本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
5 / 21
本編

5.目には目を①

しおりを挟む
 昼食を一緒に食べていると話が広まった途端に、次々に呼び出しを受けた。なぜか、一年の同級生ばかりだ。妬み半分、釘をさしてくる奴が半分。

「ああ、お前が気に入らないってやつですね」
「うん。でも、ちゃんと言い返して撃退してるから問題ない」
「千晴様、結構気が強いですもんね。それに、千晴様に危害を加えるやつは全て排除しますからご安心を」

(……ちっとも安心できないから、自分でなんとかするんだろ)

 友永は、父の安井に仕込まれているだけあって、主の為なら手段を選ばないところがある。校内に被害者を出してはいけない。有能な従者を持つ主も、結構大変なんだ。
 そんな仏心が仇になるのに、さほど日にちはかからなかった。ぼくの想像なんか遥かに超えて、志堂一星の人気は高かったのだ。
 学校の行き帰りは友永と一緒なのだが、お互いの関係がばれないように、わざと時間をずらすことがある。そこを狙うように、ぼくをつけ回す奴が増えた。

 放課後の校舎裏。ほっそりと儚げで美しい一人のオメガが、目の前に立っている。ここは男子校だが、バース性の中では男性オメガは華奢で、女性と見まがうような者も多い。

「志堂様に付きまとうのをやめてほしい」

 いきなり居丈高な発言をする。どいつもこいつも、何で同じことを言うのかな。ぼくが付きまとっているんじゃない。志堂が誘ってくるんだ。

「付きまとっていないものをどうすることも出来ない。昼食のことを言っているなら、先方が誘ってくるんだ。文句はあちらに言ってくれ」

 パン! と音が鳴って左頬が熱くなる。いきなり平手打ちをくらった。

「……少し目をかけていただいてるからって」

 呪詛に満ちた声が放たれ睨みつけられた。ぼくは一歩踏み出して、思いっきり、相手の頬を叩いた。よろめいたところで、反対側の頬も容赦なく打つ。傷一つない美しい顔にそんなことをされたことがなかったのだろう。相手はその場に崩れてしゃがみこんだ。両頬にぼくが叩いた手の痕が真っ赤に浮き上がっている。

「人に暴力を振るっちゃいけないって言われなかった? こう見えても気が強いんだ。グーで殴らなかっただけいいと思うけど」
「ぐ、グー?」

 もう一歩近づくと、相手は立ち上がって、般若のような顔でぼくを睨みつけた。衝撃だったようで、目尻に涙が浮かんでいる。

「……こ、こんなことをして、ただで済むと思うなよ」
「あんたが先に手を出したんだよ。勘違いするな」

 相手は震えながら唇を噛み締めている。彼が後ろを振り返ると、制服姿の大柄な男が二人、立木の影から出てきた。こいつの取り巻き、なのかな? 男たちが舐めるようにぼくを見る。男たちの後ろに駆け込んだ卑怯者に声をかけた。

「その頬、早く冷やさないと明日には二度と見られないような顔になると思うけど」

 ぼくの言葉を聞いた途端に、顔を歪めて走り出す。ため息をつくと眼鏡がずり落ちてきた。いきなり叩かれた為にフレームが曲がっている。

「ずいぶん余裕じゃないか? まさかやり返してくるとはなあ」
「お返しをしなきゃまずいだろうな」

 じりじりと距離を詰めてくる二人の男の目を見て言った。

「あんたたち、人の話聞いてた? 手を出してきたのはあいつの方だよ」

 二人の顔に怒りが浮かび、アルファのオーラがぶわりと立ち上る。肌がぞわぞわと粟立った。流石に二人がかりでこられたらまずいな、と思った時だった。レモンの香りが辺りに立ち込める。目の前のアルファたちの動きがびくりと止まる。

「やめておけ」

 聞いたことのある声がして、急に体が楽になった。ほっと息をつくぼくとは反対に、目の前の男たちの顔が、苦痛に歪む。
 振り返れば、志堂が立っていた。この香りは彼から漂ってくるのだと気がついた。
 目の前の男たちの体が前傾姿勢になり、ガタガタと震え出す。とうとう二人が地面にうずくまった時だった。

「まだ、この子に手を出す気か?」
「す、すみません……」
「もう、もう勘弁してください」

 レモンの香りが弱くなると同時に、二人は必死で立ち上がって走っていった。ぼくは、手の中の眼鏡を見た。

「……あいつ、やっぱり、グーで殴ってやればよかった」

 ぽつりと呟くと、押し殺したような笑い声が聞こえた。志堂が下を向いて肩を震わせている。

「あ、ありがとうございました。でも、どうしてここに」
「一緒に帰れないかなと思って、昇降口に向かったんだ。校舎裏に行くのが見えたから追いかけてきた」
「先輩の名前で呼びだされたんですよ。変だとは思ったんだ」

 ぼくは靴箱に入っていた小さな紙を見せた。

『一年棟の校舎裏で待っている。 二年一組 志堂一星』

「……これは。以前にもあったのか?」
「たまに。今日は無視して帰ろうと思ってたら、昇降口まで来て、いきなりこっちだと引っ張っていかれたんです。もちろん、先輩がいるなんて思ってなかったけど」

 昇降口で騒ぎにしたくないからと、とりあえず一緒に行ったのはよくなかった。蹴り飛ばしてでも、さっさと帰ればよかった。
 志堂が痛ましそうにぼくの顔を見る。長くて綺麗な指が、ぼくの腫れた頬に触れるのをためらって、代わりに耳元に触れる。

「可哀想に、腫れている。すぐに手当てをした方がいい」
「ああ、家に帰ったら冷やしますからご心配なく」

 これは流石に友永にばれずにすむのだろうか、と思わず眉を顰めた。

「痛むのか?」
「あ、いえ。この顔を見たら、家の者が心配するなと思って」
「それはそうだ。……うちで少し、冷やしていったら?」
「え? いや、大丈夫です。たいしたことないし」
「そんなことはないだろう。俺は一人暮らしだし、学校からは結構近いから」

 真剣に心配してくれる瞳を無視することが出来ずに、思わず頷いてしまった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...