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本編
5.目には目を①
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昼食を一緒に食べていると話が広まった途端に、次々に呼び出しを受けた。なぜか、一年の同級生ばかりだ。妬み半分、釘をさしてくる奴が半分。
「ああ、お前が気に入らないってやつですね」
「うん。でも、ちゃんと言い返して撃退してるから問題ない」
「千晴様、結構気が強いですもんね。それに、千晴様に危害を加えるやつは全て排除しますからご安心を」
(……ちっとも安心できないから、自分でなんとかするんだろ)
友永は、父の安井に仕込まれているだけあって、主の為なら手段を選ばないところがある。校内に被害者を出してはいけない。有能な従者を持つ主も、結構大変なんだ。
そんな仏心が仇になるのに、さほど日にちはかからなかった。ぼくの想像なんか遥かに超えて、志堂一星の人気は高かったのだ。
学校の行き帰りは友永と一緒なのだが、お互いの関係がばれないように、わざと時間をずらすことがある。そこを狙うように、ぼくをつけ回す奴が増えた。
放課後の校舎裏。ほっそりと儚げで美しい一人のオメガが、目の前に立っている。ここは男子校だが、バース性の中では男性オメガは華奢で、女性と見まがうような者も多い。
「志堂様に付きまとうのをやめてほしい」
いきなり居丈高な発言をする。どいつもこいつも、何で同じことを言うのかな。ぼくが付きまとっているんじゃない。志堂が誘ってくるんだ。
「付きまとっていないものをどうすることも出来ない。昼食のことを言っているなら、先方が誘ってくるんだ。文句はあちらに言ってくれ」
パン! と音が鳴って左頬が熱くなる。いきなり平手打ちをくらった。
「……少し目をかけていただいてるからって」
呪詛に満ちた声が放たれ睨みつけられた。ぼくは一歩踏み出して、思いっきり、相手の頬を叩いた。よろめいたところで、反対側の頬も容赦なく打つ。傷一つない美しい顔にそんなことをされたことがなかったのだろう。相手はその場に崩れてしゃがみこんだ。両頬にぼくが叩いた手の痕が真っ赤に浮き上がっている。
「人に暴力を振るっちゃいけないって言われなかった? こう見えても気が強いんだ。グーで殴らなかっただけいいと思うけど」
「ぐ、グー?」
もう一歩近づくと、相手は立ち上がって、般若のような顔でぼくを睨みつけた。衝撃だったようで、目尻に涙が浮かんでいる。
「……こ、こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「あんたが先に手を出したんだよ。勘違いするな」
相手は震えながら唇を噛み締めている。彼が後ろを振り返ると、制服姿の大柄な男が二人、立木の影から出てきた。こいつの取り巻き、なのかな? 男たちが舐めるようにぼくを見る。男たちの後ろに駆け込んだ卑怯者に声をかけた。
「その頬、早く冷やさないと明日には二度と見られないような顔になると思うけど」
ぼくの言葉を聞いた途端に、顔を歪めて走り出す。ため息をつくと眼鏡がずり落ちてきた。いきなり叩かれた為にフレームが曲がっている。
「ずいぶん余裕じゃないか? まさかやり返してくるとはなあ」
「お返しをしなきゃまずいだろうな」
じりじりと距離を詰めてくる二人の男の目を見て言った。
「あんたたち、人の話聞いてた? 手を出してきたのはあいつの方だよ」
二人の顔に怒りが浮かび、アルファのオーラがぶわりと立ち上る。肌がぞわぞわと粟立った。流石に二人がかりでこられたらまずいな、と思った時だった。レモンの香りが辺りに立ち込める。目の前のアルファたちの動きがびくりと止まる。
「やめておけ」
聞いたことのある声がして、急に体が楽になった。ほっと息をつくぼくとは反対に、目の前の男たちの顔が、苦痛に歪む。
振り返れば、志堂が立っていた。この香りは彼から漂ってくるのだと気がついた。
目の前の男たちの体が前傾姿勢になり、ガタガタと震え出す。とうとう二人が地面にうずくまった時だった。
「まだ、この子に手を出す気か?」
「す、すみません……」
「もう、もう勘弁してください」
レモンの香りが弱くなると同時に、二人は必死で立ち上がって走っていった。ぼくは、手の中の眼鏡を見た。
「……あいつ、やっぱり、グーで殴ってやればよかった」
ぽつりと呟くと、押し殺したような笑い声が聞こえた。志堂が下を向いて肩を震わせている。
「あ、ありがとうございました。でも、どうしてここに」
「一緒に帰れないかなと思って、昇降口に向かったんだ。校舎裏に行くのが見えたから追いかけてきた」
「先輩の名前で呼びだされたんですよ。変だとは思ったんだ」
ぼくは靴箱に入っていた小さな紙を見せた。
『一年棟の校舎裏で待っている。 二年一組 志堂一星』
「……これは。以前にもあったのか?」
「たまに。今日は無視して帰ろうと思ってたら、昇降口まで来て、いきなりこっちだと引っ張っていかれたんです。もちろん、先輩がいるなんて思ってなかったけど」
昇降口で騒ぎにしたくないからと、とりあえず一緒に行ったのはよくなかった。蹴り飛ばしてでも、さっさと帰ればよかった。
志堂が痛ましそうにぼくの顔を見る。長くて綺麗な指が、ぼくの腫れた頬に触れるのをためらって、代わりに耳元に触れる。
「可哀想に、腫れている。すぐに手当てをした方がいい」
「ああ、家に帰ったら冷やしますからご心配なく」
これは流石に友永にばれずにすむのだろうか、と思わず眉を顰めた。
「痛むのか?」
「あ、いえ。この顔を見たら、家の者が心配するなと思って」
「それはそうだ。……うちで少し、冷やしていったら?」
「え? いや、大丈夫です。たいしたことないし」
「そんなことはないだろう。俺は一人暮らしだし、学校からは結構近いから」
真剣に心配してくれる瞳を無視することが出来ずに、思わず頷いてしまった。
「ああ、お前が気に入らないってやつですね」
「うん。でも、ちゃんと言い返して撃退してるから問題ない」
「千晴様、結構気が強いですもんね。それに、千晴様に危害を加えるやつは全て排除しますからご安心を」
(……ちっとも安心できないから、自分でなんとかするんだろ)
友永は、父の安井に仕込まれているだけあって、主の為なら手段を選ばないところがある。校内に被害者を出してはいけない。有能な従者を持つ主も、結構大変なんだ。
そんな仏心が仇になるのに、さほど日にちはかからなかった。ぼくの想像なんか遥かに超えて、志堂一星の人気は高かったのだ。
学校の行き帰りは友永と一緒なのだが、お互いの関係がばれないように、わざと時間をずらすことがある。そこを狙うように、ぼくをつけ回す奴が増えた。
放課後の校舎裏。ほっそりと儚げで美しい一人のオメガが、目の前に立っている。ここは男子校だが、バース性の中では男性オメガは華奢で、女性と見まがうような者も多い。
「志堂様に付きまとうのをやめてほしい」
いきなり居丈高な発言をする。どいつもこいつも、何で同じことを言うのかな。ぼくが付きまとっているんじゃない。志堂が誘ってくるんだ。
「付きまとっていないものをどうすることも出来ない。昼食のことを言っているなら、先方が誘ってくるんだ。文句はあちらに言ってくれ」
パン! と音が鳴って左頬が熱くなる。いきなり平手打ちをくらった。
「……少し目をかけていただいてるからって」
呪詛に満ちた声が放たれ睨みつけられた。ぼくは一歩踏み出して、思いっきり、相手の頬を叩いた。よろめいたところで、反対側の頬も容赦なく打つ。傷一つない美しい顔にそんなことをされたことがなかったのだろう。相手はその場に崩れてしゃがみこんだ。両頬にぼくが叩いた手の痕が真っ赤に浮き上がっている。
「人に暴力を振るっちゃいけないって言われなかった? こう見えても気が強いんだ。グーで殴らなかっただけいいと思うけど」
「ぐ、グー?」
もう一歩近づくと、相手は立ち上がって、般若のような顔でぼくを睨みつけた。衝撃だったようで、目尻に涙が浮かんでいる。
「……こ、こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「あんたが先に手を出したんだよ。勘違いするな」
相手は震えながら唇を噛み締めている。彼が後ろを振り返ると、制服姿の大柄な男が二人、立木の影から出てきた。こいつの取り巻き、なのかな? 男たちが舐めるようにぼくを見る。男たちの後ろに駆け込んだ卑怯者に声をかけた。
「その頬、早く冷やさないと明日には二度と見られないような顔になると思うけど」
ぼくの言葉を聞いた途端に、顔を歪めて走り出す。ため息をつくと眼鏡がずり落ちてきた。いきなり叩かれた為にフレームが曲がっている。
「ずいぶん余裕じゃないか? まさかやり返してくるとはなあ」
「お返しをしなきゃまずいだろうな」
じりじりと距離を詰めてくる二人の男の目を見て言った。
「あんたたち、人の話聞いてた? 手を出してきたのはあいつの方だよ」
二人の顔に怒りが浮かび、アルファのオーラがぶわりと立ち上る。肌がぞわぞわと粟立った。流石に二人がかりでこられたらまずいな、と思った時だった。レモンの香りが辺りに立ち込める。目の前のアルファたちの動きがびくりと止まる。
「やめておけ」
聞いたことのある声がして、急に体が楽になった。ほっと息をつくぼくとは反対に、目の前の男たちの顔が、苦痛に歪む。
振り返れば、志堂が立っていた。この香りは彼から漂ってくるのだと気がついた。
目の前の男たちの体が前傾姿勢になり、ガタガタと震え出す。とうとう二人が地面にうずくまった時だった。
「まだ、この子に手を出す気か?」
「す、すみません……」
「もう、もう勘弁してください」
レモンの香りが弱くなると同時に、二人は必死で立ち上がって走っていった。ぼくは、手の中の眼鏡を見た。
「……あいつ、やっぱり、グーで殴ってやればよかった」
ぽつりと呟くと、押し殺したような笑い声が聞こえた。志堂が下を向いて肩を震わせている。
「あ、ありがとうございました。でも、どうしてここに」
「一緒に帰れないかなと思って、昇降口に向かったんだ。校舎裏に行くのが見えたから追いかけてきた」
「先輩の名前で呼びだされたんですよ。変だとは思ったんだ」
ぼくは靴箱に入っていた小さな紙を見せた。
『一年棟の校舎裏で待っている。 二年一組 志堂一星』
「……これは。以前にもあったのか?」
「たまに。今日は無視して帰ろうと思ってたら、昇降口まで来て、いきなりこっちだと引っ張っていかれたんです。もちろん、先輩がいるなんて思ってなかったけど」
昇降口で騒ぎにしたくないからと、とりあえず一緒に行ったのはよくなかった。蹴り飛ばしてでも、さっさと帰ればよかった。
志堂が痛ましそうにぼくの顔を見る。長くて綺麗な指が、ぼくの腫れた頬に触れるのをためらって、代わりに耳元に触れる。
「可哀想に、腫れている。すぐに手当てをした方がいい」
「ああ、家に帰ったら冷やしますからご心配なく」
これは流石に友永にばれずにすむのだろうか、と思わず眉を顰めた。
「痛むのか?」
「あ、いえ。この顔を見たら、家の者が心配するなと思って」
「それはそうだ。……うちで少し、冷やしていったら?」
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