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降って湧いた夏合宿
15.妙な夢
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――慣れない場所で眠ったせいだろうか。その晩、俺は妙な夢を見た。
誰かが俺を抱きしめている。夏掛けにくるりとくるまれて、その上から抱きしめられているのだ。眠くて目が開けられないけど、この腕の中は気持ちがいい。かすかにミントの香りがしてすごく安心する。そう思っていたら、ごそごそと動いて相手が離れる気配がした。
離れたら、嫌だな。
思わず「やだ」と口にした途端、ぴたりと相手の動きが止まった。よかった、ここにいる。俺は嬉しくなって相手の胸にぐいと顔を擦りつけた。トクトクと伝わってくる鼓動が早い。でも、その音を感じるのも心地良くて、いつのまにかまたとろとろと眠ってしまった。
陽の光が明るくて目が覚めた。鳥の声も聞こえたが、いつも聞こえる鳴き声じゃない。あれ……と思ったところで、自分がどこにいるのかに気が付いた。
(そうだ、着ぐるみ同好会の合宿!)
キャビンに一つだけある窓からは、もう燦燦と陽が差し込んでいた。むくりと起き上がって、ちゃんとベッドの上で寝ていることに安心する。どうやら転がり落ちはしなかったらしい。
俺はベッドから下りてキャビンの中を見た。加瀬とりんりんは布団にくるまったまま、ぐっすり寝ている。清良は、と見たら上段は空っぽだった。
時計を見れば6時。
散歩にでも行ったのかと、さっと着替えて外に出た。山の上の空気はひんやりと涼しくて、散歩している人があちこちにいる。きょろきょろと辺りを見回すと、キャビンに向かってジョギングしてくる姿が見えた。
「きよらー!」
「あ、おはよ」
手の甲で汗を拭う姿に、思わず目を細めた。
染み一つない白い肌が上気して汗の玉が転がる。明るい栗色の瞳もふわりと揺れる髪も、同じ生き物とは思えない。
『上橋くんってさ、何か……イケメンって言うより美しいって感じだよね』
同級生の女子たちが前に言っていた言葉を思い出す。普通、男にそんな言葉は使わないけど、こいつの場合はそれがぴったりだと思う。
(ここに来る前に、緋鶴が言ってたな……)
『おにい、きよくんたちと出かけるなんて絶対漏らしたらダメだよ。ストーカーが出るよ』
『お前、いちいち恐ろしいこと言ってくるな』
『だって、きよくんの人気すごいんだよ。おにいだって知ってるでしょ』
『そりゃあ知ってるけど、今は下火になってるだろ』
『油断禁物!』
緋鶴が入学した時に、清良が校内でたまたま声をかけたことがある。清良にすれば、単に幼馴染を見かけたから話しかけたぐらいのものだが、その後が大変だった。
緋鶴には同級生だけでなく先輩からも呼び出しがかかり、さんざん付き合っているのかと聞かれた。家が隣で幼馴染なんだと言ったら、今度は手紙やプレゼントを渡してくれと頼まれる。断れば、本当は彼女なんじゃないかと疑われるのだ。仕方なく清良と相談して、校内では互いに目も合わせないようにしている。
ちなみに俺にも手紙やプレゼントを頼んでくる奴はいた。だが、本人に自分で渡せと断った。それでもねじ込んできたものは、全て上橋家のポスト行き。清良の母が困惑し、清良がキレ、俺に伝達役を頼む者はいなくなった。
「美形も大変だよな」
「なに、突然」
「いや、ちょっとな。それよりお前、いつ起きたの?」
「5時」
「えっ! それから走ってんの?」
えらすぎ、と言おうとした時だ。清良がふぅっとため息をつく。
「トイレに起きてさ、もう一度寝ようとしたんだよ。梯子登ろうと思ったら、寝返りを打って転がり落ちようとしてた人がいて」
「……」
「咄嗟に手を出して支えたから落ちなかったんだけど、すっごく驚いたからもう眠れなくて」
「そ、そいつは全然起きなかった……と?」
「うん。そのまま壁に向かってぐいぐい押し込んだら寝てた」
それが誰なのかなんて、言われなくてもわかる。
「――……っとに、申し訳ありませんでしたッ!!!」
俺は両手を合わせて深々と頭を下げた。
「全然気づかなかったの?」
「え? うん、全然」
「何も覚えてない?」
「? ごめん」
「……あおちゃんって」
「へ?」
戻ろ、と言われて清良と一緒に歩き出す。
清良がむっとしていたが、驚かせたのは俺だ。早朝から悪いことをしてしまったと心から反省した。ごめん、と何度も謝ったら、とうとう「うるさい!」と怒られた。
誰かが俺を抱きしめている。夏掛けにくるりとくるまれて、その上から抱きしめられているのだ。眠くて目が開けられないけど、この腕の中は気持ちがいい。かすかにミントの香りがしてすごく安心する。そう思っていたら、ごそごそと動いて相手が離れる気配がした。
離れたら、嫌だな。
思わず「やだ」と口にした途端、ぴたりと相手の動きが止まった。よかった、ここにいる。俺は嬉しくなって相手の胸にぐいと顔を擦りつけた。トクトクと伝わってくる鼓動が早い。でも、その音を感じるのも心地良くて、いつのまにかまたとろとろと眠ってしまった。
陽の光が明るくて目が覚めた。鳥の声も聞こえたが、いつも聞こえる鳴き声じゃない。あれ……と思ったところで、自分がどこにいるのかに気が付いた。
(そうだ、着ぐるみ同好会の合宿!)
キャビンに一つだけある窓からは、もう燦燦と陽が差し込んでいた。むくりと起き上がって、ちゃんとベッドの上で寝ていることに安心する。どうやら転がり落ちはしなかったらしい。
俺はベッドから下りてキャビンの中を見た。加瀬とりんりんは布団にくるまったまま、ぐっすり寝ている。清良は、と見たら上段は空っぽだった。
時計を見れば6時。
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手の甲で汗を拭う姿に、思わず目を細めた。
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『上橋くんってさ、何か……イケメンって言うより美しいって感じだよね』
同級生の女子たちが前に言っていた言葉を思い出す。普通、男にそんな言葉は使わないけど、こいつの場合はそれがぴったりだと思う。
(ここに来る前に、緋鶴が言ってたな……)
『おにい、きよくんたちと出かけるなんて絶対漏らしたらダメだよ。ストーカーが出るよ』
『お前、いちいち恐ろしいこと言ってくるな』
『だって、きよくんの人気すごいんだよ。おにいだって知ってるでしょ』
『そりゃあ知ってるけど、今は下火になってるだろ』
『油断禁物!』
緋鶴が入学した時に、清良が校内でたまたま声をかけたことがある。清良にすれば、単に幼馴染を見かけたから話しかけたぐらいのものだが、その後が大変だった。
緋鶴には同級生だけでなく先輩からも呼び出しがかかり、さんざん付き合っているのかと聞かれた。家が隣で幼馴染なんだと言ったら、今度は手紙やプレゼントを渡してくれと頼まれる。断れば、本当は彼女なんじゃないかと疑われるのだ。仕方なく清良と相談して、校内では互いに目も合わせないようにしている。
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