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嵐のような夏休み
33.これはすごいこと
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生まれて初めて告白されたのに妹と後輩の観客つき。しかも、相手はイケメンとはいえ男だ。眉間にぎゅぎゅっと皺が寄る。
「……先輩」
「ん?」
「すぐに返事をもらえなくてもいいんです。今日は気持ちを伝えられただけで」
「あの……さ。俺こういうの初めてでよくわかんないんだけど。ちゃんと考えてみるから」
「はい!」
阿隅くんは満面の笑顔を浮かべた。ほおっ……とため息が聞こえる。いらん観客二人組だろう。イラっとするが無視だ。
ここにいても混乱するだけなので「じゃあ」と言って足早に自転車置き場に向かう。阿隅くんには悪いが、振り返って告白の余韻に浸っている暇はない。俺は一人で心を鎮めたかった。
だが、俺よりもずっと早く走ってくる者たちがいた。いきなり俺の両腕をそれぞれに掴んだと思うと、ぐいぐいと体を寄せてくる。なにが何でも離さないという強い意志を感じる。
「おにいおにい、駅前のラッテリア行こ! 今日はおごったげる」
「先輩、僕も一緒に行っていいですか! 久しぶりに色々話がしたいです!」
「何でお前ら、そんなにチームワークがいいんだよ……」
俺は仕方なく、両手に縋りついた緋鶴とりんりんを連れて駅前のファストフードに向かった。
学校からチャリで5分。ラッテリアの店内は、割とすいていた。
緋鶴にシェイクを買ってもらって三人でテーブルに着く。緋鶴とりんりんは大きなトートバッグを椅子の脇に置いた。二人も俺と同様、今日は文化祭のクラス準備だったと言う。
俺はお盆前からの出来事を二人に話した。
「へええ……お盆の間、あんなに仏花仏花言ってたのにそんな出会いがあったんだ」
「先輩がいいことしたから、神様……じゃなくて仏様? がチャンスをくれたのかも」
どんなチャンスなんだよ……と思っていたら、緋鶴がまじまじと俺を見た。
「我が兄ながら、どうと言うこともないフツ面なのにね……」
「お前の兄だからな!」
「先輩の丸顔って愛嬌があると思う。ちょっと垂れ目なとこも、見た目パンダっぽいし」
これはたぶん、りんりんなりの誉め言葉なんだろう。俺は黙ってシェイクを飲んだ。
「でもさ、おにい。これはすごいことだよ。あの黒王子から告白されたなんて知られたら、以前の私どころじゃすまないよ」
「黒王子?」
「阿隅光のことだよ。ほら、髪や目の色が真っ黒で綺麗じゃん? すごいイケメンだし、きよくんとはまた違うファンが付いてるんだよ」
「滅多に笑わないけど、あのマイペースな感じがいいって人気なんですよ」
全然知らなかった。大体、同じ校舎とはいえ1年の教室に行くことなんてないし、会った覚えもない。
(そういえば、阿隅くんは初めて会った時にすごく驚いてたな……。俺とどっかで会ったことがあるんだろうか)
「まあ、私とりんりんは黙ってるから、おにいもよく考えて返事をするといいよ」
「返事って言われても……初めて告白されたしな」
緋鶴とりんりんは黙って顔を見合わせ、俺に静かな目を向ける。どことなく憐れみがこもっているのを感じた。
「何だよ! じゃあ、お前たちは経験があるって言うのか?」
「自分の兄弟に言うのマジで嫌だけど、中学の時に彼いたから。付き合ってって言ってきたのは向こうからだし」
「僕も……付き合った人はいませんけど、告白されたことなら何度かあります。女子ですけど」
俺の機嫌が一気に悪くなったのを察したりんりんが、もう一杯シェイクをおごってくれた。おかげですっかり体が冷え冷えになった。
家に着いてから、俺はようやく一人になって心を静めることができた。
スマホに保存しておいたピンクと白のアレンジメントの写真を見る。こんな可愛い花を俺のために買ってくれたのかと思うと、改めてむず痒く照れた気持ちになる。
「付き合うって……俺と一緒にいたいってことだよな……」
映画を見たり食事に行ったりは友だちとだってする。でも、決まった相手とだけそれをしたいってことなら、その相手は特別なんだろう。
(そうか……好きだって言ってたもんな)
阿隅くんが俺を好きな理由は知らないが、好きだって気持ちはわかる。だってあんなに綺麗な顔で笑うんだから。「嬉しい」や「好き」は、ちゃんと人に伝わるんだ。
そのままスマホの写真を見ていたら、清良が前に送ってきた写真が山ほどあった。
(……あれ?)
アイスの当たり棒の写真だ。当たりが出た翌日、清良は大喜びで俺を連れてコンビニに行った。
『あおちゃん知ってる? これ、当たる確率2パーセント! 100本に2本だよ!』
『すげぇ。そんなの当たる奴いるんだ……』
『いるでしょ、ここに! 俺、この当たり棒替えてくるから、あおちゃんにも一本おごったげるね』
『それ、何かおかしくない? 全然得じゃないよ』
『でも、そうしたら二人とも嬉しいじゃん?』
『……たしかに嬉しいけど』
あの時、二人で並んで食べたアイスはすごくうまかった。じっと写真を見ていたら、胸の奥でとくんと何かが鳴った。
「……先輩」
「ん?」
「すぐに返事をもらえなくてもいいんです。今日は気持ちを伝えられただけで」
「あの……さ。俺こういうの初めてでよくわかんないんだけど。ちゃんと考えてみるから」
「はい!」
阿隅くんは満面の笑顔を浮かべた。ほおっ……とため息が聞こえる。いらん観客二人組だろう。イラっとするが無視だ。
ここにいても混乱するだけなので「じゃあ」と言って足早に自転車置き場に向かう。阿隅くんには悪いが、振り返って告白の余韻に浸っている暇はない。俺は一人で心を鎮めたかった。
だが、俺よりもずっと早く走ってくる者たちがいた。いきなり俺の両腕をそれぞれに掴んだと思うと、ぐいぐいと体を寄せてくる。なにが何でも離さないという強い意志を感じる。
「おにいおにい、駅前のラッテリア行こ! 今日はおごったげる」
「先輩、僕も一緒に行っていいですか! 久しぶりに色々話がしたいです!」
「何でお前ら、そんなにチームワークがいいんだよ……」
俺は仕方なく、両手に縋りついた緋鶴とりんりんを連れて駅前のファストフードに向かった。
学校からチャリで5分。ラッテリアの店内は、割とすいていた。
緋鶴にシェイクを買ってもらって三人でテーブルに着く。緋鶴とりんりんは大きなトートバッグを椅子の脇に置いた。二人も俺と同様、今日は文化祭のクラス準備だったと言う。
俺はお盆前からの出来事を二人に話した。
「へええ……お盆の間、あんなに仏花仏花言ってたのにそんな出会いがあったんだ」
「先輩がいいことしたから、神様……じゃなくて仏様? がチャンスをくれたのかも」
どんなチャンスなんだよ……と思っていたら、緋鶴がまじまじと俺を見た。
「我が兄ながら、どうと言うこともないフツ面なのにね……」
「お前の兄だからな!」
「先輩の丸顔って愛嬌があると思う。ちょっと垂れ目なとこも、見た目パンダっぽいし」
これはたぶん、りんりんなりの誉め言葉なんだろう。俺は黙ってシェイクを飲んだ。
「でもさ、おにい。これはすごいことだよ。あの黒王子から告白されたなんて知られたら、以前の私どころじゃすまないよ」
「黒王子?」
「阿隅光のことだよ。ほら、髪や目の色が真っ黒で綺麗じゃん? すごいイケメンだし、きよくんとはまた違うファンが付いてるんだよ」
「滅多に笑わないけど、あのマイペースな感じがいいって人気なんですよ」
全然知らなかった。大体、同じ校舎とはいえ1年の教室に行くことなんてないし、会った覚えもない。
(そういえば、阿隅くんは初めて会った時にすごく驚いてたな……。俺とどっかで会ったことがあるんだろうか)
「まあ、私とりんりんは黙ってるから、おにいもよく考えて返事をするといいよ」
「返事って言われても……初めて告白されたしな」
緋鶴とりんりんは黙って顔を見合わせ、俺に静かな目を向ける。どことなく憐れみがこもっているのを感じた。
「何だよ! じゃあ、お前たちは経験があるって言うのか?」
「自分の兄弟に言うのマジで嫌だけど、中学の時に彼いたから。付き合ってって言ってきたのは向こうからだし」
「僕も……付き合った人はいませんけど、告白されたことなら何度かあります。女子ですけど」
俺の機嫌が一気に悪くなったのを察したりんりんが、もう一杯シェイクをおごってくれた。おかげですっかり体が冷え冷えになった。
家に着いてから、俺はようやく一人になって心を静めることができた。
スマホに保存しておいたピンクと白のアレンジメントの写真を見る。こんな可愛い花を俺のために買ってくれたのかと思うと、改めてむず痒く照れた気持ちになる。
「付き合うって……俺と一緒にいたいってことだよな……」
映画を見たり食事に行ったりは友だちとだってする。でも、決まった相手とだけそれをしたいってことなら、その相手は特別なんだろう。
(そうか……好きだって言ってたもんな)
阿隅くんが俺を好きな理由は知らないが、好きだって気持ちはわかる。だってあんなに綺麗な顔で笑うんだから。「嬉しい」や「好き」は、ちゃんと人に伝わるんだ。
そのままスマホの写真を見ていたら、清良が前に送ってきた写真が山ほどあった。
(……あれ?)
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『あおちゃん知ってる? これ、当たる確率2パーセント! 100本に2本だよ!』
『すげぇ。そんなの当たる奴いるんだ……』
『いるでしょ、ここに! 俺、この当たり棒替えてくるから、あおちゃんにも一本おごったげるね』
『それ、何かおかしくない? 全然得じゃないよ』
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