幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
16 / 48
降って湧いた夏合宿

16.半分交換しよ

しおりを挟む
 キャビンに戻れば加瀬とりんりんも起きていた。「先輩たち早起きですね」と言われて、清良に申し訳ない気持ちが増す。

「朝食までちょっと時間があります。縄跳びしませんか~~」

 笑顔のりんりんが一人一人に縄跳びを渡してくれる。俺は密かにりんりんを金持ちの子認定しているのだが、その理由はこの縄跳びにもある。渡されたのはよくあるビニールじゃなくて、ワイヤーロープの競技用縄跳びなのだ。ちなみに加瀬と清良は大喜びで、昨日から二重跳び連続記録を更新し続けている。

(何であんなに跳べるんだ。それに、ちょっと運動するだけならビニール縄跳びでよくない?)
 
 俺の疑問は誰にも届かず、縄跳びタイムが続く。

 30分経ってちょうど朝食の開始時間になった。食事をとるのは昨日と同じバーべキュー場だ。縄跳びを終了して会場に着くと、昨夜の煙でもうもうとした様子はすっかり消えて、澄んだ空気だけがあった。朝食はどこに座ってもよかったので、見晴らしのいいパラソル席を選んだ。

 朝食メニューは二種類。鮭と昆布のおにぎりに卵焼きとウインナー、サラダが付いたセットと、ハム・レタス・きゅうりを挟んだクロワッサン二個に、ゆで卵とミニサラダが付いたセットだ。
 飲み物はオレンジジュースや牛乳、コーヒーなどが用意され、サーバーやポットから自由に取ることができる。

 加瀬はおにぎり、りんりんと清良はクロワッサンのセットを選んだ。俺は迷ってなかなか決められない。普段なら絶対おにぎりだが、クロワッサンサンドも食べてみたい。

「月宮、先に行ってるぞ」
「飲み物取ってきますよ。何がいいですか?」
「牛乳!」

 加瀬とりんりんがトレイを手に席に戻り、清良が呆れながら俺の側に立つ。

「まだ悩んでるの? あおちゃん、いつも米派じゃん」
「そう。普段クロワッサンなんて食べないから悩んでる」
「じゃあ、おにぎりにしなよ」
「え?」
「半分交換しよ。そうしたら両方食べられる」

 清良はそう言って、テーブルに戻ってしまった。

(……清良。もう怒ってないのかな)

 おにぎりセットを選んで戻ると、皆、飲み物を取って待ってくれていた。隣に座った清良がクロワッサンを一個、さっと俺の皿に入れる。

「あ、ありがと! おにぎり、どっちがいい?」
「……どっちでも」

 俺は鮭おにぎりを清良の皿に入れた。清良も俺も、一番好きなおにぎりは鮭だ。

「お! 両方食べられていいな。じゃ、食べようぜ!」

 せーの! と加瀬から掛け声がかかって、皆で声を合わせた。

「いっただきまーーーす!!!」
 
 早速クロワッサンサンドを食べる。クロワッサンがサクサクパリパリして、噛み締めるとバターの風味がじゅわっと出てくる。具との相性もいい。ハムの旨味にさっぱりしたレタスやきゅうり、これがクロワッサンとよく合う。
 夢中で食べていると、清良と目が合った。

「うまい?」

 口いっぱいに頬張ったまま頷く。清良の口元がふっと緩んだ。

「ハムみたい」
「?」

 思わず手に残ったクロワッサンの中身を見る。ハムはもう食べてしまった。クロワッサンと清良を交互に見ると、清良は肩を震わせて笑っている。よくわからないけど、もう怒ってはいないようだ。安心した俺は、皿の上の朝食を全て美味しく平らげた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

殿堂入りした愛なのに

たっぷりチョコ
BL
全寮の中高一貫校に通う、鈴村駆(すずむらかける) 今日からはれて高等部に進学する。 入学式最中、眠い目をこすりながら壇上に上がる特待生を見るなり衝撃が走る。 一生想い続ける。自分に誓った小学校の頃の初恋が今、目の前にーーー。 両片思いの一途すぎる話。BLです。

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】後悔は再会の果てへ

関鷹親
BL
日々仕事で疲労困憊の松沢月人は、通勤中に倒れてしまう。 その時に助けてくれたのは、自らが縁を切ったはずの青柳晃成だった。 数年ぶりの再会に戸惑いながらも、変わらず接してくれる晃成に強く惹かれてしまう。 小さい頃から育ててきた独占欲は、縁を切ったくらいではなくなりはしない。 そうして再び始まった交流の中で、二人は一つの答えに辿り着く。 末っ子気質の甘ん坊大型犬×しっかり者の男前

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...