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里見高校の文化祭
46.里山祭 二日目
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帰宅後は昼間の疲れからあっという間に寝た。それでも興奮が残っていたのか、幼い頃の夢を見た。それは清良と一緒に遊んだ『秘密基地』の夢だった。
小学生の頃、人が住まなくなった古家の脇に放置されたログハウス風の小屋があった。歪んで閉まらない扉の奥には使わなくなったソファーやテーブル。そこに、清良とこっそり入って遊んでいた。
ある日、学校が終わって隣家に遊びに行くと清良は出かけてまだ帰宅していないという。飼育係の当番があった俺よりもずっと早く帰ったはずなのに。俺はすぐに清良を探しに出かけた。真っ先に秘密基地に行けば、扉がびっちり閉まっている。そんなことは初めてだった。ドンドン扉を叩くと、中から必死で叩き返す音がする。
『きよら?』
『あおちゃん! あおちゃん!』
『どうしたの、きよら! なんであかないの?』
『わかんない。きゅうにバンッてしまっちゃったんだ。それからどうしてもあかない』
何とかして扉を開けようとしたけれど、押しても引っ張っても動かない。清良はぐすぐす泣いている。俺は小屋の外に立てかけられていたデカいシャベルを取って、扉と壁の隙間に思い切りねじこんだ。ぐいぐいと力を入れ続け、時間をかけて少しずつ隙間が広がった時。中にいる清良に「おして!」と叫んだ。必死になった清良が扉を押し、俺は扉の取っ手を思いきり引っ張った。
バン! と大きな音を立てて扉が開くと、清良が転がり出てきた。埃と涙で真っ黒になった清良は、俺にしがみついてわんわん泣いた。俺は清良を抱きしめて、ずっと「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言い続けた。
シャベルを元の場所に戻して扉を閉めようとしたけれど、今度は全然閉まらない。あきらめた俺たちは手を繋いで家に帰り、母親たちにしこたま怒られた。そして、空き家と小屋はいつの間にか壊されて売地になった。
夢の中で俺は小さな清良の背をずっと撫でていた。それがいつのまにかするりと大きくなって、今の清良に変わる。俺の手をぎゅっと握り返した清良が耳元でそっと囁く。
『あおちゃんに告白する奴なんて……だよ』
「――告白する奴が何だって言うんだよ!」
叫ぶのと同時に、手が目覚ましを止めていた。
里山祭、二日目。
今日の俺のメインはたこ焼きを売ることだ。2年E組のたこ焼き屋は大好評で、冷凍たこ焼きの追加をチャリで買いに行く男たちが出動するほどだった。
調理室からたこ焼きが詰められたパックが運ばれてくると、並んでいたお客さんが次々に買っていく。俺は受付だったので金を受け取って数を叫び、隣の奴がひたすらパックに箸をセットして袋に入れて渡す。きゃーと声がするので顔を上げたら、阿隅くんが昨日のベースの子と一緒に教室に入ってきた。
「あの、たこ焼き2パックお願いします」
「ありがとうございます! 2パック800円です」
阿隅くんは空いている机でたこ焼きを食べながらこちらに向かって、にこっと笑う。思わず客の注文を間違えそうになるのでイケメンは危険だ。
「は~~イケメンはたこ焼き食べる姿もかっこいいわね」
「持田、お前そろそろ行かなくていいのかよ」
「……行って来るわ。きよらんの晴れ姿をのぞいてくる」
持田がちらっと壁の時計を見た。時刻はもうすぐ11時、浴衣姿の清良登場だ。実は2年A組の清良シフトは公にされていない。一時集中を避け、常に動向を探る人々を他の時間帯に誘導するためらしい。しかし、一日目に登場しなかったので二日目なのは明白、A組の廊下には既に行列ができているという。
(今日、清良は本当に俺と校内を回る気なんだろうか……)
たこ焼きを食べ終わった阿隅くんがさっと近づいてくる。
「先輩、少しお話しできますか?」
「うん。もうじき終わるし廊下で待っててくれる?」
「はい!」
11時になり、俺は自分のシフトを終えて廊下に出た。タコの横にいた阿隅くんを見つけて隣に立つ。今年の文化祭の人気店をパンフを見ながら話していると、圧倒的にりんりんたちのメイドお化け屋敷の人気が高いことがわかった。
「メイドが半端ない怖さだって聞いてすごく行きたいんですけど、一時間待ちだそうです」
「ええーー」
緋鶴の得意げな顔が浮かんだ時、反対方向から女子たちのきゃああ……と叫ぶ声が聞こえた。誰か走ってくると思ったら、清良だった。すっきりした紺地に細い縦縞が入った浴衣を着て涼やかな白の帯を締めている。前髪を上げて形のいい額を出し、後ろは少し高い位置にまとめていた。
「ひえっ……」
見慣れたはずの俺でも驚く美形ぶり。目を丸くしていると「あおちゃん!」と叫ばれて、いきなり腕を掴まれた。何でと思う間もなく、清良と一緒に廊下を走る。阿隅くんが俺たちを追おうとしたが、清良を追ってきた人の波に阻まれた。清良はうまく人込みを避け、廊下の途中で隣の棟に続く渡り廊下に向かった。
小学生の頃、人が住まなくなった古家の脇に放置されたログハウス風の小屋があった。歪んで閉まらない扉の奥には使わなくなったソファーやテーブル。そこに、清良とこっそり入って遊んでいた。
ある日、学校が終わって隣家に遊びに行くと清良は出かけてまだ帰宅していないという。飼育係の当番があった俺よりもずっと早く帰ったはずなのに。俺はすぐに清良を探しに出かけた。真っ先に秘密基地に行けば、扉がびっちり閉まっている。そんなことは初めてだった。ドンドン扉を叩くと、中から必死で叩き返す音がする。
『きよら?』
『あおちゃん! あおちゃん!』
『どうしたの、きよら! なんであかないの?』
『わかんない。きゅうにバンッてしまっちゃったんだ。それからどうしてもあかない』
何とかして扉を開けようとしたけれど、押しても引っ張っても動かない。清良はぐすぐす泣いている。俺は小屋の外に立てかけられていたデカいシャベルを取って、扉と壁の隙間に思い切りねじこんだ。ぐいぐいと力を入れ続け、時間をかけて少しずつ隙間が広がった時。中にいる清良に「おして!」と叫んだ。必死になった清良が扉を押し、俺は扉の取っ手を思いきり引っ張った。
バン! と大きな音を立てて扉が開くと、清良が転がり出てきた。埃と涙で真っ黒になった清良は、俺にしがみついてわんわん泣いた。俺は清良を抱きしめて、ずっと「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言い続けた。
シャベルを元の場所に戻して扉を閉めようとしたけれど、今度は全然閉まらない。あきらめた俺たちは手を繋いで家に帰り、母親たちにしこたま怒られた。そして、空き家と小屋はいつの間にか壊されて売地になった。
夢の中で俺は小さな清良の背をずっと撫でていた。それがいつのまにかするりと大きくなって、今の清良に変わる。俺の手をぎゅっと握り返した清良が耳元でそっと囁く。
『あおちゃんに告白する奴なんて……だよ』
「――告白する奴が何だって言うんだよ!」
叫ぶのと同時に、手が目覚ましを止めていた。
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今日の俺のメインはたこ焼きを売ることだ。2年E組のたこ焼き屋は大好評で、冷凍たこ焼きの追加をチャリで買いに行く男たちが出動するほどだった。
調理室からたこ焼きが詰められたパックが運ばれてくると、並んでいたお客さんが次々に買っていく。俺は受付だったので金を受け取って数を叫び、隣の奴がひたすらパックに箸をセットして袋に入れて渡す。きゃーと声がするので顔を上げたら、阿隅くんが昨日のベースの子と一緒に教室に入ってきた。
「あの、たこ焼き2パックお願いします」
「ありがとうございます! 2パック800円です」
阿隅くんは空いている机でたこ焼きを食べながらこちらに向かって、にこっと笑う。思わず客の注文を間違えそうになるのでイケメンは危険だ。
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「はい!」
11時になり、俺は自分のシフトを終えて廊下に出た。タコの横にいた阿隅くんを見つけて隣に立つ。今年の文化祭の人気店をパンフを見ながら話していると、圧倒的にりんりんたちのメイドお化け屋敷の人気が高いことがわかった。
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