手と団扇を取り出した。バーベキューグリルに炭を組んで高く積み上げ、一番下に置いた着火剤に火を付ける。それから今度は団扇でひたすら扇ぐ。しばらくすると、炭が燃えて赤く色づいた。
「うおお……」
「すごい!」
加瀬は十分に炭が焼けた後、グリルに焼き網を乗せた。
「もう肉焼いていいぞ!」
「やった~~!!!」
俺たちは焼いた。どんどん焼いた。次から次へと網の上に食材を置いていく。
カルビ、豚ロース、豚バラ串。鶏もも肉にブロッコリー、ジャガイモにトウモロコシ。食べては焼き、焼いては食べた。焼きおにぎりに醤油を垂らすと、幾らでも入る。追加の焼きおにぎりまで頼んで、四人ともすっかり満足した。
「あ~すっごく美味しかった。僕、バーベキューでこんなに食べたの初めてです」
「りんりん、あんまり食べなさそうだもんな」
「加瀬先輩、すごいですね。火起こしって専門の人がするものだと思ってました」
「今日は着火剤があったから楽だった。俺、子どもの頃からずっと野外活動が中心のクラブに入っててさ。米を鍋で炊くのも得意」
りんりんの目がきらきらと光る。
(あれ、これって加瀬がヒーローになる流れじゃ)
俺たちがバーベキュー場を出る頃には、夜空に零れそうなほどの星が光っていた。
四人でキャビンまでの道をゆっくり帰る。
「すっごい星だな。雀山も田舎だから星がよく見えるじゃん。でも、こんなに綺麗には見えないよな」
「このビレッジの名前、銀河からとったそうです」
「なるほどな。たしかにこれ、銀河の中にいる感じするわ」
清良がくすりと笑う。
「あおちゃん、昔、宇宙飛行士になりたいって言ってたことあったよね」
「ああ……」
「僕も言ってました! 子どもの頃に一度は夢見ますよね!」
「あれ、めっちゃ優秀じゃねぇとなれねえからなぁ……」
しみじみ言う加瀬の言葉に、心の銀河が遠くなる。何となく切ない気持ちで星を見る。
「じゃあ、この後はお風呂ですね。ちょっと距離ありますけど、食後の運動ってことで」
「……運動」
ぼそりと呟く俺に、清良が聖人のような微笑みを向ける。
「下り坂だしすぐ着くよ。それに、あおちゃんの好きなコーヒー牛乳があるかもしれないし」
下ったら、その後また上るだろうが! と言いかけたがやめた。風呂上がりのコーヒー牛乳はうまい。
「あったらおごれ、清良」
「いいよ、あおちゃんの好きなだけ」
「じゃあ、百本!」
「えぇーー」
満天の星の中、幼馴染が笑った。
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